イベント
今,鉄拳チームが熱い。「鉄拳7」「サマーレッスン」「ポッ拳」を手がける原田勝弘プロデューサーにTGS会場で色々聞いてみた
これらのタイトルが生まれた背景には,どんな狙いがあるのか。東京ゲームショウ2014の会場にて,鉄拳チームの原田勝弘プロデューサーに話を聞いてみたのでお伝えしよう。
「鉄拳」シリーズ公式サイト
「ポッ拳 POKKÉN TOURNAMENT」公式サイト
アーケードにおけるオンライン対戦の扉を開く「鉄拳7」
4Gamer:
本日はお忙しい中,ありがとうございます。まず,初のロケテスト(10月3〜5日に実施済み)を控えた「鉄拳7」についてですが,格闘ゲームとしてはアーケード史上初の店舗間通信対戦が話題になっています。これを実装することになったのは,どういう経緯からだったのでしょうか。
実は,アーケード版「鉄拳5」をリリースした2004年頃の時点で,密かに史上初のトライはしていました。当時はまだ日本の通信インフラがそれほど整っていなかったこともあって「とあるエラー率が低く高速な専用線」で試してみたのですが,これはかなり良い結果がでた。ただ,法律の壁などもあって,全国を専用線でつなぐのは難しかったんです。
続く「鉄拳6」でもその専用線を使おうとしたんだけど,その時代でもその専用線の法的な壁は越えられなかった。壁はそれだけではなくて……アーケードってワンプレイごとにお金を払う仕組みじゃないですか。
4Gamer:
ええ。なので対戦では競技としての公平性が重視される傾向にあります。
原田氏:
そうそう。その公平性をどう保証するのかで,社内でものすごく揉めたんです。技術的な問題だけでなく,運営として成り立つのかといった議論が過熱して,ちょっと踏み切れない。そんな時代が2005年から水面下でずっと続いていたわけです。
4Gamer:
それが,ついに今回の「鉄拳7」で実装に至ったと。つまり,それらの問題がクリアになったということですか。
原田氏:
ええ。「鉄拳7」では「専用線はあきらめて,現状アーケードに引かれて使用されてる通常回線を使う」という決断をしました。これ,普通の事に聞こえるでしょう? でも,通信対戦の技術的な壁は専用線で試していた時よりも格段に上がってしまったので,これはこれで大変だった。
まずはインフラの調査から始めて,全国各地の店舗間でもチェックという地道な作業。そしてネットコードに関しても,家庭ゲーム機版「鉄拳タッグトーナメント2」や「鉄拳レボリューション」のものを改良しつつ,さらに新しい技術も投入しています。
ただ,ネットワークというのは「物理的な距離や処理」が加わる以上,皆さんが良く言ってるようなネットコードだけを工夫してなんとかなるものでは決してないんです。ネット対戦でラグを感じさせない為,ゲームシステムだけでなくアニメーションまで工夫したりとか,いろいろあるんですよね。ただ,我々も過去にさまざまな苦労してきたので,今回の「鉄拳7」の製品版では,家庭用の鉄拳タッグ2や鉄拳レボリューションよりもさらに良いものが提供できるはずです。
4Gamer:
オンライン対戦のマッチングはどういった仕組みになるのでしょうか。
原田氏:
できるだけ近い実力の人,段位が近い人同士をマッチングさせるというのが,基本的な考え方です。少なくとも初心者は初心者同士,上級者は上級者同士での対戦が発生しやすくなるので,そこは安心してください。
4Gamer:
鉄拳シリーズの段位戦システムと,オンライン対戦の相性は良さそうです。店舗内での対戦だけだと,近い段位の人を探すのが大変だったりもしましたし。
原田氏:
これからはどこにいても鉄拳王同士で対戦できるようになるし,同じお店に近い腕前のプレイヤーがいなくても,オンラインで対戦相手を探せるようになります。これはプレイヤーにとって,一つ嬉しい要素と言えるんじゃないかな。
