インタビュー
作り手が,少しでも自由に,より新しいものにチャレンジしやすい環境を作りたかった――Yahoo! JAPANが満を持して放つ“第3のプラットフォーム”は,HTML5を最大限活用した「ゲームプラス」
2年前といえば,スマホネイティブアプリマーケットが完全にレッドオーシャンと化して,“勝者がさらに勝ち続ける”という状況になっていたときだ。表から見えるもの/見えないもの含めて屍が山ほど積み上がり始めて,「これは意外と厳しいのでは」と認知され始めたタイミングなわけだが,そんな状況で「これからはHTML5なのだー!」と言い出した人がいる。ヤフーの脇 康平氏だ。
2015年夏の時点では,表に見えている大きな動きもあまりなく,まだまだHTML5には制約もあり――そしてこれはおそらく4Gamerを読んでいるゲーム好きの人であれば誰もが考えることだと思うが――「ちょっとキレイになったブラウザゲーム」程度の認識しかなかったと言っても,言い過ぎではないだろう。
成長がとても早い犬の1年は,人間の大体7年に相当するので,そこから来た言葉に「ドッグイヤー」がある。主にIT系/コンピュータ系の技術革新の速さを指してそう呼ぶわけだが,Web業界における2年も,ご多分に漏れずとても長い。2年もあれば,当時ダメだったことも可能になり,当時遅すぎたものも高速になり,当時みんなが諦めたことも容易にできるようになっている。
スマホネイティブマーケットの閉塞感もあり,新天地であるHTML5の魅力は相応に高いのか,楽天やバンダイナムコエンターテインメントが立て続けにHTML5ゲームプラットフォームに参入した。ほかの会社もプロジェクトを立ち上げているのがチラホラと聞こえる昨今,ついに“言い出しっぺ”であるYahoo! JAPAN(以下,ヤフー)が動き出した。それが今回の「ゲームプラス」だ。
そもそもこの6月に“βテスト”という建て付けで,おもむろにYahoo!ゲーム内でサービスがお披露目されたわけだが,幸いにも正式発表会前にその存在を聞かせてもらうことができた。この2年間の技術革新やマーケットの変化を受け,「ただのブラウザゲーム」では終わらせない意気込みが感じられるこのプロジェクトについて,これまでの経緯や目指すものなどを聞いてきたのでお伝えしよう。
脇 康平氏 ヤフー株式会社 パーソナルサービスカンパニー 事業戦略本部 ゲームプラス事業部 ビジネスプロデューサー 2000年にセガ・エンタープライゼスに入社し,ゲームデザイナーとして「シェンムー」シリーズなど数多くのゲーム開発現場を経験後,2012年よりセガネットワークスに移籍し,スマホゲーム「デーモントライヴ」のプロデューサーを務める。2013年よりヤフーに移籍。ゲームパブリッシング事業立ち上げに従事。その後,ビジネスプロデューサーとしてゲームプラットフォーム立ち上げを担当 |
須藤 岳氏 ヤフー株式会社 パーソナルサービスカンパニー 事業戦略本部 ゲームプラス事業部 部長 2007年にゲームポットに入社。「スカッとゴルフ パンヤ」プロデューサー,マーケティンググループ長を務め,オンラインゲームの運営とマーケティングに従事。2012年にヤフーに入社。Yahoo!ゲームおよびYahoo!モバゲーを管掌するゲームサービスのサービスマネージャー,Yahoo! JAPANのゲーム事業を管掌するユニットマネージャーを経て,2016年4月より現部署となる |
これからはHTML5ゲームの時代が来る? 月間総PV611億のYahoo! JAPANが放つ,“第三のゲームプラットフォーム”
「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」公式サイト
4Gamer:
あらためて,お久しぶりでございます。大体……2年ぶりくらいでしょうか。しかも今日は須藤さんまで。ゲームポット時代にはずいぶんお世話になりました。
脇 康平氏(以下,脇氏):
もうそんなに経つんですね。
須藤 岳氏(以下,須藤氏):
またずいぶんと古い話を……(笑)。
4Gamer:
ついに新しいことを始めると聞いたので,こうして今日はお時間を取ってもらってるわけですが,先ほど軽く説明を受けて資料を見せてもらった感じ,なにやら新しいゲームプラットフォームを作るような,そんな印象です。
脇氏:
概ねその認識で正しいと思います。
4Gamer:
この記事は発表会後の掲載になるんですけど,一度「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」(以下,ゲームプラス)というサービスがどういったものであるか,脇さんの口からざっくりと教えてもらえますか。
脇氏:
あ,もうこれインタビュー始まってたんですね(笑)。
ええと……改めて聞かれるとちょっと悩みますね。PC,スマホ,タブレットといったマルチデバイスで,いつでもどこでもブラウザ上でゲームを楽しめるプラットフォームが今回の「ゲームプラス」です。「HTML5ゲーム」と「クラウドゲーム」の2つの手法で,あらゆるゲームを提供していきます。
4Gamer:
クラウドゲームについては,基本的にコンシューマ機向け作品をそのまま流していく感じですか?
脇氏:
基本的にはそうですね。家庭用ゲーム機で遊ばれているものが,お手持ちのPCやスマホのブラウザ上でも遊べるようになります。βテストでは多くの人に遊んでいただいたようなので,なんとなくどんなものかはお分かりいただけているだろうと。
4Gamer:
スマホ上で「FFXIII」が動くのはなかなか衝撃でしたよね。あれって現段階では,どのプラットフォームまで対応できるものなんでしょうか。
須藤氏:
PlayStation 4までいけますよ。
4Gamer:
「まで」ということは,初代PSからPS4は動く感じですね。ほかには?
須藤氏:
変わり種としてPC-98とか,そんなあたりが。
4Gamer:
お,意外なところが。
須藤氏:
遠い昔,フロッピーディスクを入れ替えながらプレイしていたゲームが,いま改めてブラウザで(笑)。
4Gamer:
もしかして8bit/16bitの,懐かしい「マイコン」時代のゲームをブラウザ上で再現することも念頭に置いてたり……?
須藤氏:
発表会を楽しみにお待ちください(笑)。原理的には,PCバイナリがあればなんでもブラウザのみで動かせますよ。検証してみて,サービスに耐えうる同時接続が実現できればですけども。
4Gamer:
実行ファイルがあれば理論上はなんでもイケると。例えば,Steamに対応しているタイトルなんかも?
須藤氏:
イケます。それこそ,メガドライブやドリームキャストも技術的には問題ないですよ。
4Gamer:
ストリーミングプレイですもんね。そりゃそうか。
しかしおそらく,「ゲームプラットフォーム」という意味合いにおいては,もう一つの柱であるHTML5のほうが主軸だと思うんです。最初のラインナップはどんなものがどんな感じで出るんでしょうか。
脇氏:
昨年(2016年)の10月ぐらいから各社さんにお声がけを始めたので,正直なところローンチ時にはそこまでのタイトル数を揃えられません。HTML5ゲームとしては,ローンチ時に10〜20本,クラウドゲームは30本前後を見込んでいて,参加企業は50社以上になります。
4Gamer:
その後順調に増えていくんですね?
