インタビュー
方言女子,徹底した現地取材,滲み出るテーマ性――初のスマホゲーム開発に臨む広井王子氏が「ソラとウミのアイダ」で挑戦したこと
「ソラウミ」は広島県尾道市を舞台にした,宇宙漁師を目指す6人の少女たちの成長を描くストーリーと,獲物である宇宙魚(モンスター)を釣り上げる爽快なアクションが楽しめる,宇宙魚捕獲アクションゲームだ。原作・総監督を務めたのは,「サクラ大戦」や「天外魔境」など数々の名作シリーズを世に送り出してきた広井王子氏。
本作では,トンデモSFの世界観にも関わらず,尾道市の風情やそこで暮らす人々の営みまでも丁寧に描かれている。実在するお店や観光地を背に,登場人物たちの何気ない自然な会話が繰り広げられるのは「ソラウミ」ならではの魅力といえるが,このアイデアはいかにして生まれたのだろうか。
今回4Gamerでは,原作・総監督を務める広井王子氏にインタビューする機会を得た。プロジェクトの発端はもちろん,世界観,物語,キャラクターの誕生秘話,そして氏が初めて臨んだスマートフォン向けゲームの開発現場に対する想いまで,さまざまな話を聞いてきた。
関連記事:トロ&クロが宇宙イケスに降臨! 「ソラとウミのアイダ」初のコラボイベント開催に合わせて攻略のイロハを紹介します
「ソラとウミのアイダ」公式サイト
「ソラとウミのアイダ」ダウンロードページ
「ソラとウミのアイダ」ダウンロードページ
ロケハンで見えてきた宇宙漁業と尾道市の関係性
本日はよろしくお願いします。「ソラウミ」は昨年の12月に情報が初出しされ,2017年7月にプレス向け発表会が開催,そして9月28日に配信開始となりました。月並みな質問で恐縮ですが,まずは本作の発端についてお聞かせください。
広井王子氏(以下,広井氏):
僕は数年前まで台湾で仕事をしていました。その当時,CGアニメーション制作会社のオーナーから「日本を舞台にした作品が台湾でヒットする」という話を聞いて,漠然と,何かないかなと考えていました。
4Gamer:
そこから世界観の根幹となる宇宙漁業のアイデアが生まれたのですね。
広井氏:
ええ。ただ,最初は宮城県仙台市を舞台に考えていました。タイトルは“ドレミの歌”。主人公の名前がドレミ,宇宙船の名前がウミネコという設定で,友人のイラストレーターにデザインまで作ってもらいました。
そこから仙台市へ取材に行かなきゃな……と思っていた矢先に,友人が広島県尾道市へ遊びに連れて行ってくれたんです。友人から町の人たちをたくさん紹介してもらい,水上飛行機に乗せてもらったりしました。現地の人に話を聞いたり,遊んだりしているうちに,ここを舞台にできないかと,アイデアが固まっていったのです。
4Gamer:
ここで宇宙漁業と尾道市というキーワードがつながったと。
広井氏:
瀬戸内海は波が立たないので,水上飛行機も降りることができるんです。ここでさらにアイデアを閃いて,波が立たなければ水上着陸でいいんだな……であれば,船が宇宙から戻ってくるときにも水上着陸がいいじゃないか! そんなふうに設定も際立ってきました(笑)。
4Gamer:
宇宙漁業を行うのに,じつは立地も含めて最適な場所だったと(笑)。
広井氏:
そうですね。あと尾道市って,とても箱庭的な要素が強い町なんですよ。山があって,そこを電車がグルっと囲っていて,ふもとには町と海……物語や世界観を描くのに必要なさまざまなパーツが揃っていたんです。それと,個人的に大林宣彦監督の尾道三部作(「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」)のファンだったので,ここを舞台にできればいいなぁと。
4Gamer:
実際に尾道の地を巡ってみて,いかがでしたか。
広井氏:
尾道市の市長にもお会いできて,「全面協力します」と背中を押していただきました。これは面白くなりそうだと思っていたのですが,じつはそこから2〜3年経ってしまい……。
4Gamer:
では,具体的にプロジェクトが発足したのは……。
広井氏:
尾道へ取材に行ったのが2011年頃。そこから数年ですので……2014年頃の話ですね。たまたまソニー・インタラクティブエンタテインメントの方と食事をしたときに,宇宙漁業と尾道市の話をしたら,後日「一緒にやりましょう!」と連絡があったのがはじまりです。ただソニーでやるなら……え,コンシューマ機向け? うーん,それはどうだろうなと。そもそも本作はアニメ向けといいますか,メディアミックス作品になり得るコンテンツとして構想を練っていたもので。
4Gamer:
アイデアの時点では,ゲームを始まりとしては考えていなかったわけですね。
広井氏:
そこからフォワードワークス設立の話を聞き,スマートフォン向けゲームのプロジェクトとして本格的に始動しました。ある程度のベースは出来ていたので,ゲームとして実現するために,細かいところをもう一度考え直し,組み立てていきましたね。
4Gamer:
温めていた企画がようやくつながったわけですが,スマートフォン向けに本作を開発すると聞いて,広井さんはどのように感じましたか。
広井氏:
最初は心配でした……いや,今でも心配ですね(笑)。剣と魔法の物語でもないうえに,熾烈なバトルを繰り広げるわけでもない。おそらく若い人たちには受け入れられないのではないかという懸念がありました。
4Gamer:
ターゲットとしても難しいものがあったと。
広井氏:
ありましたね。ただ,スマートフォンの普及率を考えるに,徐々にですが高い年齢層の方たちもスマートフォン向けゲームを始めると思っています。そのなかで,すべてが剣と魔法のファンタジー作品だと,なかなか手に取ってもらえません。僕としては,普通の女の子たちの普通の話を描きたかったんですよ。
4Gamer:
そういう意味ですと,宇宙漁業というSF要素のなかで,尾道市という実在する地域を舞台にしている「ソラウミ」は,うまく差別化が出来ているのかもしれません。そういえば,本作を語るうえで神様の存在も欠かせませんよね。
広井氏:
そうですね。じつは実際の漁師たちは,船に守り神を祀っています。たとえば,「サクラ大戦」の世界においても,舞台の奈落には必ず神様を祀るようにしています。日本人は古来より神に守られながら色々な仕事をしてきたんです。そのため,決して取って付けたようなものではなく,当初から神様を使おうと考えていました。それに,漁師町に行くと,本当に神社が多いんですよ(笑)。
4Gamer:
多いですね。家に神棚を飾る漁師も多いと聞きますし。
広井氏:
必ずありますよね。もしかすると日本人は,どんな物事に対しても最後は神の力を借りる民族なのかもしれません。「ソラウミ」でもさまざまな場面で神様に関するエピソードが出てきますし,そのままゲームシステムとしてもつなげています。
4Gamer:
宇宙漁業という設定も興味深いです。「ソラウミ」の世界では,海から魚が消えて,水産省が宇宙に巨大なイケスを作って魚を育てる「宇宙イケス」がキーポイントとなっていますね。
広井氏:
海に魚がいなくなったら,どうするんだろうと考えたときに,海のなかにイケスを作っても間に合わないのではないかと思いました。そこで,宇宙にイケスを放り投げて,水を固められる特殊な装置で魚を育てることが出来れば……というトンデモSFですが,絵面的にもインパクトがあるのではないかと思いつきました。
ですが,結局のところ人間の力が及ばず,宇宙という環境で魚が大きくなったり,凶暴化したりと,実際のゲームでは色々なモンスター(宇宙魚)が出てきています。
まるでTVドラマや映画の撮影現場!?
