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印刷2018/03/01 00:00

イベント

プロゲーマーやプロデューサーが,ゲーム業界の就活を語った「TOPANGA 就活準備講座」レポート

 2018年2月25日,格闘ゲームイベント団体TOPANGAが主催するトークイベント「TOPANGA 就活準備講座」が,東京・中野のRed Bull Gaming Sphere Tokyoにて開催された。

画像集 No.001のサムネイル画像 / プロゲーマーやプロデューサーが,ゲーム業界の就活を語った「TOPANGA 就活準備講座」レポート

 リクルートキャリアの就活準備・就職情報サイト「リクナビ 2019」の協力で実現したこのイベントでは,ゲーム業界の仕事を紹介するという主旨で,「ストリートファイター」シリーズのプロモーションプロデューサーを務める綾野智章氏や,スクウェア・エニックスでさまざまなタイトルをプロデュースしている門井信樹氏らが登壇,ゲーム制作の過程や最近の業界事情についてトークを繰り広げた。
 イベントは昼・夕の2公演で行われたが,本稿では16:00からスタートした後半の模様をレポートする。

会場となった東京・中野のRed Bull Gaming Sphere Tokyo
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イベントのMCを務めた声優の鈴木美咲さん(左)と,ライターのハメコ。氏(右)。なおイベントの模様は「OPENREC.tv」でも配信された
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「TOPANGA 就活準備講座」告知ページ


AbemaTVの「ウルトラゲームス」プロデューサー,竹原康友氏
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 最初に登壇したのは,OPENREC.tvの運営などを手がけるCyberZのOPENREC事業部 取締役,青村陽介氏と執行役員の大友真吾氏,そしてAbemaTVでプロデューサーを務める竹原康友氏の3名で,「e-sportsとメディアビジネス」というテーマでトークを繰り広げた。

 OPENREC.tvやeスポーツ大会の「RAGE」,AbemaTVのゲーム専門チャンネル「ウルトラゲームス」といった,登壇者達が手がける事業についての簡単な説明のあと,話題はいよいよ今回のテーマであるeスポーツに移っていった。
 大友氏によると,RAGEは興行化する目的で立ち上げられたのではなく,OPENREC.tvを国内一のプラットフォームにするべく,その中の1コンテンツとして考えたのが発端だったという。しかし当時のeスポーツの盛り上がりと,市場として黎明期であるということを踏まえ,自分達がNo.1の大会を作ってしまえばいいのではないか,という思いで,RAGEを企画したそうだ。
 大友氏はさらに「No.1のeスポーツ大会を自社が持っていれば,動画プラットフォームであるOPENREC.tvも,おのずとNo.1になれる」と,「RAGE」の狙いを語っていた。

 そして青村氏は,OPENREC.tvがeスポーツに注力する理由として,2つの要因を明かした。うち1つは将来性で,ゲーマーを多数抱えているにもかかわらず,未成熟である日本市場に,大きなチャンスを見出したとのこと。「未成熟な市場において早くビジネスを作り上げることは,勝つための一番の戦略です。そういった点でも取り組まない理由がなかった」とのことである。
 2つめには,社員にゲーマーが多かったことを挙げた。サイバーエージェントグループではゲームの広告を扱うことも多く,ゲーム好きな社員が多数在籍しているという。そのためeスポーツ事業に関する社内の熱意も高かったとのことで,ビジネスの背景には,そうした追い風もあったと語っていた。

「RAGE」のプロデューサーでもあるCyberZの執行役員,大友真悟氏(左)と,OPENREC事業部 取締役の青村陽介氏
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 続いては,ポノスの大江戸開発部部長である板垣 護氏が登壇し,「スマートフォンゲーム『FIGHTCLUB』ができるまで」というテーマで,ゲーム制作の現場についてトークを行った。

ポノスの大江戸開発部部長兼「ファイトクラブ」プロデューサー,板垣 護氏
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 板垣氏は冒頭,就職活動へのアドバイスとして,「自分がどんな仕事がしたいのか,具体的なイメージがあると有利だと思っています。この会社にとにかく入りたい,なんでもやりたいというよりも,この会社に入ってこういう仕事がしたい,という話ができるといい」と語った。その実例として,職種ごとに分類したポノスにおけるゲーム開発の現状が紹介された。
 さらに板垣氏は,自らがプロデューサーを務める「ファイトクラブ」を例に,ゲームの制作過程を紹介。仕事がどんなタイミングで必要になってくるのか,そもそもプロジェクトはどのように進んでいくのかなど,ゲーム制作にまつわるさまざまな実情を語った。板垣氏は「自分はどんな仕事がやりたいのか,そのやりたい仕事はどのタイミングで発生するのか,ということを考えることが大事です」とアドバイスを送り,トークを締めくくった。