4Gamer:
確かに,それは嬉しいですね。
原田氏:
大きなメリットがもう一つあって,それは地方のプレイヤーのことなんです。。ゲームセンターの数が減ってきた地方では,プレイヤーが特定の店舗に集中することになってしまい,そこまで出向かないかぎり対戦できない状況になってしまっている。この状況も,オンライン対戦を使えば解決できます。
4Gamer:
オンライン対戦といえば,お隣・韓国とのマッチングが実現できたら,さらに面白くなりそうです。なにせ,あちらは“鉄拳修羅の国”と呼ばれてるくらいですし。
原田氏:
実は,それもテストはしています。東京とソウル,台湾のとある店舗を結んで計測してみたら,十分遊べるクオリティでした。とはいえ回線の安定性は店舗によって違うので,まず国内に限定して稼働させていくつもりです。ただ,限定イベントとしてであれば,一時的につないでみるのもアリかもしれないね。
4Gamer:
それは楽しみですね。ロケテストでは,東京〜大阪間での店舗間通信対戦がテストされるとのことですが,店舗内の対戦はどうなるのでしょうか。
原田氏:
店舗間通信のクオリティをテストして証明する意味も大きいので,今回は店舗間のみで実施します。
製品版についてはプレイヤーが選択できるようにするつもりです。同じ店舗の友達と対戦したくて,オンラインから乱入されることを望まない人も当然いると思うので。とにかく,これまでのように「店舗内」の対戦もできるし「店舗間通信」もできるという仕組みになるはずです。
4Gamer:
一つ気になっているのですが,上級者が多く集まるゲームセンターだと,そのお店で行われるオンライン対戦はかなり勝率が高くなりますよね。そうすると負けにくいぶん,ほかの店に比べてインカムが悪くなってしまうのではと思うのですが,この点についてはどうお考えなのでしょうか。
原田氏:
そこはオペレーターさんと相談しながら決めていくつもりですが,今のところは「ドラゴンボール ZENKAIバトルロイヤル」のように,連勝数制限を設けるやり方もあるとは思います。ただ非常に興味深いことに,年間を通して得た統計データを分析してみると,仮に連勝制限がなくても,実はこのあたりにはあまり差が出ないんですよ。
4Gamer:
えっ。そうなんですか?
原田氏:
とはいえ統計による分析をいくら語っても,理解されにくいことも分かっているつもりです。もし理想を言うなら,仮想通貨で対戦してもらい,その売上げをメーカー側で一度集計して,マッチング数の多い店舗に再分配するような形にしてみたいですね。極端な話ですけど,強い人が多い店舗の利益が高くなるとか(笑)。あくまで理想ですけど。
4Gamer:
なるほど。もし実現できたら,ゲームセンター側もコミュニティの育て甲斐が出てきますね。
原田氏:
うん。そうやって各ゲームセンター自体がプロ化していったら,面白いんじゃないかとか。まあ,法律の問題もあるかもしれないし,実現にはまだまだ時間がかかりそうですけど。
4Gamer:
楽しみです。新キャラクターについても聞かせてください。TGS 2014で発表されたカタリーナについてですが,褐色のセクシー美女といった風体です。その狙いは?
原田氏:
カタリーナは中南米人という設定ですが,こういう褐色美女って,とくに欧米圏で渇望されているんですよ。あともうひとつの特徴は,絶望的に口が悪いことですね(笑)。鉄拳シリーズには,これまで口が悪いキャラクターがいなかったので,前々から出したいと考えていて。格闘スタイルというより,この2つのキャラクター性で選んだんですよ。
4Gamer:
なるほど,でも,どんな格闘スタイルで戦うんですか?
