インタビュー
「エースコンバット7」の“攻めた”要素はなぜ生まれたのか。河野一聡氏&下元 学氏に開発の裏側を聞いた
筆者としても大絶賛なものの,本作で果たされた“空の革新”に関しては賛否両論の意見を多く目にするうえ,筆者自身も「評価が難しいタイトル」ではあると捉えている。本作は“攻めた”設計思想で作られており,言うなれば「エースコンバットのビッグウェーブ」的なタイトルなのだ。
サーフィンはビッグウェーブなほど面白いが,誰もがビッグウェーブに乗れるわけではない。
本作の評価は,このビッグウェーブに乗れたか乗れなかったかで二分されており,「中庸的かつ客観的な視点」が持ちにくく,レビューすることが難しい。ということで,エースコンバットシリーズのブランドディレクターである河野一聡氏と,「ACE7」のプロデューサーを務める下元 学氏に,制作の裏側などを聞いてみた。
なお,「ACE7」のネタバレにはならないように直接的な表現は避けているが,今回のインタビューの主旨としてゲームプレイやストーリーの展開に言及している。その点はご理解いただきたい。
「エースコンバット7 スカイズ・アンノウン」公式サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
今回,詳しく掘り下げたいのは賛否両論な部分なのですが,まずはストレートに“攻めた”部分として,「空の美しさ」について聞かせてください。今回の「空の美しさ」は,個人的には絵画の中を飛んでいるかのような気分になったほどでしたが,あの情景はどのように作られたのでしょうか。
下元 学氏(以下,下元氏):
今回,あの世界を実際の惑星として捉えて,緯度経度を設定しました。それをもとに「この季節だと太陽の向きや高さはここ」……と割り出して,空気の設定を含めた物理演算を行うと,あの“空の表情”になるんです。逆に,今までのタイトルでは望む色をパレットから持ってきて落とし込めたんですけど,今回は調整が困難でした。
河野一聡氏(以下,河野氏):
例えば「空を赤くしたい」と思っても,どのように太陽の位置や空気による光の拡散率を設定すればいいのか,探らなければいけなかったんです。意図した色を出すのが難しいので,エースコンバットの開発で恒例の「空を作る日」が,今回は無いと思っていたんですが……。
下元氏:
あったんです(笑)。
4Gamer:
「空を作る日」というのは,具体的にはどのようなことをされるのでしょう。
河野氏:
アートディレクターである菅野昌人の横に僕がついて,空の色を一日中調整します。
下元氏:
当人は「今回は無いだろう」と思っていたそうなんですけれども,僕が「空を作る日」を設けました。その一日は,開発スタッフ達が遠巻きにしているんですよ(笑)。2人とも独自の感性を持っていますから,そこに巻き込まれると大変なことになるわけです。
僕も2人から離れたところで作業をしていたんですけど呼び出されて。嫌な予感を覚えつつ行ったら,画面に2つの空が映し出されていて。そして河野に「こっちが俺の空で,そっちが菅野の空だけど,どっちを取る?」と聞かれて……普通,どっちが誰のものかって先に言わないですよね(笑)。
河野氏:
上司を取るか,仲間を取るか(笑)。
下元氏:
他のスタッフは「また始まったよ……(笑)」みたいな感じで遠くから眺めていて,僕にとっては地獄の一日でした。そういえば,あのときもいろいろ話しましたが,何を基準にして色の提案をしていたんですか?