尾道市の魅力を表現するためにスタッフが奔走
4Gamer:
本作の世界観はトンデモSF風ですが,物語は現実的ですよね。自然な会話や町並み,人間模様が,ゲームを遊んでいるとスッと入ってきます。
広井氏:
じつは「あまちゃん」や「渡る世間は鬼ばかり」など,TVドラマのような形に出来ないかと思いながら制作しました。
4Gamer:
そう言われてみるとアニメというより,TVドラマのほうがしっくりきますね。本格的にプロジェクトが始まったあとは,尾道市での取材も増えたかと思います。あらためて尾道市の魅力とは,何でしょうか。
広井氏:
純粋なところです。僕は東京っ子なので,田舎というか地方にすごく憧れを抱いています。というのも,何でもかんでも東京中心で考えられることって,よくあるじゃないですか。たとえば,地方創生とか。
4Gamer:
あぁ,なんで“創生”が前提なんだろうと。
広井氏:
そう。本来は東京が生まれ変わるべきなんじゃないのって。尾道市は,本当にのんびり時間が流れています。足りないものもあるかもしれませんが,僕は十分完成されている町だと思っています。
4Gamer:
その世界観はゲームにも反映されていると思います。たとえば,ゲームを遊んでいて気付いたのですが,背景には尾道市の実際の町並みが描かれていますよね。個人的には,そのバリエーションに驚きました。
広井氏:
多いですよ。でもこれが,最初のうちはすごく大変でね。尾道市は全面的に協力してくれていますが,個人の方にも直接交渉するじゃないですか。ここを丁寧にあたらなければならなくて。また,その場面に合わせてシナリオを変更することも多々あって,これらの連携は毎日夜中までメールでやり取りしていましたから。
4Gamer:
ゲームの開発というか……さながらTVドラマや映画の撮影現場ですね(笑)。
広井氏:
そうそう,本当にね(笑)。シナリオを変更する際も,スタッフから「ラーメン屋じゃないです。パン屋なので,パンに関するシナリオでお願いします」とやり取りして,ルビーちゃんがパン好きなので,急遽ルビーイベントに変えようとか……いやぁ,懐かしいな,この話(笑)。
4Gamer:
それだけ精力的な制作現場だったんですね(笑)。ただ,その甲斐あって「ソラウミ」では多彩な場面のなかで物語が展開します。
広井氏:
じつは,このやり方は「北へ。」シリーズ(広井氏が原案・総監修を務めたノベルアドベンチャーゲーム)でも少しやっていました。ただ「北へ。」の場合は,北海道を舞台にしたノベルアドベンチャーゲームのため,「ソラウミ」と比べてちょっとテイストが違いますね。「ソラウミ」の場合は,町が主人公みたいなところがあるので。
4Gamer:
そんな尾道がゲームに与えた影響も,いろいろとありそうですね。
広井氏:
そうですね。たとえば尾道市は,小説家の林芙美子や志賀直哉が居を構えたゆかりの地でもあります。こうした文学的な話もできるので,それらをキャラクターの櫻 舞湖に背負わせて,彼女に語ってもらっているんですよ。
ちなみに,もともと彼女はアメリカ文学が好きなので,「キャッチャー・イン・ザ・ライ(ライ麦畑でつかまえて)」から小説を読み始めているという設定を設けています。若い子にはあの小説から始めるのが一番いいだろうと考えながら取り入れましたね。
4Gamer:
ティーンエイジャーのヒロインたち,ひいては若いユーザーに対する,広井さんの目線あるいはメッセージを感じます。
広井氏:
まあ自分が単純に好きでしたからね。僕も若いときにあそこから小説を読み始めましたし,自分の子供たちにも読ませました。それに年齢が上の人たちがゲームを遊んだときに,すごく懐かしいと感じるんじゃないかと思っています。今の時代に「キャッチャー・イン・ザ・ライ」かよって(笑)。それはそれで話題になればいいかなと。
方言女子たちの驚くべき誕生秘話
広井氏のオーディションに対する想い
4Gamer:
舞湖やルビーの話も出てきたところで,ここからはキャラクターについて聞かせてください。まずは魅力的な6人の女の子たちのプロフィールを見ていきましょう。
4Gamer:
魅力的な6人の女の子たちが登場しますが,驚いたのが彼女たちの方言です。春,波乃,ルビーは標準語ですが,真が京都弁,舞湖が秋田弁,真紀子が熊本弁。コテコテの方言を取り入れるのは当初から決まっていたのでしょうか。
広井氏:
いや,迷いましたね。当初は出来ないかもしれないなと思っていました。というのも,その地域のネイティブな声優さんを探すのが大変。
4Gamer:
登場人物と声優さんの出身地がリンクしているのは,波乃役の立花さん(広島県出身),真紀子役の米野さん(熊本県出身)くらいですよね。
広井氏:
そうですね。ただ,驚いたのが舞湖役のすずきももこさんです。彼女,本当は茨城県出身にも関わらず,オーディションのときに,特技として秋田弁を披露したんです。これが,まあ流暢で本当に驚きました。
4Gamer:
これまた変わった特技ですね(笑)。
広井氏:
どうやら友人が秋田の子で,セリフを喋ってもらって耳コピしたらしいんです。
4Gamer:
なるほど。では,秋田弁をそのまま採用する形に……。
広井氏:
まあ面白いし採用したいけど,ひとりだけ方言というわけにはいかないかなと。もう何人か必要だなと考えたときに,以前テレビのバラエティ番組に方言女子として出演していた,熊本県出身の米野さんを思い出し,オーディションに呼んでみました。そしたら良かったんですよ!
