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[GDC 2018]VR脱出ゲーム「I Expect You To Die」のデザイナーが語る,VRゲーム向けの意外なアナログテスト方法
ゲームのαテストにおいて,欧米のゲーム業界ではテクスチャがまだ張られていない3Dモデルや地形マップのことを「Whitebox」(ホワイトボックス)と呼ぶ。セッションタイトルにある「Brownbox」とはこれにかけたものであり,端的に言えば“段ボール箱”のことである。しかし,ゲームのテストに段ボール箱とはどういうことなのか。
通常の3Dゲームとは異なり,プレイヤーの行動できる範囲が限定されるVRゲームでは,「Sphere of Influence」(プレイヤーが影響を与えられる範囲)の理解が開発者には不可欠だ。座ってプレイする場合と立ってプレイする場合でも,プレイヤーの行動範囲は大きく異なる。
そこでプレイヤーの距離感を把握するために,Schell Gamesのメンバーはオフィスの一角に段ボール箱で作ったゲーム世界を築き,VRヘッドマウントディスプレイを装着しない状態でテストを行うというアイデアを考案したという。段ボール箱によるゲーム世界を再現したことで,VRコントローラを使ったときにオブジェクトの配置が適正なのか,プレイヤーが何に注目するのか,といったことをイメージしやすくなったとパットン氏は語る。
こうしたテストは10人程度で十分だとパットン氏は続けたうえで,事前のプロトタイプによって,その後のホワイトボックスを使ったαテストの時間が23%削減されたと述べた。
パットン氏によると,ブラウンボックスによるテストの際に重要なことは,デザイナーが“ダンジョンマスター”の役割を果たし,テスターを誘導するシステムであるという。「I Expect You to Die」のような脱出ゲームでは,工具や引き出しは重要な意味を持つが,雑多な現実世界では見落としがちだ。
そこで「右を向くと工具が置いてある」「左の窓から誰かが銃口を向けている」といった指示を口頭でテスターに与えることで,彼らが置かれているシチュエーションに対してどうするのかが理解できるようになるという。このとき,「右側に工具があることに気づ付かないのですか?」といったような,テスターを批判したり,自分が間違っていると思わせたりすることを避けなくてはならない。パットン氏は「慎重に言葉を選べば,自由度の高いVR世界であることを演出できる」と語っていた。
もちろんブラウンボックスによるテストは,激しく動き回る状況や銃撃戦,魔法といった動作に向いたプロトタイプではない。それでも,パットン氏のチームメンバーが状況を理解するうえで,安上がりで非常に有用だったそうだ。
一方,「Spycams」もVRゲームの開発において使っていた手法であるという。モバイルVR向けに「I Expect You to Die」を移植するときに,プレイヤーが見ている映像を効果的にチェックする手段がなかったため,「Daydream」の本体に穴を開け,小型のスパイカメラで内部スクリーンをストリーミングしていたとのこと。
さらに「Fuzzy Rugs」とは,テスターの保護を意味している。VRゲームのテスト中にはさまざまなハプニングが想定される。テスターがコントローラを落とすことは頻繁に起こるし,Schell Gamesでは前かがみになったテスターが机にVRヘッドマウントディスプレイを強くぶつけて破損してしまったこともあるという。開発者たるもの,テスターにとって十分に安全な環境を作ることを怠ってはいけない,とパットン氏は念を押していた。
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