河野氏:
「空の色に感動する」まで。だから意見が割れると,下元を呼んで「お前はどっちが感動する?」って聞くんだ。
4Gamer:
詳細は失念してしまいましたが,何かの記事でも“鳥肌が立つまで”だったか,「感動するまで作り込む」といった旨を河野さんが述べられているのを拝見しました。
河野氏:
基本的にはそれです。空も音楽も演出も,すべて自分の「鳥肌が立つかどうか」で判断するので,そうでないものはやり直しになって……基準値が見えないから,開発が酷い目にあう(笑)。
4Gamer:
ビジュアル面は,汚しの色合いが「ACE COMBAT ASSAULT HORIZON」(PS3 / Xbox 360 以下,ACAH)における“爆煙やオイルの黒”から,本作では“着氷と乱反射の白”へと,大きく方向性を変えてきたのも印象的です。
河野氏:
まず,ゲーム起動時のACESロゴを毎回僕が作らされるという……酷い開発システムがあるんですが。
下元氏:
ACESロゴは縁起物なので,必ず河野が作るんです(笑)。
河野氏:
あれは「今回はどの方向を向いているのか」という指針でもあるんです。「ACAH」では,鉄錆の雰囲気と崩れたロゴといったイメージで作りました。「ACE7」では雲をテーマにするというのがあったので,雲の中にロゴがあって,光が差し込みつつ水滴が着いているというイメージですね。あれにゲームの向かうべきビジュアルのイメージを集約させているので,エースコンバットに携わって長いスタッフは,ACESロゴのデザインが決まった時点で「今回はそっち方面」ということを読み取って,制作を進めてくれます。
4Gamer:
ところでビジュアル的な部分に関して,ちょっとしたネットミームになったJPEG Dogが気になるのですが……モデルになったワンちゃんがいるということは,やはり写真を取り込んだものなのでしょうか。
河野氏:
写真取り込みではなく動画取り込みです。ただ,非常にお利口な子で,「動くな」って言うとまったく動かなくて,もとの動画でもお腹の部分が呼吸で動いているくらいでした。
下元氏:
微動だにしないんですよね。でも糸見さん(※)が「取り込んだ」と言っていたので,多少は動いているはずです。
※ナラティブディレクターの糸見功輔氏。
河野氏:
ああ,糸見に「ファイル形式,なに?」って聞いたら「JPEGじゃないです」って言ってたね(笑)。
下元氏:
僕が「JPEGなわけないだろ。なにバカなことを聞いてるんだ」って糸見さんに怒られましたよ(笑)。
4Gamer:
シナリオについては,これまでのエースコンバットはスタンドアロンで完結するようなものでしたが,今回は旧作の要素がたびたび登場するので,シリーズファンとしては,まずここが“攻めた”スタンスだと感じられました。
河野氏:
「ACE7」もスタンドアロンで完結しているつもりなんですけどね(笑)。
下元氏:
「ケストレルII」とか「ハーリング元大統領」とか,過去作に出た単語がよく出てくるということですよね。今回は,オーシア対エルジアというシリーズのプレイヤーにも印象深い2つの国の戦いですので,「出てこないとおかしい」ような単語は出すようにしています。ただ,物語としては「ACE7」というひとつの世界で完結させました。
河野氏:
ハーリング以外は全員が新規登場キャラですから。
下元氏:
あと,過去作のキャラクターなのは最後にやってくる“彼女”くらいですね。
河野氏:
“彼女”も,軌道エレベータの目的を象徴するために出しただけで。ただ,プレイヤーによって受け取り方の温度差が出てしまうのはしょうがないですよね。一作で完結することから逃げるわけじゃないですが,「ACE7」をプレイして過去の出来事に興味を持って,歴史を紐解いていくのも,エースコンバットというエンターテイメントの楽しみ方の一部と捉えていいのかな……と思うようになってきました。僕自身がそういう楽しみ方をしたコンテンツもありますし。
4Gamer:
過去のことはもちろんながら,時系列的には未来の「エースコンバット3 エレクトロ・スフィア」(以下,ACE3)も意識した描写がいくつかありますよね。ドクター・シュローデルのセリフに名前が出てくるマーサとか,演出的には“connect”とか……。
河野氏:
それは下元のせい(笑)。
下元氏:
今回,シリーズを今まで支えてくださったお客様に喜んでもらいたいという思いで,今までのエースコンバットのつながりを明らかにすることにしました。どこまでストレンジリアル世界として取り入れるかを開発陣と相談するなかで,独特な立ち位置の「ACE3」も組み込むことが,長年のファンに喜んでもらえる結果になるんじゃないかという話になったんです。マーサもそうですが,初回限定生産版に含まれる「Aces at War A HISTORY 2019」を見ていただくと,ちょっとした発見があったりすると思います(笑)。
