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「おそ松さんのへそくりウォーズ」をヒットさせた敏腕女性プロデューサー成沢理恵氏が「ゲームとは?」について語る。「Gm4u」第4回レポート
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印刷2017/12/08 12:00

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「おそ松さんのへそくりウォーズ」をヒットさせた敏腕女性プロデューサー成沢理恵氏が「ゲームとは?」について語る。「Gm4u」第4回レポート

 ヒューマンアカデミーは2017年11月25日,同社の全日制専門校「総合学園ヒューマンアカデミー」で,ゲーム業界を代表するクリエイターによるトークイベント「Gm4u」の第4回を開催した。

画像集 No.001のサムネイル画像 / 「おそ松さんのへそくりウォーズ」をヒットさせた敏腕女性プロデューサー成沢理恵氏が「ゲームとは?」について語る。「Gm4u」第4回レポート


■Gm4uとは
 ヒューマンアカデミーが運営する全日制専門校「総合学園ヒューマンアカデミー」で開催されるトークイベント。業界を代表するゲームクリエイターがゲストとして毎回登場し,これからの業界を担う方々と「ゲーム業界は面白い!」という感覚を共有する。イベントの様子は全国各地の校舎でライブ配信され,開催のペースは月1回(全10回)が予定されている。

 次回はスクウェア・エニックスの橋本真司氏が「ファイナルファンタジー30周年を振り返る」をテーマに登壇する予定だ(関連ページ)。

 第4回の登壇者は,「おそ松さんのへそくりウォーズ〜ニートの攻防〜」iOS / Android)などをプロデュースした成沢理恵氏だ。国際基督教大学卒業後,1998年にエニックス(現:スクウェア・エニックス)にプロデューサーとして入社して以後,15年間に渡ってコンシューマ,PC,モバイルに携わり,これまでPlayStation 2用ソフト「エンドネシア」,Windows用ソフト「コスモぐらし」,スマートフォン版「FAINAL FANTASY IV」「FAINAL FANTASY V」「ドラゴンクエスト 不思議のダンジョンMOBILE」シリーズなどを手掛けている。

成沢理恵氏
画像集 No.004のサムネイル画像 / 「おそ松さんのへそくりウォーズ」をヒットさせた敏腕女性プロデューサー成沢理恵氏が「ゲームとは?」について語る。「Gm4u」第4回レポート

 現在は,ちゅらっぷす,モバイルファクトリー,モリカトロンなど数々の企業の取締役・顧問・相談役などを兼任。幅広い分野で活躍している成沢氏が「ゲームとは?」について深く語ってくれた。


ゲーム業界のスタートラインだった「プロデューサー」


 まず成沢氏は,ゲーム業界に入ったきっかけ,プロデューサーになった理由などについて語った。もともとゲーム業界を志望していたわけではなく,大学では刑法を学んでいたという成沢氏。「モノづくりをしたい」という漠然とした思いがあり,一業種につき一社というルールで就職活動を行ったそうだ。元来ゲーム好きだった成沢氏は「すべての人生をゲーム感覚でやっている」というスタイルでテレビ局や航空会社などにも挑み,ゲーム業界としては唯一エニックスのみを受けたという。

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 当時,女性にとっての花形職業であるキャビンアテンダントに合格した成沢氏。しかし,エニックスの最終面接を前に入社の決断を迫られ,なんとそこで断ってしまったこの話を面接のネタと捉えて話したところ「なぜ航空会社を断ったんだ!!」と非常に怒られたそうで,成沢氏は「この会社,すごく面白いな」と感じたという。

 ゲーム会社の募集といえばプログラマーやデザイナーなど職種で行うのが一般的だった中,「アシスタントプロデューサー」を募っていたエニックス。「私は絵も描けないし,プログラムもできません。なので,ここしか応募できなかったんです」と成沢氏は語る。
 当時,エニックス社長の福嶋康博氏(現:スクウェア・エニックス 名誉会長)が「常に新鮮・勢いのある人たちと仕事をする」という方針を掲げ,そうした人と共に仕事をするプロデューサーがいればいいということで,社内にはプロデューサーしかいない特殊な環境だったそうだ。

 一万人ほど応募のあった中から選ばれ,見事に入社した成沢氏。現在はデザイナーやプランナーなどを段階的に経験してから担当することが多い中,いきなりプロデューサーになるというイレギュラーな時代だったと振り返る。