原田氏:
サバット(フランス式キックボクシング)がベースです。とはいえ,厳密にサバットをなぞらえているわけでもない。何よりプレイフィールが特徴的で……ほら,鉄拳って同じボタンを連打してもあまり技が出ないじゃないですか。
4Gamer:
確かに。パンチとキックがそれぞれ左右でボタン分けされていることもあり,交互に押していく技が多い気がします。
原田氏:
そうそう。でもカタリーナは,2D格闘ゲームのように,同じボタンをテンポ良く叩いていけば技が出せるようになっています。ある意味鉄拳っぽくないので,初めてプレイする人はこのキャラから入ってもらうのがいいかなと。
4Gamer:
初心者向けという意味では,これまでだとエディとクリスティがそういう役回りでしたよね。なんとなくボタンを押しているだけで,それっぽい動きになるというか。
原田氏:
ええ。ただエディとクリスティは,二度と同じ動きを再現できなかったり,逆立ちしたまま戻れなかったりもしていたので。だから,カポエラキャラとはプレイ感覚はかなり違うと思います。
4Gamer:
本稼働はいつ頃になる予定ですか。
原田氏:
ロケテストって,普通は開発進行度70%ぐらいでやるものなんですが,今回のロケテストでお見せするものは,大体50%ぐらいなんです。早めにロケテストを行うことにしたのは,プレイヤーの皆さんからのご意見をたくさんもらいたかったからで,それを反映して良い感じになってからリリースしたいと思っています。とはいえ,ここから1年待たせるということはないので,お楽しみに。
VRを世に広げるために生まれた「サマーレッスン」
4Gamer:
続いては,2014年8月19日の「SCEJA Press Conference 2014」で発表され,大きな反響を呼んだ「サマーレッスン」について聞かせてください。TGS 2014では,残念ながら試遊出展が中止となってしまいましたが,これはどうしてなのでしょう。個人的には,目玉タイトルとして楽しみにしていたんですが……。
原田氏:
いやね,あまりにも反響が大きすぎて,冗談抜きで目玉タイトルみたいな感じになっちゃたんだよ! TGSの「Project Morpheus」(以下,Morpheus)のコーナーを見れば分かったと思うけど,大体1タイトルにつきMorpheusは1台しかないわけです。あとはもう単純な計算で,1日に50人ぐらいしか体験してもらえない。そんな状態で出展したら,苦情が殺到しかねないですから。ブースの広さにも限界はありますからね。
4Gamer:
それで別途体験の場を設けることになったわけですか。
原田氏:
正直言って,発表する前はあんなに反響がデカくなるとは思っていなかった。というのも,このプロジェクトって,社内ではほとんど誰も理解してくれなかったから。
4Gamer:
えっ? そんなバカな(笑)。
原田氏:
いやいや,これが本当なんです。僕自身は,ヘッドマウントディスプレイには3年ぐらい前から目を付けていて,2年前から研究を始めていたんですよ。なので,業界向けにMorpheusが発表されたとき,社内でいち早く手を上げて作り始めたんだけど。
4Gamer:
それが「サマーレッスン」だったわけですね。
原田氏:
そう。今年(2014年)の3月頃から作り始めて,2か月ぐらいで完成に漕ぎ着けたんだけど……社内にある200人集まれるシアターでプレゼンしてみたら,誰も反応しないの。これはマズいってことでプレゼンのやり方を変え,今度はいろんな人にちょっとずつ体験してもらって,その人の感想を流すようにしてみた。そうしたら,ようやく興味を持ってもらえるようになったんです。
4Gamer:
ゲームの映像では,スゴさが分かってもらえなかったわけですか。
原田氏:
そう,伝わらないんだよ。ゲームの映像は流さず,「ごめん,こんなにスゴいと思わなかった……」みたいな「体験者のメッセージ」だけを集めた方が,まだ伝わりやすい。だから,「SCEJA Press Conference 2014」のときも,できるだけ大げさな表現を心がけました。俺もわざわざアイマスのTシャツを着て,できるだけ印象を残そうと考えたりしてね。
4Gamer:
なるほど(笑)。
原田氏:
それもね,本来は話題のフックをたくさん作るしかないという,「苦肉の策」だったんです。社内で散々な反応だったわけで,僕もSCEさんも,1分程度のPVでは伝わるわけがないと思ってた。だからこそ,あのPVは本来はあり得ないカメラワークを駆使するなど,ゲームそのものとは違う部分で話題を広げようと必死でした。それこそ苦肉の策の連発だったんです。
4Gamer:
ああ,そうだったんですね。
原田氏:
「原田が変な格好して,わけの分からないタイトルを出してきた」みたいなところから,ちょっとずつ広げて,興味を持ってくれた少数の人にTGSで実際に体験してもらい,その人達がTwitterとかで騒ぎ出し……そうやって少しずつ,少しずつ体験者からバズっていく。そんな読みだったんですけど。
4Gamer:
でも,その読みは完全に外れてしまった。
原田氏:
結果的には,映像だけで世間は大騒ぎですよ。ここで面白いのが「まだ誰も実体験もなく現物を見たことがないにも関わらず」というところ。僕があんなに社内や業界内で「伝える」「大騒ぎしてもらう」ことに苦労したのにね(笑)。
4Gamer:
サマーレッスンでは,どちらかといえばアニメっぽくない,リアルなモデリングの女子高生がフィーチャーされていますが,こうした造形を採用したのはなぜなんですか。
原田氏:
もちろんちゃんと理由があって,まず我々が目指すべきはHMDという存在の「一般化」なわけです。一般化させるためには,まずHMDの凄さ――つまり「臨場感」を感じてもらう必要がある。
4Gamer:
それは分かります。
原田氏:
実は,最初は俺の好きなアイドルマスターの水瀬伊織をこっそり出してみたりもしたわけですよ。もちろんそれは楽しくはあるんだけど,等身がデフォルメされているから,VRの世界で近寄っていくと,頭の大きさなどがやっぱり現実とは違うし,なによりもいつもの水瀬伊織じゃない。離れて見る分にはいいんだけど。そうなると,「臨場感」以前に違和感やオリジナルとの印象の違いばかりに意識がいってしまう。
4Gamer:
普通のゲームと違って,近づこうと思えば,どこまでだって寄れるわけですものね。
原田氏:
好きな人からしてみれば,伊織って伊織以上でも以下でもない,絶対的な存在じゃないですか。その等身やデフォルメの仕方をVRに合わせて変えてしまったら,それはもう伊織ではなくなってしまうわけで。
つまり我々としては,HMDを一般化させる段階では,いきなりこうした高い次元の「価値観」に足を踏み入れるのではなく,あくまで「臨場感」とは何か? という点にこだわるべきだと考えた。そのためには,もう少しリアルなモデルから感じられる,視線や頭身,表情のフィードバックが必要だったんだよね。
4Gamer:
しかし,ロサンゼルスで開催された「Anime Expo 2014」では,「ソードアート・オンライン」の3Dモデルを使ったOculus Rift用のデモを,バンダイナムコゲームスが出展していたと聞いています。あれも原田さんの仕事ですよね。
原田氏:
あ,そうそう。Morpheusの前から,HMDの研究はずっと行っていたから。ほかにも一人称で遊べる鉄拳を作ってみたり,鉄拳のカメラモードでほかの人が戦ってるのを,間近で眺められるようにしてみたり,いろいろやってみました。ほかにも,一八や熊をVR空間に出して対峙してみたり。……鉄拳のための開発費を使って,こっそりとね(笑)。多くのゲームで実際に試してるだけに,ノウハウは誰よりも多く持ってます。
4Gamer:
その結果,VRにはリアル寄りのほうが向いていると分かった?