脇氏:
もちろんです。発表後もどんどん進化を遂げていきますし,サービスのローンチで揃えたものの中には,やりごたえのあるオリジナルタイトルもありますよ。
4Gamer:
やりごたえ,ですか。サービスローンチ時のラインナップの中で,一番「ゲームらしいゲーム」ってどんなものですか? 私もそうですが,やはり読者も「HTMLゲームかぁ……」っていう印象がまだなんとなくぬぐえないと思うので。
スクウェア・エニックスさんの「アンティーク カルネヴァーレ」ですね。
4Gamer:
スクエニ……!
須藤氏:
このタイトルは,ブラウザゲームならではのチャレンジもしていただいてまして,PCとスマホのインカメラを使って,自分の遊んでいる様子を撮りながら動画配信できるんですよ。
4Gamer:
なるほど。単なる「ブラウザゲーム」ではなくて,新しい試みも入ってるんですね。
須藤氏:
ええ。ゲーム内容自体は,いわゆる王道のシミュレーションゲームではあるんですが,そこに“Something new”が加わったことで,また新たな楽しみ方を世の中に提案するんだ,と僕らは感じています。
4Gamer:
しかし2年前のインタビューのときもちょっと話題に出ましたが,1本目がそれって,今後リリースされるタイトルのハードルがやたらめったら上がりませんか?
脇氏:
おっしゃることは理解できます。でも,いままでもそうでしたし,別にマイナスな話ではないですよね。
4Gamer:
といいますと。
脇氏:
例えばPlayStationで「FINAL FANTASY VII」が出たときも,作り手としてかなりのプレッシャーがあったと思います。あの時代にあれは,さすがに凄い。でも,ああいったタイトルが世に出ることで「負けないぞ!」という動きが起きるんじゃないかと期待しています。僕自身,FFVIIによってゲーム開発における技術の進歩を感じましたし,遊び手の楽しみが増えたと思っていますし,そうやって作り手と遊び手に影響を与えたいんです。
ゲームプラスは,サービスとしては3世代目
「2年前に言ってたことがようやく実現できた」
なるほど。そんなことを意識している新しいゲームプラットフォームは,Yahoo!ゲームとの住み分けをどうされる感じですか。
須藤氏:
Yahoo!ゲームは,主に「戦国IXA」「SDガンダムオペレーションズ」「Yahoo!モバゲー」といったフリーミアム(Free-to-Play)のタイトルが人気なのはご存じのとおりだと思います。
4Gamer:
ええ,そうですね。「コアかそうでないか」で分けるのかな? でもちょっと分かりづらいな,と思ってまして。
須藤氏:
住み分けについては割と明確で「マルチデバイス対応であるか否か」です。
4Gamer:
あ,そうか。Yahoo!ゲームはマルチデバイス対応を謳っているわけではないですね,そういえば。
須藤氏:
ええ。PCはYahoo!ゲームの得意ゾーンなので引き続きアプローチしていきますが,ゲームプラスでは「いつでもどこでも」というコンセプトに則って,スマートデバイスもプレイ環境として提供していきたいんです。
脇氏:
ラインナップとしても,「かんたんゲーム」(※)のようなカジュアルゲームや広告収益モデルのものだけではありません。リッチコンテンツやFree-to-Playのタイトルを投下して,ある程度のバリエーションを作れる技術的土壌ができたので,プレイヤー層を一気に拡大したい狙いもあります。
(※)Yahoo! JAPANが運営する,カジュアルなHTML5ゲーム専用のプラットフォーム
4Gamer:
なるほど。2年間でいろいろなことが変わりましたからね。
脇氏:
あのタイミングで新しいプラットフォームを動かして,いろんな方に乗っていただいたおかげで,数字がすごく伸びました。しかし昨日インタビューを読み直してみて思ったんですけど,2年前から言っていることが変わってないんですよね。
須藤氏:
実際のところは4年前ですけど。
ん? ということは,あのインタビューのさらに2年前から動いていた?
須藤氏:
2年前の「かんたんゲーム」ができる前に,もっとライトな,僕らが「かんたんゲーム元祖」と呼んでいるものが実はありました。
ユビキタスエンターテインメントさん(現・UEI)の「9leap」というサービスがありまして,4年前に始めたそのコンテンツを活かしたサービスを“かんたんゲーム”と名付けていたんですよ。広告表示なしの完全無料でお客様にゲームを楽しんでいただくという。
4Gamer:
なるほど。「元祖」とは分かりやすい呼び名。
須藤氏:
サービス開始後にPVが跳ね上がったんですけど,実はマネタイズ装置を何も入れていなかったので,「PVが爆増したね」で終わっていました。
事業課題として,これをどうにかできないかとあれこれやっていたときに現れたのが,当時のBoosterMedia(現・CoolGames)さんだったんです。はじめは,CEOのローレンスさんとも「どうなるか分からないからお互い期待値は低めにしておこう」と言ってたんです。
4Gamer:
控えめですね……(笑)。
須藤氏:
でもいざ始めてみたら数字は伸びていく一方で,新たなパートナーも入れてリニューアルをかけようとしていた矢先に脇が来てくれて,彼にプロジェクトを託した結果,ユーザー数は10倍以上に伸びました。
4Gamer:
10倍……。
しかし今回の件は,サービスの世代的には3世代目になるわけですか。清水さん(9leap),ローレンスさん(BoosterMedia)ときて。
脇氏:
そうなりますね。○○が手に入ったからサービスに乗せましょうというよりは,ゲームとして,メディアとして,プラットフォームとしてどうあるべきかをずっと模索してました。個人的にもゲーム業界をもっと拡大して,クリエイターにチャンスを与えたいという意識を持ってるんです。
4Gamer:
しかし2年前のインタビューと,言ってることもやってることも変わってないわけですよね。この業界で2年間変わらないって,結構すごいことなんじゃないかと。
脇氏:
確かに僕はずっと変わってないですね。でもどちらかというと,当時やりたかったことに対して技術的な部分が追いついてきて,ようやく実現可能になりました,というところでしょうか。
須藤氏:
環境は刻々と変わっていきますし。
4Gamer:
とはいえ,2年後に起こることなんて誰も想像できないわけですから。スマホゲーム市場が大ブレイクする2年前に,そのことを完全に予測できてた人はあんまりいなかったわけで。あとになって「来ると思ったよ!」と言ってた人はいっぱいいますけど(笑)。
脇氏:
そうですねえ。モバゲーやGREEのゲームがたくさん遊ばれていたと思ったら,2012年に「パズル&ドラゴンズ」(iOS / Android)が出てきてあれよあれよとブレイクして,それまで普及し切れてなかった「スマホにアプリをダウンロードして遊ぶ」スタイルが,いつの間にか定着しましたよね。そしてこの数年で,それがもはやスタンダードになっているわけです。
4Gamer:
スタンダードになったと同時に,2大プラットフォームが牛耳るマーケットには,いろいろな弊害も出てきましたが。
脇氏:
あ,いままで培ってきた文化を壊そうという意識はまったくないですよ。「ほかの選択肢」が登場してもいいんじゃないかな,とは思っていますが。
4Gamer:
確かにHTML5市場は,バンナム(バンダイナムコエンターテインメント)とドリコムの新会社・BXD(ビーエックスディー)もプラットフォームの開発に乗り出してきていますね。
脇氏:
言うまでもないですが,Facebookや楽天もそうですよね。
4Gamer:
ええ。ほかにも大手が数社動いていると聞きますし,文字どおり“突如”複数の動きが表に出てきている感はあります。
脇氏:
もう1つ隣りに作る動きがあれば,みんなで市場作りに取り組むのは正しい道だと思うんです。既存のもののアンチになって懸命に壊したりするようなことはしないで。クリエイターにとってもチャンスですし,誰も損しませんから。
4Gamer:
確かに2年前もそう言ってましたね。
脇氏:
でしょう? だからって2年前のインタビューをそのままコピペしないでくださいね(笑)。
これは僕がセガ出身だからだと思うんですけど,セガって時代を先取りするというか,早すぎるところがあって,時代があとから追いついてくるんですよね。セガグループの「創造は生命」という文化でやってきたからなんでしょうか。
須藤氏:
時代というより「技術」ですかねえ,追いついてきたのは。
4Gamer:
いやあ,それも含めて「時代」じゃないですかね。
脇氏:
今回のプラットフォームで僕らがチャレンジしたのは,「HTML5でどこまでネイティブの表現力に追いつけるか」という点です。そこって作り手にとっても重要なポイントで,ある程度表現の幅がないと,お客様を満足させられるものを提供できる自信にはつながらないですよね。
発表会でスクウェア・エニックスさんに「聖剣伝説」のアセットをお借りしてデモを流すんですけど,それくらいのものは表現できるようになりました。
4Gamer:
おお,そうなんですね。
脇氏:
あとは,HTML5でリッチなタイトルを作れる開発ツールがあればよかったんですが,世の中的にまだそこまでは充実していませんでした。
4Gamer:
確かに聞きませんね。でもそこって開発者にとっては大事な部分では?
脇氏:
ええ。なので,外部の事業者さんとツールの開発を進めていて,それもなんとかできあがりました。
4Gamer:
ええと……それはつまり,開発キットを作った?
須藤氏:
はい。開発キットというよりは,描画エンジン……というのが正しい表現かな。「Spear JS」という描画エンジンです。
4Gamer:
名前に「JS」が付いてますね。
須藤氏:
ええ,「スマホブラウザファースト」です。Unityがネイティブファーストの開発思想で作られているとすると,Spearはとにかくスマホブラウザ上で快適に動かすことだけを追求したエンジンになっています。
4Gamer:
そのエンジンはどういう条件で使えるんですか?
須藤氏:
ゲームプラスで規約を結んでいただいたメーカーさんには無償で提供しています。
4Gamer:
逆に言うと,ゲームプラスで公開すること前提なら無償で使えるわけですね。
須藤氏:
はい,現時点ではそうお考えいただいてよいと思います。
ただUnityと比べると後から作られたものなので,エディタがバッチリ揃っているかというと,正直まだそこまでは至っていません。でも「白猫プロジェクト」(iOS / Android)クラスのものであればiPhone 5S以降のブラウザ上でグリグリ動きますし,Androidは,2015年秋モデル以降のものなら間違いなく大丈夫です。
4Gamer:
結構以前のものからサポートされてるんですね。まぁでも既存のヤフーユーザーさんなんかだと,新機種が出てすぐに変える人ばかりでもないか……。
須藤氏:
皆さん,いろいろな端末をお持ちですからね。
脇氏:
今月の頭にゲームプラスのβテストを実施しましたけど(編注:2017年6月6日から12日まで),スマホからのアクセスが半数を占めていました。スマホを新たな形のゲームデバイスにしたい,という目標はある程度達成できそうな気がします。
4Gamer:
アプリダウンロードがいらないのは,一般の人には結構大きいメリットになる気がします。
脇氏:
SafariやGoogle ChromeでURLを打ち込めば遊べますからね。
4Gamer:
スマホとYahoo! JAPAN IDさえあれば……やっぱりYahoo! JAPAN IDは必要ですよね?
脇氏:
そうですね。そこはさすがに。
4Gamer:
まぁそうですよね。
で,スマホとYahoo! JAPAN IDさえあれば,例えばSNSやメールで送られてきたURLをタップするだけでゲームを始められて,場合によってはプレステのRPGなんかも遊べるわけで,これは見た目より遥かにインパクトが大きいと思うんです。
脇氏:
驚きはやっぱりあったと思います。とくにクラウドゲームの反響が大きくて,こちらの予想以上にバズったようです。
ヤフーらしく,課金方法はTポイントにも対応
ゲーム内マネーを買うと,Tポイントも溜まる
4Gamer:
そういえば課金関連ってどうする予定ですか? まず,Yahoo!ウォレットは確実ですよね。
もちろんです(笑)。Yahoo!ウォレットとWebMoney,キャリア決済,あとTポイントに対応しています。
4Gamer:
あ,Tポイントもか。ヤフーですもんね。ということはもしかして,課金するごとにTポイントが溜まったりとか?
須藤氏:
ええ,通常は1%のポイントが溜まります。
4Gamer:
なるほど。……これ,HTML5の方は,イメージ的に「基本プレイ無料+アイテム課金」だったりするんですよね,きっと。
須藤氏:
はい,正しい認識かと。
4Gamer:
クラウドゲームのほうはどうなんでしょうか。
須藤氏:
そちらはチケット制になります。30日,2か月,1年利用権といった期間売りのものと,月額固定サービスですね。
4Gamer:
チケットが有効な期間中ならそのタイトルが遊べる,という形ですか?
須藤氏:
そうですね。
4Gamer:
さっき資料を見たら,クラウドゲームはローンチ時に30タイトル近くあると書いてあったので,それら1つ1つに払ってたらちょっといくらなんでもお高くなる気がするんですが,パック売りみたいなコースってないんですか?