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イベントの合間では,プロゲーマーのウメハラ選手とマゴ選手,ボンちゃん選手がSPI性格検査に挑戦する動画が上映された。SPI検査の結果によると,ウメハラ選手はリーダーに向いた性格で,経営企画や店舗経営,プランニングなどの職種がオススメ,とのこと
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 5人目の登壇者は,Aetas代表取締役社長の岡田和久――つまり4Gamer.net編集長のKazuhisaだ。ここでは「Ask me anything:メディアのお仕事なんでもお答えします」というテーマで,来場者からの質問に岡田が答える形での進行となった。

Aetas代表取締役社長 兼 4Gamer.net編集長の岡田和久
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 最初の質問は,「eスポーツの定義について」。岡田は「あくまでも個人の感想」と前置きしたうえで,今後のeスポーツは「League of Legends」のようなひたすら競技性を追求していくタイプと,格闘ゲームのような“魅せて”楽しむタイプの2つに分かれていくのではないか,という自らの予想を語った。「魅せてなんぼ,楽しませてなんぼの格闘ゲームというコンテンツはプロレスに近い。純粋に競技の結果を追い求めるeスポーツとはまた違う枠のもの」と話し,「ゆくゆくはお互いの着地点が見つかると思いますが,今はその過渡期なので,だいぶゴタゴタしているなという印象です」と,現状についての率直な感想を述べた。

 また「日本のeスポーツの盛り上がり方の方向性についてどう思うか」という質問では,こちらも「個人の見解」と前置きしたうえで,「土台のないものに建物だけを建てようとしている」と,現在の盛り上がりに対する印象を語った。「選手やプレイヤー,コミュニティの人々が盛り上がり,知名度が上がって,そこで初めてなにかが行われるべき」だといい,それがEVO Japanを開催した理由でもあったという。「EVO Japanのような“ゲーム大会”が,ゆくゆくはeスポーツの形になってほしい」と思いを述べた一方で,「いきなり上から箱を作っている」ような現状に対しては,「うわついた感じが否めない」との見解を示した。

 最後に「4Gamerの将来的なビジョン」について尋ねられた岡田は,「これからの4Gamerは,先のEVO Japanやゲームミュージックのコンサートなど,Webから飛び出した方向に事業を伸ばしていきたいと思っています。ゲームという題材を通じて,ユーザーやプレイヤー,つまり読者の皆さんとメーカーの皆さんをうまくつなぐことによって,業界全体の盛り上げに貢献していきたい」と語り,コーナーを締めくくった。


 続いては,スクウェア・エニックスでプロデューサーを務める門井信樹氏による,「ゲームの視聴率」というテーマのレクチャーだ。

スクウェア・エニックスのプロデューサー,門井信樹氏
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 門井氏は自身の就活について,企業研究を怠ってしまったことによる失敗談を明かしつつ,これから就職活動を始める学生に対して「今の世の中はSNSなどを使って,ゲーム業界で働いている方とも簡単に交流ができます。自分が働きたい仕事や企業について,いろいろと調べたほうがいい」とアドバイスを送った。
 さらに門井氏によると,スクウェア・エニックスにおけるプロデューサーという職種は,ゲームの開発ではなくヒト・モノ・カネを管理する仕事に近いとのこと。「プロデューサーという1つの職種をとっても,会社によって捉え方が違う」といい,企業研究の大事さを改めて強調した。

 また門井氏は,池袋のシアターカフェ&ダイニング「STORIA(ストーリア)」や,テレビ東京系列で放送中のテレビ番組「勇者ああああ」など,ゲーム以外にもさまざまな企画を実施していることを紹介。そうした企画を立ち上げた理由として,日本ではまだ「ゲームを見る文化」が根付いておらず,その文化を育てたいという狙いがあることを明かした。
 門井氏によれば,日本はゲームメーカーが商売すること自体においては非常に恵まれた環境であるものの,ゲームに対する根本的な支持がいまだにない,「市民権がない」状態だという。「ゲームは自分1人がやるものであって,他人と共有し,感情を分かち合うというところにはまだ至っていない」と感じた門井氏は,ゲーム市場を盛り上げていくためにも,「ゲームを見る文化」を育てる必要性を感じたとのことだ。

門井氏は「ゲームの市民権」を計る材料の1つとして,テレビの「視聴率」を挙げた。ネット上で配信されたゲームの番組を例に挙げ,それを強引にテレビ番組の視聴率に変換した数値は3%から4%ほどになるそうだ。比較対象としてサッカーやフィギュアスケート,将棋といったテレビで高い視聴率を獲得した競技を例に挙げた門井氏は,「ゲームもこのレベルまで盛り上げていかないといけない。ゲームを実際にはやらない人が,いかに試合や番組を見るかがポイントとなってくる」と語った
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 「ゲーム業界が,『次はどうするか』を考えるべき時に来ている」と語り,次に目を向けるべきはeスポーツなどの興行と考えた門井氏は,「ライブなどの興行に活路を見出した音楽業界のように,興行というジャンルは,(アーケードやコンソール,スマホに続く)ゲームの第4の市場としてチャンスがあるのではと思っています」と,新たな分野への期待感を表した。

