インタビュー
「ロマンシング サガ2」のリマスターや,最新作「SaGa SCARLET GRACE」で盛り上がるサガシリーズ。その過去と未来を,河津秋敏氏と市川雅統氏に聞いた
また,佐賀県立美術館の「ロマンシング佐賀展」をはじめとする佐賀県とのコラボレーションイベント第3弾「ロマンシング佐賀3」も開催中と,活発な動きを見せている。
誕生から27年が経った今なお多くの人の注目を集めるサガについて,シリーズのエグゼクティブプロデューサーを務める河津秋敏氏と,リマスター版ロマサガ2や,最新作SCARLET GRACEのプロデューサーである市川雅統氏に話を聞いた。
サガシリーズだけにとどまらず,河津氏のゲーム遍歴といった話題にも触れているので,じっくり読み進めてほしい。
DQ,FFとは違うところを目指した結果
フリーシナリオシステムが生まれた
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。4Gamerでもロマンシング佐賀3の様子を取材しましたが,かなりの盛況ですね。
あの場に行かないと見られないものが多いんです。また,原画や設定画を70点も展示するのは初めての試みで,我々が見ても壮観ですね。現地に行って会場の広さに驚きました。
河津氏:
最近はリアル系のイベントをたくさんやっていますけど,いらっしゃったみなさんがどういう反応をするかが分からないので,毎回ドキドキです(笑)。もちろん,発売してみないと分からないという点ではゲームも同じですが,緊張しますね。
市川氏:
2年前に初めて「ロマンシング佐賀」を開催するときは「ダジャレで始まったようなものだから,内容はちゃんとしていないとヤバイ!」と思って,県庁の方々と必死になって仕込みました。
その結果好評をいただいたんですが,今回の3は足を運んでくださる方が本当に多くて,さらに驚いています。ロマンシング佐賀展は,来場ペースだと,六本木ヒルズで原画展を行ったときよりも多いんです。首都圏ではなく,しかも最寄り駅からもちょっと離れた場所なんですけど,それでもたくさん人が来てくださって,ありがたいことです。
4Gamer:
ここまで盛り上がっているリアルイベントというのも,そうそうないですよね。
市川氏:
ファンの方々の「こういうことをやってほしい」という要望がダイレクトに伝わってくるんですよね。それらを見ると,サガファンが集まって楽しめる場所を用意しないと,と思うことが多いです。
河津氏:
日比谷Barさんとのコラボのときは,お酒を飲まれない方から「食べ物やスイーツでやらないのか」とか,ゲームについては「スマホで出さないのか」とかね。そういった生の声に導かれているようなところはありますね。
市川氏:
ロマンシング佐賀2のときは,まだスマホ/Vita版をリリースする前だったので,コラボ先の飲食店の方が「プレイする環境がないのでスーパーファミコンを買いました」ということがあったんです。ゲームの開発とイベントのスピード感が合わなくて,会社には「盛り上がっているので移植をやらせてください」といった感じで提案しました。ファンの方の声や活動が後押しになっているとろはありますね。
4Gamer:
そうして3月にはロマサガ2の配信が開始されました。Android版はGoogle PlayのGame Festで取り上げられるなど,話題になっていますね。さらにSCARLET GRACEが年内に発売と,これからもサガ熱が高まりそうです。
「インペリアル サガ」からの流れの中で,新たなプレイヤーの方が入ってきてくれて,そういった実績の積み重ねが新作につながったのは嬉しいですね。
4Gamer:
さて,今日はそのロマサガ2やSCARLET GRACEなどについてお聞きしたいのですが,その前に,河津さんのゲーム遍歴をお伺いしたいと思っています。というのも,ロマサガシリーズをプレイしていると,テーブルトークRPG(以下,TRPG)やウォーシミュレーションゲームの影響がかなりありそうだと感じることがありまして。
河津氏:
最初に遊んだのが何だったかは覚えていないのですが,TRPGは学生時代からプレイしていました。同時にボードゲームタイプのウォーシミュレーションゲームもプレイして,そういったもので“ゲームのルールや仕組み”に対する興味が生まれたんだと思います。
4Gamer:
あぁ,想像通りでした。
河津氏:
ウォーシミュレーションは現実にあった戦いの再現ですが,ファンタジーRPGでは,例えばドラゴンとの戦いなど現実にはありません。それをゲーム内の仕組みに落としていって,あたかも自分が戦っているような感じや緊迫感を生み出していく。仮想のものを体験につなげていくということが面白く感じました。
4Gamer:
ゲームルールの機微のようなものも,そこで学ばれたのでしょうか。
河津氏:
そうですね。複数の10面ダイスを振って出た目を表と照らしあわせて,攻撃が当たったかどうかを判定するというのは非常にシンプルですが,ゲームの仕組みを理解するうえでは有意義だったと思います。状況に応じて変化する修正値によってバランスが変化するといった,確率論的な部分も含めてね。
4Gamer:
TRPGではプレイヤーのほかにゲームの進行を司るゲームマスターが必要になりますが,作り手的なゲームマスター側でのプレイが多かったのですか。
河津氏:
マスターはやりたがる人間が少ないので,受け持つこともそれなりにありました。さすがに自分でシナリオを用意するまではいかず,既存のモジュールを使っていましたが。TRPGは準備に時間がかかるし,何より人を集めるのが大変でしたね(笑)。
4Gamer:
では,コンピュータゲームとの出会いはどのタイミングだったのでしょうか。
河津氏:
最初に遊んだのは,Atariの「Pong」でしたね。中学生時代の夏休みに,家族で旅行に行ったとき,アップライト型の筐体と出会ったのを覚えています。遊びとしてはパドルを操作してボールを弾くだけで,ものすごくシンプルですけど,「画面の中にあるものが自分で操作できる」というのはものすごく未来的な体験でしたね。その後,PCゲームだと「ウルティマ」「ウィザードリィ」には死ぬほどハマりました。
4Gamer:
当時のゲームファンの“通過儀礼”をことごとく体験されてきたわけですね。時間が飛びますが,当時のスクウェアに入社されてから,サガシリーズの前に「ファイナルファンタジー」「ファイナルファンタジーII」の開発にも携わられていますよね。そこで学んだことはありますか。
河津氏:
シナリオ進行やフラグの立て方はそこで学びましたね。当時のスクウェアでは坂口さん(坂口博信氏)が「ザ・デストラップ」などのアドベンチャーゲームを作っていて,シナリオの管理手法はそこで勉強しました。
4Gamer:
そういった時代にゲーム作りの基礎力のようなものが鍛えられたのでしょうね。
河津氏:
現在「JRPG」などと呼ばれるタイトルは,そういったアドベンチャーゲームに端を発していると思います。
4Gamer:
そのお話,もう少し詳しく聞かせてください。
河津氏:
坂口さんと同様に,堀井雄二さんも「ポートピア連続殺人事件」などのアドベンチャーゲームの後にドラゴンクエストを作りました。ファイナルファンタジー(以下,FF)とドラゴンクエスト(以下,DQ)に共通するのは,フラグ管理によるストーリーテリングでゲームを引っ張っていく手法です。謎解き型というか。
これがウルティマのような“なんでも好き勝手にしていいよ”というゲームが出発点だったら,また違った世界になっていたんだろうなという気はしますね。
4Gamer:
なるほど……。では河津さんはそのDQとFFという2大ブランドがある中で,まず「魔界塔士Sa・Ga」とその続編を作り,やがて初代「ロマンシング サガ」(以下,ロマサガ1)に発展させていったわけですが,どのようなゲームを作ろうと思われたんでしょうか。
河津氏:
「魔界塔士Sa・Ga」を手がけたときは,僕と石井浩一くん,時田貴司くん,伊藤裕之くんといった若手が「みんながやってないことをやりたいよね」と思ったところがスタートみたいなところはありますしね。
4Gamer:
DQやFFでないものを作ろうと。
河津氏:
ロマサガ1は,先ほど話したアドベンチャーゲーム風の“一本道のフラグ管理”を変えたいというのがスタート地点です。フラグを立てていくタイプのスタイルだと,つまるところ謎解きを面白くするしかない。お話ってそういう構造でないと面白くならないものではないので,それに縛られたくはない,と。
4Gamer:
DQとFFによって当時のRPGにおける“常識”のようなものになったフラグから抜け出そうとしていたんですね。
河津氏:
なので“こういうお話を読みたい”をまず用意して,それを体験してもらうにはどうすればいいのかを考えて,フリーシナリオが生まれました。この名前は当時の宣伝担当がつけてくれたんですけどね。
4Gamer:
そのフリーシナリオなんですが,どうゲームを進めてもいい一方で,当然ながらどうすればいいのかは指示されませんし,戦闘回数によって敵が強くなるといったシステムになっているので,逃げてばかりだと“詰んで”しまうことがあります。そういった面への不安はありませんでしたか。
行き詰まったり,面白くないと感じる人がいるのは覚悟の上です。このシステムは,自由にあちこち歩きまわるという遊びを前提に作っているので,それが楽しくなければ,合うゲームを遊んでもらったほうがいいだろう,といった割り切りはしていました。
DQやFFはもちろん素晴らしいタイトルですが,それに飽きたらない人もいて,そんな人に対して「こういうのはどうでしょうか?」と送り出したかったのがロマサガ1です。
4Gamer:
なるほど。とはいえ思い切りましたね。
河津氏:
ゲームデザインってそういうものだと思うんです。万人を納得させるものは作れないのだから,切り捨てるものは切り捨てる。それを最初から決めておかないと,ほかの意見がどんどん入ってヌルくなり,ブレていき,最初に目指したものとは別のものになってしまうんです。
開発中,事務担当の女性に遊んでもらって「キミが面白いといったらこのゲームはダメだから!」と面と向かって言ってましたからね。その女性にはいまだにその話を蒸し返されて「悔しいから遊んだけど,やっぱり分からなかった」と言われます(笑)。
4Gamer:
いいお話です(笑)。では,面白さの基準というのは自分自身ですか。
河津氏:
そうですね。それで作ったものが売れなければ,自分はもうこの業界にいる場所がないのだろう,という気持ちはありましたね。
市川氏:
(ややうつむき加減で)プロデューサーとしては,ゾッとする話ですね。
(一同笑)
市川氏:
僕自身は「プロデューサーは人に好かれてこそ」だと思っているので,「わからなくてもいい」という発言には困ってしまうんです(笑)。スクウェア・エニックスという会社にはいろんなタイプのプロデューサーがいて,中には自らシナリオを書くようなクリエイティブな人もいるんですが,河津に会ってからは,自分はクリエイターではないんだなと思わされることが多いですね。
難しく,尖っていたオリジナル版ロマサガ2
その雰囲気を崩さないリマスターに苦心した
4Gamer:
そうやって生まれたロマサガ1がヒットして,次にロマサガ2を作るにあたっては,どのようなことを考えていましたか。
河津氏:
主人公が代替わりしていく“皇帝継承システム”は,実は初代の開発中に閃いていたんです。初代が空間的に自由に動いていいですよというゲームだったので,それに変わる自由を考えたときに……。
市川氏:
時間軸だったんだ。
河津氏:
そう。最後が決まっている中で,1000年くらいの歴史の流れが動いていくというアイデアでした。
4Gamer:
自由度というのが「ロマンシング サガ」シリーズの特徴ということになると思うのですが,開発中,プレイヤーがどういう遊び方をするかはいろいろと想定したりはしていたんでしょうか。それとも完全に下駄を預ける感じですか。
河津氏:
発売後のゲームはプレイヤーのものですから,どんな風に遊んでも正解だと思っています。個人的な話をすると,ゲームをしているとき,あとは用意されている到達点にたどり着くだけになって「これってもう予定調和だな」と思った瞬間に気持ちが離れてしまうんですよ。自分としてはそういうゲームを作りたくないので,辿りつけない道があってもいいと思っています。
4Gamer:
さきほど「万人を納得させるものは作れない」と聞きましたが,プレイヤーとしての河津さんも完璧は目指さないんですか。
河津氏:
そうですね。“塗りつぶし型”のゲームは好きではないです。発見リストみたいのを用意したほうが指標になるのでプレイヤー本位だし,商売にもなるんですが……。ゲームのタイプにもよりますが,自分のゲームではやらないなと。
4Gamer:
サガシリーズをプレイした人に感想を聞くと,好きなシーンや要素が本当にバラバラなんですよ。それも河津さんのゲームデザインがあったからかなと感じています。
河津氏:
誰でも持っているアイテムを取れていない人が,入手難度が高いアイテムを揃えていたりすると面白いですよね。
4Gamer:
「お前なんでそれ持ってるのにこれ持ってないの?」っていう感じですよね(笑)。2の具体的な開発作業はどの部分から始まったのでしょうか。河津さんのタイトルはシステムから作ることが多いと聞いたことがありますが……。
河津氏:
2でもシステムからでしたが,開発チームに最初に加わった小泉今日治くんに「バトルとシナリオ,どっちやりたい?」と聞いたらニヤリとして「バトル」と答えたので,彼にすべてを任せたという感じです。