4Gamer:
集まるものですね(笑)。こうして方言キャラクターが生まれたのですね。オーディションを経てキャラクターの設定はその都度変わっていくのでしょうか。
広井氏:
変わりますね。ただ,もともと僕はオーディションがあまり好きじゃなくて。
4Gamer:
それは何故でしょう。
広井氏:
顔を合わせると,落選させるのが申し訳なくなってしまってね。音声のサンプルをもらって,その中からピンときた方をオーディションに呼ぶようにしています。だいたい,ひと役に1〜3人くらい。「サクラ大戦」のときはキャラクターごとに1人ずつ候補を決めましたね。イメージがほぼ確定した段階でオーディションをするという形です。
4Gamer:
オーディションの印象的なエピソードはありますか。
広井氏:
印象的だったのは,ルビー役の井上ほのかさんですね。彼女は,もともと空町春の役でオーディションに参加していたんですが,ちょっとイメージと違っていたので,一度帰ってもらったんです。その後すぐにルビーのオーディションがあったのですが,ふと,井上さんの声を思い出し,ルビーの声にぴったりじゃないかと突然気付いて,電車に乗る寸前のところを急いで呼び戻してもらった(笑)。そこからはもうトントン拍子で決まりましたね。
4Gamer:
ドラマティックな展開があったんですね。
広井氏:
でも,これがモノづくりの醍醐味ですよね。自分たちが考えていたものから,予想外にはみ出していくところが本当に面白い。
4Gamer:
井上さん演じるルビー・安曇も魅力的なキャラクターですよね。海外出身でちょっと変わった言い回しの日本語が特徴で,「楽しい」を「らくしい」と読んだり。
広井氏:
現場で井上さんの収録を聞いていたスタッフからの提案で,そのまま採用したものですね。
4Gamer:
ああ,そうだったんですか(笑)。広井さんは声優さんのアドリブもそのまま活かして収録することが多いんですか。
広井氏:
全然拾いますよ。実際の会話でも言い淀んだり,つっかえたりすると思いますけど,そういうのがリアルで面白いんですよ。もちろん録り直しもしますが,あえてミスしたテイクを使うこともあります。そのほうが,自然で魅力的な演技だったりするんです。
4Gamer:
「ソラウミ」のキャラクターはフルボイスですが,アニメっぽくないというか,もっと普段の会話に近いような感じがします。
広井氏:
そうですね。あと,楽屋での声優さんの他愛もない会話が面白くてね。春とルビーに置き換えて聞いていると,なんて緩くて面白いんだろうと(笑)。きっとここに波乃が居たらツッコミを入れるだろうなと考えてしまって,現場でシナリオを書き換えることもありました。
4Gamer:
収録現場はもちろんですが,声優さんの何気ない会話も含めて,キャラクターに反映されていくこともあるのですね。「現場は生き物」と言われているのも分かります。
広井氏:
生き物です。台本の段階ではまだキャラクターに命が入っていない。声優さん,スタッフの手が入って初めて,命が生まれてくるものです。でも,そのあとは僕も含めてシナリオライターが大変ですよ。今度は現場で生まれたキャラクターの特徴を意識しながら,シナリオを書かなきゃならないので。
4Gamer:
今度は広井さんたちがキャラクターに合わせていくのですね。
広井氏:
そうです。今度は僕たちが寄り添ってシナリオを書くので,ここからが大変です(笑)。
4Gamer:
原作者,監督,プロデューサーと呼ばれる人たちは,確固たる設定のもと「こういう風に演じて!」と決めて臨むものだと思っていました。声優さんが新たに生み出した魅力を,スタッフの皆さんが良い形につなぎ合わせていくものなんですね。
広井氏:
はい。そう思っていただけたなら嬉しいです。
「ソラとウミのアイダ」――
タイトルから滲み出るテーマ性
ここまでお話を聞いていると,「ソラウミ」には色々な人の想いが紡がれて生まれたんだなぁと感じます。広井さんは「ソラウミ」に対して,当初から表現したいテーマがあったのでしょうか。
広井氏:
そもそも,モノづくりにおいて最初はテーマってないんですよね。
4Gamer:
と,いいますと。
広井氏:
テーマは,削り出して,浮かび上がらせるものなんですよ。
4Gamer:
あぁ!
