インタビュー
断末魔を浄化し,少女は強くなる。尖った世界観のアクションRPG「CRYSTAR -クライスタ-」クリエイターインタビュー
その独特な世界観はどこから生まれたのか。物語の見どころについて,本作のプロデューサー/ディレクターを務めるフリューの林 風肖(はやし ふゆき)氏と,シナリオを担当した久弥氏に話を聞かせてもらった。
「CRYSTAR -クライスタ-」公式サイト
少女の涙を軸に,心の成長を描く
感情移入の手段としてのアクションRPG
本日はよろしくお願いします。
林 風肖氏(以下,林氏):
本作のプロデューサーとディレクターをしています,フリューの林と申します。
久弥直樹氏(以下,久弥氏):
久弥直樹です。「CRYSTAR -クライスタ-」ではシナリオを担当しています。
4Gamer:
さっそくですが,「CRYSTAR -クライスタ-」の企画が立ち上がった経緯から教えてください。
林氏:
今回の企画は,僕が感銘を受けたクリエイターの方にお話をさせていただく中で形になっていったものです。美少女と暗い世界観が好きなのですが,プレイしたあとで前向きになれるようなものを作りたいと思っていました。そうした中で,シナリオの久弥さんとキャラクターデザインのリウイチさん,キャラクターモデリングリードのntnyさんと4人で話し合って,企画の概要が固まってきたんです。
4Gamer:
立ち上げ時は,林さんの色が濃い企画だったということですか?
林氏:
最初は,僕の色が濃かったですね。「敵を倒すと断末魔が出てくる」「断末魔が字幕のような形で表現されている」「断末魔を泣いて浄化し,強くなっていく」という基本コンセプトは,すでに決まっていましたから。そのうえで,久弥さんやリウイチさん,ntnyさんといったクリエイターの皆さんの才能が生きるような形に調整させていただきました。
4Gamer:
では,久弥さんが今回の仕事のオファーをもらったときの感想を教えてください。
久弥氏:
最初に企画書を見たときは「林さんの好みがたっぷり詰まった,本当にやりたいことなんだな」と思いましたね。タイトルもすでに「CRYSTAR -クライスタ-」でしたし。キャラクターの基本設定など,大まかなところはすでに存在していたので,そこに自分が描きたいことや,必要なキャラクターなどを追加していった形になります。
4Gamer:
最初から方向性がかなり決まっていたということですが,普段,久弥さんがされているゲームやアニメなどの仕事では,こういったやり方は普通なのでしょうか?
久弥氏:
こういうやり方は初めてですね。普段の仕事であれば,こうした部分は自分で考えることが多いですから。「CRYSTAR -クライスタ-」では,林さんのやりたいことを一度受け入れたうえで,そこに自分のやりたいことやカラーを反映させ,作品を良くしていこうと思いました。
4Gamer:
普段の仕事と比べて,いかがでしたか?
久弥氏:
固有名詞を考えなくてよかったので楽でしたね(笑)。林さんが最初にイメージされた世界観なので,作中に登場する名称はお任せしたほうがブレがないと思いました。
4Gamer:
中でも断末魔で字幕が出てくる演出と,泣いて浄化するシステムはかなり印象的ですね。
久弥氏:
ええ。これは企画の最初から存在していて,最後まで貫いた要素です。
林氏:
最初から“泣くこと”が発想としてありました。人が泣いている姿には,リアルで本物の悲しみや悩みがある。では,人はどういうときに泣くのかと考えたとき,1つの答えとして罪悪感を覚えたときがあると思い至りました。断末魔は罪悪感を視覚化するために作ったものなんです。
4Gamer:
断末魔が浄化されると,どうなるのでしょうか。
林氏:
「思装」という武器や防具が手に入ります。また断末魔を得ることで,倒した敵の生前のエピソードが手に入り,キャラクターが背負った事情などが分かるようになっているんです。
4Gamer:
断末魔は何種類ぐらいありますか。
林氏:
全部で297種類です。ストーリーに絡む敵以外の断末魔と,それに紐づくエピソードは私が書きました。
4Gamer:
それだけの断末魔を考えるのは,かなり大変そうですね……。
林氏:
書いているときは,精神的にかなり追い詰められましたね。本当はもっと大人数で分担する予定でしたから。人の死に方を調べたり,殺人大百科のような本を買い込んだりして,一生懸命に断末魔を書いていました(笑)。
4Gamer:
発想の原点に“泣くこと”があっただけに,零の泣き顔がとても印象的ですね。
林氏:
ntnyさんと,開発のジェムドロップさんが頑張ってくださいました。僕は会うたびに「女の子が泣く姿って,とても気になりますよね!」と力説して(笑)。
4Gamer:
その泣き顔への思い入れが伝わったと(笑)。今回,ジャンルとしてアクションRPGを選んだ理由は何でしょうか。
林氏:
ダークな展開で知られている,とあるアクションRPGを遊んでいるとき,キャラクターを動かしていてすごく感情移入できたからです。僕は,ゲームはユーザーが最も感情移入できるメディアだと考えています。それが理由で,「CRYSTAR -クライスタ-」も感情移入を促すためにアクションRPGとしました。
