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「Fate/Grand Order」が目指す,スマホ時代の新しい物語とは。奈須きのこ×武内 崇×庄司顕仁の3名に聞く,その狙いと手応え
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印刷2014/10/10 10:00

インタビュー

「Fate/Grand Order」が目指す,スマホ時代の新しい物語とは。奈須きのこ×武内 崇×庄司顕仁の3名に聞く,その狙いと手応え

画像集#001のサムネイル/「Fate/Grand Order」が目指す,スマホ時代の新しい物語とは。奈須きのこ×武内 崇×庄司顕仁の3名に聞く,その狙いと手応え
 2014年7月27日,品川インターシティホールで行われた「Fate Project最新情報発表会」にて,「Fate」シリーズの最新作「Fate/Grand Order」(以下,FGO)の制作が発表された。今冬のサービス開始が予定されている同作は,TYPE-MOONとしては初のiOS / Android用スマートフォン向けRPG。現時点で公開されている情報は少ないながらも,「Fate」シリーズの重要な要素である「聖杯戦争」,また新たなキーワードである「人理」といったフレーズが散りばめられ,ファンにとってはいやが応にも期待が高まるものとなっている。

 ビジュアルノベルの旗手として,人気作を幾つも生み出してきたTYPE-MOONは,スマートフォンというプラットフォーム,そしてRPGというジャンルで,いったいどんな物語を紡ごうとしているのか。今回はその疑問を解き明かすべく,TYPE-MOONの代表を務める武内 崇氏とシナリオライターである奈須きのこ氏に話をうかがった。また同作の開発を手がけるディライトワークスの庄司顕仁氏にも同席してもらい,みっちりと話を聞いている。

 スマホゲーム全盛の今,「Fate」シリーズはどのように形を変え,そしてどんな驚きを与えてくれるのだろうか。そしてこれからの「Fate」,これからのTYPE-MOONはなにを目指すのか。3名のキーパーソンによって語られた対談のすべてを,余すことなくお伝えしていこう。

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100万人に届く「Fate」を目指す「Fate/Grand Order」


4Gamer:
 初めに本作の成り立ちから聞かせてください。かつて「Fate」のオンラインゲームが企画されていたという話を聞いていますが,今回発表されたFGOは,それとつながりがあるものなのでしょうか。

TYPE-MOON 武内 崇氏
画像集#003のサムネイル/「Fate/Grand Order」が目指す,スマホ時代の新しい物語とは。奈須きのこ×武内 崇×庄司顕仁の3名に聞く,その狙いと手応え
武内 崇氏(以下,武内氏):
 ご存じの方も多いとは思いますが,東出祐一郎さんに執筆してもらっている小説「Fate/Apocrypha」(以下,Apocrypha)の原型になったのが,かつてのオンライン版「Fate」です。そのために準備していた膨大な設定やキャラクターがあり,それがこのまま埋れてしまうのは惜しいということで,小説という形で世に出すことになりました。

4Gamer:
 公開されたトレイラーには,「Fate Online Project Reboot.」という文字がありましたが。

武内氏:
 ええ。オンライン版での挫折は,我々を含めた関係スタッフにとって,少なからず悔いが残る経験でした。なので今回のスマートフォン版には,そのリベンジという意識があります。ただ,そのことは単にかつての企画を甦らせるのではなく,その志を引き継ぐものにしたいという意味なんです。

奈須きのこ氏(以下,奈須氏):
 当時が考えていたのは,インターネットの世界そのものをテーマにした,人間同士による巨大な戦いを描くということでした。「Fate」はもともと生存競争が重要な意味を持つゲームですし,オンラインという環境を活かせば,顔も知らない多くのプレイヤーとつながりながら,大きな戦に参加する場が作れる。アドベンチャーゲームにはできない,全員参加型のゲームとして面白くなる確信がありました。

4Gamer:
 つまり,FGOはそのテーマを引き継いだものになると?

奈須氏:
 そうですね。今回の話をアニプレックスさんや武内くんから聞いたときに,まず最初考えたのが「誰かとつながっている」というテーマをうまく使いたいということでした。でも……ひとつだけ大きな問題があって,僕はスマートフォンを持ってなかった(笑)。

4Gamer:
 それは……それは何かこだわりがあったんですか?