ストライダー隊のイェーガーもね。
下元氏:
「帰って息子に自慢するとしよう」とか言っている彼も,「ACE3」へつなげた部分です。
河野氏:
ただ「ACE3」につなげたせいで,えらい目に合いましたよ。片渕監督(※)に「マーサは何者か」とか説明しなきゃならないわけです。
※脚本を担当した片渕須直氏。エースコンバットシリーズは「ACE7」のほか,「エースコンバット5 ジ・アンサング・ウォー」「エースコンバット04 シャッタードスカイ」に携わった。代表作は映画「この世界の片隅に」(監督・脚本)やアニメ版「BLACK LAGOON」(監督・シリーズ構成・脚本)など。
下元氏:
登場人物の設定が噛み合わない部分が出てきて,皆で頭を悩ませたりもしました。
4Gamer:
片渕監督が関わってないタイトルについて,どのように擦り合わせていったのかは個人的に気になります。最後の“彼女”のセリフが,UGSFシリーズ的なギャラクシアン(※)の理念じゃないかと思って驚いたりもしたのですが。
※UGSFシリーズは,「ACE3」や「ギャラガ」,「スターブレード」などの一部バンダイナムコタイトルが,共有するバックボーンに基づいて体系化されたもの。ギャラクシアンという単語は,同シリーズにおける宇宙進出時代の人類(銀河系人類)を指す。
下元氏:
片渕監督はギャラクシアンに関しては知らないはずです。僕がつなげたのも「ACE3」までなので……お客様が“その先”まで気持ちをつなげているのは,何となく知ってはいるんですけど(笑)。
河野氏:
あくまでエースコンバット公式としてのつながりは「ACE3」までで,UGSFの「ACE3」はまた別の話なんだよね。“彼女”については,もともと片淵監督との話の中で「宇宙飛行士になりたい」と言っていたりもしましたし。
下元氏:
「Aces at War A HISTORY 2019」には,そのあたりが語られた片渕監督による小説も入ってますので,見ていただければと思います。
河野氏:
「ACE3」をつないだだけでもあれだけ大変だったのに,UGSFまでつないだら何重苦になるんだろう(笑)。
4Gamer:
改めてシナリオの話なのですが,今回はジェットコースター的にシチュエーションを重ねていく構造ではなく,虚実入り混じった複雑な状況をプレイヤーの読解に任せるような形で,これもまた“攻めた”部分だと感じられました。
河野氏:
……最近,自分でも分かんなくなって来たんだよね。
下元氏:
まさに“ハーリングの鏡”(※)ですよ。
※「ACE7」のストーリーにおけるキーワード。簡単に表すと「視点によって解釈が異なる」の意。
河野氏:
最初はシンプルな話だった気がするんですけどね。ファミレスでやった会議では,世界地図があって,雲をテーマにします,オーシア対エルジアです……ってのはあったかな。おぼろげながら「有人機の落日,無人機の台頭」という話もあったけど,それが具体的になったのは片渕監督と話し始めてからで。そこが固まっても「物語の中心とすべきものが何か分からない」と片渕監督が悩んでいて,そこから出たのが“ハーリングの鏡”でした。
下元氏:
視点によって解釈が異なることで混乱が生じるという劇中のテーマが決まってからは,ストーリー自体も「視点によって解釈が異なる」という作り方になっていきましたね。そして今,お客様が「ACE7」自体に,いろいろな捉え方を見出してくれていて。
河野氏:
不思議な話だよね。片渕監督は最初からすべて計算づくで,僕らは手のひらで踊らされているのかも知れない(笑)。
4Gamer:
「ACE7」は従来作以上に,プレイヤーの解釈がぶつかりあっている雰囲気は強いですね。たとえば,コゼット王女の生死に関しても……。実際のところ,あの説はどうなんでしょう。
河野氏:
ご想像にお任せします(笑)。
下元氏:
Webでいろいろな説は見ているのですが,河野とは「僕らから答えは出さない」と誓っているんです。お客様の楽しみって,そういう考えを巡らせるところにもあると思っているので。
河野氏:
それもまた“ハーリングの鏡”だね。映画でも,受け取る人に「実はこうなんじゃないか」みたいな解釈を委ねて,それゆえ心に残るって名作は昔からたくさんあるじゃないですか。「ACE7」は発売した時点で僕らのものでなく,お客様のものになっているので,どう解釈するのかはお客様の自由だと思っています。
