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印刷2024/09/28 09:00

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時代の変化に合わせ,息の長いコンテンツを提供していくためには――。TGSフォーラム「長寿タイトルのブランド戦略」をレポート[TGS2024]

 東京ゲームショウ2024ビジネスデイの9月26日と27日,ビジネスデイ来場者を対象としたBtoBセミナー,TGSフォーラムが開催された。本稿では,9月26日に行われた主催者セッション「長寿タイトルのブランド戦略」をレポートする。

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 登壇者は,阿部洋介氏(コナミデジタルエンタテインメント 「プロ野球スピリッツA」シリーズプロデューサー),山崎あした氏(セガ トランスメディア事業本部クリエイティブフランチャイズ部部長),安田直矢氏(安田イースポーツ史,バンダイナムコエンターテインメント 鉄拳シリーズマーケティング&eスポーツプロデューサー)の3名,モデレーターは平野亜矢氏(日経BP 日経クロストレンド副編集長)が務めた。


時代とユーザーが変化するなか,どう楽しみを提案していくか


 まずはモデレーターの平野氏より,本セッションの主旨について説明があった。昨今,ゲームを取り巻く状況は変わってきた。特にインターネットとゲームがつながるようになってから,継続的にIPが続くという時代になっている。そこで,実際に開発や販売をする立場からも,ユーザーに向けての働きかけが変わってきているのではないか。そういった,実際の開発者,販売者の見かた,戦略などを,業界の識者にうかがうというものだ。

 はじめに,今回のパネリスト3名が,それぞれのタイトルを紹介した。
 阿部洋介氏は,野球好きのプログラマーとして2007年に入社して以来,プロ野球コンテンツやウイニングイレブンなどに関わり,現在「プロ野球スピリッツA」シリーズプロデューサーを務めている。今回の登壇者のなかで唯一,モバイルタイトルの運営を語る。

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 セガに入社してから数か月ほどだという山崎あした氏だが,同社とのつながりは以前から深く,「龍が如く」シリーズとの関係も長いという。「龍が如く」は一貫して“ワル”の生きざまを描いてきているタイトル。この10数年で,テクノロジーのみならず,人々の社会規範も変化してきているため,そういった変化も鑑みながらゲームを作っているとのことだ。

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 安田直矢氏は,「鉄拳」のプロデューサーは何人かいるのだが,対外的に役割を分かりやすくするため,安田イースポーツと名乗っているという。企画開発として入社後,静岡の工場で企画から生産までの流れを間近に体感できる環境で経験を積み,「プロ野球オーナーズリーグ」などに参加。2020年から「鉄拳」のプロデューサーとして,グローバル規模の施策などに関わっている。

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 それぞれが関わるタイトルについても,動画と併せ,冗談も交えつつ概要の説明がされた。各タイトルはそれぞれに長寿作品であるが,「長寿」の在りかたはそれぞれ違っている。ゆえに,ユーザーの参入のしかたも違った傾向がある。シリーズが長くなってくると,プラットフォームの更新も含め,世のなかの変化にも対応していく必要があるだろうとモデレーターの平野氏は分析する。それを受け,3名のパネリストは各々の立場から意見を述べた。

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 「鉄拳」シリーズは,業務用,コンソール,オンラインと大きく変化してきた。アーケードゲームのスタイルは格闘ゲームと向いているが,コンソールになるとそうはいかず,ストーリーやミニゲームなど,さまざまなコンテンツをパッケージにして売ることになる。スタッフの仕事,スタッフの数自体も増え,プロジェクトの規模も大きくなる。それは,店舗へのサービスも同じことだった。

 ネットが普及したことによって,オンラインでできることが増え,現在はサービスのアップデートコストが低くなった。しかし,サービスを届けることが容易になる代わりに,作る側としては受け手のニーズにずっと答え続けないとならないという苦しさもある。配信コストは下がるが,そのほかの開発コスト,発売後のアップデートなどのコストは上がっているという,時代によって変化している点に課題がある。それにあわせて制作側もさまざまなコンテンツにチャレンジしているが,安定して集客しているのは相変わらずナンバリングタイトルである,と安田氏は語る。

 ずっとコンソールで発売している龍が如くシリーズに関しても似たようなことはあると山崎氏。インターネットが普及し,コンソール機につながることによって,販売にまつわる部分に劇的な変化があったそうだ。流通の制限,場所の制限がなくなったことで,特にグローバル展開がしやすくなった。また,パッケージだけでなく追加の課金アイテムなどを販売するというシステムで,販売の価格上限がなくなったことも大きな変化だという。また,ダウンロードで過去作の販売も精力的に行っているそうだ。

 インターネットが普及したからこそメジャーになったのがモバイルゲームで,「プロ野球スピリッツA」は前出の2作と多少状況が違ってはいるが,インターネットの普及で皆がモバイルゲームで遊ぶようになり,「どこで,どう遊ばれるかというところまでがゲームの体験だ」と考えていると阿部氏は言う。

 プロ野球ファンは,いつどこでゲームをプレイするのかということを調べると,かなりのユーザーが電車のなかであるのだそうだ。一試合の長さを絞り,5分ほどの乗車時間で野球の面白さを伝えること,電車のなかでもつり革を持ちながら片手で遊びやすいように整えるなどの工夫をした。コンソールで展開していたときよりも,ユーザーの幅は劇的に広がったことで,遊ばれかたによって提供するコンテンツを変えていくことが重要であるとの実感を持ったそうだ。