須藤氏:
ありますよ。パックのまとめ売りもあれば,1本のみの販売という形式もあります。どういう提供方法を採用するかというのは,コンテンツを持っているメーカーさんの意思次第です。例えば大きいのだと……20本1パックで月額固定,というのもありますよ。
4Gamer:
なるほど。であればちょっと安心です。
しかしこれちょっと下世話な話ですけど,クラウドゲームの配信コストってヤフー持ちですよねきっと。
須藤氏:
そうですね,プラットフォーム側で吸収しています。
4Gamer:
それって,ヤフーの利益が少なそうな……。
須藤氏:
利益の額で行くと……いや,やめておきましょう。ご想像にお任せします(笑)。ビジネスなので,当然弊社も利益は出そうとはしていますし,この先悪くなることはないだろうと思っていますが。
4Gamer:
さすがに教えてはもらえませんか(笑)。
しかしパック売りいいですね。さすがにメーカーを越えたパックは難しいですか? 「ドラクエパック」「FFパック」とかは分かりやすいですけど,「アクションRPGパック」「ダンジョンRPGパック」なんかもできたらちょっといいなぁ,と。
須藤氏:
まだないですねえ……。そういうパックが自動生成されて販売されたら面白いかもしれませんが。
4Gamer:
いいですねえ。僕はダンジョンRPGとシミュレーションが好物なので,そのへんを勝手にまとめてパックにして料金設定して売ってほしいです(笑)。
須藤氏:
この人ならこれくらい払えるはずだ,みたいなとこまで見たりして(笑)。
HTML5は,ゲーム業界こそがリードしていくべき存在
ヤフーの役割は,そこに立ち位置を確保してユーザーの期待に応えること
4Gamer:
僕はソフトバンク出身なので,出来たころからずっとヤフーを見てきているわけですが,ヤフーって何事に対しても「とことん深くはコミットしてくれない」というイメージがあります。それが悪いとかいう話ではなくて,ヤフーという巨大な“マス”を相手にするビジネスである以上仕方ないことなんですが,だからこそこのプロジェクトもちょっと心配でして。途中であっさりやめたりしないかな? って。
その点に関しては「2年前のインタビューをもう一度読んでみてください」とだけ申し上げておきます。先ほどもちょっと話題に出ましたが,この2年間だけ見ても意思は貫いてますし,少なくともこのプロジェクトの中心である僕と須藤はブレていません。あとは,お客様や各社さんが声をあげていただくことで,会社から見たときの信頼性も強くなると思います。
4Gamer:
会社が応援してくれなかったら,ここまでは至ってないわけですしね。
須藤氏:
実は,部署が発足したのは2016年4月なんですよね。
4Gamer:
割と最近ですね。
須藤氏:
言われてみれば確かに……。僕は元々「Yahoo!ゲーム」本体の人なんですが,そっちを見ながら,ゲームプラスのプロジェクトを動かしていた時期が1年ぐらいありました。僕の案を会社に受け入れてもらってゲームプラスの部署が立ち上がったのが2016年の4月で,10月には脇ともう1人のスタッフが合流してくれて,そこからスピードが上がりました。
脇氏:
技術的にもビジネス的にもやれると確信したタイミングが10月頃だったんですよね。そこからデモを持って,メーカーさんに提案しにいってみたら,「ネイティブ市場に対する皆さんの疲れ」を肌で感じたんです。
4Gamer:
そもそも「プロモーション」でまず壁がありますよね。あとこれも以前からそうですけど,「とりあえず落として消す」っていう行動様式がなかなかキツいと思うんです。そこまでじゃないにしても,普通のユーザーさんでも,端末に容量制限があるから音楽や写真を優先してアプリは消し始めたりとか。
脇氏:
一方で,通信インフラはさらに整ってきて,パケットの料金もだいぶ安くなってきましたよね。それならば,表現力があって,お客様に広く届けられるこのHTML5というプラットフォームも悪くないよねということになり,僕らが準備できるものを並行して掘り下げようとしていたわけです。
4Gamer:
なるほど。失礼かもしれませんが,最初に話を聞いたときは「ヤフーが本気でやるのかなぁ……」と思ってたんですけど,いい意味で予想が外れたわけですね。
脇氏:
プロモムービーまで作らせてもらったりとか。
4Gamer:
しかしそこまで本気を出して,ヤフーは会社として,ゲーム業界に対して何を「提示」しようとしているんでしょうか。
須藤氏:
うーん……。
世の中には,インターネットを通じて映画を観たい,株を買いたい,明日の天気を調べたい,上質な娯楽を楽しみたい……といったさまざまなニーズがありますよね。
ではスマホのエンタメ,とくにゲームという世界において,ヤフーがお客様のニーズに向き合えてこれたのかというと,ご承知のとおりそうではありません。その役割を担ってきたのは,AppleさんやGoogleさん,そして何よりも各メーカーさんだったと思います。スマホのエンタメでヤフーが一定の立ち位置を確保していないという状況に不便さを感じているお客様もいらっしゃるでしょうし,我々にも,もっと努力できることがあるでしょうという,純粋な思いではないかと。
4Gamer:
今まであんまりちゃんとやってこなかったところである,と。
須藤氏:
PC・ブラウザゲームの世界では,ディー・エヌ・エーさんと一緒に(Yahoo!モバゲーや各社さんと展開しているPC版Yahoo!ゲームで)一定の期待には答えられたかなと思っています。かたやスマートデバイスにおいては,まだキチンとできてないという思いが,個人的にはずっとあります。
脇氏:
HTML5ってWebの標準技術ですが,そこで最も表現力を求められるのは間違いなくゲームだと思うんですよ。
4Gamer:
少なくともいまのところはそんな気がしますね。
脇氏:
ゲーム開発を活性化して技術的にリードさせることで,ほかのサービスのクオリティも一緒に引き上げられるわけです。僕らの業界がリードしなければ,HTML5の技術はいつまでも昇華しきれないままになってしまうわけで。技術の進歩が順当に進めば,サービスの見せ方を変えてみたり,新しい機能を取り入れてみたりといった流れができるはずなんです。
4Gamer:
ゲーム開発こそがHTML5をリードしていく,と。
脇氏:
僕個人の想いですけどね。
でも,インターネットを導いていくという部分においてHTML5は切り離せない技術だと思っているので,それをキチンとゲーム業界がリードしていき,ヤフーとして応援するということは,筋は通ってるんじゃないかと思ってます。
4Gamer:
ゲーム業界でも,僕らみたいにややコア寄りのところにいるとちょっと軽視しがちなんですが,ヤフーの会員数って相当なものですしね。ゲーム業界としてそこにアプローチできるのは,やはり大きいと思います。
須藤氏:
ヤフー全体だと,月間アクティブユーザーが3800万〜3900万くらいはいますからね。
4Gamer:
3900万のアクティブユーザーを持つプラットフォームか……。
脇氏:
もちろん,みんながみんなゲーマーというわけではないですし,さまざまな嗜好を持つ人が集まっているところなので,”いつもの生活”を妨げない遊びを広げて,少しずつゲーム人口を拡大していけたらと思っています。
4Gamer:
いいですね。最近は,相当意識してがんばらないとゲームをする時間も細切れになっていて,そこを埋めているのがスマホでのプレイなんだろうな,という気がしますし。
須藤氏:
重要なことは使い分けですよね。HTML5ゲームにせよクラウドゲームにせよ,現時点では,どこまでいってもネイティブアプリやコンシューマ機にはかなわないんですよ。超高画質で遊びたい,などの需要に応えられない。
4Gamer:
表現が難しいですが「ゲームらしさ」を追求してしまうとまだ分は悪いですよね。
須藤氏:
ただおっしゃるとおり,あまり手間をかけずにサクッと遊びたい皆さんももちろんいるわけで,そのニーズに僕らこそが応えるべきなんじゃないかと。
4Gamer:
Aimingの椎葉社長が以前,コアゲーマーの定義はモチベーションがあるかないかだとおっしゃっていました。
関連記事:Aiming椎葉社長インタビュー。業界の名物社長は,スマホ業界の過去と未来をどう捉えているのか
須藤氏:
椎葉さんはよくモチベーションの話をされますけど,あれ分かりやすいですよね。
4Gamer:
なんかとてもしっくりきますよね。
脇氏:
アプリストアでパスワードを入れて,アプリをダウンロードしてインストールしてプレイする……というのは,みんながみんな出来ることじゃないと思ってるんです。
去年,知人のスマホに何台も「Pokémon GO」をインストールしてあげたのを思い出します。もちろん,みなさんの年齢はけっこう高かったんですけど。
脇氏:
そうですよねえ。そうなっちゃうと思います。
それであれば,知り合いからメッセージと一緒にURLが飛んできて押したらゲームができる,くらい簡単なほうがいいと思うんです。テレビだって,設定なんかできなくても電源つけたらすぐ観られますよね?
