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「『聖剣伝説』25th Anniversary Concert」の開催に向け,作曲家の伊藤賢治氏,菊田裕樹氏,下村陽子氏に作曲当時のことを振り返ってもらった
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印刷2016/12/28 00:00

インタビュー

「『聖剣伝説』25th Anniversary Concert」の開催に向け,作曲家の伊藤賢治氏,菊田裕樹氏,下村陽子氏に作曲当時のことを振り返ってもらった

画像集 No.008のサムネイル画像 / 「『聖剣伝説』25th Anniversary Concert」の開催に向け,作曲家の伊藤賢治氏,菊田裕樹氏,下村陽子氏に作曲当時のことを振り返ってもらった
 4Gamerを運営するAetasが,2017年3月24日に渋谷のBunkamura オーチャードホールでオーケストラコンサート,「Music 4Gamer #1『聖剣伝説』25th Anniversary Concert supported by SQUARE ENIX」(以下,「聖剣伝説」25th Anniversary Concert)を開催する。前売り券は現在,チケットぴあやイープラス,ローソンチケットなどで販売中だ。

 このコンサートは,スクウェア(現スクウェア・エニックス)が,1991年6月28日に「聖剣伝説」シリーズ第1作の「聖剣伝説 〜ファイナルファンタジー外伝〜」(以下,「FF外伝」)をリリースしてから25周年を迎えたことを記念して開催されるものだ。
 演奏される楽曲は,「FF外伝」のオープニングを飾った「Rising Sun」を筆頭に,シリーズ各タイトルを彩った数々の名曲達。今回,それらの楽曲を手がけた伊藤賢治氏菊田裕樹氏下村陽子氏の作曲家3名を迎えた座談会が実現したので,その模様をお届けしよう。

左から,下村陽子氏,菊田裕樹氏,伊藤賢治氏
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「Music 4Gamer」

「聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-」公式サイト



オーケストラで演奏される「聖剣伝説」の楽曲に,

作曲家陣が抱く期待とは


4Gamer:
 本日はよろしくよろしくお願いします。
 まずは,「聖剣伝説」25th Anniversary Concertが開催されると聞いたときの気持ちから聞かせてください。

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伊藤賢治氏(以下,伊藤氏):
 僕のプロデュースで,今年(2016年)1月に中野サンプラザで開催した「聖剣伝説」のコンサート(SQUARE ENIX Presents 聖剣伝説 LIVE 〜Echoes of Mana〜 Produced by Kenji Ito)では,菊田さんと下村さんにゲストとして登壇していただいたんですね。そのとき楽屋で,「また集まれるといいね」という話をしていたんです。

4Gamer:
 そんな舞台裏のお話があったんですね。

伊藤氏:
 ただ,その時点では,今度のコンサートの企画などはまったく予定になかったんですが,こうして企画が動き始めて次第に形になっていくにしたがって,僕もワクワクした気分になっていきました。そして実際に開催すると決まったときは,中野サンプラザのコンサートのことも,再び3人で集まれることも含めて「長くやってきてよかったな」と実感しましたね。

菊田裕樹氏(以下,菊田氏):
 「ついに『聖剣伝説』にも,こういう時期が来たんだな」という思いが大きかったですね。昨今,ゲームミュージックはいろんなところで盛り上がっており,オーケストラやバンドで演奏される機会が増えていますよね。そうした状況に身を置いていると,「聴きたい」という人達の情熱が盛り上がってくるのが分かるんです。
 その中で「いずれ『聖剣伝説』にもその盛り上がりが来るだろう」という予想はしていたんですが,さすがに時期までは分からなかった。
 おそらくこのコンサートの発案者は「聖剣伝説」を愛していて,「聴きたい」という人達の情熱が最高潮に達する一番いいタイミングに向けて企画を立てたと思うんです。それは素晴らしいことですし,喜びを感じます。

伊藤氏:
 小山田さん(現在,「聖剣伝説」シリーズの開発を手がけているスクウェア・エニックスの小山田 将氏)からも愛情を感じますしね。

菊田氏:
 うん,愛情があることは本当に素晴らしい。

4Gamer:
 下村さんはいかがでしょう。

下村陽子氏(以下,下村氏):
 お話を聞いたときは,「やったー!」「嬉しい!」「ついに!」という感じでした。私のベストアルバム「drammatica」では「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」(以下,「LEGEND OF MANA」)の曲をオーケストラにアレンジしたのですが,いつかオフィシャルなコンサートで聴いてみたいと思っていたので,もしも「聖剣伝説」ファンの皆さんが同じ気持ちを持ってくださっているのなら,作曲家としてすごく嬉しいです。

4Gamer:
 コンサートのセットリストは,4Gamer側の作った大まかなコンセプトや流れをもとに,Twitterで行ったリクエスト企画の結果を考慮しつつ,小山田さんが選曲・構成したものです。選曲されたご自身の楽曲に関して,どんな感想を抱きましたか。

伊藤氏:
 僕は「聖剣伝説」の音楽で王道を突き詰めてきた感覚があるので,オーケストラだろうがほかの演奏形態だろうがそうそう外すことはないだろう,という安心感があるんです。その意味では,僕の曲を聴きたいと思ってくださる方には,安心して聴いていただけるんじゃないかと。