 「ダーマ神殿っていろいろな職業があるはずなのに,1つしか選べなかったという感じですね。本来,魔法戦士になるなら戦士も魔法使いもちゃんとやらないと職業について分からないですよね。なのに私はまったく何もないまま入ったので,ものすごく苦労しました」と,コアなゲーム好きらしい表現を交えつつ,語気を強めた成沢氏。大学卒業後すぐに実績もなければ専門知識もない状態でも飛び込むしかなく,門前払いは当たり前。当時は今以上に女性プロデューサーが少なく,厳しい言葉をぶつけられることも少なくなかったという苦労は想像を絶するものであっただろう。
 もちろん,これは昔の話で,現在の多くのゲーム会社では研修をしっかり行い,新人もきちんと育ててくれるので安心してほしい。

 そんな中でもより多くの経験を積むため,まずは先輩を観察したという成沢氏。簡単な仕事も積極的に手伝い,できるだけ多くの人について打ち合わせの同席などもお願いしたそうだ。ここでの経験は,現在12社での役員を兼任するという仕事のスケジューリングに役立ったという。

 入社から1年目の後半〜2年目に差し掛かった頃,当時の直属の上司であった渡辺泰仁氏(現:スクウェア・エニックス 執行役員)と共にアシスタントプロデューサーとしてダンスゲーム「バスト ア ムーブ2」を担当。音楽,プランニング,プログラム,グラフィックなど5〜6社が関わっており,ここで成沢氏は複数の会社を統括するプロデュースワークについて学んだそうだ。

 3年目に入った頃,プロデューサーとしての第1作目となる「エンドネシア」を担当。制作のさい,成沢氏は未だに根強いファンが支持するPlayStation向けソフト「moon」を作ったラブデリック()へ1年半ほど通い詰めたという。「すごく人気のある会社さんですから,開発ラインが埋まっていてなかなか機会がなくて,ちょうど1本終わったタイミングで手を挙げました。対抗馬にとても大きな会社さんがいたんですが,社長の鈴木浩司さんに『君に任せる』と言ってもらえたのが嬉しかったですね」と,自身の愛が伝わった瞬間を満足そうに語った。

※声をかけた当時はラブデリックだったが,その後ラブデリックの会社は残ったまま,スタッフはバンプールとskipの2社に分派した。「エンドネシア」はバンプールで制作されたタイトルとなっている。

 スクウェア・エニックスでは15年間に渡ってゲームを制作してきたが,表彰や特許の取得など評価を受けた一方,結果として売り上げには直接結びつかなかったタイトルもあるという。それはプロデューサーとしての失敗だと語りつつも,自身が手掛けたゲームは「本当におもしろいと自信を持って言えます!」と力強く断言してくれた。

 その後,プロデューサーとして「おそ松さんのへそくりウォーズ」を手掛けることとなった成沢氏。今でこそアニメの爆発的ヒットから社会現象にまでなった「おそ松さん」だが,当然ゲームが企画された時点では誰も予想できていない。そのため予算も限られており,アニメ放映が終了する間際までというわずかな開発期間の中でゲームのプロデュースとスタッフィングを依頼されたという。そして現在は「おそ松さんのへそくりウォーズ」の開発・運営を担当するちゅらっぷすをはじめ,全国12社のゲーム会社でプロデュースや役員,顧問など会社という枠に囚われずに活躍している。


プロデューサー・ディレクター・プランナーの違いとは


 自身の経歴について語ったあと,プロデュース・ディレクション・プランニングの差について聞かれると,成沢氏は人によって答えが異なると前置きしながら「プランナーは0から1を作る人,ディレクターはゲームの方向を決める人で,プロデューサーは現場の人たちがやりたかったゲームをお客さんに届ける橋渡し役であり,手に取ってもらうということ,つまり売り上げに関する責任を持つ人でもあります。スケジュール管理も大事な仕事でしょう」と話す。

パーソナリティーを務めたゲームプロデューサー,波多紘幸氏(写真左)
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 たとえば,プランナーがアクションゲームを作ると決める。それはARPGなのか,格闘なのか,どのようなアクションかを決めるのがディレクター。そして,そのままむき出しの愛が詰まったタイトルは威力が強すぎるため,ゲームに詳しくない人や得意でない人も手に取りやすいようにラッピングをするのがプロデューサーといったイメージを語る成沢氏。実際にはプロデューサーがディレクションワークをする場合や,プランナーがディレクターにコミットするケースもあるが,成沢氏にとってプランナー・ディレクター・プロデューサーは明確に役割が異なるという。