4Gamer:
クルマだって,オートマなら仕組みを知らなくてもアクセル踏めば走りますしね。
脇氏:
そういった入り口を飛び越えてでもやりたい人は,モチベーションを持っている人なわけですよね。ちょっと面倒くさいけど,ハードを買ってきて,説明書を読みながら接続して,パッケージを買ってきて,テレビをつけて,ソフトを入れて……。
4Gamer:
というわけで,「URLの形で飛んでくるゲーム」って結構いいと思うんです。メッセンジャーやメール,あともちろんヤフー本体や,我々Webメディアとも相性がいいのも素敵です。
脇氏:
そうなんです。ヤフー本体ととても相性がいいんですよね。
ヤフーの強みは,トップページにある「ゲーム」の項目から見に来てくれる人が多いことです。普段ゲームをプレイしている人を隣で見ながら「俺も/私もやりたいな」とは思うんだけど,どこで何をやっていいのか分からない。そういう人達が,とりあえずヤフーでゲームに触ってみようかな……と,来てくれる。
4Gamer:
そういう意味を踏まえて「ゲームプラス」という名前なんですか? 新しい試みなのに,意外とシンプルな名前だなぁと思ってたんですよ。
脇氏:
これを名付けたのは須藤です。須藤はプラスって言葉好きだよね(笑)。
須藤氏:
いや,そういうわけでは(笑)。ユーザーの皆さんにアンケートを取って,分かりやすさと覚えやすさで選んでます。
4Gamer:
あら。言うならばユーザーさんが選んだ名前なんですね。
須藤氏:
ほかには「ゲームプレイ」とか――これもまたシンプルですね――候補はたくさんありましたが,一番おさまりが良かったんです。
4Gamer:
次は「ゲームプラスプラス」で決まりですね。オブジェクト指向な感じで。
「ダウンロード数」と「売上高」に左右されるランキングは作らない。新しい遊びを提案できるランキングでありたい
脇氏:
しかし,HTML5やクラウドゲームを置いたときに,どういった層が集まって,どんな遊ばれ方をするのかは未踏の領域なんですよね。とくにスマホに関しては。サービス開始後に,どんな反応が起きるのかが楽しみです。
4Gamer:
事実上ハードルゼロですし。
須藤氏:
強いて言えば,Yahoo! JAPAN IDでのログインくらいでしょうか。
4Gamer:
さすがにログインは外せないんでしょうか。
脇氏:
Yahoo! JAPAN IDでログインしていただくのは,ビッグデータを収集し,AIエンジンを走らせてパーソナライズしていこうと思っているからで,ログインさせるのにはわけがあるんです。
4Gamer:
ユーザーに最適なものをオススメするとか?
須藤氏:
ですね。初動の段階ではレコメンド的なものは入らないとは思いますけど。
4Gamer:
まぁでも,やっぱりタイトルが増えてきたら欲しくなりますね。そういえばランキングはどうするんでしょうか。順調にタイトル数が増えてきたら,それこそさっきから話に出ている初心者の人であれば,どれで遊んでいいのか分からなくなると思うんです。
須藤氏:
ランキング,ありますよ。
脇氏:
それだけ言うと誤解されそうなので伝えておきますが,ロジックは工夫しようという話になっています。ランキング変動要因が,継続率だったりとか……。
4Gamer:
あー,なるほど。「ダウンロード数」と「売上高」ではランキングを作らない,ということですね。
須藤氏:
やはりランキング1位というのは「プラットフォーマーがオススメする」という意味ですしね。売上高がいいタイトルを推しておけば分かりやすいかもしれませんけど,そこにはもちろん,1人で10万円払える人と,月に500円までと決めている人がいて,それが十把一絡げになってしまうんです。
4Gamer:
先ほど「継続率」という言葉を使ってましたけど,ではもうちょっとおおざっぱに分かりやすく言うと,どんな指標でランキングを作るんでしょう?
須藤氏:
難しいですね……。「明日も続けたいか」「身銭を切って楽しみたいか」という感じでしょうか。
脇氏:
結局いまあるランキングって,順位を上げることばかりに意識が走り過ぎてしまうから,良くないと思うんです。
須藤氏:
そしてその気持ちも分かります。なので,メーカーさんがそういう部分に執着せずに,本当にお客様を楽しませるということを追求していただくためのランキングというのは,どういうものがいいんだろうと考えてまして。
脇氏:
「このタイトルをやりなさい」っていう世の中じゃなくてもいいわけですよ。遊び手それぞれに趣味や嗜好があって,好きなものを追求していけばいいですし,そういったバランスを保たないと,プラットフォームをやってる意味もないんです。
4Gamer:
本来プラットフォーマーは「これが一番お金遣われてるよ」っていうことを教える役割ではないはずなんですけどね(笑)。
脇氏:
新しい遊びを提案する立場でもあるべきですよね。
そういう文化を広めることで,チャンスを信じてチャレンジしてくれる人達も増えるわけです。これがビジネスだけに走ってしまうと,どうしても「安牌のビジネスモデル」に走るようになるし――それだってもはや安牌じゃないですけど――。僕もプロデューサーだったからそこは良く分かるんです。
4Gamer:
作品も続編のオンパレードですし。
脇氏:
チャレンジする人がいなければ,それこそ「Ingress」から「Pokémon GO」は生まれなかったわけで,この業界はきっと,発明から逃げちゃ駄目だと思うんです。
4Gamer:
イノベーション,ですね。
脇氏:
イノベーションが受け入れられて,クリエイターがリソースを割けるぐらいにまで昇華しなければいけない。それはものすごくカロリーを消費することだと分かっているので,最初のハードルを低く設定して,技術開発に没頭する時間を作れるようなプラットフォームでなければいけないんだろうと思っています。
4Gamer:
そのためにまずどこに気をつけてますか?
