インタビュー
【Nintendo Switch 5週連続インタビュー(3)】「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」編。“当たり前”を見直して,複数の解法をプレイヤーが試行錯誤できる作品に
では,当たり前を見直したゼルダは,どんな作品になっているのだろうか。本作のディレクターを務める任天堂の藤林秀麿氏に話を聞いてきた。
Nintendo Switchローンチソフト「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」をプレイ。体験会の会場にはプレイ時間20分の試遊台が50台用意
「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」のステージイベントで語られた,新機軸の遊びとは
「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」公式サイト
“当たり前”を見直したことで
解法が一つではないゲームに
4Gamer:
体験会での試遊台が凄くゴージャスで驚きました。どういうコンセプトだったんでしょう?
自宅のリビングで落ち着いて遊んでいただけるようなイメージです。実際に遊んでいただくときのイメージなどを検討して,イスも用意したんですが,その材質についてもリラックスできるようなものを選びました。
4Gamer:
体験できる時間も一人あたり20分と,比較的長めでしたね。来場者の反応はいかがでしたか?
藤林氏:
「ゼルダの伝説」シリーズではいつも,なるべく説明書を見なくても操作できるように開発してきているんです。
今回,遊んでいる方を後ろから見ていたんですが,試遊台のところに置いておいた操作説明を見ずに遊んでいる方が多くて,こうなってほしいなと考えていた部分は,達成できているのではないかと思いました。
4Gamer:
新たな操作方法などが出てくると,その都度画面に表示される仕組みですしね。あれで理解できれば,別紙を参照する必要もないのだな,と思いました。
さて,今回のゼルダは“当たり前を見直す”というコンセプトだそうですが,そこにはさまざまな取捨選択があったと思います。そのあたりについて教えてください。
藤林氏:
見直したうえで残っている部分としては,昔からのゼルダの特徴である謎解きであったり,ちょっと詰まってしまっても少し考えて試してみると何とかなったりするという,“遊び味”のようなものです。ただ,最大のポイントは解法が複数あるというところですね。
4Gamer:
解法が複数……?
藤林氏:
ともすれば,「ゼルダは一本道だ」と言われがちなんですが,今回は謎解きにしても目的地にたどり着くにしても,複数の選択肢があるんです。つまり,プレイヤーの皆さんが自分で考え,いろんなクリアの方法を見つけられるというわけです。
開発中にスタッフがテストプレイをしているのを見ても,同じ謎解きのところをやっていても画面が違ったり,解き方が違ったりしていました。強い敵に遭遇したときも,正攻法で倒すだけでなく,ちょっと卑怯な手を使うこともできます。
4Gamer:
以前から,フィールド上のオブジェクトを利用して複数の敵をまとめて倒すといった映像は公開されていましたよね。もちろん,一体ずつ倒していってもいいんでしょうけど。
藤林氏:
ええ。極論を言うと,ものすごく遠いところから爆弾を担いできて,それを投げて倒すということもできるんです。もちろん,手間はかかりますが。
4Gamer:
ですよね(笑)。ただそれぐらい自由である,と。
変更点でいうと,回復手段にもかなりの違いがあるようです。
藤林氏:
これまでだと草を切れば出てきていたハートが出てきません。いつものものが出てこないという点も,“当たり前”を見直した結果です。
最初のうちは社内でも「あれ?」と言われることが多かったんですが,開発が進んでゲームの仕組みがはっきりするにつれて,「なるほど,そういうことか」と理解してもらえるようになりました。
4Gamer:
草を切っても,ハートはおろかルピーなども出てこないんですか?
藤林氏:
はい。ただ,いつものものが出てこない代わりに,別のものが出てきたりはしますよ。虫とか小動物といった具合に。
4Gamer:
なんだかゲームならではのファンタジーの中に,現実的な要素を組み込んでいるように思えます。
藤林氏:
そうですね。これはシリーズの伝統でもあるんですが,現実世界にも存在していて,ぱっと見で使い方の分かるものを,とくに序盤では多めに配置しています。そのほうが,遊びながら発想しやすいだろうという配慮です。
もちろん,ファンタジーの世界ではあるので,どこまで行ってもまか不思議なものは出てきますけど。
4Gamer:
不思議なものといえば,シーカーストーンなどはファンタジーというより,非常にSFっぽいですよね。
藤林氏:
そうですね。シーカーストーンにまつわるシナリオにも,少しSF的な部分はあります。SFに振りすぎてしまうと,今度はゼルダではなくなってしまうんです。その微妙なバランスを経て今の形になっていて,違和感なく溶け込んでいると思います。
これはひとえに,デザイナーの能力による部分が大きいですね。もちろん絵だけでなく,サウンドも含めて今回は非常に強いこだわりを持ったスタッフに恵まれていました。
4Gamer:
サウンドといえば,おなじみのメインテーマや謎解き音などはどうなっているんでしょう?
