レビュー
簡単オーバークロックボタンでリファンレスの性能を超える
iGame GeForce RTX 3080 Vulcan OC 10G
Colorful Technology(以下,Colorful)というと,日本市場ではまだそれほど浸透していないものの,中国市場ではトップシェアを誇るグラフィックスカードメーカーである。日本市場に本格参入したのは2017年と,比較的最近のことだ。
そのColorfulが展開する「iGame」ブランドから,今回は「GeForce RTX 3080」(以下,RTX 3080)搭載モデルとなるグラフィックスカード「iGame
OC仕様のiGame RTX 3080 Vulcan OCが,どの程度の性能を発揮できるのかは気になるところ。そこで,実際のゲームを含めたテストを行い,iGame RTX 3080 Vulcan OCが持つポテンシャルをリファレンス製品と比べてみたい。
NormalとTurbo,2種類のVBIOSを搭載
ブーストクロックは最大1800MHz
ベースクロックは1440MHzで,ブーストクロックは1710MHzと,この点はリファレンスと変わりはない。メモリクロックも19GHz相当で,こちらもリファレンスと同じスペックだ。なお,後述するテスト環境において,「GPU-Z」
TurboでもGPU-Zでコアクロックの動きを追ってみたところ,1965MHzまで上昇していた。Normalと最大は変わらないものの,Turboのほうがより高いクロックで動作する頻度が高いということなのだろう。
長さ30cm超,重量2kgオーバーのヘビー級
情報や画像を表示できる液晶パネルを搭載
それではカードそのものについて見ていこう。
iGame RTX 3080 Vulcan OCのカード長は約310mm(※突起部含まず)だ。「GeForce RTX 3080 Founders Edition」(以下,RTX 3080 FE)が同287mmだったのと比べると23mmほど長い計算になる。マザーボードに装着した場合,垂直方向に30mmほどブラケットからはみ出る点も留意しておきたい。
さて,iGame RTX 3080 Vulcan OCの外観で目に留まるのは,カードの側面にある小型液晶パネル「iGame
この液晶パネルには,先ほどのiGame Centerを使って,GPUの動作クロックやファンの回転速度,GPUの温度などのシステム情報を表示できる。液晶パネル部分は,90度まで角度を変えられるので,PCを横置きにした場合でも見やすい角度で設置できるという凝ったものだ。
ちなみに,ゲーム内のフレームレートをiGame Status上に表示することもできるが,ゲーム画面から目を離してグラフィックスカードでフレームレートを確認する需要があるのか,少々疑問である。
なお,iGame Status Monitor 3.0があるためか,光る部分は意外と少なく,カード前面の左上および右上のラインと裏面のロゴだけだった。もちろん,これらのカラーLEDは,iGame Centerで発光色や発光パターンをカスタマイズすることが可能だ。
iGame RTX 3080 Vulcan OCのGPUクーラーは,「Storm Chaser」と呼ばれる3スロット占有タイプのColorful独自のもので,90mm径相当のファンを3基搭載している。これらのファンは羽根が13枚で,エッジの角度に変化を付けた独特な形状をしており,Colorfulによると,このデザインを採用したことで風圧が高まりエアフローが向上するという。
iGame Centerを利用すれば,これらのファン回転数を,1%刻みで30〜100%に固定できるほか,GPUの温度と回転数を示したグラフから,ユーザーが任意の温度における回転数を設定することが可能だ。なお,両端の2基と中央にある1基の回転数を別々に設定できる。
また,Colorfulによると,ヒートシンクには前世代のモデルから面積が50%増大したという銅製のベースプレートを採用しており,これがGPUおよびメモリチップに接して,そこからさらに8mm径のヒートパイプが6本,放熱フィンへと伸びる構造を採用しているとのことだ。
補助電源コネクタは,一般的な8ピンを3基用意しており,電力供給はRTX 3080 FEと比べて8ピン1基分強化されている。
外部出力インタフェースは,DisplayPort 1.4aが3ポート,HDMI 2.1 Type Aが1ポートという構成で,このあたりはRTX 3080 FEと違いはない。
iGame RTX 3080 Vulcan OCの性能をRTX 3080 FEと比較
それでは,テスト環境の構築に話を移そう。
今回,比較対象にはRTX 3080 FEを用意した。また,iGame RTX 3080 Vulcan OCは,NormalとTurboのそれぞれでテストを行い,リファレンススペックのRTX 3080 FEと比べて,性能に差があるかどうかを確認しようというわけだ。
グラフィックスドライバには,テスト時において最新バージョンとなる「GeForce 461.40 Driver」を使用した。CPUには16コア32スレッドの「Ryzen 9 5950X」を,マザーボードにAMD X570チップセットを搭載するMSI製「MEG X570 ACE」を使用しているが,これはRTX 3080がPCI Express 4.0をサポートしているためだ。それ以外のテスト環境は表のとおり。
