東京ゲームショウ2018の会期中に,
レベルファイブ 代表取締役社長/CEO 日野晃博氏にインタビューする機会を得た。同社が東京ゲームショウで大々的にブースを出展するのは2012年以来だ。
6年ぶりの出展ということもあり,注目していた人も多いのではないだろうか。
最近の同社の動向を見ると,コンシューマ機向けタイトルの開発だけでなく,スマホ向けタイトルのラインナップ拡充にも力を入れていることがうかがえる。加えて,コーエーテクモゲームス,ガンホー・オンライン・エンターテイメント,Netmarbleといったメーカーとタッグを組み,自社IPを活用したタイトルの共同開発にも積極的だ。今回のインタビューでは,このタイミングで東京ゲームショウへの出展を行ったワケや,共同開発の狙い,そして今後の展望について話を聞けたので,その内容をお届けしよう。
レベルファイブ 代表取締役社長/CEO 日野晃博氏
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「ゲーム業界にレベルファイブあり」をアピール
4Gamer:
本日はお忙しい中ご対応いただき,ありがとうございます。今回,レベルファイブとしては6年ぶりとなる東京ゲームショウへのブース出展となりましたが,まずは,それに関する想いや狙いについてお聞かせください。
日野晃博氏(以下,日野氏):
ご存じのように,僕らが提供してきたコンテンツには
“子供たちに向けたもの”が多いんですけど,大規模なゲームショウに子供たちが殺到するのは大変危険ですよね。なので「妖怪ウォッチ」が最初のブームを迎えてからしばらくは,ブース出展を自重していたんです。ですが……。
4Gamer:
確かレベルファイブは,2018年10月に創立20周年を迎えますよね。
日野氏:
はい,今年で20周年なんですよ。昔は僕らもゲームショウへの出展に積極的だったんですが,やはり,最新の“子供たちに向けたもの”をゲームショウの会場に置くのはこわいなと思って,東京ゲームショウとは別のところでイベントを開催していました。
しかし創立20周年という節目で,ゲーム業界に対するいろんな想いもありまして。今年は,ここで「ゲーム業界にレベルファイブあり」というのをしっかりアピールしておきたいなと。
4Gamer:
レベルファイブブースでは「
妖怪ウォッチ4」「
イナズマイレブン アレスの天秤」が大々的に出展されていますが,それぞれの初代作品を当時遊んでいた子供も成長しているわけですし,確かに「ここしかないな」と思えるタイミングでのTGS出展でした。
日野氏:
当時と比べて,僕らもゲームもかなり進化しました。ゲームショウ会場ならではの大きな画面に出力しても恥ずかしくないものを作れるようになったんだなと思います。やっぱり,東京ゲームショウってハイクオリティなゲームが競い合う場というイメージもありますからね。
4Gamer:
2018年秋に「イナズマイレブン アレスの天秤」,2018年冬には「妖怪ウォッチ4」がリリース予定となっていますが,日野さんの視点で,このタイトルではここに注目してほしいというポイントを教えてください。
日野氏:
できれば……“今は”見てほしくないですね(笑)。
4Gamer:
そんな(笑)。
日野氏:
いや,もちろん両タイトルとも,僕らはいいゲームにしようとがんばって作っているんですけど,今回の出展バージョンに関しては「完成度はまだまだだけど,出さなきゃいけないという状況」だったからなんとか間に合わせたものなんです。いろんな意味で,まだ見てほしくないなぁと。
4Gamer:
なるほど,作り手としては複雑な気分ということですね。両タイトルともまだまだパワーアップするということですし,完成版が遊べる日を楽しみに待たせていただきます。
それはそれとして,両タイトルについて「ぜひここを見てほしい」という日野さん視点での注目ポイントを教えてください。
日野氏:
今回,「妖怪ウォッチ4」と「イナズマイレブン アレスの天秤」はSwitch版として出展しているんですけど,どちらもテレビアニメをやっていて,おかげさまで好評を博しています。そんなアニメのファンでもさらに楽しめるよう,
「アニメの中のキャラクターを直接操作しているかのようなゲーム体験」を実現するために,映像面にはとくに力を入れていますね。今後さらに磨きをかけていきますけど,試遊バージョンからもその魅力が伝わればいいなと思っています。
4Gamer:
たとえば「妖怪ウォッチ」シリーズなら,ゲーム内の世界が緻密に作られているのが魅力ですよね。ゲームの中に街があって,公園があって,電車に乗って移動して,そこでしか出会えない妖怪がいる。ただ街を歩いて妖怪を探すだけでも楽しめてしまいます。
日野氏:
そうですね。「妖怪ウォッチ4」はグラフィックスが3Dなので,完全に自分視点で街を冒険できますし,空も見上げられますよ。今まで以上に世界を体感できる作りになっているので,探索という行為の面白さを,最終的にはかなり出せると思います。
4Gamer:
今回の試遊バージョンはバトルをメインで見せる作りですよね。従来作からは結構いろいろと変わっていますが……。
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日野氏:
あれもまだまだブラッシュアップ中のバージョンなので,最終的にはもっといろいろな要素を詰め込んだ形になります。
4Gamer:
楽しみにしています。一方の「イナズマイレブン」といえば,ファン向けのイベントを定期的に実施されていますが,これまでファンの熱い想いに触れてきて,いろいろと思うところもあるタイミングなのではないでしょうか。
日野氏:
やっぱり感慨深いですよね。「イナズマイレブン」のイベントは毎回,ファンの皆さんの熱量に圧倒されるところがあって,「これからもちゃんと作っていかないとな」とあらためて思わされます。
ただ僕らとしては,熱心なファンに支えられている状況に満足しているつもりはありません。深く愛してくれるファンを大切にしつつ,イナズマイレブンをもっとメジャーに,もっと多くの人に好まれるプロモーションをすることも大切な課題です。
4Gamer:
日野さんは生配信やSNSを通じての情報発信にも積極的で,自社IPにかけるご自身の熱量にも圧倒されます。
日野氏:
楽しんでやっていますよ。Twitterでもキャラクター1人1人に対しての反響がすごくて驚いています。これは,キャラクター1人1人の人格を認めてもらっているからこそだなと考えています。
4Gamer:
分かります。日野さんの作り出す世界観や物語,登場人物に魅力があるからこその反響だと思います。そういったキャラクターを生み出す際に,日野さんはどんなことを大切にしているんでしょうか。
日野氏:
魅力的なキャラクターやストーリーを作ることに関しては,ここ10年くらいずーっと試行錯誤してきたので,最近ではなかば無意識にやっているところもあるんですが……基本的には,
「人」と「人」がいて,はじめて「面白い」物語が動き出すと考えています。誰かが何かをするから面白いのではなくて,たとえばAさんとBさんがこういう揉めごとを起こすから,こういう恋愛をするから面白い。ただキャラクターを作るのではなくて,そのキャラクターに何をさせたいかを含めて考えるというのが,いつも気をつけているポイントですかね。
主役級のキャラクターを数十人分考えるときなんかは,設定の段階ですでに「こいつはこんな境遇に置こう」といったイメージを固めていますよ。
4Gamer:
なるほど。単に個を際立たせるのではなく,周囲のキャラクターとの関係性も含めて設定を練っていくんですね。
日野氏:
そうですね。たとえば悪人を際立たせるには,そいつをものすごく嫌っている善人がいなければならない……みたいな話ですね。
4Gamer:
そういった日野さんの創作作法を踏まえつつゲームを遊んでみると,何か新たな発見があるかもしれませんね。
レベルファイブはゲームを作る会社であり“IPを作る会社”でもある
4Gamer:
ところで,最近のレベルファイブの動きを見ていると,コーエーテクモゲームスやガンホー・オンライン・エンターテイメント,Netmarbleなどとの共同開発が目立ちますが,これにはどのような狙いがあるのでしょうか。
日野氏:
僕は
レベルファイブを「IPを作る会社」だと思っているので,自分たちでゲームシステムを作ることにこだわっているわけではないんです。
もちろん,「妖怪ウォッチ」というIPの表現手段としてゲームも作っていますが,そのIPをビジネスとして広げてくれる相手がいるなら,そこと組むことでより大きな結果を出せるし,僕らの作る「妖怪ウォッチ」とは違うものを見せてもらえるのは楽しいことですしね。
4Gamer:
レベルファイブはIPを作る会社,という発言にちょっと驚いてしまいました。もちろんそうとも言えるんですが,レベルファイブ作品はどのゲームも実に丁寧に作られていますし,日野さんも自ら開発現場で活躍されていますし,「ゲーム」を主とする印象が強かったのかもしれません。
日野氏:
ゲームを丁寧に作ることは,ゲームに関わる者として,最低限やるべきことだと思っています。それ以上に,ゲームにも,マンガにもテレビアニメにも映画にもできる“原作”を作って,それを(ゲームを含む)多方面に展開させていくというのが,パブリッシャになったあとのレベルファイブを支えてきた思想なんです。
4Gamer:
なるほど。そう考えると昨今の積極的な共同開発も理解しやすいですね。
日野氏:
僕らも開発力には自信がありますけど,自分たちで作ることにこだわりすぎず,いろんな人たちを巻き込んで,自社IPをどんどんメジャーにしていきたいですね。
4Gamer:
共同開発をするにあたって,さまざまなメーカーからお声がけがあると思いますが,当然,すべての提案を受けられるわけではないですよね。協業先を選ぶポイントのようなものはあるんでしょうか。
日野氏:
いわゆる競合会社さんから,レベルファイブIPのゲーム化に関する提案を受けた場合,まずは僕自身が,その会社の作品を好きかどうか,相手がレベルファイブの作品を好きかどうかが重要になります。