4Gamer:
公式サイトでは,零が戦っていくうち,罪悪感や葛藤,ヨミガエリへの焦りで心を病んでいく……とあります。RPGにおいては,戦って強くなるのは良いこと,素晴らしいことと扱われるケースが多いですが,なぜこのような設定にしたのでしょうか。
久弥氏:
敵として出てくる幽鬼はもともと生きていた人間で,ヨミガエリをしたかったり,生きていた頃の記憶を持っていたりと事情はさまざまです。零はそうした思いや感情を受け止めつつ戦いますから,心がすり減って疲弊していきます。しかし,そこで潰れてしまうのではなく,悲しいことを乗り越えて強くなっていくんです。
4Gamer:
苦しんだぶんだけ強くなっていく姿を描きたかったと。
久弥氏:
ええ。心の成長をシナリオのうえで表現したかったんです。そうした意味では,「CRYSTAR -クライスタ-」はRPGの王道を行く成長物語だと思います。
林氏:
そこは僕も同意ですね。ただ,この問題に関しては最初にゲームをデザインする際に議題となったのも事実です。
病んでいく姿を描くとしても,潰れていく女の子が好きだという嗜好の問題ではなくて,辛いことを経験したからこそ強くなっていく姿にフォーカスしたい。そこで,“断末魔を泣いて浄化する”というカタルシスのある表現を選んだんです。
零は確かに泣きますが,ゲーム的にはしっかりと強くなっていきます。物語を進めていくうえで,プレイヤーがストレスを感じるようなことはありません。
4Gamer:
本作はアクションRPGですが,ゲームが苦手な人でも楽しめますか。
林氏:
ゲームに慣れていない方でも遊んでいただけるようになっていますので,その点についてはご安心ください。
4Gamer:
では,ゲームのボリュームはどれくらいでしょうか。
林氏:
一概には言えないのですが,30〜50時間くらいでしょうか。僕が個人的に遊んでいるデータでは,やり込みなしで30時間ぐらいかかっています。
シナリオ,ボイス,CG――
さまざまな要素の相互作用から形作られた作品
4Gamer:
ところで,妹を亡くしてしまった主人公が,手首を切って辺獄へ赴く……という表現は,かなり尖ったものですね。
久弥氏:
手首を切る表現は難しいのではないか,という話も出たのですが,実現することができましたね。
林氏:
最初の展開や物語が最終的に行き着くところは僕が提案し,途中のイベントや終盤の盛り上がりに関しては久弥さんに調理していただきました。無理難題を,いろいろとまとめていただいたんです。
久弥氏:
僕から提案して犬の「セレマ」を出したり,キャラクターに新たな設定を付け加えたりと,かなり自由にやらせていただきました。ネタバレになるので言えないのですが,結構大変でしたね(笑)。
林氏:
セレマは哲学用語で「汝の意志することを行え」という意味です。セレマの存在は伏線にもなっていますので,楽しみにしていてください。発表してからの反響が大きくて,皆さんが興味を持ってくださったのも印象的ですね。
4Gamer:
発表後のユーザーの反応はどういったものがありましたか?
林氏:
基本的には,病んだダークな作品であるというところに関心が集まっており,狙ったとおりの反応にまとまっています。海外の方からの質問も多いですね。
4Gamer:
東京ゲームショウ2018での4Gamerの生配信番組でも,海外の方から発売を希望するメッセージがあったりしましたが,海外展開についてはいかがですか。
林氏:
現時点では未定となっています。
4Gamer:
ダークな世界観と,妹のために必死で頑張る主人公ということで,女性からの反応も多かったのではないかと思いますが。
林氏:
多かったですね。ただ,特別に女性受けを意識したわけではありません。変に女性ユーザーに媚びないで,僕のような濃い男性ユーザーに刺さるものを作ろうと考えていました。
久弥氏:
僕も特定のユーザーを意識してシナリオを書いたということはないですね。個人的にはリウイチさんの描かれる絵が女性の方に受け入れられたのではないかな,と思います。
4Gamer:
では,お互いが考えたアイデアの中で「これはすごい」と感じられたものを挙げてください。
久弥さんが考えられたアイデアすべてですね。僕が設定した段階では,キャラクター達の役割だけが決まっていて,名前も仮置きのような状態だったのですが,久弥さんのシナリオでは皆がしっかりと“生きて”いたので感動しました。とくに,セレマに関する部分はプロットだけでも泣いてしまいましたね。
4Gamer:
最初の時点では存在していなかったセレマが,それだけ大きな存在に成長していたわけですね。では,久弥さんはいかがでしょう。
久弥氏:
世界観もキャラクターも,自分1人で作っていたとしたら絶対に出てこないものでした。僕はそこに乗っかって,自分のやりたいことをやらせていただきました。
4Gamer:
今回は久弥さんのファンにとっても,新鮮な切り口の物語が楽しめるということですね。
久弥氏:
そうですね。ジャンルも今まで僕が作っていたアドベンチャーゲームではなく,アクションRPGですから。
4Gamer:
そうしたジャンルの違いによって,シナリオの作り方が変わったりしましたか?