CPU | Ryzen 9 5950X(16C32T,定格クロック3.4GHz, |
---|---|
マザーボード | MSI MEG X570 ACE(AMD X570, |
メインメモリ | G.Skill F4-3200C16D-16GIS |
グラフィックスカード | Colorful Technology iGame GeForce (GeForce |
GeForce RTX 3080 Founders Edition (グラフィックスメモリ容量10GB) |
|
ストレージ | Samsung Electronics SSD 850 |
電源ユニット | SilverStone Technology |
OS | 64bit版Windows 10 Pro(Build 18363.1379) |
チップセットドライバ | AMD Chipset Drivers 2.07 |
グラフィックスドライバ | GeForce 461.40 Driver |
テスト内容は,4Gamerのベンチマークレギュレーション23.2に準拠。それに加えて,リアルタイムレイトレーシングやDLSSの性能を確認すべく「3DMark」(Ver
なお,3DMarkの「DirectX Raytracing Feature test」は,なぜかWindows 10「October 2020 Update」のインストールに失敗するので,今回は実行できなかった。また「Far Cry New Dawn」は,CPUのボトルネックが著しくなってきたため,今回のテストでは省略している。このあたりは,次期レギュレーションで新しいタイトルに変更するつもりだ。
バイオやCoDでFounders Editionを超える性能
TurboはNormal比で3%ほど性能向上
それでは,3DMarkから順にテスト結果を見ていこう。なお,以下のグラフ内では,Normalの計測結果をiGame RTX 3080 Normal,Turboの結果はiGame RTX 3080 Turboと記しているのを断っておく。
Fire Strikeの総合スコアをまとめたものがグラフ1となる。
iGame RTX 3080 Vulcan OCは,NormalではRTX 3080 FEに若干届いていない。だがTurboでは,Normalから1〜3%程度スコアを伸ばし,RTX 3080 FEと同等かそれ以上のスコアを発揮している点は評価に値する。
では,Fire Strikeのスコアの詳細に移るが,グラフ2は,総合スコアからGPU性能を見る「Graphics score」を抜き出したものだ。
このテストでは,CPUの影響を受けなくなるが,それでもiGame RTX 3080 Vulcan OCは,NormalでRTX 3080 FEに若干差を付けられて,Turboで逆転を果たすという傾向は変わらない。TurboとNormalの差は1〜3%程度と,オーバークロックの効果は総合スコアと同等だ。
続くグラフ3は,ソフトウェアベースの物理演算テスト結果を「CPU score」として抜き出したものだ。今回のテストではCPUを統一していることもあり,おおむね35500前後ではあるが。Turboだけはなぜか低いスコアとなっているのが目に付く。TurboではCPU負荷が少し増加して,その影響でスコアが低くなるのかもしれない。
グラフ4は,GPUとCPU両方の性能が効いてくる「Combined test」の結果をまとめたものだ。
ここでは,iGame RTX 3080 Vulcan OCのNormalのスコアが奮わず,1920×1080ドットではRTX 3080 FEに約6%の差を付けられてしまっている。だがTurboでは,そこからスコアを約7%ほど伸ばし,RTX 3080 FEを上回っている点は立派だ。ここでもNormalでRTX 3080 FEに届かず,Turboで逆転を果たすといったこれまでの傾向に変化はない。
続いては,DirectX 12世代のテストである「Time Spy」の結果を見ていこう。まずは総合スコアをまとめたグラフ5からだ。
Time SpyでもFire Strikeと同様に,iGame RTX 3080 Vulcan OCは,NormalではRTX 3080 FEに若干届いていない。ただ,その差は1%にも満たない。一方,Turboではそこから約2%ほどスコアが向上して,RTX 3080 FEに1%ほどの差を付けている。
次のグラフ6は,Time SpyのGPUテスト結果,グラフ7はCPUテストの結果をそれぞれまとめたものだ。
やはり,GPUテストは総合スコアを踏襲しており,iGame RTX 3080 Vulcan OCは,NormalでRTX 3080 FEに敵わず,Turboで逆転を果たしている。ただ,NormalからTurboでのスコアの伸びは3%弱と,総合スコアよりその差が広がっており,ブーストクロックの向上が性能に影響しているのがよくわかる。
一方のCPUテストでは,Fire Strikeと同様に,CPUが同一なためスコアは横並びになるはずなのだが,iGame RTX 3080 Vulcan OCのTurboだけ若干落ち込んでいる。やはりここでもTurboではCPU負荷が高いのではなかろうか。