下元氏:
考える“伸び代”があるゲームで良かったと思っています。
4Gamer:
伸び代と言えば,今回は今までのエースコンバットでは見られなかったファンの盛り上がり方も見られますね……フギムニ(※)という。
※「ACE7」に登場する架空無人機・フギン&ムニンの略称。主にエースコンバット登場兵器の擬人化を楽しむファンコミュニティで使われている。
河野氏:
擬人化は想定してなかった(笑)。
下元氏:
まったくアレは予想外です(笑)。
河野氏:
僕の中ではドラゴンだったからなあ。開発時,サウンドのスタッフから「フギンとムニンの声ってどんなのですか?」と聞かれて,擬音で「ギャッギョー!!」とか書いて伝えたりしました。ただスタッフには「分かんないです!」って言われて,最初に上がってきたのも「スター・ウォーズ」のR2-D2みたいな「ピキョピキョー」という音でした。それで「違う,ドラゴンなんだ! ゴジラなんだ!」と言ったわけですが。
下元氏:
その次は本当にドラゴンみたいなのが上がってきて,また「違う!!」っていう(笑)。
河野氏:
フギンとムニンの名前を出したのは,完全に僕の思いつきだったんですよ。何かの資料を見て,「フギンとムニンってちょうどAIじゃん!」と思って。
4Gamer:
フギンとムニンは,オーディンの“記憶と思考”を現す存在ですからね。
河野氏:
そういう中二っぽい考えが,擬人化を生み出したのかもしれない(笑)。先日もTwitterで「有人→無人→擬人→???」という話をしたのですが,「次は獣人じゃないか?」とか言ってます。猫耳付きがいっぱい出てくる。
下元氏:
それは……ギブアップしていいですか?(笑)
河野氏:
ともかく,ユーザーの皆さんがクリエイターを上回る典型的な例だと思っていますよ。
4Gamer:
次にゲームの設計についてうかがいたいと思います。キャンペーンの前にマルチプレイについてなのですが,以前に多彩さがウリの「ACE COMBAT INFINITY」(以下,ACEINF)があっただけに,今回はストレートな空戦で“攻めた”形になっていますね。
下元氏:
今回は“空の革新”ということで,ポストストールマニューバ(※)など,駆け引きの要素を進化させました。それをダイレクトに味わってもらうには「エースパイロット同士のPvP」にしたらどうだろうというのが,初期の段階でありましたね。
※失速下機動。ゲーム中では一部の機体で可能な,ごく低速の状況における特殊な機動。
河野氏:
そもそも「ACEINF」とナンバリングタイトルでは,コンセプトが違うんです。「ACEINF」当時は「ACE7」のような空をまだ作れなかったこともあり,「お客様同士が交流する場を作りたい」というコンセプトからスタートして,皆さんがどれだけ個性を出せるかというのを,プレイのバリエーションを増やすことで探っていきました。
「ACE7」はゲームとしての進化を目指して,どうにか及第点は取れたかなと思っています。フィールドやカスタマイズ要素を増やしていくことはできるんですけど,大元が弱いとどうしても上乗せは厳しくなってきますから。
下元氏:
もちろん“全部載せ”ができれば,それは僕らにとってもお客様にとっても嬉しいことだとは思うのですが,リソースは有限なので。今回はPvPというコンセプトと,その中で可能な組み合わせを用意して,次へ向かうためにお客様の反応を見させてもらっています。
河野氏:
「それ以前とは空の感触が全然違います」というマイルストーンを「ACE7」でシリーズに置かなかったら,変数の倍掛け(選択要素を増やすことによるバリエーションの増加)ばかりが進んで新しいものを作れなくなるという,ゲーム開発にありがちな結末もあったと思います。逆に言うと,“空の革新”を実現できた「ACE7」から,変数の倍掛けをしていくことはできると思うんです。
4Gamer:
この“空の革新”が飛び抜けて“攻めた”部分だと思いますが,新規プレイヤーにとってのハードルが上がっていたり,旧作プレイヤーでも忌避感を覚えていたり,必然的ではあるもののマイナスな反応が見受けられます。開発時,そこに恐れなどは無かったのでしょうか。
下元氏:
「恐れ」は無かったですね。
河野氏:
ゲームシステムを進化させるにあたって,次にやれることが“空の革新”だということもありました。そもそもエースコンバットは,どこまで行っても「パイロットの模倣体験をするフライトシューティングゲーム」です。旧ナムコの“遊びの定義”という概念のひとつに「模倣」というのがありまして,それに基づいた“パイロットごっこ”なんですよ。