 プロデューサーとしてスタッフの意見が合わなかった場合にどうするかと聞かれると,成沢氏は「本当にリアルに言うと,まず飲みに行きます(笑)」とキッパリ。まず成沢氏はスタッフィングにこだわり,一度組むと決めたら相手をとことん信用。そのため予算やスケジュールで問題が発生した場合,ひたすら話して妥協案を探すそうだ。「最後は『私を信用してもらっていいかな』って言うんです。保証があるわけじゃないから,本当は自分自身を信じているわけじゃないんです。でも,絶対に大丈夫だと言い切るしかないんですよね。スタッフだけでなく,自分にも言い聞かせています」と,プロデューサーのスキルとして不可欠だという“人間力”について熱く訴える。

 「おそ松さんのへそくりウォーズ」ではディレクターのさまざまな提案も抑え,さらに一般的なアプリゲームに標準搭載されている機能もほぼ外してリリースした。期日に間に合わせるためという事情もあったが,成沢氏は「ディレクターさんはとても不安を感じたと思うんです。この“引き算”って相手のやりたいことにノーを突きつけるわけですから,信頼してもらう以外に方法がないんです」と当時を振り返る。そして,結果としてアニメファンの方々にもシンプルで,分かりやすく,遊びやすいゲームに仕上がり,アニメ放映中にもリリースでき,3日で100万ダウンロードを記録するヒット作となったのだ。

 プレイヤーを見たうえで判断を下すプロデューサーと作品のクオリティを高めたいディレクターでは立ち位置が異なり,「良いものを作りたい」「売れてほしい」「プレイヤーに楽しんでほしい」と目指すゴールは一緒でもフォグ(霧)がかかって道が見えなくなることがあると成沢氏。ここでもう一度原点に戻って話し合い,ゲームに掛ける愛情が一緒だと感じられた瞬間にスタッフとの絆を感じられるそうだ。「自分が思うプロデューサーとしての大事な仕事は,とにかく話すことだと思います。モヤモヤしたものを抱えながらおもしろいものなんてできません。なるべくその場で解決するようにしています」と自身の考えを語った。


これからのゲーム業界に求められることは?


 エンジニアに求めることを問われると,成沢氏は「エンジニアさん,デザイナーさん,プログラマーさん,プランナーさんも含め,お互いの技術が少しでも分かっていると助かります」とアドバイス。ゲーム制作はチームプレーであり,技術に理解があればお互いの仕事をよりスムーズに進められるため,周囲からも重宝されるそうだ。

 とくにエンジニアやデザイナーなどは,クオリティを求めるあまり自分の世界に引きこもってしまう傾向がある。先ほど成沢氏が語ったとおり飲み会や食事会などを通じて話をすることも手段の一つだが,ちゅらっぷすではスタッフのアイディアでボードゲーム大会を開催したところ大盛況だったという。「何が好きとか,どう思っているかは話してみないと分かりませんよね。ゲーム制作はお互いによく知らない人同士がスタッフィングされて共同制作をするわけですから,より話をしないと分かり合えません」と,コミュニケーションの重要性についてあらためて伝えた。

 また,コンシューマゲームとは異なり,スマートフォンゲームでは長期に渡る「運営」という視点が必要となる。パッケージを売って終わりではなく,店舗経営のように物事を多角的に捉えていかなくてはならない。たとえば有名なレストランが出店すれば最初はネームバリューで多くの来店者が訪れるだろうが,接客や食事に問題があればすぐに客は離れてしまう。スマートフォンを中心に展開しているゲームに限らず,世の中のすべてのものに「運営」は欠かせない要素だと成沢氏は語る。

 そこで成沢氏は「プレイヤーの反応を読み取り,分析する」という能力について言及。ゲームエンジンの普及によってハードルが下がったこともあり,これまで中心となっていた「開発」だけではなく「運営」や「分析」といった視点も重要視されるというのだ。「プレイヤーが求めているものを数字で見ていくわけですから,とても面白いポジションだと思います。数字は嘘をつきませんから,プレイヤーの盛り上がりや反応をダイレクトに感じることができます」と,必要性だけでなく手応えや面白さといった部分にも注目してほしいと語った。


ゲームとは自分が主人公の総合エンターテインメント


 最後に,今回のテーマとなる「ゲームとは?」という問いについて,成沢氏は「自分が主人公の総合エンターテインメント」と位置づけた。成沢氏は「総合エンターテインメントと言ったのは,パッケージの中にすべてが入っているんですよね。ゲームって何でもできて,すごいじゃないですか。そんなゲームを作っているという自負があります」と語り,プレイヤーの思い出に介入できる責任とおもしろささのある仕事だと胸を張る。