脇氏:
2巨頭と違って,さしあたりのオープン化はしません。まず信頼できる方々に入ってきていただいて,ある程度の質を担保して,そのあとに新市場とブラウザゲームのユニークな遊びを周知していく。ある程度整ってきた段階で「僕も! 僕も!」という人達に,オープン化をしていくべきだと考えています。
4Gamer:
オープン化はあのカオスな感じが面白いんですが,なかなか一直線に育っていかないという懸念はありますね,確かに。
脇氏:
しかもヤフーは公序良俗を意識した“信頼”というブランドの中で成り立っていると思うので。
4Gamer:
確かにドメインに「yahoo.co.jp」とあれば,まぁ間違いなく変なことは起こらないだろうという安心感はあります。
脇氏:
ただ難しいのは,ちょっと踏み込んだことをやったり,ある程度の過激思想がないと,面白さの部分が弱いかなぁ,というところでしょうか。
4Gamer:
脇さんは,過激思想だったと。
脇氏:
いやいや違います(笑)。まあ“Sex,Drugs & Violence”じゃないですけど,ゲームっていかにそれらをオブラートに包みながら……という部分も,一方であるわけじゃないですか。
4Gamer:
まぁそうですね。……しかしその話を聞いてふと思ったんですが,ゲームの審査はどうされるんですか。
脇氏:
規約を結んでいただいたメーカーさんに関しては,ローンチ事後の確認です。
4Gamer:
おや,事後なんですね。
須藤氏:
レギュレーションを守っていただくという前提がありますし,法人登録された会社さんと契約を結ぶわけですから,そこは信頼ありきの話ですね。もちろん,とんでもないものがあったらちゃんと止めますよ。
4Gamer:
ということはメーカーさんがローンチ日を自由に決められる?
須藤氏:
ヤフー側の準備もありますので……。でもできる限りご希望には沿います。
脇氏:
なんならβテストもできますよ!
レベニューシェアの率を筆頭に,デベロッパが享受するメリットは多い。ヤフーというプラットフォームをどう「使える」のか
4Gamer:
いままで聞いてきたように「第3のゲームプラットフォーム」となり得るサービスが始まるとなると,デベロッパの立場でいうと「AppleやGoogleと何が違うのか」が気になるところだと思うんです。まだ立ち上がっていないHTML5マーケットに,自分達のリソースを割くだけのメリットを提示してほしいといいますか。
脇氏:
ブラウザを立ち上げるだけで「いつでもどこでもプレイできる使い勝手の良さ」でマーケットとして差別化はできていると思います。
あとは,ブラウザならではのユニークな遊び方にあるんじゃないかと。例えば,誰かがアプリをプレイしているところに,そのアプリを持っていないほかのプレイヤーが自由に出入りするのってなかなか難しいじゃないですか。
4Gamer:
それがゲームプラスなら,URL1つで合流できる,と。
脇氏:
おっしゃるとおりです。Webサービス同士をシームレスにつなぐという点では,アプリよりもブラウザの方が取っつきやすいと思うんです。
須藤氏:
もう1つは,Yahoo! JAPAN IDならではの連携にあります。
4Gamer:
あー……ほかのサービスの情報を引っ張ってくるということですか?
須藤氏:
そうですね。言葉にすると「サービス間連携」という味も素っ気もない感じになってしまうんですが,例えば「Yahoo!天気の情報を引っ張ってきて,ゲーム内にそれを反映させて,天気がゲームプレイに影響を及ぼす」だとか「ダイエットした成果が自身のアバターに反映される」とか。
4Gamer:
天気は割と容易に想像がついて分かりやすいですね。あとそういう話で言うなら,ベタな話で申し訳ないんですが,ゲーム内のイベントを自動でYahoo!カレンダーに書き込んでほしいです……。
脇氏:
いいですね,それ。
4Gamer:
いやもうホントに覚えてられないんですよね。最近のゲームはイベントばっかりだし。イチイチ起動して「何時だったっけな?」って確認するのも面倒くさいので,もう全部それ用のWebカレンダーとかに書き込んでほしい(笑)。
須藤氏:
確かに作りたいですね,それ。機能としても,たぶんAPI1つ作ればいいだけのはずなので。メーカーさんに登録してもらって,ユーザーは自動書き込みにチェックを入れておけば,あとは何もしなくてもいい感じで。
4Gamer:
素晴らしい世界が。僕みたいな人きっと多いだろうから,イベント参加率も上がるというものです。
……では続いて,ベタベタなビジネスの話をしましょう。ビジネスの側面から見たときに,メーカーにはどんなメリットがあるんですか?
脇氏:
ビジネスをしやすい環境が……という答えじゃダメですよね(笑)。
4Gamer:
そんなプレスリリースみたいな文言じゃなくて(笑)。
脇氏:
収益性の観点で言うならば,レベニューシェアの率が違います,と述べておきます。
4Gamer:
“あっち”より安いんですか?
須藤氏:
ちょっと安いです。
4Gamer:
なるほど。ユーザー数が多ければ多いほど,そこはダイレクトに影響する部分ですね。しかし,2大プラットフォームには「プロモーションパワー」という武器が――いまでもあるのかどうかやや微妙ですが――あるわけですが,その方面についてはどういう手を? 例えばベタですが,ヤフー会員にメールを配信するとかそういうのを含めて。
須藤氏:
実はそれも,ちょっと踏み込んだシステムを用意してまして。
4Gamer:
踏み込む余地……ってあるんですか?
須藤氏:
ありますよ。タイトルの登録済みユーザーを対象にメーカーさん自身でメールマガジンを打てるツールを提供することにしています。
4Gamer:
なんと。それってヤフーの配信システムが使えて,配信料無料だったりします?
ええ,無料です。あとローンチ時にはちょっと間に合わないと思うんですが,スマホ版ヤフーの各サービスのヘッダーにベルのマークがありますよね。
4Gamer:
ありますね,通知の部分。
須藤氏:
あそこに,タイトルのイベント情報などを出せます。ログイン済みのお客様が,株価や天気を見ている時に,タイトルの情報が通知されるイメージです。
4Gamer:
地味だけど意外と効果ありそうな。スマホ版のヤフーって,PVどれくらいでしたっけ。
須藤氏:
全体で1日平均,約22億8000万PVですね。
4Gamer:
1日……。
脇氏:
さっきの話の続きになっちゃいますけど,ヤフーが各種サービスを内包している利点を活かして,さまざまなプロモ施策が打てると思うんです。例えばGyaOに無料動画を置く代わりに誘導スペースを確保するとか。
そういう,ほかのサービスとの連携もいままでにはない魅力だろうと思っています。それも立派な「ビジネスメリット」だと思うんですよね。
須藤氏:
あとははまぁ,皆さんご想像いただけるでしょうからわざわざ言いませんでしたが,単純にゲームの制作費が安いです。しかもマルチユース。
4Gamer:
そうなんですよね。繰り返しですが,一種のブラウザゲームだから当たり前ですけど,完全なマルチユースなんですよね。
須藤氏:
PCとスマホでのサービスをあらかじめ視野に入れてゲームを作ってしまえば,iOS版とAndroid版を用意する必要はありません。しかもアップデートも楽です。
4Gamer:
それは結構大きなメリットになる気がしますね……。
須藤氏:
審査を今か今かと待ちながら,リリースを切ったり初動の仕込みをしたりしなくても大丈夫です。例えばTVCMと連動してプロモーションをしたいメーカーさんがいらっしゃった場合,僕らがそのスケジュールに合わせて融通を利かせるべきだと考えています。……もちろん,事前にご相談はいただきたいですけど!