合成や閃きといった2ならではのバトルシステムは彼が作ったもので,それを高井 浩くんが「面白い」「面白くない」とジャッジしてできあがっていったと記憶しています。
4Gamer:
河津さんはあくまで制作指揮というポジションで,ゲーム全体を見渡しながらまとめていったということでしょうか。
河津氏:
いえ,キャラクター周りは細かいところまで自分で決めました。小泉くんと,「どんなパラメータがあるだろうか」という話をして,このクラスはこの数値といったように32種類+αのキャラクター性を決めていきました。
4Gamer:
一方でシナリオはどうやって組み立てていったのでしょうか。
河津氏:
システム作りと並行です。当時はROMの容量がなくて,制限がかなり厳しかったので,敵は何体,ダンジョンは何か所といったように,最初に各要素のボリュームを決めなければいけなかったんです。なので,シナリオもそれに合わせたものにはしなければいけませんでした。今では容量制限なんて無いに等しいので,かなり自由に表現できますが。
4Gamer:
なるほど,そのあたりは当時と現在でかなり変わったでしょうね。
河津氏:
そうやって容量を割り振っていって,2のボスは7体ということになり,そこで七英雄というアイデアが生まれました。なので,実はシステムありきの7人なんです。
4Gamer:
それは意外でした。7という数字に何らかの意図があるのではと思っていたので。
河津氏:
そこから7に関連するものを探して……ネタばらしすると,七福神なんですよ(笑)。だから女性が1人なんです。ただ,そのままではジジイが3人いてカッコつかないので,ちょっとアレンジはしました。英雄たちの名前が山手線の駅名をもじっているというのは何度も話していますが,恵比寿(スービエ)は恵比寿様にも掛かっているんです。
4Gamer:
七英雄は20年以上前のゲームに登場するキャラクターで,しかも敵でありながら,未だに人気があります。河津さんはその理由をどう考えていますか。
河津氏:
ある種“等身大”のキャラクターだからということはあると思います。
初代ではボスが神であって,それと戦うことを提示していたので,プレイヤーからすると遠い存在だったかもしれないと考えていました。2ではもう少し違う形の敵にしたくて,神ではなく,元は人間だったという設定にしたんです。1000年くらいは生きていますけどね。さほど仲が良くないというのも最初から決めていました。
市川氏:
それぞれ勝手なことをやっていますからね(笑)。
河津氏:
団結して来られたら,プレイヤーの勝ち目がなくなるし。
初代よりもキャラ立ちをさせようと思っていたので,リーダーがいて,参謀がいて,紅一点がいて,といった配置になりました。「こいつは火,こいつは水の属性じゃないと」といったシステム的な作り方をしなかったのも良かったかもしれません。
4Gamer:
七英雄に限らず,サガシリーズには人間くさいキャラクターが多いような気がしますが,これもシリーズの特徴として意識されているのでしょうか。
例えばDQだと,「主人公=プレイヤーなのでめったに話さない」,FFなら「クールでスタイリッシュ」といったイメージがありますが,それらとの差別化を図っているのかなと。
河津氏:
おっしゃるように,DQは堀井さんのポリシーとして主人公=プレイヤー,FFは映画的なキャラクター配置でものを作る,というブランドごとの“美学”みたいなものはあるでしょう。サガシリーズの場合は,プレイヤーに特定の“ロール”を楽しんでもらう,文字通りのRPGとして作りたいと考えていました。プレイヤーがそのまま主人公になるのでも,作り込まれたキャラクターを操作するのでもなく,プレイヤーにその人物を“演じて”もらいたいんです。
4Gamer:
そのあたりはさきほどの話にも出たTRPGのテイストを感じます。
河津氏:
そういった意味で,毎回主人公が格好いいヒーロー・ヒロインでは飽きてしまう。なので,少し違った造形で,かつ主役を張れる役割の人間を配置しています。ロマサガ2については,皇帝継承システムを搭載したため,主人公のキャラクター性はカットしたのですが,そのために敵側である七英雄にキャラクター性の要素が回ったというのはあるかもしれません。今思い返せば,ですが。
4Gamer:
なるほど。市川さんは,ロマサガ2のリマスターを担当されたわけですが,河津さんの作業を横で見て驚かれたことはありますか?