 現在は「女性ゲームプロデューサー」と検索すると最初に自身のブログが出てくるようになり,初対面の相手に知ってもらえていることを嬉しく感じるという成沢氏。多くの企業で活躍しつつ,今後もプロデューサーなど一つの肩書に縛られず,あえて自身を括らずに可能性を広く持つ姿勢を追求していくと話す。最後に,来場者に向かって「皆さんの世代だけのゲーム作りがあって,それはきっと私たちにはできません。それを見たいですし,皆さんの作るゲームの一ユーザーになってみたいので,ぜひゲーム業界に入ってきてください」とコメントし,トークを締めくくった。


来場者からの質疑応答


 トーク終了後,オンラインで聴講していた全国の参加者を含めた質疑応答が行われたので,その内容を紹介しよう。

――入社から間もない頃にゲームを作らせてくださいとお願いをしにいったというお話をされていましたが,実際にどのような仕事をもらえたのでしょうか?

成沢氏:
 「こんなものを作りたい」という原案は私のほうで作りました。それを私が大好きだったラブデリックのスタッフで作りたいと持ち込み,何本も開発ラインがあるわけではないので,そのうちの一つを私に預けてくださいとお願いをしました。私がプロデュースで立って,ディレクター以下,プランナー,プログラマー,デザイナー,サウンドといったスタッフを預けていただいて,開発をさせていただいたというのが仕事を取りに行ったことの内容です。

――沖縄でゲーム会社への就職を考えています。実際に「おそ松さんのへそくりウォーズ」をプロデュースされて,沖縄でどのような手応えを感じられましたか?

成沢氏:
 沖縄にも多数のゲーム会社があって,ゲーム作りに対してとても熱いです。私が役員をさせていただいているちゅらっぷす株式会社やAppBeach株式会社では,「おそ松さんのへそくりウォーズ」の開発・運営をもう1年半以上させていただいておりますし,手応えはアリアリです。開発環境も良いですし,ちゅらっぷすはオーシャンビューで遠くに海が見えるんですよね。仕事は仕事で集中して,土日は綺麗な砂浜で休んで,気持ちを切り替えてゲーム作りに打ち込めます。
 ゲーム作りに関してもまったく遜色なく,東京にあるような会社さんにも負けずに頑張っています。これは那覇だけでなく,その他ヒューマンアカデミーさんの学校がある札幌や仙台,神戸,広島,福岡もどこもそうだと思います。

――女性ならではの苦労はなんでしょうか?

成沢氏:
 いろいろとありますね。体力的にもですし,平日だけでなく土日も仕事をしていることが多いので時間もぐちゃぐちゃになります。プロデューサーという立場ですと相手に合わせるので流動的になりやすく,相手の会社さんが煮詰まったといったら飛んでいきますね。その辺りは大変だと思います。
 私の個人的な意見ですが,プロデューサーは少しでも情報が止まってしまうと,できないと思っているんです。女性はどうしても人生の切り替わりのターム(期間)がありますよね。それをきちんとクリアしている方もいますけど,柔軟に対応しにくい面もあるのかなと。
 実は,女性の後輩にプロデューサーになりたいと言われることもあるんですけど,オススメしてないんです。気持ち的に女性プロデューサーにはもっと増えてほしいんですが「この子にとって,女性プロデューサーは幸せなのか」という部分には未だに悩んでしまって,やったほうがいいよとかもなかなか言えないです。自分がとおって厳しかったということもあり,それを思い出してしまいますね。
 女性ならではの感覚はすごく大事で,やっていただきたい仕事ではあるんですよね。矛盾していて申し訳ないんですけど,やってほしいなと思いながら,大変だよっていう正直な気持ちが半々です。ただスマートフォンの恋愛ゲームは売上のランキング上位にいますから,求めているお客様は多いんです。そこは女性の感覚がどうしても必要ですから,女性の進出が求められるところでしょう。

――門前払いなど辛い目にあったとき,どのように乗り越えたのでしょうか?

成沢氏:
 今,スクウェア・エニックスで執行役員になっているような大先輩プロデューサー方に愚痴を言いました(笑)。すごく優しい先輩ばかりで,皆聞いてくれるんですよ。でも門前払いという事実は変わらないので,結局「飲みに行くか!」ってなっちゃいますね。奢ってもらって,また頑張ろうという気になって,同じ会社を訪ねると。また門前払いされることもありますけど,別にお金がかかることではありませんし。
 そこは,好きかどうかなんですよ。門前払いされて悔しい,もういいやと思うならそこまでで,その会社をそんなに好きではなかったんだと思います。好きだったらいつか振り向いてくれるかなと。あとはゲームが辛い事から救ってくれて癒してくれますから,ぜひゲームを遊んでください。

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トークイベント「Gm4u」公式サイト

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