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【島国大和】開発者から見た「Pokémon GO」。無理無理,こんなの作れません
島国大和 / 不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者
島国大和のド畜生 出張所 |
こんにちはー。皆さん運動していますか!
もちろん私はしてません。島国大和です。
時間があったら,まずは運動以外のことに使いたいわけですが,今回のお題は大ブームが来てしまった,「Pokémon GO」(iOS / Android)でございます。
プレイはしたいが,歩きたくない!
Pokémon GOといえば
さすがに皆さんご存知のPokémon GOでしょうが,一応おさらいをしておきます。
Pokémon GOは,Nianticとポケモンによって共同開発されたものですが,一応,任天堂前社長の岩田 聡氏や,ポケモンの石原恒和社長らにより構想されたという話を聞きます。
スマートフォンのGPS機能を用いて,現実の位置情報と,ゲーム内の位置情報をヒモ付けし「どこどこにポケモンジムがある」「どこどこにピカチュウが出た」という遊びを提供しています。
Nianticはもともと「Ingress」(iOS / Android)という位置情報ゲームをリリースしており,これがなかなか優れていたんですが,Pokémon GOのベースになっているのは,そのIngressのシステムやデータです。Pokémon GOの「ポケストップ」や「ポケモンジム」の位置が,Ingressの「ポータル」とほぼ同じであることに気づいている人は多いでしょう。
そして,Pokémon GOの大きな特徴の1つが,AR(拡張現実)。スマートフォンの角度センサーとカメラ機能を用いて,現実の風景にポケモンが出現したように見せ,そこに向かってモンスターボールを投げる,という,文字通りキャッチーな表現方法です。
この“ポケモンというビッグネーム+位置ゲー+キャッチーなAR”という噛みあわせが実に良く,あれよあれよと大ブームになったのは皆さんもご存じのとおり。
んで,これをゲーム開発者が見ると何を思うか。というのが今回のお話です。
「無理無理,こんなもんNianticにしか作れません」
あ。オチ書いちゃった。
ゲーム屋から見たPokémon GOのすごさ
では,ゲーム屋視点でPokémon GOを見てみましょー。
●IPがすごい
IPとはIntellectual propertyの略で,日本語にすれば知的財産権ですが,まぁ平たく言えばポケモンの絶対的な知名度がすごい,といったところでしょうか。
1996年に初代「ポケットモンスター」が発売されて以来,20年間新作が出続けるだけでなく,アニメ,映画も続いているというビッグネーム。関連ゲームが全世界2億本(累計)出ているとのことです。
ですから,多くの人が「モンスターにボールを投げて捕獲し,それを使ってバトルする」という知識を持っています。ポケモンのゲームですよ,と言うだけで,だいたいどんなゲームかが伝わるわけです。
こんなに強烈なIPはそうそうないですよ。
社会現象になるほどの勢いは,このIPによる力が大きいです。位置ゲーやARゲーは別にPokémon GOが初じゃないですし,Pokémon GOの前身であったIngressのプレイヤー数もかなりのもので,日本でリアルイベントが開催されると数千人が集まりはしますが,TVのニュースで報道されるほどではありませんでした。さすがポケモン,キャズム超えもクソもない,メジャーっぷりです。
●組み合わせがすごい
そして,ポケモンは,位置ゲーやARとの相性が抜群です。
街を歩いて野生のポケモンを探し,モンスターボールを投げてゲットという,誰もが知っているその構造は,位置ゲーやARと相性良過ぎでしょう。なんとなく遊んでいる自分を想像できるじゃないですか。これほど人を引き付ける組み合わせはなかなかありません。
さきほど,「社会現象になるほどの勢いは,このIPによる力が大きい」と書きましたが,いくら強烈なIPでも,それだけで社会現象になるのは難しいんです。実際,Pokémon GO以前にも,ポケモンのゲームはスマホ向けにリリースされていましたが,社会現象にはなりませんでした。
「ポケとる」(iOS / Android)知ってます? 丁寧に作られてますよ。「ポケモンコマスター」(iOS / Android)やったことあります? 味わい深いですよ。それでも社会現象までには至らなかったんです。
Pokémon GOは,ポケモンと位置ゲー,ARの相性がどれほどのものか,よく分かりますね。