ゲーム開発には欠かせない「デバッグ」を専門に行う企業であるデジタルハーツからは鬼塚直輝氏が登壇。同社の新プロジェクト「4th PARTY PROJECT」の紹介を行った。エンターテイメント業界を陰から支えるポジションとして,自社を位置づける試みとのこと
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 レクチャーの最後を飾ったカプコンの綾野智章氏のテーマは,「ストリートファイター プロモーションプロデューサーが書いたエントリーシートをカプコン人事がガチ評価した結果!」というものだ。

カプコンのプロモーションプロデューサー,綾野智章氏。自身の就活にまつわる経験として,当初から志望していたカプコンの選考を2回受け,2回落ちたという失敗談を明かした
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 まず綾野氏は,プロデューサーという職種が「仕事を作る仕事」であるとして,ちゃんとしたゲームが最大限に売れることを目指し,そのために売れる工夫を考える職種であると述べた。シナリオやプログラム,音楽といったゲームの中身をちゃんと作り上げることはもちろん,その環境を作るためのヒト・モノ・カネを揃えることは,できて当然の最低限だといい,年度末である3月に利益を最大化させることが基本的な考え方だという。
 綾野氏はさらに,「狙った時期に狙った利益を出すためには,なにかを仕掛けなければ達成できない」と続け,「新しいことにチャレンジすることがプロデューサーの役目であり,それが新しい仕事を生むことになる」と,プロデューサーが果たすべき役割を紹介した。
 また今回のイベントでは綾野氏が,昨年のカプコンの新卒採用で実際に使用されたエントリーシートに記入したうえで,それを人事に添削してもらった事例が紹介された。その詳細は割愛するが,かなり実践的な内容だったので,気になる人は配信のアーカイブをチェックしてみるといいだろう(アーカイブの閲覧にはOPENREC.tvのプレミアムアカウントが必要)。

綾野氏が記入した,カプコンのエントリーシート。修正すべき点や評価のポイントについて人事からの“ガチ”な評価コメントが寄せられた一方で,「コメントには一理あるが,それではこのスペースには入らない」と,綾野氏が逆に記入欄の大きさに注文をつける場面も
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イベントの最後には,プロゲーマーとして世界で活躍しているときど選手,スクウェア・エニックスの社員として働きつつ,兼業プロゲーマーとして数々の実績を残しているネモ選手,そしてスクウェア・エニックスで3DS版「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」のプロデューサーを務める横田賢人氏の3名が登場。「ゲームと共に生きる、働く」をテーマに対談を行い,自らの就活に関する思い出話などを語った
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 冒頭でも紹介したとおり,今回のイベントはこれから就職活動を行う学生達がターゲットだったため,普段のTOPANGA主催のゲーム大会などとはちょっと異なる客層が集まっていたのが印象的だった。イベント終了後,何人かの来場者に話を聞いてみたところ,参加の動機として「ゲーム業界に興味があった」「ゲームに関する仕事について知りたかった」といった声が目立ったことからも,その違いがうかがえる。
 とはいえイベントの感想を求めてみると,好意的なコメントがある一方で,「ゲーム業界の大まかな情報は把握できたものの,もう少し深い部分を聞いてみたかった」という声もあり,次回があるならばそのあたりが課題になるのではないかと感じられた。登壇者と来場者が交流できるような機会――例えばFAQコーナーや,休憩時間中に話しかけられる場など――があれば,企業の説明に終始するごく一般的な就活準備イベントと差別化ができ,より面白い気がするのだが。

 最後に,ネモ選手横田氏から来場者に送られたメッセージを紹介して,本稿の締めくくりとしたい。

横田氏:
 常日頃からの心構えとして,なにか行動をする時に一番やってはいけないことは,「思ったのにやらなかったこと」だと考えています。言葉としては月並みなものですが,やらなかった場合は結果も出ていないので,後から評価を下すこともできません。しかしなにかをやって失敗した場合は,自分の力が足りなかった部分が分かります。結果の良し悪しはともかくとして,なにかをやるほうが大事だと考えています。
 もし,ほかの人と考え方が違うのではないかと思ったとしても,僕は人とは変わっていると言われるほうが,それだけ人とは違った武器があるということで嬉しく感じましたし,あえて違うことをやっていました。それでいいのでは,と思いますね。

ネモ選手:
 就活で大事なことは,行動と相談です。自分が実際に就活を始めたのは遅い時期でした。どうしていいのか分からず,とりあえずということで,まずはとある企業に面接を受けに行ったんです。もちろんその面接は落ちたんですが,自分は面接の仕方が分からない,エントリーシートの記入が分からないといったことを大学の就活課に相談しに行って,さまざまなアドバイスをもらうことができました。
 また,就活課から企業を紹介されることもありましたし,大学との繋がりを持っている企業もありますから,内定をいくつも取ることができました。自分が分からなくても,ほかの人には分かることは結構あると思います。まずは行動してみて,分からないことは相談して助けてもらう,というのがいいんじゃないでしょうか。

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