チャフやフレア,ポストストールマニューバなど,「実際のパイロットがやること」をシステムとして取り込むことはできるのですが,「実際のパイロットがやらないこと」を取り込むのは,あまりよろしくない。パワーアップとか必殺技ゲージとか,そういったものを取り込むのが難しいタイトルなんです。かと言って“パイロットごっこ”以上のシミュレータ寄りになったら,「エースコンバットの良さ」がスポイルされてしまう。だからゲームとして発展するには,次にフィールドを変えていくしかない。
下元氏:
エースコンバットという遊びは,ある意味では完成形に近いところまで来ているわけです。
河野氏:
空をきちんと再現することで,「エースコンバットの良さ」は保ちつつ,これまでになかった手触り,感触が生まれる。もちろん,それがプレイヤーにとってのマイナス要因になりうることは分かっていて,スタッフにはリスクとリターンの匙加減を再三注意しました。
ただ「ACE7」は基本的にファンへ訴求していく方向性で作っていたので,新規層の方々が大量に入ってきたことが予想外でした。新規プレイヤーの皆様に向けて誠実に言うなら,まずはEASYで,いやVERY EASYを作っておくべきだった……でもEASYって名前をつけると選ばれにくいんですよ(笑)。
下元氏:
ゲーマーとしてベテランな人だと,EASYモードがあっても選ばないんですよね。ただエースコンバットは珍しいジャンルのゲームなので,いきなりプレイするとなかなか……。新規プレイヤーが入ったことはブランドとして喜ばしいことですし,望んでいたことでもあるんですけれども,それが思っていた以上だったので,もう少しお客様とのコミュニケーションは必要だったかな……と思っています。
河野氏:
エースコンバットはあくまでシューティングゲームなので,機体を選んで,パーツで強化して,局面に合った特殊兵装を選んで,数回は失敗して,試行錯誤を重ねながら攻略していく,という前提なんです。
下元氏:
自分と向き合いながら課題を乗り越えていくことで,プレイヤー自身がエースパイロットとして成長していくというのがエースコンバットシリーズの特徴ですから。
河野氏:
ただ,思っていたよりも今は手軽さとスピードを求められている時代なのかもしれないとは感じています。ちょうど今朝,「手軽さと歯応えをゲームシステム側でプレイヤーに合わせてあげる」っていうのは次世代の仕組みなんじゃないかって話をしていたんですよ。もちろん,すべてのお客様が同じレベルデザインで楽しめるというのが理想なんですが,AIとかビッグデータとかを使ってプレイヤーが求める最適な形のレベルデザインを作り,最適化された最良な体験を生み出すのもアリなのかな,と。
下元氏:
難度をEASY/NORMAL/HARD/ACEっていう1軸じゃなくて,もっと軸の多い平面か立体で構成して,お客様に合わせたゲームの体験を提供するという想定です。
河野氏:
パーソナライズだよね。いろんなメディアやガジェットもパーソナライズに向かっているから,ゲームデザインもそういう時期に来てるのかなって。
4Gamer:
個人的には「より苛烈な激戦を!」といった嗜好なので,「エースコンバット3D クロスランブル」(以下,ACE3D)で「もっと従来作みたいに素直に敵を追わせてくれたら!」(※)と思ったりもしました。
※「ACE3D」では,敵機を追撃すると溜まるゲージを消費して敵機の背後を取るアクションマニューバを発動でき,その活用を前提としたバランス調整となっている。
河野氏:
「ACE3D」の方は「新規プレイヤーに手軽なドッグファイトを楽しんでもらう」というコンセプトがあり,ナンバリングでもないので「それでいいんじゃない?」といった話を開発担当としていました。ゲーム自体も,よく出来ていると思います。
実は最初,開発陣から「ACE7」に「ACE3D」のゲージやアクションマニューバを採用させて欲しいという話があったんです。でもナンバリングタイトルは“パイロットごっこ”なので,ゲーム的なシステムに逃げてはいけないと却下しました。ポストストールマニューバも「すべてのプレイヤーが体験できなかったら意味がないからコマンド入力にしたい」という意見はあったのですが,これも「機体とパイロットの技量があってこそできることだから,初心者ができなくても全然構わない」という話をして,現在の形にしています。
4Gamer:
エースコンバットブランドの中でも,タイトルごとのコンセプトは結構な差があるんですね。
河野氏:
ポストストールマニューバと言えば,僕らの想像を超えた無茶苦茶な使い方をされているんですよ。実戦でオーバーシュート(※)させている人もいるし!
