レビュー
「Comet Lake-S」に向けた刺客のゲーム性能は,ゲーマーの期待に応えられるか
Ryzen 9 3900XT
Ryzen 7 3800XT
Ryzen 5 3600XT
既報のとおり,AMDは,デスクトップPC向け第3世代Ryzenプロセッサの新製品「Ryzen 3000XT」シリーズ計3製品を7月23日に国内で発売する。ラインナップとメーカー想定売価は以下のとおりだ。
- Ryzen 9 3900XT(以下,R9 3900XT):5万9800円(税込6万5780円)
- Ryzen 7 3800XT(以下,R7 3800XT):4万6800円(税込5万1480円)
- Ryzen 5 3600XT(以下,R5 3600XT):2万9200円(税込3万2120円)
いずれも,既存製品のモデルナンバー末尾に「T」を付けたマイナーチェンジモデルといったところだが,ゲーマーにとっても第3世代Ryzenの存在感が増しているだけに,新製品の実力が気になっている読者も多いだろう。Ryzen 3000XTのゲームにおける性能をチェックしてみたので,レポートしていこう。
最大クロックを引き上げたマイナーチェンジモデル
上位2モデルはクーラーが付属しない点に注意
まずは,新CPU3種類と,既存製品の主な仕様を比較した表1を見てほしい。
R9 3900XT |
R7 3800XT |
R5 3600XT |
3製品とも,末尾に「T」がない既存製品とTDPや定格クロックは変わらず,ブースト時の最大クロックだけが異なっている。R9 3900XTとR5 3600XTは,Tなしに対して+100MHz,R7 3800XTはTなしに対して+200MHzだけ,最大クロックが上がっているわけだ。
比較対象として用意したRyzen 9 3900X(以下,R9 3900X)とRyzen 7 3800X(以下,R7 3800X)で「CPU-Z」(Version 1.92.0)を実行してみたので,それぞれR9 3900XT,R7 3800XTと比較してみよう。
R9 3900XTのスペック |
R9 3900Xのスペック |
R7 3800XTのスペック |
R7 3800Xのスペック |
CPUID命令で取得できる「Family」「Model」「Stepping」「Ext.
なお,Ryzen 5 3600Xとは比較できなかったものの,R5 3600XTと他のモデルのファミリーナンバーなどが変わらないことから推測すると,R5 3600XTも事情は同じと考えられる。つまり,Ryzen 3000XTシリーズは,最大クロックを引き上げただけの文字通りのマイナーチェンジモデルという理解で間違いなさそうだ。
ただ,ユーザーにとって,Ryzen 3000XTシリーズには若干の注意点がある。AMDは,3製品とも最大の性能を引き出すために,ラジエーター長280mm以上の一体型簡易液冷クーラーをCPUクーラーに推奨している。それもあってか,TDP 95WクラスのR5 3600XTには,R5 3600Xと同じ「Wraith Spire」クーラーが付属するが,R9 3900XTとR7 3800XTにはCPUクーラーが付属していないのだ。
R9 3900XとR7 3800Xには,「Wraith PRISM」クーラーが付属していたので,XTシリーズにもCPUクーラーが付属するだろうと思い込んでいると,「CPUだけ買ったけど,クーラーがありません」なんてことになりかねない。「リテールクーラーを使う気なんかないよ」という自作PC慣れしたゲーマーには関係ないかもしれないが,Ryzen 3000シリーズに適合するCPUクーラーを持っていない人は,クーラーを購入する予算も考慮に入れておこう。
Ryzen 3000XTを既存のRyzenやComet Lake-Sと比較
リテールクーラー以外には語るべきことがあまりない製品なので,さっそくテストの構成に移りたい。
Ryzen 3000XTシリーズの比較対象には,まず既存の製品としてR9 3900XとR7 3800Xを用意した。同時に,第10世代Coreプロセッサ(開発コードネーム Comet Lake-S)から,10コア製品である「Core i9-10900K」(以下,i9-10900K)と,R5 3600Xが用意できなかったので6コアの比較対象として「Core i5-10600K」(以下,i5-10600K)を用意した(関連記事)。AMDがマイナーチェンジモデルを投入した理由の1つに,第10世代Coreプロセッサへの対抗があると思われるので,Intelの2製品を加えるのは理にかなっているはずだ。