広井氏:
世界観やキャラクターなどのパーツはあります。それらをみんなで作っていくと,次第にテーマが浮かび上がります。これで,浮かび上がらない作品は,言わば失敗作です。「ソラウミ」は面白いパーツを揃えて配置しているので,それが最後まで彫り上げられるかどうか,今まさに戦っている段階です。
4Gamer:
現時点で何かテーマは見えてきましたか。
広井氏:
少しずつですが。そのひとつが「ソラとウミのアイダ」というタイトルです。漢字に直すと“空と海の間”になりますが,間の部分を“愛だ”と捉えることもできます。空と海との間には人が生きていて,そのなかに愛があるのではないだろうか。その愛が見つかるかどうかが,テーマを浮かび上がらせるポイントなんじゃないかと考えています。
4Gamer:
皆さんで突き詰めていくと,意図していないところで自然にテーマが浮かび上がってくると。それが「ソラウミ」の初めて出てくるテーマになるのですね。
広井氏:
はい。ただ,それは僕たちだけが作り上げるものでは決してありません。サービスも開始しており,言わば半分はお客さんに渡していますので,そこから色々な意見や感想などをいただき,また昇華させていくものです。
4Gamer:
プレイヤーと共に紡いで生まれる「ソラウミ」のテーマ。それが明確に浮かび上がる瞬間を,私も1人のプレイヤーとして楽しみにしています。
広井氏:
ありがとうございます。
4Gamer:
そういえば,「ソラウミ」の会話パートは,プレイヤーがリアクションを選択するタイミングが多い上,選択時間に制限が設けられているのは,スマートフォン向けのゲームでは珍しいと思います。
広井氏:
キャラクターとの会話をよりリアルに楽しんでもらえるようにしています。けれども僕としてはラジオドラマを意識して脚本を作っています。オートモードで会話を流し聴いても違和感なく楽しんでいただけるはずです。
4Gamer:
なるほど。だから時間制限を設けて,第3の選択肢として話が進むようになっているのですね。
広井氏:
はい。第3の選択肢は,無言です。放置しておいても物語が進みますし,無言ならではのリアクションもあります。
4Gamer:
選択肢はふたつありますが,個人的にもう一方の文言が面白いです。なんというか,どこか意地悪かつ突拍子もない発言で(笑)。
広井氏:
バカバカしいですよね(笑)。これ選んだら女の子はどんな反応するんだろうと,お客さんにクスっと笑ってもらうために取り入れました。
4Gamer:
どのリアクションでも好感度には影響しないのでしょうか。
広井氏:
関係ないです。ここに好感度を持たせてしまうと,結局のところ,どの選択肢が最も好感度が上げられるのかと,会話を楽しむものではなく,記号化してしまう恐れがありました。なので,純粋に自然な会話を楽しんでもらうと好感度は設けていません。
それに実際の会話でも,成功か失敗かなんて誰にも分からないじゃないですか。人との付き合いのなかで,そんなふうに思わなくていいのではないかと「ソラウミ」では考えたのです。
出てきた課題点は改修を進めている
★1守護神の新たな展開も検討
リリースから1か月経ちましたが,プレイヤーからの反響はいかがですか。
広井氏:
多くの方に楽しんでいただけているようですが,まだまだ行き届いていない点があることも事実です。
たとえば,バトルパートに登場する宇宙魚は,有効打撃を与えると部位破壊が出来るのですが,それが分かりにくいという声は届いています。思えばマークが少し小さかったのかもしれません。僕も含めて,きちんとそこの遊び方を詰められなかったのは反省点です。もっと分かりやすく,使いやすくなるように,すでに改修を進めています。
4Gamer:
少しずつですが課題も出てきているのですね。ただ同時に迅速な改修も進めていると。
広井氏:
はい。もうひとつ盲点だったのが,守護神のことです。本来は,6人の候補生たちの育成がメインになるかと思いきや,多くのお客さんは守護神の育成に集中しています。それもそのはずですよね,バトルの攻略に直接的に関係するのは守護神ですから。
ただ,僕たちの想定を超えていたのは,皆さん守護神に対して愛着を感じていることです。守護神がバトルの単なる構成要素としてではなく,きちんとキャラクターとして捉えられている。色々な追加要素を考えなければならなかったのですが,僕のなかでは守護神が記号になっていたのかもしれません。
4Gamer:
候補生に愛着を持つのは当然だと思いますが,守護神はどこかバトルで使用する装備品になっていたところがあったと。でも実際は,守護神に対してプレイヤーは並々ならぬ愛着を持っていたところが,広井さんにとって新しい気付きになったのですね。
広井氏:
そうです。本当にお客さんに気付かせてもらいました。パッケージゲームであれば,もう少し違うやり方で出来たかもしれませんが,スマートフォン向けだったからなのか,そこまで考えが至らなかったのは反省点であり,今後の課題です。とはいえ,すでに会議を進めており,守護神にちなんだ新しいアイデアは出ている状態です。
4Gamer:
たとえば,どういうものでしょうか。
広井氏:
★1専用のイケス(ステージ)はどうしても作りたいですね。
4Gamer:
★1の守護神となると,なかなかバトルでは活躍出来ないような……。
広井氏:
いわゆる,ほかのゲームでいうところの“(強化)素材”ですよね。でも,★1の守護神たちって,民間伝承や地域の神様なので,本意の神様でもないんですよ。どこか格下に見られているけれども,きちんと人間の役には立っている。そんな小さな神様が一生懸命素材集めをして,本位の神様を成長させるのは,ゲームとはいえ,悲しいドラマですよね。
4Gamer:
おっしゃるとおりです。
広井氏:
だから,レアリティの低い守護神ならではの活躍ができる,何か特別なイケスが必要だと思うんです。素材集めも出来て,候補生用の衣装なども手に入れることが出来れば,ゲームシステムも広がり,お客さんの守護神たちへの愛にもっと応えられるのではないかと考えています。
4Gamer:
基本的にスマートフォン向けゲームでは,強いキャラクターばかりが使用され,ほかのレアリティが低いキャラクターは素材として使い捨てにされてしまう。そういったゲームシステムに広井さんは懐疑的だったのですね。
広井氏:
はい。おかしいと思っていました。
4Gamer:
「ソラウミ」では,専用のアイテムを使用することで守護神を強化できるようになっています。よくある合成システムを採用していないのも世界観を尊重しているからですね。
広井氏:
ええ。神様同士を合成するのはありえないです。これをやると,まるで神殺しの話になってしまいます。皆さんの声を聞いて,僕らのほうで改修できるところは改修し,さらにアイデアを膨らませながら仕掛けていければと思っています。
4Gamer:
では,今後の展望についてもお伺いします。現在(2017年10月時点)メインストーリーは10話まで公開されていますが,これからどのような展開になっていくのでしょうか。
広井氏:
じつは,もう50話まで出来上がっています。
4Gamer:
50話ですか! スマートフォン向けゲームのような運営型のゲームは,サービス終了までずっと物語が続くようになります。パッケージ型のゲームと大きく異なるところですが,どこかで一区切りをつけるタイミングなどはあるのでしょうか。
広井氏:
どう展開していくは話せませんが,どこかで一区切りということを考えれば,春たちはいま宇宙漁師“候補生”ですが,正規の漁師として合格となれば,それが節目になるかもしれません。また,候補生はつねに募集しているため,新キャラクターの登場などもありえるかと思います。尾道市にはお祭りなどもあるため,季節にちなんだ風景なども積極的に取り入れていきたいと思っています。