藤林氏:
そこも“当たり前”を見直しています。
ただ,ところどころで「あ! この曲!」となることはあるかもしれません。アレンジが違うので気付かないこともあるかもしれませんが,歴代のどこかで流れていた曲がちらほらと鳴っていることがありますので,それも楽しみにしていてください。
4Gamer:
ついでに気になっていることをお聞きしますが,チンクルのようなおなじみのキャラクターは登場しますか?
藤林氏:
どのキャラクターが出てくるかはご想像にお任せしますが,これまでのシリーズを遊んだことのある方に,ニヤっとしていただけるようなキャラクターは出てきます。ただし,それが同じ役割かどうかは現時点では言えません。
4Gamer:
まさかあいつがこんなことを! という意外な出会いがありそうですね。
オープンエアと濃密なシナリオ
その両方を実現するための仕掛けが……?
4Gamer:
今回は,「オープンエア」(オープンワールド)が採用されていますが,それによってゼルダの世界は何が変わるんでしょうか?
大きく変わったのは,“どこでも自由に進める”というところです。スタートした直後から,強制される道順はありません。僕らとしては,「ゼルダの伝説」第一作からそうだったと思っているんですが,それをより明確にした形です。
基本的にどこでも行けるし壁も登ることができるので,道なりに歩いてもいいし,壁を登って別のところへ行ってもいいんです。つまり,どこからでも攻略していけるという自由度が,これまでのシリーズ作品とは大きく違うところですね。
4Gamer:
解法が複数あるということと,オープンエアであることは,非常に密接に結びついていると思うんですが,企画段階ではどちらが先にあったんでしょう?
藤林氏:
どちらが先かというと,ちょっと難しいですね。
どうやったらゼルダの“当たり前”じゃないものを作れるか? というところからスタートして,「広い世界を作ろう」「いきなりボスのところに行けるようにしよう」「何でもできるようにしたい」といった感じで,実現方法を考えずに夢を語っていきました。プログラマーは渋い顔をするんですけど(笑)。
ともあれ,そうやって考えていくと,じゃあロードのない広い世界を何で埋めるのか? という話になるわけです。
4Gamer:
ですよね。
藤林氏:
そうやって考えていくうちに,プレイヤーはゲームの中で押したり引いたり切ったり持ったりといったことはできるので,それに対応した何かが存在して,それらが重なったときに勝手に何かが起きるといった形が,広いフィールドで遊ぶゼルダとしては現実的ではないか,という結論になりました。
例えば木を切る,切った木が丸太になる,丸太は水に浮くから河に浮かせれば渡れるようになる……という流れであれば,ゼルダですよね?
4Gamer:
ああ,何となく分かります。そこにあるものを組み合わせてどうにかする感じは,ゼルダっぽいです。
藤林氏:
こういうのを,僕達は“かけ算の遊び”と呼んでいます。
なので,どちらが先かというよりは,広いところで遊びたいということ,それを埋めるためのゼルダ的な遊びということは,並行で考えていたということになりますね。
4Gamer:
つまり,こういう形になるのはある種の必然であった,と。
藤林氏:
そう言うと偉そうに聞こえちゃいますけど(笑)。
4Gamer:
では,オープンエアの世界で,ストーリーはどのように描かれているのでしょうか。最初からどこにでも行けるとなると,そこできっちりストーリーを描くのは一筋縄ではいかない気がするんです。
藤林氏:
そういう質問をしていただけると,凄く嬉しいんですね。
企画段階からオープンエアと濃密なシナリオの両方を実現したいと思っていました。ただ,おっしゃるとおり,この二つは相性の悪いものです。それを解消するために,一つの“冒険”をしています。その仕組みについて今はお話できませんが,遊ぶときの楽しみにしておいてください。きっと,「なるほど,こう来たか」という味わいがあると思いますので。
4Gamer:
うーん,とはいえもう少し,ヒントをいただけないでしょうか。
例えば,どこかの目的地に行くとイベントが発生して,それを順繰りにこなしていくと何かがつながっていくようなイメージですか?