TYPE-MOON 奈須きのこ氏
画像集#002のサムネイル/「Fate/Grand Order」が目指す,スマホ時代の新しい物語とは。奈須きのこ×武内 崇×庄司顕仁の3名に聞く,その狙いと手応え
奈須氏:
 僕は根がぐうたらなので,楽な道があればそっちに向かってしまうんですよ。そんな奴があんな便利な機械を持ったら,自己の性能が錆びついてしまうのでは,なんて恐れがあった。なので,自分のダメ人間度をコントロールする最後の一線として,スマホは持たない,ってことにしてたんです。……ところがある日会社に来たら,机の上にポンッとスマホが置いてあって。しかも「present for you」とか書いてある(笑)。

4Gamer:
 ああ,それは武内さんの差し金ですね(笑)。

奈須氏:
 ちょうど「FGO」の話が出た後でしたし。しかも「すでに参考になるゲームはインストールされているから」なんていうお膳立てまで整えられた状態でした。「仕方ない,まあ試しに始めてみるか」って。それにスマホゲームがどういうものなのか,ぶっちゃけなにがプレイヤーにとって楽しいか,やってみないと分からないですから。

4Gamer:
 では,企画が持ち上がってからスマホゲームを初プレイされたと。実際にプレイしてみてどんな印象でしたか?

奈須氏:
 予想よりも遥かに面白かったです。正直なところ,それまではあまりスマホゲームにいい印象を持ってなかったんだけど。あれはコンシューマゲーム機向けのものとは,まったく別の進化を遂げたゲームですね。プレイヤーの快楽の在り方,その根本が違う。

武内氏:
 僕としては,「ここを変えるともっと楽しくなるんじゃないか」というような,作り手としてのカンのようなものが働いたのが印象に残っています。そこから自分達ならどうするか,どうやってスマホゲームに取り組むかという方向性が見えてきた。

4Gamer:
 ちなみに,そのとき遊ばれたゲームのタイトルをうかがってもいいでしょうか。

奈須氏:
 「チェインクロニクル」iOS / Android)や「ブレイブフロンティア」iOS / Android)などです。とりわけ「チェインクロニクル」は,「こうすれば毎週プレイヤーをワクワクさせられるのか」という意味で,たいへん勉強になりました。コアなプレイヤーに向けたものとは別の,100万人に届く「Fate」が作れるんじゃないかって思えて,その瞬間は炉心に火が入ったような感触がありました。

4Gamer:
 100万人に届く「Fate」!? それがスマホなら可能ということですか?

奈須氏:
 なんというか,これって環境に適応した進化だと思うんですよ。コアに向けたゲームが,どんどん体験としての贅沢さ――グラフィックスパワーだったり,そもそもプレイする環境の豪華さだったり――に向かっていく一方で,マスに向けたゲームは,手のひらサイズになっていく。どちらが優れているとかではなくて,棲み分けとして。PlayStation 4のゲームとか,もうスゴイじゃないですか。

4Gamer:
 それは分かりますが……。ああ,つまりマスに向けた「Fate」を作るなら,今はコンシューマゲーム機ではなく,スマートフォンだと。

奈須氏:
 そう。腰を据えてじっくりプレイするご馳走のような娯楽と,毎日気軽に楽しめる娯楽。「FGO」では,後者であればこそ伝えられる面白さというのを大事にしたいと思っているんです。

武内氏:
 スマートフォンを選んだ理由として,僕らはもっと「今」に目を向けなくては,という想いもあります。TYPE-MOONはビジュアルノベルというジャンルに特化した作品をずっと作り続けてきましたが,今の最先端にも挑戦することは必要だと思っています。

4Gamer:
 今の最先端,ですか。

武内氏:
 端的に言えば「今,一番面白いことが起きそうな場所」です。2000年初期のビジュアルノベルは,間違いなくオタク文化の最先端だったと思います。こういうザワザワしている場所へと向かうのは,やっぱり作り手としてはワクワクしてきますね。


スマホゲーだからこそできる,新しい文法の物語


4Gamer:
 では,ご同席いただいている庄司さんに伺います。ディライトワークスとはどんな会社なのでしょうか。本作の開発元として名前があがっていますが,コーポーレートサイトなどを見ても,どういう会社なのかいまいち掴めないところがあります。

ディライトワークス 庄司顕仁氏
画像集#004のサムネイル/「Fate/Grand Order」が目指す,スマホ時代の新しい物語とは。奈須きのこ×武内 崇×庄司顕仁の3名に聞く,その狙いと手応え
庄司顕仁氏(以下,庄司氏):
 ディライトワークスは,2014年1月に設立したばかりの会社です。最初は個人で,ゲーム業界のよろず屋カンパニーとして立ち上げました。今は開発チームを中心に,30名ほどの規模になっています。事業の中心はゲーム開発ですが,基本的にゲームに関することは何でもやる,というスタンスの会社です。

4Gamer:
 そもそも,本作を開発を引き受けることになったのは,どういった経緯からだったのですか?