※後方から敵機に追撃されている状況で急減速することによる,位置関係の置き換え。
下元氏:
クルビット(※)からの後ろ向きノールックEML(電磁レールガン)発射なんていうのも行われていますからね。僕らは出演した生放送番組で,よく「ポストストールマニューバはロマンです。これを使っても強くなるわけではありません」と言ってきたのですが,僕らの想定をはるかに上回る技量の持ち主が次々と出てきていて(笑)。
※進行方向および高度を大きく変えないまま縦方向に一回転する機動。
河野氏:
だいたいロマンで片付けるよね。「複座の後ろに乗っているのはだれですか?」「ロマンです!」みたいな(笑)。
4Gamer:
ファンの間でたびたび話題になるあの人影,ロマンなんですか(笑)!
河野氏:
後席には夢とロマンが乗っています(笑)。
4Gamer:
ところで難度について,今回はタイムボーナスの概念があるため,難度ACEのSランクは「本当に巧くないと取れない」ものになりましたね。
河野氏:
これも「試行錯誤を重ねながら攻略していく」という話と一緒なんですよ。その一方で,Twitterでは「ACEでも物足りないから,もっと上のレベルが欲しい」みたいなリプライが来て……「お前はエースパイロットではない! エースを超えちゃってる!」って返したんですけど(笑)。
4Gamer:
過去に「エースコンバット6 解放への戦火」で,超難度の「ACE OF ACES」モードを追加するDLCがありましたからね……実際,私も超難度モードは割と欲しいのですが。
下元氏:
激辛料理と似たような感じになっちゃっているんですよね(笑)。行っちゃう人は,とことん行ってしまうという。
河野氏:
お客様のニーズにできる限り応えようとすると,激甘から激辛まで用意しなきゃいけないから,しんどいですよ。シリーズをずっとやってくれている人は,Mission 1で「よく来たな新人!」みたいなことを言われても,最初から敵機AIの最高ランクを超えていたりもしますし(笑)。
やっぱり,難度は幅が要るんですよ。「俺は絶対にF-4しか使わない! 強化パーツも着けない!」みたいな方もいて,そういったスタイルに対してはハードルが高すぎたりもしますからね。
4Gamer:
だいぶ違う話になりますが,ニーズというところでは「キャンペーンモードをVRで遊びたい」という声はあるかと思います。そういった方向性はいかがでしょう。
河野氏:
難しいんですよね。実はちょっと試したんですよ。キャンペーンモードの一部ミッションをVRにしてみて,PS4 Proでもガクガクなフレームレートだったものの,ミッションを体験することは一応できました。ただ,何が起こっているかが分からなくなってしまいましたね。
下元氏:
三人称視点のシーンをVRで描かれると,状況が分からなくなるんです。
河野氏:
自分はコックピットにいるのに,目の前を自分の機体が飛んでいて「俺は誰だ?」となるんです。VRが本来やってはいけない体験を提供してしまっている。やっぱり,VRはVRならではの体験としてイチから作らないといけないですね。
4Gamer:
話は難度に戻りまして,河野さんはTGS 2017のインタビューで「今回のトンネルはストロングスタイル」と仰っていましたが,具体的なストロングというのは何を指していたのでしょう。
河野氏:
ストロングスタイル自体は,縦に飛ばすことだったんですよ。でもまず,トンネルの入口がキュッと曲がっているのが……。
下元氏:
トンネルに入るところで事故が多発しているんですよね。なぜここを曲げたのか,開発とは話し合ったんですけど。
河野氏:
菅野の中では,軌道エレベータへ入るところのアーチみたいなのもそうですが,ああいうのが無いとデザインとして成立しないんでしょうね。まあ,菅野のデザインがゲーム難度を上げてしまうというのも,言ってしまえばエースコンバット恒例なので(笑)。
下元氏:
レベルデザインよりビジュアルデザインが先に来るんですよ(笑)。
河野氏:
縦のトンネルが決まった時点で,「今回は大変だな……」と思ったんですよ。でも,その手前にハードルが立ちはだかるのは想定外だった。