藤林氏:
目的に行くとイベントが……だと,行かなかった場合にどうなるの? ということにもなってしまいますね。基本的にはどこから行ってもいいという形ですから(笑)。
4Gamer:
ああっ……。
藤林氏:
ただもちろん,何をやればいいのか分からないということはありません。
ゲームのすべてをひととおり楽しみたいという方には,ゲーム内にそれなりの示唆を用意しています。そのとおりにしたり,求められているものに応えたりすることによって,ゲームの全体が見えてくるようにはなっています。ただし,それを無視して進んで行ってもクリアはできます。
とにかく一刻も早くクリアしたい,エンディングを見たいという場合は,そういう遊び方もできますし,そのあとで,戻ってシナリオを楽しむといったことも可能です。
4Gamer:
そのあたりがどうなっているのかも,実際に遊んでみてのお楽しみということですね。
藤林氏:
そうですね。一つお伝えしておきたいのは,“ゲームがプレイヤーを待っている状態”には,できるだけしていません。明らかにリンクのことを待っていたのに,白々しく「おや,どうしたんだい? 少年」という感じがないように(笑)。
4Gamer:
ゼルダに限らず,ゲームではそういうことが往々にしてありますよね。ある種の文法というか。
藤林氏:
でも今回は,そういう部分の“当たり前”も見直したんです。極端な話,「お前なんかがいなくてもこの世の中は動いているんだぞ。そこへ君は何をしに来たの?」みたいな感じで,誰もお願いをしてこないんですよ。
ただ,困っている人はいるわけで,それを見て自分から話を聞きに行ったり,その人の言っていることを自分で推理して現地に見に行ったりということが,プレイヤー自身の選択次第ということになります。
4Gamer:
困っていそうな人がいるけれど,面倒だから無視! ということも可能というわけですね。
これまでのゼルダは,基本的にお遣いの連続だったと思うんですが,そういったあたりもだいぶ変化があるんですね。
藤林氏:
ええ。それに,これまではあまりなかった仕組みで成長もできるようになっています。このあたりも,明確にはお伝えできないんですが,これまでに公開してきたトレーラーなどの情報で推測できるようにしています。
4Gamer:
それはまた,どうしてでしょう?
藤林氏:
発売前にたくさんの情報をお届けしたい半面,ネタバレは避けたいんですよ。なので,トレーラーなどの見た目どおりに推測できるものもあれば,そうでないものもあるかもしれません。
そういったあたりも,ゲームが発売されるまでの期間に楽しんでいただきたいんです。そして発売後に,実際に遊びながら答え合わせをしてほしいな,と。
Nintendo SwitchでもWii Uでも
ゲームの体験としては操作性を含めて同じものに
4Gamer:
今回は動物もかなりリアルに描かれていますね。
これまでは,大きく分けて人間と魔物しか出てこなかったんですが,ここに野生動物という三つめの存在が出てくるようになりました。狩ったりもできますし,攻撃されたりすることもあります。また,敵が動物を狩っているようなケースもあります。
4Gamer:
それらの動物にも,何らかの役割のようなものがあるんですか?
藤林氏:
そうですね。ゲームに利用できる動物もいます。
先ほどもお話ししたように,今回は複数の解法を用意していますので,そのうちの一つを動物が担っているようなケースもあるんです。
4Gamer:
何らかの形で利用したり……ということがありそうですね。
複数の解法というところで言うと,先日のステージイベントでは「裸縛りも可能」というお話もありました。
これまでのゼルダの場合,特定のダンジョンで特定の服を着る必要があったりもしましたが,そういったこともないんでしょうか?