庄司氏:
 共通の友人を通して,武内さんから本作の企画について相談を受けたのが最初だったと思います。その頃のディライトワークスはまだ僕一人の会社で,ゲームビジネスに特化したコンサルタントとして,開発プロジェクトに対する問題解決やビジネスコンサルティングの提供,メーカーのマーケティング改革,組織改革,珍しいところでは人事制度改革などを行っていた頃でした。

4Gamer:
 そのときの企画が「FGO」だった?

庄司氏:
 ご相談いただいたときの企画は「FGO」とは少し違うものでした。そこからスマートフォン向けの「Fate」はどうあるべきか,ということを奈須さんや武内さんと掘り下げていき,今の「FGO」の原案となる企画ができてきました。

4Gamer:
 なるほど。では,その「FGO」とはいったいどんなゲームなのでしょうか。まだ話せないことも多いとは思うのですが……一応ジャンルで言えばRPGなんですよね?

庄司氏:
 RPGです。ストーリーを主軸に,しっかりと遊びの要素も取り入れたうえで「Fate」らしさを伝えるなら,やはりRPGかなということで,割とすんなりと決まりました。

4Gamer:
 RPGということは,スマホ向けにありがちなカードバトル的なものや,あるいはパズルゲーム+α的なものにはならないと考えて良いのでしょうか。

庄司氏:
 ええ。細部については残念ながらまだお話できませんが,いわゆるポチポチゲーではないことだけは,お約束できるかと思います。

4Gamer:
 うーん,なるほど。となると,ファンとしてはすでに公開されている情報から類推するしかないわけですが……。

武内氏:
 一言にRPGといっても,その言葉が指し示すゲームは多岐にわたります。今制作しているのは,スマートフォンという媒体で最大限に楽しむことができるようにチューニングされたRPGなんです。ハードの限界という制限はありますが,逆にこのハードでしか出せない面白さもある。スマホゲーだからできる物語というのも,その特化した面白さの一つだと思うんです。

4Gamer:
 物語,ですか?

庄司氏:
 奈須きのこ作品ですから,物語というのは本作における大きな魅力の一つと考えています。ですから,そこを劣化させることだけはしたくないと考えました。PCやコンシューマゲーム機のゲームとは違う,スマートフォンのゲームだからこそ体験できる物語の形が,あると思うんです。

武内氏:
 キーになるのは,リアルタイム性だと思っています。奈須きのこが完成させた物語を一気に読むのではなく,ちょっとずつ積み重なっていくストーリーを,プレイヤーが同時に追いかけていく。そうすることで,物語として新しい体験を提供できるのではないかと。

4Gamer:
 ……俄然興味が湧いてきました。もう少し詳しくお聞きしてもいいでしょうか。Fateであるからには,やはり聖杯戦争にまつわる物語になる訳ですよね。公開されているトレイラーでも,七つの聖杯の存在が匂わされていたように思います。


奈須氏:
 FGOでは,もっと大きな舞台での聖杯戦争を描きたいと思っているんです。今までの「Fate」の総決算であり,同時に一番巨大な世界を見せたい。それってスマホゲーだからできることだと思っていて。

4Gamer:
 というと?

奈須氏:
 「Fate」の原点である「stay night」って,結局は一つの街の話だったわけじゃないですか。PCゲームという枠の中だと,それ以上に大きな物語って求められていない気がするんです。そりゃあ自室に篭もって地球規模の話をやったところで,多くの人は興味を持てません。けれどスマホは常に世界とつながっているものなわけです。であるならば,その中で多少大きなことをやっても違和感はないだろうと。だって世界はあなたの手にあるわけですから。
 僕も一人の書き手として,一度は世界を救うような物語を書いてみたかった。でも,なかなかその機会には恵まれませんでした。オンラインゲーム企画の時に「ついに来たか!」と思ったけど,それもお蔵入りになってしまった。なので,今回の「FGO」では「今度こそ俺は地球を救うぞ!」というモチベーションで聖杯戦争を描いています。

4Gamer:
 なるほど。それがスマホゲーならではの物語であると。

PlayStation Vita版「Fate/stay night [Realta Nua]」
画像集#017のサムネイル/「Fate/Grand Order」が目指す,スマホ時代の新しい物語とは。奈須きのこ×武内 崇×庄司顕仁の3名に聞く,その狙いと手応え
奈須氏:
 そもそも世界を救うんだったら,RPGほど適した形式もないじゃないですか。小説で地球を救おうとしたら,文庫100冊分くらいは書かないとならないですけど,RPGだったら40時間でいける。いや,これはゲーム脳的な発想ですけど(笑)。

庄司氏:
 物語の文法的な意味でも,これはある種の挑戦だと思っています。例えば2時間の映画なら,その枠組の中での文法がある。それと同じで,1年かけて語られる物語には,また違った文法があるハズなんです。1日5分10分という繰り返しの中でこそ,語ることができる物語というのも,また面白いのではないでしょうか。

奈須氏:
 それもありますね。本格的に物語が始動するのは2015年になると思うのですが,やっぱり2015年に遊ぶからこそ意味があるゲームを作りたい。2016年には過去のものになってしまうとしても,振り返った時に「2015年にはあのゲームがあったね」と言ってもらえるような,唯一性のある娯楽を提供したい。

4Gamer:
 つまり,本作はきっちりと終わりのある物語ということですか?