原田氏:
いや,「VRに向いている」というのとは違いますね。先の臨場感を重視した結果,「現段階で示す形」としては適切,というだけで。もちろんアニメ風のキャラクターに臨場感を覚える人だっていますよ。僕自身も楽しかったわけだしね。でもそれは,レベルとして1つ上の世界なんですよ。
4Gamer:
一般化するにはハードルが高いと。
原田氏:
空想の創造物の価値観って,通常のゲームでは既に受け入れられているけれど,HMDではまだそうではない。「HMDの臨場感をどう一般化して伝えるか」「多くの人に驚きをもって迎えてもらえるか」「一般ニュースソース含めて騒いでもらえるか」。これらをまずクリアするためには,やっぱりある程度現実に近い,リアルなもののほうが適している。だから,あくまで今回の話ということなんだよ。まあ,実際凄く伝わったわけだしね。
4Gamer:
それでリアルな女子高生を出すことにしたわけですね。
原田氏:
ええ。舞台にちょっと狭い部屋を選んだのも,より臨場感を感じてもらうためですから。
あともう一つ,表現の難度で選んだというのもあります。誰から見ても可愛い女の子って,やっぱり難しいんです。2次元で女性を可愛いらしく見せるには,時代によってトレンドはあれ,目鼻がとあるバランスの幅に収まっていればいい。でもヘッドマウントディスプレイ用に描画する場合,魚眼レンズで見たような歪ませた画像を出力しなくてはならない。これで可愛らしさを破綻なく表現するのって,実はかなり難しくて。造形レベルでの工夫が必要なんです。
4Gamer:
ゲームとしては,どの角度からどう見ても,可愛くなくちゃいけないですしね。
原田氏:
そう。長い髪や肌の質感の表現は難しいし,その潤いも表現しなきゃならない。でも,最初にあえて一番難しいことをやっておけば,次のステップが楽になるじゃないですか。まず臨場感,次に技術的な難度が高いものをと選んでいった結果として,現在の「サマーレッスン」があるわけですよ。俺にしては珍しく,すべて理詰めの逆算で仕様を決めていったというね。
4Gamer:
なるほど。サマーレッスンを初めて見たとき,日本人だったら「自分の好きなキャラも出したい!」ってなるんじゃないかと思ったんですが……。
原田氏:
うん。だから,やろうと思えばもうできますよ。けれど,それは次の段階の話です。最初っからカズヤが出て大暴れしていても,騒ぐのは鉄拳ファンだけでしょ? アニメ風のキャラにしても,あえてそれを選択しなかったのは先ほど説明したとおりです。
なので,まずは「サマーレッスン」を実際に体験してもらって,ヘッドマウントディスプレイがもたらす「臨場感」や,このデバイスがもたらす未来を感じとってほしい。PVを見た人は,みんな何か感じとったのかもしれないけど……PVから伝わるものと,実際にHMDを被ったときの体験は,良い意味で全然違います。これは凄い! と絶対言ってもらえますから。だから体験会を開いたときには,ぜひ足を運んでいただけたらと思います。
ポケモンを自由自在に操る楽しさにフォーカスする「ポッ拳 POKKÉN TOURNAMENT」
4Gamer:
では最後に「ポッ拳 POKKÉN TOURNAMENT」(以下,ポッ拳)についてなんですが……なんでこのタイトルになったんでしょうか。
原田氏:
この企画の最初の着想は,石原さん(※ポケモン 石原恒和社長)からだったんですね。別のゲームでコラボのお話をバンダイナムコから持ち込んだところ,石原さんからバンダイナムコさんと組むなら,「鉄拳」で面白いことをやりたい,と。そして実は,その時点で石原さんの中ではタイトルも決まっていて。それが「ポッ拳」だったんです(笑)。びっくりしましたね!
最初からご指名だったと(笑)。
原田氏:
ポッ拳ってタイトルだと,「鉄拳のキャラも出てくるんじゃないか」みたいな誤解が生まれるかもしれないってことで,僕からも色々とアイデアは出してみたんだけど,このネーミングのインパクトには勝てなかった。ポケモン側からも「ぜひこれで!」って言われちゃったので「じゃあそうしましょう!」ということになりました。やっぱり「インパクト」は重要だし,「ポッ」って響きのかわいさと,格闘ゲームのアンバランス感がとても良かったんですよね。
4Gamer:
企画書を受け取ったとき,原田さんとしてはどう感じられたのでしょうか。その,驚き以外の部分で。
原田氏:
その当時の僕は,実はポケモンをちゃんとプレイしたことがなくて。それもあって,僕が最初に思い浮かべたのは,なぜか鉄拳のキングがコイキングにフィギュア・フォー・レッグロックを仕掛けている絵だった(笑)。
4Gamer:
……それ,かなり難しくないですか(笑)。
原田氏:
そこから石原さんと色々な話を重ねていくうちに,どうやらそういうことじゃないらしいぞ,ということが分かってきた。そうそう,石原さんからは最初「ポケモン同士のファイティングゲーム,それも“かくとうタイプ“縛りでやりたい」って言われてたんです。
4Gamer:
ははあ。それはかなり大きな縛りですね。
原田氏:
それで僕も「ポケットモンスター X・Y」を遊んだり,アニメを見て勉強していったんだけど,ポケモンって今700体以上いるわけです。それなら,ファンだってもっと色々なポケモンが戦うところが見てみたいはずじゃないですか。それを石原さんに相談したことが,この前にTwitterでやった参戦ポケモン大募集につながっているんです。
4Gamer:
つまり,その結果次第では“かくとうタイプ”以外のポケモンも出る可能性があると。ところで,発表時の原田さんのメッセージによれば,本作は「対戦格闘というよりも対戦アクション」とのこと。どんなゲームシステムを考えてらっしゃるのでしょうか。
原田氏:
今の時代,“格闘ゲーム“って言ってしまうと,フレーム単位の読み合いだとか,ものすごく緻密なプレイをイメージする人が多いじゃないですか。もちろん,格闘ゲームに慣れた人にとってはそういう部分が楽しいわけだけど,このタイトルはもう少し違うところを目指そうと思っているんです。
4Gamer:
というと?