 プレイヤー側の趣味嗜好の価値観が変化したことに関しては,野球に関するオフラインのコミュニケーションが減っている昨今,我々がプラットフォームになればいいと考えている。野球への入りかた,楽しみかたもかなり多様化したので,積極的に情報を提供し,野球に触れられる,野球自体を盛り上げる,野球文化の入り口になる覚悟をもっている,と力強く語った。

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 ユーザーの遊びかたも変わってきているのではないか,という平野氏の指摘に,安田氏はまず,“ユーザー”そのものの定義が今は広くなっていると答えた。コアになるのはユーザーとパブリッシャの関係だが,それを取り巻くものが大きくなっているのが今の状況であるのだという。

 「鉄拳」に関して言えば,ユーザーが集まり,大会を自主的に開催することで,より魅力的な選手を集められる集団の規模が大きくなってくる。そして,試合を観戦したい人も増え,ストリーマーが配信もする。観戦する人が増えると,大会や選手個人にスポンサーもついていく。こういった流れで,ユーザーとパブリッシャの関係を取り巻くものが大きくなっていくという。
 そこには多様な「ユーザー」の定義が生まれ,結果としてIPが大きくとなっていくということで,ステークホルダーとユーザーの切り分けが難しくなってきていると安田氏は捉えているそうだ。

 その発言を受け,特に「見ること」でゲームと関わる人がすごく増えたと平野氏。山崎氏も,ゲーム実況者の配信から「龍が如く」の「見る専」ファンが増えていて,グッズ購入者の7割が女性だと明かした。自社でもストリーミング配信を行っていて,ゲームからでなく,物語の面白さから「龍が如く」の世界に入っていくファンも増えているそうだ。ファンイベントやポップアップイベントを盛り上げているのもそういった層だという。ビジネスの広がりとしてはそういった点に着目するべきというのが会社も含めた考えだという。

 「龍が如く」に関して,現在までに「ワルの定義」も変化してきたのでは? との平野氏の質問に山崎氏は,「7」で主人公を変更した理由には,まさに社会規範の変化があると答えた。この20年,法律の変化などによって裏社会自体が変化し,今までの極道のありかたを舞台設定とすることにリアリティがなくなってきた。それに,桐生一馬の物語も描き切ったというスタジオ側の気持ちもあったそうだ。

 そこで,「ワル」を魅力的に描く新しい物語として,硬派な桐生一馬とは真逆の性質を持つ春日一番を主人公に据えた。チームプレイで物事を解決する春日一番の性格に合わせ,ゲームもチームバトル(RPG形式)になり,女性が戦いのメンバーとして加わったことも,時代の変化,人々の価値観の変化を反映している。それが,結果的にブランドのパワーを深めたと考えているそうだ。

 平野氏も,社会規範,時代の価値観は,ゲームの世界にも影響を与えていて,あまりにもそこから乖離していると,プレイする側としても違和感を感じてしまうだろうとコメントした。

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 IPを長く盛り上げていくためには? という質問が登壇者に投げかけられた。
 阿部氏は,「毎日ゲームを開くことを当たり前」にしたいと思っていたが,ゲームの中身は当たり前ではいけないと考えているという。「変わらずに,変わり続けること」が必要で,未来に期待感を持ってもらえるように,新しいものや野球の臨場感を作り,面白さの実績を積み重ねていくことが大事だと語った。

 山崎氏は,過去と未来に目を向ける必要があり,これまでテクノロジーの制限によって届けられなかった過去作を,しっかりと展開・フォローしていくことに意欲を見せた。また,「見たことのない驚き,見たことのない感動を届ける」というのが,「龍が如く」スローガンなので,これからも,お客様が想像もできない驚きと感動を届けていきたいと話した。

 安田氏は,長く続けるためにはテクノロジー,ビジネスモデルの変化を追求し続けたい。海外シェアが多いタイトルは,会社のなかでもひとつのことを伝達するのに多くの段階を踏むことになり,正確にメッセージが届きにくい。「インパクトがあり,分かりやすいメッセージを届けること」で大きな組織に共通意識を持たせることを意識したいと語る。

 また,パキスタン,マダガスカルなどで「鉄拳」が盛り上がっている現象を例に挙げ,eスポーツには筋書きがないので,世界で起こっているストーリーを自分たちがしっかり拾って届けていかなくてはならない,コミュニティツールにもなったゲームの外側にもエンターテインメントを作っていかねばと意欲を見せた。

 昔はゲームのなかに存在していた楽しみが,今はeスポーツや見る専ユーザーの出現,コミュニケーションツールにもなっていることなど,ゲームの外側で楽しむ人も増えている。そういう層が増えているなか,どうアプローチしているのかという質問も投げかけられた。

 阿部氏は,ゲームの外にある「プロ野球」とどれだけリンクできるかということに尽きる,山崎氏は,セガという会社としても最重点課題として扱っているゲームのトランスメディアを重視する,安田氏は,熱量の高いユーザーをサポートしていくことだと,各々の分野において培ってきた知見から考えを述べた。

 最後に平野氏が,社会やユーザーが変化し,その構成員が増えるなか,ゲームのなかに留まらず発信側から楽しみを提案するというのが長く愛されるIPを作るポイントなのではないか,とまとめ,本パネルは終了した。

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