リアルタイムレイトレーシングの性能を計るPort Royalの結果がグラフ8だ。
Port Royalでも,iGame RTX 3080 Vulcan OCは,NormalだとRTX 3080 FEに若干届いていない。だが,TurboではNormalからスコアを3%ほど伸ばしており,ブーストクロックの向上がレイトレーシング性能にも影響することが確認できる。Turboでは,RTX 3080 FEを上回っている点も評価できる。
続いて,DLSSの性能を見るNVIDIA DLSS feature testの結果がグラフ9となる。
ここでは,iGame RTX 3080 Vulcan OCのNormalがRTX 3080 FEといい勝負を繰り広げ,Turboが若干抜けた形になっている。ただ,DLSS offとDLSS onを比べてどれだけスコアが伸びているかを計算すると,いずれも153〜180%とほぼ揃っており,DLSSの効果に差異はないようだ。
では,実際のゲームではどうなのだろうか。グラフ10〜12は「バイオハザード RE:3」の結果となる。
ここでまず注目したいのは,iGame RTX 3080 Vulcan OCのNormalが,すべてにおいてRTX 3080 FEを上回っている点だ。さらに,TurboではNormalから平均フレームレートで2〜3%程度,最小に当たる99パーセンタイルフレームレートでも2〜7%程度,それぞれ伸ばしている。とくに,1920×1080ドットの99パーセンタイルフレームレートで,RTX 3080 FEに20fps近い差を付けている点は,なかなかインパクトが大きい。
続いて,グラフ13〜15が「Call of Duty: Warzone」の結果となる。
iGame RTX 3080 Vulcan OCのNormalがRTX 3080 FEに対して優位に立つ点は,ここでも変わらない。1920×1080ドットの99パーセンタイルフレームレートで,その差が10fps弱ほど開いている点は目を見張るものがある。Turboでも,Normalからしっかりとフレームレートが向上しており,RTX 3080 FEとの差は平均フレームレートで3〜4%程度,99パーセンタイルフレームレートで5〜7%程度にまで広がっている点は評価できよう。
さらに,「Fortnite」の結果をグラフ16〜18に示す。
ここでは,一転してiGame RTX 3080 Vulcan OCのNormalは,RTX 3080 FEの後塵を拝しており,3DMarkと似た傾向になった。しかも,その差は5〜8%程度も開いており,看過できない。だがTurboになると,Normalからフレームレートがしっかりと向上してRTX 3080 FEを上回っている。ゲームによって,NormalとTurboを使い分けるのがいいのかもしれない。
グラフ19〜21は「Borderlands 3」の結果だ。
ここでもFortniteと同様に,iGame RTX 3080 Vulcan OCのNormalは,RTX 3080 FEに届いておらず,その差も3〜6%程度と決して小さくない。ただ,Turboに切り替えれば,RTX 3080 FEに対して最大で約3%の溝を開けており,ゲームの快適さを向上できると言えそうだ。
グラフ22は「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(以下,FFXIV漆黒のヴィランズ ベンチ)の総合スコアをまとめたものだ。
iGame RTX 3080 Vulcan OCのNormalは,RTX 3080 FEに迫ってはいるものの,今一歩届いていない。だが,スクウェア・エニックスの指標では,スコア7000以上が最高評価であり,Normalは3840×2160ドットでも,その倍以上となるスコアを発揮している点は立派だ。一方,Turboは,Normalから1〜2%程度スコアを伸ばして,RTX 3080 FEを上回っている。
そんなFFXIV漆黒のヴィランズ ベンチにおける平均フレームレートと最小フレームレートをまとめたものがグラフ23〜25だ。
平均フレームレートは,総合スコアを踏襲する形となっているが,それぞれの差は,実フレームレートで2〜3fps程度しかなく,実際のゲームでこの差を体感することはなかなか難しいのではないだろうか。なお,最小フレームレートはCPU性能の影響が大きいため,全体的にあまり差が付いていない。
グラフ26〜28には,「PROJECT CARS 2」の結果をまとめている。
ここでは,iGame RTX 3080 Vulcan OCのNormalがRTX 3080 FEに勝ったり負けたりのいい勝負を演じている。ほぼ,同程度の性能と言っていいだろう。Turboは,平均フレームレートでNormalから3〜4%程度伸ばしているものの,最小フレームレートは約1%しか向上していないので,体感的にはあまり変わらない。
NormalはFounders Editionより低い消費電力を実現
Turboでは消費電力が増大