原田氏:
ポッ拳では,まず何より「ポケモンを自由自在に操れる楽しさ」を目指します。格闘ゲーム好きが想像するような駆け引きの要素は,そのあとに足していくイメージといえば伝わるかな。それも「ガードしていれば打撃は何でも防げる,だけどガードは投げに弱い」ぐらい,分かりやすいものにしようと思っています。
4Gamer:
駆け引きをシンプルにするわけですね。ということは,見た目的には一般的な格闘ゲームと変わらない感じなんでしょうか。
原田氏:
いや,結構違いますよ。遠距離モードと近距離モードの2つがあって,それが切り替わる仕組みです。相手との距離が離れているときは,TPSに近い視点での駆け引きになるんだけど,近づくと格闘ゲームのような横から見た画面になる。まあ,どう切り替わるかは今後の情報を待っててください。
4Gamer:
おお,それは面白いですね。
原田氏:
遠距離モードでは,自由にフィールドを動き回りながら,飛び道具の“ひっさつわざ”的なものでけん制したり,近寄ったりする。近距離モードでは,ジャンプで跳び込んだり,近付いて投げや打撃で攻めたりといった,もうちょっと緻密な戦いができるようになります。
4Gamer:
相手との距離に応じて,バトルシステムがシームレスに変化すると。
原田氏:
だから,いわゆる格闘ゲームとは違いますし,だからと言って弊社の「ナルティメットストーム」シリーズのようなものでもありません。まったく新しいアクションバトルをお届けする予定です。
4Gamer:
一つ気になっているのは,本作がアーケード用のタイトルだということなんです。ポケモンというと,どうしてもファミリー向けなイメージがあるのですが,なぜアーケードを選んだのですか?
原田氏:
そこは良くも悪くも大きな反響があった部分です。これには幾つか理由があって,一つは「アーケードであれば,お客さんの反応をすぐ見られるから面白い」ということ。もう一つは,これは普段から言ってることなんだけど,格闘ゲームは必ずアーケードを一度通すことが重要なんです。ワンプレイごとに100円払って遊ぶアーケードでは,つまらないゲームは必ず淘汰される,そういうシビアな世界ですから。
4Gamer:
確かに,アーケードで人気のタイトルであれば,家庭用ゲーム機版が出たときも,安心して買えるというのはあると思います。
原田氏:
ポケモンは確かにファミリー向けのイメージがあるかもしれませんが,やはり奥深い対戦ゲームとして作ると決めた以上,そういうシビアな世界に挑戦する覚悟がなくてはならない。アーケードっていう虎の穴を通ってきたタイトルなら,ホンモノだって胸を張れますからね。この時代に,ここに挑戦できるメーカーも決して多くはないですし。
4Gamer:
もう少し詳しく聞かせてください。本作は,どんな層をプレイヤーとして想定されているのでしょうか。本作の公式サイトには,「子供だけでなく、大人になった20代のポケモンファンに」とありますが。
原田氏:
もちろん小学生でも遊べるように作っていますが,年齢層で言うと「18歳以上から30歳前半」ぐらいを狙っている,というイメージです。
ポケモンって,小学校4年生ぐらいまではみんな大好きって言うんだけど,面白いことにその上ぐらいになってくると一部卒業してしまう子もいたりする。卒業というか……ファンなんだけど表向きには見せない,水面下に潜るとでも言うのかな。そういう子が一部居るわけです。でもなぜか,20歳を越えたぐらいから,また熱狂的なポケモン好きを公言する人が増え始める。
4Gamer:
ああ,なんとなく分かります。
原田氏:
そういうポケモンで育った「大人のポケモン」世代に向けたタイトルなんです。今の20代,30代の人達って,学生時代をポケモンとともに過ごし,ゲームにもアニメにも強い思い入れを持っている。そういう人達にとって,ポッ拳はようやく自分の好きなポケモンを自由自在に動かす体験ができる,感慨深いタイトルになるはずです。こちらもぜひ,期待していください。
4Gamer:
そろそろお時間が迫ってきました。最後に原田さんのファンに向けたメッセージをいただきたいのですが……これまでは格闘ゲームコミュニティの原田さんでしたけど,最近はちょっと変わってきたんじゃないですか?