4Gamer:
目に見えづらい部分で結構なメリットがありそうですね。
「メーカーファースト」の考え方は,最終的に「ユーザーファースト」へと結びつく。作り手が少しでも自由に,より新しいものにチャレンジしやすい環境を
4Gamer:
今までの話をなんとなく総括して考えると,一種の業界発展のために,デベロッパが仕事をしやすいようなものを目指して作っている,と。
脇氏:
概ね間違っていないと思います。
4Gamer:
ということは,メーカーさんが「やりたいな」と思っていることは,リーガルやコンプライアンス上問題がないものであれば通してくれそうだと勝手に考えてるんですが,もしかしてシリアルコードも配布しやすかったり?
須藤氏:
はい。ユーザーさんがお金を払う必要のないコードなら,僕らに断りなくやっていいルールになっています。
4Gamer:
まぁPCゲームの分野では当たり前なんですけど,昨今のスマホ事情を見ているとちょっと気になってしまいました。5000円のソフトにシリアルコードを付属させたりとかそういうのはどうでしょう。
須藤氏:
あくまでも「プロモーション目的」であって,シリアルコードを5000円で販売しているわけではない,ということであれば問題ないです。
4Gamer:
なるほど。まぁそういうのを野放しにできない事情も分かりますし,プラットフォーマーを非難するつもりはないですが,あまりにも自由を奪って,できることを減らしてどうするんだろう……と,最近ちょっと思ってまして。
須藤氏:
それもありますが,誤解を恐れずに言うと,タイトル自体に魅力がなければ,いくらシリアルコードを付けようが,ダウンロード不要になろうが,お客様は絶対プレイしないんですよね。なので今回のレギュレーションに,とくに問題も不安も感じていません。
4Gamer:
確かにそこに行き着くんですよね。
須藤氏:
ヤフーには「ユーザーファースト」という言葉があるんですが,僕らのサービスは「タイトル/メーカーファースト」でいいんじゃないかと思っています。プレミアム会員だったらこんなアイテムが当たるよとか,Tポイントの還元率が高いよとか,やろうと思えばいろいろ出来ますが,それも結局のところ面白いゲームがなければまったく意味がないのです。
4Gamer:
「面白いゲームがすべてである」というのはまったくそうですね。むろん,面白さにはいろいろなベクトルがあるわけですが。
須藤氏:
ええ。その面白いゲームを作ってくれるのはメーカーさんであって,僕らは箱でしかないわけです。この「箱」を,メーカーさんにとって良い環境にすることがユーザーのメリットにつながるのであれば,「タイトル/メーカーファースト」こそが。真の「ユーザーファースト」なんじゃないかと。
脇氏:
そもそもこの業界は,作り手が楽しめないと発展しないんですよね。
4Gamer:
ゲームプラスは,作り手が少しでも自由に,より新しいものにチャレンジしやすいプラットフォームである,と。
脇氏:
そうですね。そして,そこから生まれたタイトルを多くのユーザーさんに遊んでいただいて,自信をつかんでいただきたいです。
4Gamer:
ヤフーってなにせ本当の「マス」なので,僕も含めたコアめのゲーマーの人からすると「うーん?」というイメージがないとは言い切れませんが,裏を返せばYahoo! JAPAN ID持ってない人っているのかしら……というのもあり。そのうえでゲームプラットフォームが出来上がったというのは,結構大きなことである気がします。
脇氏:
もちろん,これからさまざまな壁が待っているとは思うんですけどね(笑)。
4Gamer:
そこは承知で,それでも「新しい何か」を提案したい?
脇氏:
ええ。僕らとしては,業界が発展したときにそこでビジネスができればいいと考えています。エンタメの世界って,世の中にない「楽しい」とか「価値を作る」ことに惹かれた人が生業にする場所であって,お金を稼ぐためだけにこのゲーム業界を選ぶかと言われれば,きっとみなさんそうではないでしょうし。
4Gamer:
ちょっと前だと,お金を稼ぐためにゲーム業界に来た人が結構いましたよ(笑)。
(一同:笑)
脇氏:
まぁでも,新しい提案をしてみんなを楽しませたいという“おもてなし精神”がないとやっていけないと思うんですよね。だって,つらいじゃないですかゲーム開発って。
4Gamer:
もっと「楽」できる仕事だってきっとありますしねえ。
脇氏:
開発だけじゃなくて運営もそうですけど,一生懸命作ったものとか,一生懸命考えたイベントが,ときにはそりゃもうボロクソに言われるわけですよ。
須藤氏:
寝ないでがんばってるのに。
でもそれでも,夢中になってみんなに遊んでほしいから,そういうことが好きだから,できるんだと思います。
4Gamer:
どう表現してもおこがましい感じになるのでうまく言えないんですが,そういう人達にもうちょっとラクしてほしいですね……。ラクしてというか,新しいことにチャレンジしやすくなってほしいというか。
脇氏:
そうなんですよねえ。
4Gamer:
でも当たった作品の続編を作るのは,リスクという意味では一番効率いいわけですし。
須藤氏:
まあ,確かに「外れづらさ」はありますよね。
4Gamer:
数字をコミットしなきゃいけないですし。
でもそれって,やっぱり判断する人の思考次第だと思うんですよね。そんなに多くの開発現場の人と話したわけではないですが,たぶん現場には「新しいものを作りたくない人」なんてそんなにいないんじゃないかなぁ。
須藤氏:
難しいですよね。経営者とクリエイターの視点の違いって。
4Gamer:
それはすごく分かります……。得てして相反するものですし。
脇氏:
続編を求めてる人がいるから,その声に応えているという意味では,それもとても大事なことだから否定はしませんよ。
4Gamer:
でもそれは本当に「求めている」んですかね。“ほかのものを知らない”か“目がいかない”という可能性もないですか?