そうそう,ARについてもう少し。ポケモントレーナーの皆さん,AR機能使ってますか? 前述した,ポケモンが現実にいるように見える機能ですが,自分は面倒くさいのでマッハでオフにしました(オフにしたほうが,ゲームがカンタンになる)。
でも,プレイする前にあれを見た人は,「面白そう」と感じたと思います。「現実世界にポケモンが!」という絵ヅラは説得力と吸引力がありますもん。
さらに,この機能があったおかげで,ネットには,Pokémon GOの画像が溢れました。「こんなところにポケモンがいたよ」的な画像や,冷蔵庫の中,魚市場といったコネタ画像。いろいろな角度から認知が上がる仕掛けになってます。
繰り返しますが,スマホ向けのポケモンはPokémon GOが初めてではないですし,ARも位置ゲーも世に出たのはこれが初ではありません。でも,Pokémon GOで,スマホゲーに初めて触れた,AR,位置ゲーに始めて触れたという人は多いはずです。これは,巨大IPとそれに合致したシステム,ということに尽きます。
4Gamerの読者ならIngressをプレイしたことがある人は多いでしょうが,Pokémon GOは4Gamerを読まずに朝のワイドショーだけ見てるような人もプレイしているわけです。
すごいすごい。これはもう組み合わせの妙です。
●粗削りが問題にならないくらいすごい
なんというか,システムやルールは非常によくできているんですが,実験作的なムードがあるんです。
プレイヤーが何をするとどの数字が増えて,どれが報酬となる,みたいなシステムのコアとなる部分や,それを成立させる莫大な地図情報,大量の通信データをリアルタイムに捌く仕組みなどは,もうおいそれと真似ができないレベルです。ルールを思いついたところで,それを実現するサーバーや技術が揃えられない。
Ingressをリリースした当時のNianticはGoogleの社内スタートアップ(新しいビジネスモデルの開発を目的とした企業やチーム)で,名前もNiantic Labsでした。文字通りGoogleの研究機関だったわけですが,まさにそういう研究畑だからこそ作れたゲームじゃないかなと思います。
そういった壮大な実験を行っている一方で,ゲーム的な手触りはかなり粗削りです。ボタンを押してから反応するまでのラグが気になりましたし,ゲーム的な導線も微妙でした。ある種のとっつきにくさがあったんですよね。それが味わいでもあったんですが。
小技での成功を目指してるんじゃなくて,コアシステムとサーバー技術,位置ゲーム技術という,でっかい枠組みで当てるんだ! という,めっちゃカッコイイスタンスです。確かにこれなら粗削りでも許されるでしょう。
そしてPokémon GOです。
巨大IPを引っさげて,大成功を確約された状況での登場ですから,Ingressという前例があるとはいえ,ポケモンはさすがに丁寧に作ってくるだろうと想像していました。
そしたら。
まだ粗い。
驚きの粗削りです。ユーザーインタフェースはそれほど洗練されておらず,チュートリアルも説明不足で,なかなか潔くて男前です。
自分の場合,ポケモン表示とたまご表示の切り替えにしばらく気づきませんでしたし,ジムでのバトルでは操作方法をずっと把握できなくて,ボコボコにされていました。
適当にプレイしていたからでもありますが,モンスターボールを投げるとき,表示されている円が大きいときがいいのか小さいときがいいのか,その色が何を意味しているのか,把握するにはしばらく時間がかかりました。「Great!」って出ても捕獲率に変化なかったんですね……。
一般的なスマホ向けゲームで,こういう感じだと,ユーザー評価で★が下がります。継続率も下がります。
でも,Pokémon GOぐらいのビッグタイトルだと,困ったときに聞く人がいくらでもいるんですよ。これ,すごいことです。自分も「ふかそうち」と「キズぐすり」の使い方は人に聞きました。むしろ,話題にできて盛り上がる。
かつて「白猫プロジェクト」が,ゲーム内ではなく,ゲーム外でマッチングするようにした結果,ネットが賑わったり,リアルでの交流が増えたりしました。売れるゲームはこれができるという,いわば横綱相撲を取っていましたが,Pokémon GOは,おそらく天然で横綱相撲をやっちゃっています。
強大なIPとそれに合ったシステムが結びつくと,これくらいの粗さでさえ,前向きに働くんですね。
こんなものは真似ができない
「Pokémon GOみたいなの作ってよ」みたいな話がリアルでどれほどあるかは知りませんが。
作れませんねー。
いままで説明してきた通り,強烈なIPとゲームシステムの組み合わせがあったからこそ,凄かったということです。