前回のレビューであまり好成績を残せなかった第10世代Coreプロセッサだが,当時と比較するとチップセットドライバやBIOSはアップデートされ,Windows 10も「Windows 10 May 2020 Update」に変わっているので,多少は性能が上がっている可能性もある。
テストに使用した7種類のCPUとそのほかの機材は表2のとおりだ。メモリアクセスタイミングやメモリクロックの設定は,使用したメモリモジュールのXMPで統一した。
また,表2には記していないが,CPUクーラーには全プラットフォームでCorsair製の簡易液冷クーラー「Hydro Series H150i PRO RGB」(以下,H150i PRO)を,ポンプおよびファンの回転を最大にして使用している。H150i PROはラジエーター長360mmの大型液冷システムで,AMDがRyzen 3000XTシリーズ対応として認定しているクーラーでもある。
実行するテストは,4Gamerベンチマークレギュレーションバージョン23.1に準拠する。実ゲームの解像度は2560×1440ドット,1920×1080ドット,1600×900ドットの3パターンである。
ただ,今回はフレームレート計測ツールの「OCAT」と「Call of Duty: Warzone」の組み合わせにトラブルが生じてしまったために,やむをえず同作によるテストは省略した。また,「バイオハザード RE:3」は,戦闘を含めて実際にプレイする必要があるために計測時のフレームレートがブレやすく,とくに低解像度ほどブレが大きくなるので,微妙な差を見る今回のレビューには不適当と判断して,掲載を見送ることにした。今後のレギュレーション改訂では,テストシークエンスを変更するか,別のゲームに変えることを考慮すべきかもしれない。
3DMarkでは既存モデルとRyzen 3000XTに有意な差なし
まずは3DMark(version 2.12.6955)の結果から見ていこう。DirectX 11テストである「Fire Strike」の総合スコアをまとめたものがグラフ1だ。
描画負荷が高いFire Strike Ultraは,横並びと言っていいだろう。Fire Strike Extremeでは若干のばらつきが出るが,有意な差があるとは言い難い。フルHD解像度相当となるFire Strikeでは,6コア勢のR5 3600XTとi5-10600Kは8コア以上に比べて低くなるが,それ以外は横並びと言っていい程度だ。
グラフ2は,Fire StrikeのGPUテストである「Graphics test」のスコアを抜き出したものだ。
Graphics testはGPU性能がスコアの大半を左右するので,おおむね横並びと言っていいが,強いて言うならどのテストでもR7 3800XTが他よりやや低く,R5 3600XTとi5-10600Kがやや高いという傾向を示している。具体的な理由は思いつかないのだが,差は小さいのでばらつきの範囲内という見方もできそうだ。
Fire StrikeにおけるCPUのベンチマークとなる「Physics test」のスコアがグラフ3だ。Physics testはどのテストでも同じ内容なので,平均を取るとより分かりやすくなると考えて,平均値のグラフも示している。
スコア平均で比較すると,10コア以上の製品ではR9 3900Xがトップ,僅差でi9-10900K,R9 3900XTの順となった。100MHzだけ最大クロックが高いR9 3900XTがトップになるべきだが,そうはならなかったわけだ。もっとも,3製品のスコアは僅差で,誤差を含む範囲では並んだと言ってしまっていいだろう。最大クロックが100MHz程度増えただけだと,有意な差がつかないことは珍しいことではない。
8コア勢も似たようなものでR7 3800X,R7 3800XTの順になってしまった。R7 3800XTは最大クロック+200MHzなので,有意な差が出てもおかしくないのだが,R7 3800XTでは最大クロックを維持できる時間が短かかったのかもしれない。