4Gamer:
合同インタビューでもおっしゃっていましたが,CEOが妖怪ウォッチを愛してくれているNetmarble Monsterと,
「妖怪ウォッチ メダルウォーズ」(
iOS /
Android)を共同開発していますね。
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日野氏:
はい。Netmarbleさんでいうと,実は僕もハマっているゲームがあって……相当なコストをつぎ込まされていたんです。
4Gamer:
もしや,そのタイトルは……。
日野氏:
「リネージュ2 レボリューション」(
iOS /
Android)です。
4Gamer:
ですよね(笑)。日野さんの
MMORPG好きは有名ですし,Netmarbleならリネレボかなと思いました。
日野氏:
いやー相当ハマりました。ヤバいです。「
ファイナルファンタジーXIV」も大好きなんですけど,「リネレボ」もいいですねぇ。一時期は両方同時に遊んでいて本当に大変でした。
でもこういう感じで,お互いリスペクトできる関係でジョイントすれば,大抵のことは上手くいくんじゃないかなと考えています。
4Gamer:
2018年はレベルファイブも,オンラインRPG
「ファンタジーライフ オンライン」(
iOS /
Android)をリリースし,スマホ向けタイトルもずいぶん充実してきました。
日野氏:
もっともっと充実させたいんですけど,今はまだ少しずつ勘所を心得ていく場面かな,と思っています。「妖怪ウォッチ ぷにぷに」「ファンタジーライフ オンライン」などで売上を上げられるようになってきて,やっと道が見えてきたかなと。NetmarbleさんのようなA級スマホゲームメーカーは雲の上の存在です。
4Gamer:
「ファンタジーライフ オンライン」といえば,まさにこのTGS期間中にも
大きなアップデートが入りましたね。
日野氏:
そうなんですよ。本当につい先ほど大更新をかけました。ずいぶんと良くなってきてはいるんですが,まだまだ完成形とはいえないので,今後もブラッシュアップを続けていくつもりです。
日野氏自身がアップデート後のゲームをプレイし,スタッフへ改善点を指示することも。この日も,インタビュー後の移動時間を使って現場に指示を出している姿を見られた
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4Gamer:
すでに配信されているタイトルでもいいのですが,今後のレベルファイブにとってキーとなる作品はどのあたりだと考えていますか?
日野氏:
どれもキーだとは思うんですけど,「妖怪ウォッチ」と「イナズマイレブン」はクロスメディアタイトルとして最注力しているので,そこは確実に成功させたいですね。とくに「妖怪ウォッチ」に関しては毎年映画もやっていますし,これからもずっと頑張っていきたいです。
加えて「ファンタジーライフ オンライン」は,自社開発タイトルとしては過去最高の初速で結果を出しているので,僕らのスマホゲームの成功体験にできるよう,引き続き注力していきたいと考えています。
4Gamer:
ちなみに,レベルファイブ20周年記念タイトルはいかがでしょうか……?
日野氏:
近いうちに発表できるよう,水面下で必死に頑張っております。
4Gamer:
おお,秋とか年内くらいには?
日野氏:
なるべく早いタイミングで……21周年記念タイトルにならないように気をつけつつ(笑)。もちろん,全力で全タイトルの制作を進めていますが,まずはとくにファンからの期待が高い「妖怪ウォッチ4」と「イナズマイレブン アレスの天秤」をきちんと世に送り出したいと思っています。どれもまとめてご期待ください。
4Gamer:
分かりました。では最後に,日野さんが今後,レベルファイブでどのように戦おうと考えているのか教えてください。
日野氏:
個人的にはやっぱり,ライトに遊べるゲームを,レベルファイブクオリティでしっかり作っていきたいなと考えています。スマホゲームもそうですし,eスポーツタイトルもそうですけど,「ちょっとオンラインにつないで10分20分遊ぶ」というプレイスタイルにマッチした,「ファンタジーライフ オンライン」のような遊ばれ方のタイトルですね。もうちょっとタイトルを増やしてノウハウを蓄積したいです。
もちろん,レベルファイブの得意分野である,1人でじっくり遊ぶRPGも全力で作っていきます。
4Gamer:
試遊バージョンから大幅にパワーアップした「妖怪ウォッチ4」「イナズマイレブン アレスの天秤」は,まさにレベルファイブの得意分野,真骨頂と言えるものになりそうですね。
日野氏:
おっしゃるとおりです。そしてそれらの作業が落ち着いて,ファンの皆さんに許してもらえる状況になったら,20周年記念タイトルを大々的に発表させてもらいます。
4Gamer:
一ファンとしても楽しみにしております。ありがとうございました。
――2018年9月20日収録。