実はリアルタイムでロマサガ2を遊んだときは,面白さがよく分からなかったんですよ。最初にクリアしたRPGが「魔界塔士Sa・Ga」で,ユーザーフレンドリーでテンポがいいタイトルという印象が残っていたんです。そのサガの新作がスーパーファミコンで登場するとなって,ワクワクして購入したら「なんでこんなに難しいんだ!」って(笑)。DQやFFをプレイしていなかったのもまずかったかもしれません。
4Gamer:
RPGの基本をすっ飛ばして,いきなり応用にいったような感じですね(笑)。
市川氏:
そうです(笑)。大人になってからプレイし直して,ものすごい自由度の高さに驚愕しました。実は「エンペラーズ サガ」(iOS / Android)の開発・運営をやっていたころから,河津には「移植をしろ」と何度も言われていたんです。ただ,これを移植できる会社ってなかなかないなと思って,ずっと躊躇していました。DQやFFシリーズならリマスターの手本がいくつもありますが,ロマサガはその手がかりがないですし。しかも「ヘタなもん作ったら許さんぞ」という河津からの無言の圧力もあって……(笑)。
河津氏:
僕は何も言ってないですよ(笑)。
市川氏:
数年前に,企画書を書いて国内外のメーカー数社に移植の相談をするところまではいったんですが,いずれも「こうじゃないよな」という形にしかなりませんでした。当時はスマートフォンのスペックがまだ低かったですし,ノウハウもなかったので。そうやって悩んでいたときに僕と同期のプロデューサーである藤本(藤本則義氏)が「アルテピアッツァさんの手が空いているよ」と声をかけてくれたんです。
4Gamer:
ドラゴンクエストシリーズのタイトルを数多く手がけているデベロッパさんですね。
市川氏:
はい。スマホ版DQの移植も手がけていて,操作のしやすさなどのノウハウもあったので,お願いすることになったわけです。
4Gamer:
デベロッパを探すとき,移植ができる,できないという判断はどこを見てされたのでしょうか。
市川氏:
河津とは異なる意見かもしれませんが,ロマサガ2の移植は,スーパーファミコンの画面をそのまま持ってきても合わないと考えました。昔のドット絵の雰囲気を保ちつつ,HDグラフィックスのタイトルアレンジするというのが大事だと思ったんです。
4Gamer:
それに応えてくれそうなのがアルテピアッツァだったと。
市川氏:
そうですね。当時プレイした人が持っているイメージを,損なわずに移植してくれる会社さんでしたし,今回のリマスターで,アルテピアッツァさんはフルパワーを投じてくれたんですよ。なにしろ社長の眞島さん(眞島真太郎氏)までがグラフィックを描いてくれていますから。
4Gamer:
そ,それは文字通りの総力戦ですね。
市川氏:
DQを作っていた会社さんですから,ある意味ライバルタイトルであるサガを作るとなったら,絶対に変なものにはならないだろう,というプロデューサー的な読みはあったのですが,そこまで骨を折ってくださったのは予想外でした。
僕からは「思い出を大事に」「ドットグラフィックスで」といったことしかお願いしていないのですが,メンバーの方々が「ロマサガをどう作るか」というこちらの問いに真摯に取り組んでくれたんだなと思います。
4Gamer:
当時のロマサガを作っていなくても,スーパーファミコン当時の“空気感”を知っていることが役立ったのかもしれませんね。
市川氏:
それはあると思います。スーパーファミコンのタイトルがどのように開発されていたかも当然ご存知でしょうから,“当時の空気”までが込められていると思います。もしかしたら,当時DQを作りながらスクウェアを意識されていたかもしれないし。スタッフィングの妙でいいものができ上がるという好例になったと思います。