脇氏:
うーん,どうなんでしょう。
4Gamer:
これずっと思ってるんですけど,1が2になり,2が3になり,3が4になり……とシリーズものが進化していく過程で,もちろん例外もありますが,基本的には縮小再生産しかできないと思うんです。数字が増えるにつれてプレイヤーがどんどん増えていくって,一般的にはちょっと難しいことですし。
脇氏:
続編を作ると濃いユーザーが集まるので,そういう人達を優先的におもてなしすると数字的には先細っちゃうというのはありますよね。違うものを作ったときに,定着していたお客さんを逃がしたくない心理が働いて,チャレンジしづらくなってしまうのかなと。
4Gamer:
雑誌もそうです。雑誌が1つ年を重ねると読者も1つ歳を重ねるわけで。その人達がずっと読んでくれてる中で,新しいことをやろうというのは結構難しいことなんです。ヘタしたら「いまいる読者」がいなくなってしまうという恐怖がある。
脇氏:
失敗しなければ安心して歩いて行ける道なのに,なぜ失敗しにいって醜態を晒すのか,という考え方の人もいますしね。
4Gamer:
いやいやさすがにゲーム業界にはそういう人はいないと思いたいです……。
脇氏:
ですよねきっと。
4Gamer:
まぁそういう意味では,今までとはちょっと違った,新しい何かをもたらす可能性があるので,業界的にはe-Sportsとかにちょっと注目しているのです。
脇氏:
e-Sportsにかこつけてゲームプラスの話してもいいですか?(笑)
4Gamer:
おや? どうぞどうぞ。
脇氏:
ゲームプラスは,なんでもURLで送れるというHTML5の強みを生かして,「ここでゲーム大会をやっているから見にきてね」という導線を作りやすくなっています。周りの人に広げやすいので,e-Sportsの文化を作るのに向いてると思うんですよね。
4Gamer:
確かにそうですね。「Twitchで観られるよ!」と言われても,詳しくない人にはちょっとハードル高いですしね。
須藤氏:
去年あった議論で言うと,e-Sports的にも一気に世の中が,オリンピックに向けた雰囲気になっていったわけじゃないですか。でも,僕らのプラットフォームのe-Sportsって,そことは対極的な発展の仕方をするかもしれないと思ってます。草の根コミュニティから始まって……みたいな。
4Gamer:
参加も観戦も,URLで気軽に送れることが何かのブレイクスルーになることに期待してます。
発表会のテーマは「新大陸発見」。発見した大陸は,ぜひみんなで開拓していきたい
4Gamer:
さて,ゲームプラスがなんとなく形になって,次の段階に進むのは何年後になると思いますか。
須藤氏:
タイトルがどっと増えてくるのは……多分1年後ぐらいですかね。
脇氏:
我々のこともそうですけど,バンナムさんとドリコムさんのプラットフォームが来年の夏という話なので,そのタイミングで業界の「文化」としてどこまで仕上がっているかが分かって,その後どうなっていくのかが見えてくるのかなと。
須藤氏:
タイトルの拡充に合わせて,2018年4月には,お客様の目に見える形で新しい機能を盛り込みたいですね。
4Gamer:
ヤフーらしく,なんとなくですけど「ライフスタイル」を提案してほしいです。
脇氏:
あらゆるサービスのAPIをつないで,情報を反映するmyThingsというサービスがありまして,それをゲームに絡めるのを各社さんにオススメしているので,今後ライフスタイル型のタイトルが出てくる……んじゃないかな,と。希望的観測ですけど。
須藤氏:
サービスとしてですか……。繰り返しになりますけど,タイトル次第になると思っています。ライフスタイルを変えるのはあくまでもユーザーさんですし,ユーザーさんが求めてるのは僕らのプラットフォームという箱ではなくて,タイトルなわけで。
4Gamer:
なにかそういう方向で見えてるものってありますか?
須藤氏:
ちょっとご希望のものとは違うかもしれませんが,万歩計機能と連動したタイトルが8月にリリースされます。
4Gamer:
え。8月って再来月ですよね?(編注:インタビューは6月に実施された)
脇氏:
このインタビューが公開される頃には発表されていると思うんですが,「チョコボのチョコッと農園」という名前の。
チョコボ!
須藤氏:
「農園」っていうと,刈り取って植えて……みたいなものを想像すると思うんですが,それに加えて歩いて農園を育てる要素が入っています。どこまでいけるか分からないですけど,これもまたチャレンジですね。
4Gamer:
いいじゃないですか,チャレンジ。
じゃあちょっと,逆のことを聞いてみます。今HTML5で出来ないことってなんですか? 昔だったら「スマホのカメラにアクセスできない」とかありましたけど。
須藤氏:
いまは使えるんですよね。
脇氏:
2年前よりもかなり進化してます。
須藤氏:
あえてあげるなら,端末のランチャーにアイコンが出ません,とかかな?
4Gamer:
ダウンロードしませんから(笑)。
脇氏:
出来ないことを探さなきゃいけないレベルになったといえると思います。
須藤氏:
あ,出来ないことありました。オフラインプレイ!
脇氏:
そりゃそうだろう……(笑)。
4Gamer:
出張で飛行機によく乗るんですけど,10時間以上も機内にいると,これはチャンスとばかりに何かゲームをやろうと思うわけですけど,ほとんどのスマホゲームは通信必須なんですよね……。
脇氏:
通信が必要なのはアプリも同じですし,まぁ逆にそこは「差がない」ということで(笑)。
須藤氏:
確かにユーザーが感じる明確な差異って何があるんだろう。
脇氏:
差異……とはちょっと違うかもしれませんけど,ブラウザの場合だと,アプリのように購入しているとか,自分のものになっているとか,そういう感覚が薄くなるかもしれませんね。所有欲を満たしにくいといいますか。
4Gamer:
なるほど。でもそう感じるのは,業界の人だけ……な気もします。「本当の一般人」に接することが増えて,ますますそんな気がしてます。
脇氏:
そうであれば杞憂なんですけど。
4Gamer:
ともあれ,ローンチから10か月ぐらい経ったら,またインタビューをしにうかがいたいですね。その後どうですか? って。
須藤氏:
誇らしげに受けられるようになってるといいな……。
4Gamer:
受けてくれなかったら,そういうことなんだろうなと思っておきます(笑)。
脇氏:
いやホントに良いご報告ができるように頑張りたいですね。
これだけの方々に賛同していただいて,スタート時からやろうとご協力いただいているのは,本当に奇跡だと思っています。それに応えるためにも,僕らに何ができるか必死で考えますし。
須藤氏:
まずはしっかりインフルエンサーを捕まえたいですね。今ゲーム業界を支えてくれているような人達だと思いますので。
脇氏:
それ以外の人達に対して,サービスの特徴が伝わりにくいのが難点なんですよね。ダウンロード不要,インストール不要で遊べるよ,と言葉では伝えられますが。
4Gamer:
文字だけ見るとちょっと胡散臭いですね(笑)。
須藤氏:
そうなんですよ(笑)。でもそれは多分1回やってみれば体感レベルで理解できるので,発表会を機に,そういう人達を増やしたいです。
脇氏:
発表会のテーマで「新大陸発見」を掲げてるんですけど,行き着いた先の新大陸には,先住民族がいるかもしれません。でも彼らを排除するのではなくて,共存したいと心から思っています。新しい大陸をみんなで作っていきたいなと。また半年後に,どういう大陸になっているかを,ぜひ聞きに来てください。
4Gamer:
ありがとうございました。
――2017年6月27日収録。
「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」公式サイト
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