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[SPIEL'18]10年に一度の大傑作「AZUL」に続編が登場。プレイ風景の美しさはそのままに,攻防の見通しがハッキリした「Azul: Stained Glass of Sintra」をプレイ
[SPIEL’17]今年のSPIELの大本命か。“シンプルで奥深い”を体現した傑作「AZUL」プレイレポート
「ルールは簡単だが奥が深い」。実に素晴らしい売り文句である。だが「簡単なルール」と「ゲームの広がりや深み」が両立している作品は,それほど多くない。そんななかで,「ルールは簡単だが奥が深い」と断言できるタイトルが登場した。SPIEL’17において道行くギャラリーを次々に足止めした傑作,「AZUL」である。
そして今年のSPIEL'18では,そんな大傑作の名を継いだ第二弾タイトル「Azul: Stained Glass of Sintra」(以下,AZUL:SGS)がお目見えしている。相変わらずの美しいビジュアルと,アブストラクトゲームとしての高い完成度を兼ね備えた本作の魅力を,ざっくりとレポートしてみたい。
「Azul: Stained Glass of Sintra」製品ページ(英語)
ゲーム展開をがらりと変えた「ステンドグラス職人」の存在
前作「AZUL」ではタイル職人と位置づけられていたプレイヤーだが,「AZUL:SGS」でプレイヤーが扮するのはステンドグラス職人だ。つまり美しいタイル群に代って,美しいステンドグラス群を作っていくのが,本作の目的となる。
「AZUL」の名を継ぐだけあって,ゲームシステムには,ほぼ完全に一致している部分が多数見受けられる。例えば「山からタイルを持ってくる」部分は「AZUL」そのままだ。前作を知らない人のために簡単に説明すると,
- 場にある9つの山のどれかから,同じ色のタイルをすべて取る(残ったタイルは中央に置く)。
- もしくは,中央にある山から同じ色のタイルをすべて取る。
の2つの方法があり,これによって自分のタイルを確保する。ここまではいたってシンプルである。
大きく異なるのは,取ったタイルを配置するルールである。
タイルを取ったら,手元にあるボードの「同じ色をしたマス」にタイルを配置できる。このとき,縦の列のどれか1つを選ばねばならず,複数の列にタイルを分割して配置することはできない。1列は5枚のタイルで構成され,5枚とも埋まったら得点が得られる。
もしタイルが溢れてしまった場合(青が3マスしかないところに,青タイルを4枚取った,など)は,溢れた1枚ごとにペナルティがかかる。
このようにして5枚のタイルを置いて1列を完成させると,5枚のタイルから1枚を選んでボードの下の欄に移動させる。その後,縦の列は裏面があるので,ひっくり返して置き直す。もしその列を完成させたのが2回めなら,やはりタイルを1つ,下の欄に移動させたあと,列そのものを取り除くのだ。
右から2番目の「青5」の列を完成させたので…… |
青タイルを1つ取り,下の欄に置き…… |
さて,この「タイルを置く」にあたっての最大の鍵が,「ステンドグラス職人駒」の存在だ。ステンドグラス職人駒は,各列の上,ボードの外に置いて運用するのだが,ゲーム開始時は必ず左端の列に居る。そして手番が来ていざタイルを置こうというとき,ステンドグラス職人駒の位置によって,次の3つの選択肢が与えられる。
- タイルを取って,ステンドグラス職人がいる列に置く。
- タイルを取って,ステンドグラス職人を好きなだけ右に動かし,その後でステンドグラス職人を置いた列にタイルを置く。
- (ステンドグラス職人が左端以外のとき)ステンドグラス職人を左端に戻して,手番をパスする。
ステンドグラス職人を右方向に移動させるにあたってはコストがかからないが,左方向に戻そうとすると,手番を無駄に消費してしまう。つまりステンドグラスは基本的に左列→右列の順に作っていったほうが,手番をパスする回数を減らせてお得である。この職人の移動ルールこそが,本作の大きなキモである。
この写真の場合,初手で職人を右端に動かして,青タイルを置いた状態 |