久弥氏:
ええ。アドベンチャーゲームでは,シーンごとに1枚絵を描いてイメージを実現していくので,比較的自由度は高めです。しかし,今回はアクションRPGなので「このシーンはゲームのシステム上で再現可能なのか」という点について考える必要があったんです。このあたりのすり合わせに,最初は苦労しましたね。文章についても,アドベンチャーゲームでは状況やキャラクターの心情をト書きで説明できますが,今回はそうもいきませんし。
ただ,ジェムドロップさんが頑張ってくださったのは,本当にありがたかったです。例えば,みらいが落下していくシーンなんかは,当初,実現できないというお話でしたが,最終的には違和感のない演出にしてくださいました。
4Gamer:
では,自分の作ったキャラクターがアクションRPGとして動いているのを見たときはどうでしたか?
久弥氏:
皆で集まったときにテストプレイをしたので表面上は冷静を装っていましたが,内心ではすごく嬉しかったです(笑)。自分のキャラクターがアクションキャラクターとして動くのは初めての経験だったので。
林氏:
シナリオやボイスの影響を受けて,ほかが変化することもありましたね。例えば,因縁の敵となるアナムネシスは,シナリオが完成し,ボイスの収録が行われるなかでのキャライメージを受けて,モーションを調整したりもしています。
久弥氏:
僕も,辺獄の美術設定を見たことでイメージが大きく広がりましたね。
4Gamer:
シナリオやボイス,CGなど,いろいろな要素が相互作用しながらゲームが作られていったわけですね。
心情が移り変わる,生きている人間としての零
個性が光るキャラクター達との触れ合いにも注目
4Gamer:
では,それぞれ印象深いキャラクターを教えてください。
久弥氏:
零を作るのが一番大変でしたね。ゲームの最初と最後で変化の激しいキャラクターで,シーンごとに違う零がいるといっても過言ではないくらいに心情も移り変わっていきましたから。
4Gamer:
やはり主人公だけに,創作も苦労されたわけですね。
久弥氏:
零という人間の変化をきっちり描くには,ステレオタイプのキャラクターでは難しいんです。大変ではありましたが,生っぽいキャラクターになるように作ってきましたし,その時々の感情を拾い上げるために気をつかって書きました。
林氏:
ボイスの収録でも零が一番大変でしたね。ほかの登場人物はいかにもキャラクター然としているんですが,収録現場でも「零ちゃんは生きている人間っぽい,生っぽい女の子だね」という感想が出ていました。
零 |
みらい |
久弥氏:
どのキャラクターも,書くときに大変だったり楽しかったりするんですが,中でも楽しかったのは777ですね。「えんじょいでえきさいてぃんぐ」が口癖のトリックスター的なキャラクターで,シリアスなときや悲しいシーンでも,自分を貫いているんです。ほかのキャラクターと同様,僕自身も777の明るさに救われているところがありました。
4Gamer:
では,林さんはいかがでしょうか。
林氏:
僕としては,みらいと,零と瓜二つの外見をした久遠に注目してほしいですね。ネタバレになるので理由は言えませんが(笑)。とくに久遠については,久弥さんに無茶振りをしてしまいました。かなり漠然としたアイデアから肉付けをしていって生まれたキャラなので……。
久弥氏:
おかげでストーリー的には良いところに落とし込めたのではないかと思います。ネタバレになるので言えないのですが(笑)。
777 |
久遠 |
4Gamer:
では,物語で注目してほしいポイントはありますか?
林氏:
ダークな世界観を押し出しているのですが,それだけではないというところですね。零の部屋からスマートフォンでほかのキャラクターに連絡を取って,フルボイスで会話を楽しめるのですが,中には明るいシーンもありますし,お互いの関係性が深まっていくにつれて,微笑ましいやり取りもあったりします。
4Gamer:
なるほど。そうした明るい部分も見どころになりそうですね。今回のシナリオは,ハッピーエンドで終わるのでしょうか?
林氏:
ハッピーエンドの定義は人によって違うので,一概には言えないのですが,すっきりとした,気持ちいい読後感であることは確かです。
久弥氏:
曖昧なまま終わるものではありませんし,もやもやとするものでもないですよ。
では,作品を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。
林氏:
発売後はゆっくりとゲームを楽しむ準備をしたうえで,世界観に浸って遊んでいただければ嬉しいです。
久弥氏:
自分でも楽しみながら仕事を進められましたし,満足のいく形でシナリオを書くことができました。ぜひ,この物語を自宅でじっくりと楽しんでください。
4Gamer:
ありがとうございました。
「CRYSTAR -クライスタ-」公式サイト
(2018年9月25日収録)
- 関連タイトル:
CRYSTAR -クライスタ-
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(C)FURYU Corporation.
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