原田氏:
最近はTwitterでも格闘ゲームファン以外のフォロワーも増えたなあ。元々はフォロワーの8割が海外のファンだったんだけど,最近では国内の格ゲープレイヤーや,ポケモンやアイマスのプレイヤーも増えてるね。いろんな意見やアイデアが聞けて嬉しい限りです。
4Gamer:
今回お話を聞いた数々のタイトルを含め,鉄拳チームは今後どうなっていくのか,何を目指しているのかをお聞かせいただければと。
原田氏:
まず,我々にとっての格闘ゲームは,もう人生というか生き方そのものなので,何があっても続けていきたいと思っています。それと同時に,ヘッドマウントディスプレイの研究だったり,ポッ拳のような新しい遊びにも,どんどん挑戦していきたい。
それぞれのコミュニティはまったく別なので,自分自身も混乱する部分だってあるけど,皆さんからのメッセージはできる限り拾って,どのゲームも良いものにしたいと思っています。
鉄拳チームでは,まだまだ隠しているタイトルもありますし,「鉄拳 クロス ストリートファイター」も,決して闇に葬ったわけではありません。ぜひ,そちらの続報も待っていていただけると嬉しいです。頑張ります!
4Gamer:
これからのご活躍にも期待しています。本日はありがとうございました!
10月3日から5日にかけて都内のnamco巣鴨店で行われた「鉄拳7」の店舗間通信対戦ロケテストには,筆者も顔を出したのだが,並み居るプレイヤー達が皆,新システムの使い勝手や新たなコンボシステム,強化された演出面やグラフィックスの話をしていたのが印象に残っている。
これはつまり,店舗間通信対戦のレスポンスがあまりに快適だったため,逆に話題にならなかった,ということなのだろう。もちろん,本作には気になる部分がまだまだあるが,アーケードの対戦格闘ゲームシーンの進化を予感させるには,十分なクオリティだったように感じられた。
原田氏率いる鉄拳チームが手がける「鉄拳7」「サマーレッスン」「ポッ拳 POKKÉN TOURNAMENT」。それぞれ,大きく異なるユーザー層に向けたタイトルのように思えるが,共通する要素がひとつあるように思う。
それは,新たな未来を提示する,挑戦的なゲームであるということ。だからこそ,いずれのタイトルも,ジャンルの垣根を越えて話題を呼んでいると思えるのだ。今後も鉄拳チームの挑戦から,目が離せない。
「鉄拳」シリーズ公式サイト
「ポッ拳 POKKÉN TOURNAMENT」公式サイト
- 関連タイトル:
鉄拳7
- 関連タイトル:
ポッ拳 POKKEN TOURNAMENT
- 関連タイトル:
サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム(基本ゲームパック)
- この記事のURL:
キーワード
TEKKEN TM &(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
(C)Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
(C)BANDAI NAMCO Games Inc.
※プレスリリースの情報は、発表日現在のものです。発表後予告なしに内容が変更されることがあります。あらかじめご了承ください。
※記載されている会社名・製品名は、各社の商標または登録商標です。
※ポケットモンスター・ポケモン・Pokémon・ポッ拳 は任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。 POKKÉN TOURNAMENT は任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの商標です。
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.