藤林氏:
ええ。基本は裸でもクリア可能です。
フィールドによっては寒い場所などもあり,防寒対策をしなければいけないことはあるんですが,必ずしも服を着なければならないということではないんです。
4Gamer:
そこにもまた,複数の解法があるんですね。
藤林氏:
例えば防寒着なんてちゃんとした服がない時代は,どうやって寒さをしのいだでしょう? と問われると,火を使ったりしていたんじゃないか? と想像するわけです。
今作ではフィールドで火が燃えていることがあります。そこに近づくと暖を取れますし,たいまつを持って行って着火すると,それを持っている間は温かかったりするわけです。
4Gamer:
これまでも木の枝に火をつけて,その火をほかの場所に……といった要素もありましたが,それがさらに進化しているというイメージですね。
火でいうと,調理ができるようになったのも新しいですね。
藤林氏:
ええ。火をおこしたあと,そこにリンゴを置くと焼きリンゴになったり,魚を置くと焼き魚になったりします。生で食べてもいいんですけど,焼いてみたらおいしそうですよね。それもまた,サバイバルの醍醐味ですから。
4Gamer:
調理することによって,回復量も変わるんですよね。
藤林氏:
ええ。基本的に調理することで回復量は増えます。
そういえば,スタッフがテストプレイで面白いことをしていたことがあるんです。とある強敵と戦っているときに,もうほとんどハートを回復する食べ物がなくなってしまって絶体絶命という状況。そんなときに敵の攻撃で地面に火がついたんです。
そしたらそのスタッフがあきらめない! って言いながら,その火を利用して自分のポーチの中に持っていた肉やらなんやらを逃げながら焼き始めたんですよ。焼き料理になると回復量は素材のときよりアップしますから,みるみるハートを回復できて,危機を脱したうえに敵にも勝っちゃうということがありました(笑)。
4Gamer:
ああ,それはかなり嬉しいし楽しい体験ですよね。
藤林氏:
僕も理論上,それはできるものだと分かってはいるんですけど,それを思いついたスタッフは凄く喜んで,「どうだ!」って(笑)。それを見たときに,こういうものを作りたかったんだなって,あらためて実感できました。
4Gamer:
そういうエピソードをうかがっていると,早く遊びたくなります。
藤林氏:
ありがとうございます。僕も何度もプレイしていますが,本当にいろんな遊びがあります。僕達が想像していなかったような遊び方が,プレイヤーの皆さんによって見つかることもあると思いますので,そういうのを探しながら楽しんでほしいですね。
4Gamer:
話は変わりますが,Nintendo Switchで遊ぶとき,オススメのモードはTVモードでしょうか。それとも携帯モードでしょうか。
藤林氏:
大画面で遊べるという意味ではTVモードをオススメしたいのですが,携帯モードでヘッドフォンを使って遊ぶこともオススメなんです。というのも,水の音や地面を歩くリンクの足音が非常にクリアで高い臨場感が得られます。
なので,家ではTVモード,外では携帯モードでヘッドフォンを使って……というのが,オススメですね(笑)。
4Gamer:
要は,どちらもオススメであると。
藤林氏:
はい。ただ確実に言えることとして,携帯モードだけに限らず,なるべく音が聞こえやすい環境で遊んでほしいとは思っています。というのも,新しいイベントが遠くで起きているとき,歩いていると何かが聞こえてきたりするんです。
4Gamer:
そしてその音がするほうへ近付いていくと……となるわけですね。
ちなみに,Wii U版も同時に発売されますが,Nintendo Switch版と違いはありますか?
藤林氏:
ハードウェアの特性上,Wii U版よりNintendo Switch版のほうが解像度と音質がやや高く,ロード時間についてもやや速くなっていますが,ゲームの体験としては操作性も含めて同じです。
4Gamer:
当初Wii Uとして発表されていたものが,途中でNintendo Switchと両対応になりましたが,そこに苦労はありませんでした?
藤林氏:
うーん,すごく苦労した部分もあれば,すごく簡単な部分もありました。
ただはっきり言えるのは,ちゃんとWii UでもNintendo Switchで同じ体験ができるようにしたということです。
4Gamer:
それはつまり,この作品のためにWii Uを購入して待っていた人も,安心して遊べる,と。
藤林氏:
もちろんです。お好みのハードで遊んでいただければと思います。
4Gamer:
ありがとうございました。
発売を楽しみにしています!
Nintendo Switchローンチソフト「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」をプレイ。体験会の会場にはプレイ時間20分の試遊台が50台用意
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