河津氏:
アルテピアッツァさんは,単純にドットの密度を上げるだけではなく,常にクリエイティブな提案をしてくださいました。ときおり「その方向は違います」と返すものもあったのですが,それを恐れずにどんどん提案くださったことが,クオリティアップにつながったのかなと思います。
市川氏:
堀井さんと河津は,全然タイプが違うでしょうから,そこでの苦労はあったかもしれません(笑)。
河津氏:
堀井さんはプレイヤーファーストですからね。
市川氏:
堀井さんはマスを見ていると思います。河津は……俺ファースト(笑)。
4Gamer:
確かに対照的ですね(笑)。
市川氏:
その意味でいうなら,ロマサガ2は難しいゲームですから,アルテピアッツァさんに,堀井さんやDQの“わかりやすさ”みたいな部分を付け加えてもらったほうがいいのかもしれないとも思いました。けれど最終的にはやめました。
河津が書いたシナリオに説明的なセリフを追加する,といった感じで手を入れるのは野暮だと思ったんです。結果としてはプレイヤーの方に喜んでいただけたと感じています。
4Gamer:
尖っているからこそサガファンが納得したということでしょうね。とはいえ,フィーチャーフォン版での追加要素である「アバロンの園」「オリジナルダンジョン」といったところは入っているようですが。
市川氏:
追加コンテンツ自体はクオリティが高かったので,入れるかどうか悩みました。追加要素の有無をゲーム開始時に選べるようにしていますので,オリジナル版の要素のみでのプレイも可能です。
4Gamer:
では,難しく尖っているサガを,カジュアルなタイトルが多いスマホに移植するということに,迷いみたいなものはありませんでしたか。
河津氏:
当時のサガシリーズを楽しむ手段としては,ゲームアーカイブスやバーチャルコンソールなどがありますが,それも結局は特定のハードウェアを持っている必要があります。現代で一番ユニバーサルなプラットフォームであるスマホ向けに用意するのは当たり前の選択でした。
市川氏:
そこも無言の圧力でしたね(笑)。
河津氏:
自分の作ったものに思い入れはあるので,「リメイクしたいな」などと思うこともありますが,それよりは新しいものを作っているほうが楽しいですから。
市川氏:
河津は,僕がプレイヤー目線で「あのキャラクターが好きで」などと伝えても,昔話をほとんどしてくれないんです。どうすれば新しくて面白いゲームが作れるかに集中している。同じ社内の人間にこう言うのもなんですけど,その姿勢は尊敬します。
4Gamer:
根っからのクリエイター,という感じですね。
河津氏:
プログラマーやデザイナー,作曲家がいて,それぞれが作るものがどんどん形になるのを見るのが好きなんですね。アイデアを出している間とか,実はそれほど楽しくないんです。けれど,開発終盤にそれぞれの担当者が精魂込めたモノがガーッと組み上がって,ゲームになるところがいいんです。それって自分だけじゃできないことですから。
- 関連タイトル:
サガ スカーレット グレイス
- 関連タイトル:
ロマンシング サガ2
- 関連タイトル:
ロマンシング サガ2
- 関連タイトル:
ロマンシング サガ2
- この記事のURL:
キーワード
(C)SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. ILLUSTRATION: TOMOMI KOBAYASHI
(C)1993,2010,2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.Planned & Developed by ArtePiazza