6コア勢はR5 3600XT,i5-10600Kの順だ。平均で500程度のスコア差があるので,少なくともFire StrikeのPhysics testは,R5 3600XTのほうが得意とするようだ。
グラフ4は,Fire StrikeでGPUとCPUへ同時に負荷をかけたときの性能を見る「Combined test」の結果だ。
描画負荷が高いFire Strike Ultraと同Extremeに関しては,横並びと評していいだろう。フルHD解像度相当のFire Strikeでは差が出ており,トップ3はR7 3800XT,続いてR7 3800X,R5 3600XTという順になった。コア数順に並ばないのはCombined testではよくあることで,Ryzenの8コア勢が有利になる傾向が見える。ただ,ここまでの結果とスコア差から考えると,R7 3800XT,R7 3800Xの順になったのはクロック差が出たというよりは,偶然というべきかもしれない。
続いては,3DMarkのDirectX 12テストである「Time Spy」の結果を見ていこう。グラフ5は,Time Spyの総合スコアをまとめたものだ。
Time Spy ExtremeでトップになったのはR9 3900XTで,続いてR9 3900X,i9-10900Kの順だ。一方,Time Spyでは,i9-10900K,R9 3900X,R9 3900XTの順だった。フルHD相当のTime Spyでi9-10900Kがトップになっているのが目立つが,トップ3のスコア差はごく小さいのでおおむね横並びと言ってよく,コア数がやや影響を与えていることが読み取れる。
Time SpyのGPUテストである「Graphics test」のスコアをまとめたのがグラフ6だ。Time Spy Extreme,Time Spyともに横並びで,強いて言えばR9 3900XTとi9-10900Kがやや低めだが有意な差があるとはいいがたい。GPUテストなのでこれは妥当だろう。
Time Spyにおける「CPU test」のスコアがグラフ7だ。
Time Spy Extremeでは,R9 3900XTとR9 3900Xが誤差の範囲で並んでトップ,続いてi9-10900K,R7 3800XTの順となった。R7 3800XTとR7 3800Xは有意な差がついているものの,これがクロック差によるものかどうかは判然としない。また,i5-10600KとR5 3600XTには有意な差がある。
一方,Time Spyでは,i9-10900Kがトップで,続いてR9 3900X,R9 3900XT,R7 3800XTの順となった。i9-10900Kは,R9 3900XとR9 3900XTに対して有意に高いスコアを残している。前回のテスト時に比べると,i9-10900Kが大きくスコアを伸ばしたのが少し目立つところで,ここはドライバのバージョンかWindowsのバージョンが関係していそうな気がする。
以上,3DMarkの結果をまとめてみると,R9 3900XTとR7 3800XTに関しては,それぞれR9 3900XやR7 3800Xとの間に有意な差は見られなかった。最大クロックが100〜200MHz増えた程度だと,3Dグラフィックスが絡むテストで明確な差がつかないのは,ある意味で当然かもしれない。
また,10コアのi9-10900Kが12コアのRyzenに対して3DMarkではそこそこ良好なスコアを残すあたりは,第10世代Coreプロセッサのレビュー時と同じ傾向といえる。
一方,R5 3600XTは,市場でライバルとなるであろうi5-10600Kに対して,いい勝負と言えるスコアを残したとまとめられそうだ。
低解像度で最大クロック向上の効果がわずかに見える
以上を踏まえたうえで,実ゲームのテストに移ろう。
まずはFar Cry New Dawnで,結果はグラフ8〜10となる。
Ryzen勢のうち,12コアおよび8コアCPUは,いずれの解像度でもフレームレートに有意な差があるとは言い難い。少なくとも,Ryzen 3000XTシリーズと既存CPUの間に,明確な性能差はなさそうだ。