菊田氏:
 僕の曲は方向性にバラエティがあるというか,バラバラだったりするので,聴いた人によっていいと感じる曲が違うんですよね。だから,こうしたコンサートで選曲すると,選曲者のパーソナルな部分が色濃く出てしまいがちなんです。おそらくこのセットリストにも,小山田さんの個人的な何かが入っている気がする。

4Gamer:
 バッチリ入っていると思います。

菊田氏:
 でもそういった,音楽を生み出す人間と,その音楽を聴いた人間とのパーソナルな関係は,決して悪いものじゃないですよね。それは言葉じゃない音楽だからこそできることだし,音楽には人間の心をものすごい力で引き寄せてくっつける力があるという証明でもあるから。
 昔作った曲が誰かに影響を与え,その結果がこうして今まさに返ってきていると捉えると,とても素敵なことだと思いますね。

下村氏:
 私の曲も菊田さんの曲と同じく,人によって好みが分かれることが多いんですけど,「LEGEND OF MANA」の曲はド直球で作ったので,小山田さんと,ファンの皆さんと,私自身の「これは絶対外せない」という曲がわりと一致するんですよね。
 今回のセットリストにも,皆さんが「これは外せない」と思ってくださるだろう曲がいくつかあります。

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4Gamer:
 ご自身の楽曲をコンサートではどんなアレンジで演奏してほしいか,もし期待していることがあれば教えてください。

伊藤氏:
 もともと作曲家としては三者三様ですから,あまり統一感がなくとも,それぞれのカラーを楽しめるならそれで十分だと思いますよ。

菊田氏:
 正直,僕の曲はどんな感じになるのか全然予想できないんですよね(笑)。と言うのは,今回初めてオーケストラアレンジされる曲がいっぱいあるから。作曲したときには,オーケストラで演奏されるなんて想定していなかったし。
 ちゃんと鳴ってくれたらそれだけでOKですし,それを聴きたいと思ってくださる人に届けられたら万々歳ですね。

下村氏:
 私は1曲の中でドラマを展開するようなアレンジが好きで,自分自身でアレンジするときも,それを心がけています。今回もコンサート全体のドラマ性を損なわない形で,個々の曲にストーリーを感じさせるアレンジに仕上がることを期待しています。


同じ「聖剣伝説」シリーズでも

三者三様にこだわる部分が違った作曲スタイル


4Gamer:
 今回,せっかくこうしてお三方にお集まりいただきましたので,「聖剣伝説」の曲を作るうえで,作曲家としてお互いを意識したことなどがあれば教えてください。
 例えば伊藤さんはゲームボーイ向け,菊田さんはスーパーファミコン向け,下村さんはPlayStation向けと,それぞれプラットフォームが異なるので音源も異なっていますし,その点について何か思うところがあれば,それもぜひ。

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菊田氏:
 苦労したという意味では,ゲームボーイ向けの「FF外伝」が一番大変だったんじゃない?

伊藤氏:
 でも僕は,その前に「Sa・Ga2 秘宝伝説」の作曲をやっていましたから。

下村氏:
 「FF外伝」は2作め? それであんなにできるのはすごい……。

伊藤氏:
 コツさえ掴んでしまえば,という感じなんですよ。
 僕は菊田さんがサンプラーを使って,実際にスーパーファミコンの実機で鳴る音で作曲したときに,本当に斬新だと思いましたね。僕と植松さん(作曲家の植松伸夫氏)はメロディを主体に作曲していくタイプなんですけれど,菊田さんのやり方はそれとは違う,限られた人にしかできない手法だと。

菊田氏:
 僕は半分エンジニアみたいなところがあるからね。

伊藤氏:
 始まりがメロディというより,音響的なところなんですよね。

下村氏:
 スネアドラムの音と,そのリバーブを別々に収録するところとか,すごくよく覚えています。

菊田氏:
 僕のときは先人の偉業があったから,どうすればそれに勝てるかということばかり考えていたんですよ。それで通常はやらないような方法も試したりもしたんです。

伊藤氏:
 植松さんが「聖剣伝説2」の完成時に,菊田さんをねぎらったんですよ。「菊ちゃん,この功績は広く認められるべきだ」というメールをスタッフ全員に回したときは,僕もそのとおりだと思いましたね。

菊田氏:
 いやいや(笑)。
 でも直接植松さんの影響を受けたとのは,僕より伊藤先生でしょ?

伊藤氏:
 たぶん植松さんにとっても,菊田さんのやり方はいい意味でショッキングだったんでしょうね。「こういう作り方もあるんだ」と。のちのち植松さんは,スーパーファミコンをサンプラーとして使った曲作りにも取り組みんでいましたけど,あれは間接的に「聖剣伝説2」の影響を受けたものだと思います。

下村氏:
 私は菊田さんと違って機械に弱くて,音源をどうすればいいのかまったく分からなかったんです。PlayStationはMIDIをいじるだけで曲が鳴るんですけど,それだとエンベロープをうまく設定できなくて,思うようなアーティキュレーションにならなかったんですね。それでMIDIのデータをテキストにコンバートして,ひたすら手打ちで直してました。
 でもその一方では収録は人任せで,「いい音録ってね」って(笑)。これは,もしも私がスーパーファミコンの「聖剣伝説」を担当するようなことがあったとしても,変わらなかったと思います。

菊田氏:
 こだわる部分は本当に3人バラバラなんですよね。でもそれは,とてもいいことだったと思います。自分の一番いい部分を伸ばして戦えたということだから。

伊藤氏:
 だからこそ,3人の曲それぞれにファンがいるんでしょうね。
 
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