奈須氏:
 2015年で完結させるつもりです。RPGとしていいものにするというのは勿論ですが,同時に明確な終わりを設定することにも意味があると考えています。

4Gamer:
 しかしそれだと,1年でサービス終了になってしまいませんか?

奈須氏:
 2016年のことは,その時になってから考えます(笑)。どうするにせよ,それは2015年バージョンとは別のものになると思います。

4Gamer:
 では途中から参加したプレイヤーについては? 例えば2015年の10月に始めたら,残り2か月しか楽しめないことになってしまうような。

庄司氏:
 そこは大丈夫です。前提として,どのタイミングから入っていただいても,楽しんでもらえる物語を用意するつもりでいます。かつ,そこにリアルタイムの面白さが絡んでくるような。

奈須氏:
 少なくとも年末のエンディングは,一緒に楽しんでもらえるものにしたいですね。

4Gamer:
 なるほど。お聞きしていると,PBM(プレイバイメール)のようなものが想起されますね。1990年の一年間にしか遊べなかった「蓬萊学園」※1や,あるいは「ガンパレード・マーチ」発売当時の「世界の謎BBS」※2のような。

奈須氏:
 あそこまでのものができるかどうかは分かりませんが,近いかもしれません。皆が楽しめる世界観を提示して,最後はプレイヤー達が一丸となって最終目標に進むような。それで最後は一年間楽しかったと言ってもらえたら,最高ですね。

4Gamer:
 個人的に,すごく楽しみになってきました。

奈須氏:
 あるいは,週刊誌での漫画連載のようなものと考えてもらってもいいかもしれません。連載中の時間を共有してもらうことで生まれる独特の感動とか,話題を共有する一体感ってあるじゃないですか。

4Gamer:
 確かに。連載中に読むのと,コミックスでまとめて読むのは,明らかに違う体験ですよね。それはテレビアニメなんかでもそうで,毎週リアルタイムに追いかけるのと,撮り溜めたものを後から見返すのでは,やっぱり全然違いますし。

奈須氏:
 ゲームで恐ろしいのは,漫画やアニメ,小説のように,ライブラリに残ることすら危ういことだと思います。これだけ多くの人間がアイデアを出し合い,日々進化を続けているのだから,ゲームが娯楽の最先端であることは間違いない。その半面,古いものはすぐに消えてしまう。ハードが移り変わることもあって,古典を楽しむのが難しいんです。

4Gamer:
 リメイクされるようなことがあればともかく,そうでもなければ中々難しいでしょうね。

奈須氏:
 だから,ゲームは常に時代の最先端を走り,かつ心に響くものでなければならない。それが怖くもあり,楽しくもあるところなんですが。だから「FGO」も,ひょっとしたら小説やノベルゲームで出してほしいと言う人がいるかもしれない。でも今回は,スマホというステージだからこそできるMAXに挑戦してみたい。それが見てみたいと思える人には,ぜひこの船に一緒に乗り込んでいただけると嬉しいですね。



※1 蓬莱学園……1990年1月から1991年1月にかけ,遊演体によって運営されたPBM「ネットゲーム90 蓬莱学園の冒険!」のこと。蓬莱学園という架空の巨大学園を舞台に,「90年動乱」と呼ばれる学内政権闘争を発端とした物語が展開され,その独創的な世界観が大きな反響を呼んだ。当時実際に参加できたのは,相当なコア層のみではあったが,後のメディアミックス展開によって広がりを見せ,後世の漫画やアニメ,ライトノベルなどに与えた影響は少なくない。

※2 世界の謎BBS……2000年に発売されたPS用ソフト「高機動幻想ガンパレード・マーチ」の開発元であるアルファ・システム公式サイトに設置されていた掲示板。および同掲示板で当時盛んに繰り広げられていた設定考察議論のこと。自由度の高いSLGとしてカルト的な人気を呼んだ同作だが,その世界設定には複雑な裏設定が幾重にも張り巡らされており,ファン達による設定考察が白熱。さらに残りの謎が6つであることと,その回答期限が公式から提示されたことで,ある種の謎解きゲームへと発展していった。


 
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