下元氏:
「ストロングスタイルはそこじゃねえ!」みたいな。
4Gamer:
今回のトンネルは,“あの名前の機体”を追って“あの空間”に入るということだったので,「魔のS字カーブが来るのか!?」と最初思ったんですけど,それはなくて安心しました(笑)。
河野氏:
今回,トンネル自体に変な曲げはなくて,それ自体は簡単だって言われてるんですよね。縦に飛ぶ場面でも,プレイヤーの目に見えないところで,快適に飛べるような仕掛けをいろいろとやっています。
下元氏:
トンネルについても辛さを求める人はいるのですが,そこは甘口にしたんですよね。
河野氏:
実は,最初の予定では縦穴のシャッターを破壊していかなければならなかったり,最後の昇降機が動いていて,しかも爆発したりすることを考えていたんですよ。でも,「エースコンバット5 ジ・アンサング・ウォー」の“段違い平行棒”で難しくするのは懲りていたので,だいぶシンプルにしました。
4Gamer:
それでは最後に,今後の展開についてうかがいます。DLCはシーズンパスに含まれるのが「架空機体3種,追加ミッション3種,ミュージックプレイヤーモード」とのことで,過去作DLCにおける特殊スキン機の多彩さを思うと抑えてきた印象を受けます。DLCは,シーズンパスに含まれるものがすべてと思っていいのでしょうか。
下元:
現状で言えるのは,「いろいろと考えている最中」といったところです。
河野氏:
「ACE7」はテクスチャも4K仕様ですし,スキンだけでもけっこうな手間がかかるんですよ。まあ,ここからどの方向に広がりを持つかというのは,相当慎重にプロデューサーが考えていかないといけないですよね。多くのお客様が望んでいることは何で,そこからどれを「ACE7」で実現すれば,よりファンになってもらえるか。そこをちゃんと見ていかないと,「いっぱい頑張って苦労したのに,あんまり刺さらなかった」という結果も十分に考えられるので。
下元氏:
……はい(苦笑)。
河野氏:
僕は,それに対して「いや,違うんじゃないの?」とか言っていきます(笑)。
4Gamer:
エースコンバット自体の今後のビジョン的なところはいかがでしょうか。
河野氏:
ブランドディレクター的にはハワイに行きたい!
下元氏:
僕もプロジェクト休暇が欲しいです! それはさておき,今のエースコンバットは,非常に贅沢なところに立たせていただいていると思っているんです。高く評価されているVRモードに向いた進化の方向性もあれば,オンラインに関するご要望に応えていく進化の方向性もありますし,“空の革新”以上のさらなる進化を模索していくこともできます。いくらでも可能性があるタイトルになっていて,僕自身もここにスタッフとして携われているということを「こんなに嬉しいことはない」と思っています。
河野氏:
ブランドディレクターの立場からは,「可能性やビジョンを語れるような状況になれて良かったね」といった感じですね(笑)。やり方によっては,将来を語れないIPになっていたり,「これが最終作です」となっていた可能性もあったわけですよ。
4Gamer:
可能性と言えば,一部でこれ(下の画像)について「可能性なんじゃないか」と囁かれていたりもしますが……。
河野氏:
ああ,これですか……これは……ただの冗談ですかね(笑)。
4Gamer:
冗談ですか!
河野氏:
エースコンバットの夜景って,昔から“オールナムコ”的にいろいろなタイトルをフィーチャーしていまして,その一環です。このほかに「あなたのオフィスの懐刀」とか謎の人物とかの看板もあるわけですが,可能性を言えば僕の中では全部イコールです。「あなたのオフィスの懐刀」ゲームも,「謎の人物」ゲームもあるかもしれない(笑)。
下元氏:
安易な発言をするとリアルにヤバそうなので,僕は黙っておきます(笑)。
4Gamer:
なんだか不思議な雰囲気になってきましたが,今後のProject ACESの活躍に期待しています。ありがとうございました。
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