Colorfulによると,iGame RTX 3080 Vulcan OCのTDPは370Wであるそうで,これはRTX 3080のリファレンス仕様である320Wから,50Wも増えてしまっている。では,実際の消費電力はどの程度なのだろうか。
今回は,NVIDIAが開発した消費電力計測ツール「PCAT」(Power Capture Analysis Tool)を用いて,グラフィックスカード自体の消費電力を計測してみたい。今回は3DMarkのTime Spyにおいて,消費電力が高くなる傾向がでたGraphics test 2実行中の結果を示している。その結果がグラフ29となる。
この結果を見ると,iGame RTX 3080 Vulcan OCは,NormalとTurboで明らかに消費電力が異なるのが分かる。Normalは320W前後で推移して,RTX 3080 FEと同程度か若干少ない程度であるのに対して,Turboは370W前後で推移して,消費電力が増加しているのが確認できる。
そこで,グラフ29の測定結果から,分かりやすくなるように中央値を求めたものがグラフ30となる。
iGame RTX 3080 Vulcan OCのNormalは,RTX 3080 FEより10W以上も低い点は評価できよう。その一方で,TurboはNormalから50W近くも消費電力が増大しており,RTX 3080 FEを大きく上回っている点は正直いただけない。
続いて,若干話は逸れるが,GPU-Zで表示される消費電力が実態に即したものであるかどうかを確認してみたい。GPU-Zでは,「Board Power Draw」という情報にカード全体の消費電力が示されるので,PCATと同様に3DMarkのTime SpyにおいてGraphics test 2実行中のログをまとめたものがグラフ31となる。
PCATの結果におおむね近いようにも見えるが,これだけでは少々分かり難いので,このグラフから中央値を求めたものが,グラフ32となる。
これを見ると,PCATから若干ずれた値となっているが,この原因はGPU-Zのサンプリング数が少ないためだ。つまり,Graphics test 2よりもっと長いテストを行えば,GPU-Zでもかなり実際の消費電力に即したデータが得られるだろう。また,今回のテストにおけるPCATとGPU-Zの差は約5%であり,GPU-ZはPCATほど正確ではないものの,消費電力のおおまかな傾向は確認できそうだ。
さて,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の最大消費電力のみを計測した結果も見てみよう。
テストにあたっては,Windowsの電源プランを「バランス」に設定。さらに,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点をタイトルごとの実行時,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」としている。その結果がグラフ32だ。
ここでも,iGame RTX 3080 Vulcan OCのTurboにおける消費電力が際立っている。このテストでは,ピーク値を取るために差が広がる傾向はあるのだが,それでもTurboとNormalの差が36〜71W程度にも達している点は指摘しておきたい。RTX 3080 FE比で見ると,Normalは下回っていることが,ここでも確認できる。
最後に,GPU-Zを用いて計測したGPU温度も確認しておきたい。ここでは,温度約24℃の室内で,テストシステムをPCケースに組み込まず,いわゆるバラックに置いた状態から,3DMarkの30分間連続実行時を「高負荷時」として,アイドル時ともども,GPU-Zから温度を取得することにした。
GPUによって,温度センサーの位置や取得方法が異なっていることは想像に難くなく,またそれぞれファンの制御方法が違うため,同列に並べての評価にあまり意味はない。それを踏まえた結果はグラフ33のとおり。
iGame RTX 3080 Vulcan OCは,高負荷時にNormalで65℃,Turboでも70℃未満で抑えており,GPUクーラーの冷却性能は十分高いと言ってよさそうだ。
最後に,筆者の主観であることを断ったうえでiGame RTX 3080 Vulcan OCの動作音について述べると,非常に静かという印象を受けた。Colorfulは,GPUクーラーの静音性についてあまりアピールしていないが,GeForce RTX 3080クラスの製品としては,十分静かと言っていい。少なくとも,RTX 3080 FEよりは動作音が小さいのは確かだ。
市場想定価格は11万8,880円
NormalとTurboを使い分けるモデル
現時点では,iGame RTX 3080 Vulcan OCの実勢価格は12万円前後から13万円前後で,ほかのRTX 3080搭載モデルとあまり大きな価格差はない。RTX 3080搭載製品の入手自体が難しくなっているが,このiGame RTX 3080 Vulcan OCは,Normalの消費電力の低さやTurboでの性能向上を考慮すると,コアゲーマーにとって十分選択肢のひとつに挙げられるモデルと言っていいだろう。
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