4Gamer:
実在の町を舞台にしているので,季節イベントとの連動は注目されそうですね。
広井氏:
そうですね。今回のプロジェクトは,フォワードワークス側も含めて,尾道市をすごく大事にしているんですよ。たとえば,尾道市が「ソラウミ」に関するクリエイティブを使用することがあれば,私たちは完全フリーで提供します。
4Gamer:
「一緒に作りましょう」という感覚なのですね。
広井氏:
はい。双方で協力して,歩み寄れば,自然と先ほど話したような連動企画も生まれたり,ゲーム側にも新しいアイデアが生まれたりするものです。そこで初めて地方と手が組めるものだと思います。ちなみに現在,フォワードワークスのスタッフと相談して,誰かを尾道市に常駐させようかという話が出てきています(笑)。
4Gamer:
現地とのコンセンサスは取れそうですが,かなり本格的ですね(笑)。「ソラウミ」は広井さんにとって初めてのスマートフォン向けゲームタイトルですが,リリースまでとおしていかがでしたか。
広井氏:
いやぁ,本当に大変でしたね。とくにリリースしてからは,お客さんの声を聞きながら即座に悪いところを改修しなければならないので,スピード感が求められるところがあります。
あと,正直に言うとスタッフ同士のコミュニケーションギャップはあったかもしれません。コミュニケーションが取れているつもりで,どこかですれ違いが生じているなど。
4Gamer:
なるほど。
広井氏:
ソーシャルゲームが流行りだしたときには,ゲーム企業以外のWeb系の人たちが増えたじゃないですか。なんというか,「東京ゲームショウ」に行っても知らない顔ばかりになっているみたいな。でも最近では,かつてのクリエイターたちが戻ってきて,色々なところで懐かしい顔ぶれに出会うことが多くなりました。もちろん,若い運営側の人たちも本当に優秀な方が増えてきましたよね。
4Gamer:
時代の移り変わりで現場も様変わりしているのですね。
広井氏:
僕も歩み寄るようにして,24時間対応できるように心掛けています。
4Gamer:
大変ではないですか(笑)。
広井氏:
いえいえ。スマホも枕元に置いてあり,シナリオの修正など即座に対応できるようにしています。ひとりブラック企業のようですが,もうそれが楽しくて仕方がないのです(笑)!
4Gamer:
広井さんは本当に根っからのクリエイターなんですね。
はい,なんて楽しんだろうと――。もともと僕は運営型のサービスに向いているのかもしれない。たとえば,舞台「サクラ大戦」のときは,毎日少しずつ内容を変えていましたから。そういう意味では,舞台とスマートフォン向けゲームの開発は似ているのかもしれません。
4Gamer:
ひとつの舞台劇を作っている感覚に近いと。
広井氏:
舞台も素材が決まっていますからね。予算や作れる道具,役者の数,そのなかで取り組むのですから……本当によく似ていますよ。
4Gamer:
では,最後に「ソラウミ」ファンはもちろん,これから遊ぶ方々に向けてメッセージをお願いします。
広井氏:
スマホゲームの開発が初めてということもあり,リリース開始後は不備などもあって申し訳ありませんでした。寄せられるご意見についてはきちんと目を通し,真摯に対応していきます。現在「ソラウミ」では,クオリティを上げるために,さまざまな改修を進めています。迅速に対応していきますので,もう少し長い目で見ていてください。よろしくお願いします。
4Gamer:
本日は貴重なお話をありがとうございました。
「ソラとウミのアイダ」公式サイト
「ソラとウミのアイダ」ダウンロードページ
「ソラとウミのアイダ」ダウンロードページ
キーワード
(C)ForwardWorks Corporation
(C)ForwardWorks Corporation
(C)ForwardWorks Corporation