このプレイヤーは,左から順にタイルを置いていくスタイルだ |
綺麗に埋め込まれたジレンマの構造
本作において(そして「AZUL」と同じく),恐らく一番ややこしいルールはスコアリングである。以下,その手順を概説しよう。
- 列が完成したら,まずはその列の一番下に書かれた点数を得る
- 続いて,その列から右側に存在する「既に完成した列」に書かれた点数を得る
- ラウンドによって異なるボーナス得点を得る
実例を写真で見てみよう。
この写真の状況において,左から5列目の列(下の欄には白タイルが2枚ある)を完成させた,と仮定しよう。
この場合,まずその列に書かれた得点「2点」を得る。そこから右側にある列を順に見ていくと,右端までのすべての列が一度完成を迎えたことが,下の欄のタイルから分かる。なので右端の「2点」と,右から2列目の「1点」,そして右から3列目の「1点」も獲得できる。すべて合計すると「6点」だ。
その上で,ラウンドごとに異なるボーナス得点がある。前もってラウンドごとに「ボーナス得点が得られる色」が決まっており,その色のタイルで得点すると,タイル1枚ごとに1点が得られる。
この「完成させた列の右側にある,既に完成した列で得点できる」というのは,「AZUL:SGS」においてかなり大きな得点源である。例えば先の写真であれば,すべての列が一度完成を迎えた状態において,一番左側の列を完成させれば,2+1+1+2+2+3+3+4で18点もの大量得点となるのだ。
このため,ステンドグラス職人の移動効率だけを考えれば「左→右」で作りたいところだが,点数を考えると「右→左」で作りたいという綺麗なジレンマが発生する。
その上で,ボーナス得点も軽視できない。例えば赤タイルがボーナス時に,「赤5」の列を完成させれば,それだけで5点である。「18点が超大量ボーナス」となるバランスのゲームにおいて,わりと気楽に得られる「5点ボーナス」は非常に大きい。
なおゲーム終了時にも特別なボーナスが発生するが,狙ってプレイしても10〜15点程度で,かつうまくプレイしていたほぼ全員が似たような点数になるので,ここで大きな差がつくことはあまりない,と思って良さそうだ。
また本作は「職人」駒が導入されたことで,「この手番において,このプレイヤーはもうパスするしかない」「少なくともこの色のタイルを持っていくことはない」といった,いわゆるヘイトドラフトの状態が見極めやすくなった。
例えば「残り1マスで右端の列が完成する。職人コマも右端にある。だが場には残り1マスを埋める色のコマがない」場合,そのプレイヤーは次の手番を絶対にパスすることになる。もちろん,理屈の上では「こちらの行動を妨害するため,特定の色のコマを取りに行く可能性」はあるが,そこで発生するペナルティを考えれば,普通はパスを選ぶだろう。
また「AZULあるある」の一つである,「もう使いようのない色のタイルを大量に取らされて大量失点」だが,これもまた「職人コマを左端に置いた状態でタイル獲得競争の終盤戦を迎えない」ことによって,それなりに回避できる(パスすればタイル獲得そのものを拒否できる)。もちろんこれもまた全員が同じことを心がければ無意味と化すが,それでも「やむを得ない事情で左端に職人を置いたままになる」プレイヤーは出るものだ。
本作は間違いなく良くできた作品であり,得点方法がちょっと分かりにくいことを除けば,目立った問題点はなさそうに思える。そもそも得点方法は,「AZUL」のほうが輪をかけて分かりにくかった,と言えなくもないのだし。
ただ「AZUL」の名を背負っているだけに,いろいろと余計なことを考えてしまうのは否めない。正直なところ,筆者も「これって『AZUL』の名前がついてなければ,手放しで激賞していた気がする」と何度も思ったものだ。二代目というだけで,なんと余計な期待を背負わされてしまうものか。そういう意味では思うところもないではないが,ゲームとしての完成度は非常に高いのは間違いない。前作ともども,長く楽しめる作品になりそうである。
「Azul: Stained Glass of Sintra」製品ページ(英語)
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