最近Webで読んだ話によると,任天堂サイドはとにかくハードルを下げること,間口を広げることを優先していたらしいです。Ingressで好評であった陣取りシステムなどは捨ててしまい,ただただ歩いてボールを投げるのが主体のゲームへと単純化したと。
これは,ポケモンならそこまでハードルを下げてもOKだ,ポケモンをコレクトするだけで楽しい,複雑なゲーム性は多くの人にとって足かせになる,という判断でしょう。なんというIP。
まぁIPの凄さは皆さんご存じでしょうから,ゲームシステムの凄さをもう少し詳しく話しましょう。
Pokémon GOのサービスを提供しているNianticは,前述したように,もともとGoogleの社内スタートアップでした。
Googleといえば,世界のGoogleです。腐るほどのサーバを所有し,気が狂うほどのデータを扱っています。Ingressだって,Googleでなければ作れないですよ。いったいサーバー何台使ってるんだって話です。
スマホゲームは,スマホ本体と,通信によってゲームデータを提供するサーバーから構成されます。1つのサーバーで何人のプレイヤーを捌けるかはゲームシステムにもよりますが,高い頻度でサーバーと通信するタイプのゲームでは,結構なサーバー数が必要になり,そこにかかる費用がバカになりません。
スマホゲームは基本無料がほとんどなので,何千人が接続しようが,課金してくれる人がいないとサーバー代金すら賄えないのです。
でも,そこでGoogleですよ。サーバーなんか腐るほど所有しています。おそらく「遊ばせてるサーバーがあるならNianticに使ってもらおう」ぐらいの話じゃないですかね。Google Mapのデータだって使い放題です。さらに人の移動トラフィックのデータも取り放題でしょう。いや,内情は知らないので想像ですけど。
位置ゲームは,遊べば遊ぶほどデータが蓄積されていく。人の導線やその周辺の写真が溜まる。これはある角度から見れば値千金ですけど,それを生かせる会社も限られてしまいます。
Google以外だとこういうデザインになりません。いや,できません。IngressやPokémon GOの後で,他社の位置ゲーをプレイすると,見事な省サーバー化の構造に気づくはずなんです。
ちなみに,NianticがGoogleから独立するとき,多くのベンチャーキャピタルは出資を見送っています。収益が不安定に見えたかららしいです。
そりゃそうだ。位置情報ゲームは,莫大なランニングコストがかかり,海のものとも山のものとも知れぬわけですから。
そこらへんの会社だと,プログラム能力うんぬん以前に,サーバーを賄えないですし,地図をはじめとするデータを用意できませんし,運用ノウハウだってありません。最初から規模がケタはずれです。Ingressはちょっと真似できない規模で,それを引き継いだPokémon GOは,もう何がなんだか分からないレベルの規模です。
Ingressという巨大なゲームシステムがあり,それにポケモンという非常にマッチしたIPがあり。大爆発の準備は整っていた。という感じですね。
そんなわけで,ここであらためて繰り返しますよ。
「無理無理,こんなもんNianticにしか作れません」
まとめ
というわけでですねー。
個人的に,Ingressの陣取りルールは非常に良くできていて,かつ粗削りだったので,あれをパクりたい,ブラッシュアップしたい,という誘惑は凄かったんですが,サーバー代と開発費,運営コストをざっくり計算しただけで死にたくなりました。
Googleのサーバーとデータを持っていても相当に難しいと思われるチャレンジを成功させたIngressが,鉄板IPと組んでさらに上の大勝負,というのがPokémon GOなんじゃないですかね。何度も言いますが,こんなもん真似できません。
成功するのは分かりきっている鉄板タイトルですが,これを実際に動かすまでのチャレンジと労力には,ただただ拍手喝采です。スタンディングオベーション。
ブームが急速すぎたせいで「まだやってんのーダサーい」みたいな空気も生まれていて,ここからが正念場ですが,まだまだ余裕の見える運営スタイルです。カッコイイ。
自分も道にン百億円落ちてたらこんなゲームを作ってみたいですが,とりあえず3億円ぐらいで自由にゲームが作りたいです。
それでは今回はこの辺で。
どうもお疲れ様でしたー。
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(C)2017 Niantic, Inc. (C)2017 Pokémon. (C)1995-2017 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
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