一方,6コアのR5 3600XTとi5-10600Kでは,i5-10600Kに分がある。2560×1440ドットでは平均フレームレートで約8.5fps,それ以下の解像度では約10fps以上の差がついており,最小フレームレートもi5-10600Kのほうが高めだ。Far Cryシリーズは,Intel製のほうがフレームレートは出やすい傾向にあるので,その傾向がそのまま出ているということでいいだろう。i9-10900Kでも良好なフレームレートが得られている。
続いて,Fortniteの結果がグラフ11〜13だ。
Ryzenの12コアと8コアを見ると,2560×1440ドットと1920×1080ドットでは明確な差が見られない。一方,1600×900ドットではR7 3800XよりもR7 3800XTのほうがわずかに高いフレームレートを記録している。低解像度であることと,R7 3800XTは+200MHzでR9 3900XTよりも最大クロックの上げ幅が少し大きいことを考慮すると,最大クロック+200MHzの効果が出たと言えるかもしれない。
また,i9-10900Kも低解像度ではRyzenのR9 3900X/XTよりやや高めの平均フレームレートが得られる傾向があるようだが差は小さい。
6コアのR5 3600XTとi5-10600Kを比べると,2560×1440ドットでは肩を並べるが,1920×1080ドット以下ではi5-10600Kのほうが少し有利になるようだ。ただし,こちらも差は小さい。
次はレギュレーション23世代で加わったBorderlands 3の結果(グラフ14〜16)を見ていきたい。
Ryzen勢の12コアと8コアを見ていくと,2560×1440ドットはほぼ横並びであるが,1920×1080ドット以下の解像度では,平均フレームレートで,ややRyzen 3000XTシリーズのほうが既存のRyzenよりも高めの傾向にある。とはいえ,が有意な差があるとは言えないレベルだ。ただ,R7 3800XTは,1600×900ドットでR7 3800Xより2fpsほど高い平均フレームレートを記録しており,これはもしかしたら最大クロック+200MHzの効果かもしれないとは言える。
6コア勢のR5 3600XTとi5-10600Kでは,2560×1440ドットはほぼ横並びであるものの,1920×1080ドット以下では,i5-10600Kが有利になる傾向がある。i9-10900KとRyzenの12コア勢を比べてもi9-10900Kが有利なので,Borderlands 3は,Intel系がやや有利になる傾向があると理解できるだろう。
続いては,「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(以下,FF XIV 漆黒のヴィランズ ベンチマーク)を見ていこう。グラフ17は総合スコアをまとめたものだ。
R9 3900XTとR9 3900Xのスコアは,ほとんど横並びと言っていいが,いずれの解像度でもR9 3900XTのほうがわずかに高い。最大クロックの+100MHz分がスコアに反映されたのかもしれない。
R7 3800XTとR7 3800Xでも似たようなもので,2560×1440ドットを除いてR7 3800XTのほうがわずかに高かった。誤差範囲ではあるが,もしかしたら最大クロックの差かもしれない。
6コアのR5 3600XTとi5-10600Kの比較では,i5-10600Kのほうがいずれの解像度でも高いスコアを記録した。もともとFFXIVのベンチマークは,Intel製CPUで高いスコアが出る傾向の強いテストなので,その傾向がそのまま出ていると見ていいだろう。i9-10900Kのスコアに関しても同様だ。
グラフ18〜20には,FFXIV漆黒のヴィランズ ベンチマークにおける平均および最小フレームレートをまとめている。おおむね,総合スコアどおりの傾向が表われたと言えよう。
実ゲームの最後はPROJECT CARS 2だ。グラフ21〜22がその結果となる。
Ryzenの12コアと8コアCPUのスコアを見ると,2560×1440ドットは横並びだが,1920×1080ドットと1600×900ドットではRyzen 3000XTシリーズのほうが既存のRyzenよりもわずかながら高めの平均フレームレートを記録した。これはベースクロックの差が出ているのかもしれない。
一方で,6コアのR5 3600XTとi5-10600Kでは,いずれの解像度でもi5-10600Kのほうがやや平均フレームレートが高い。PROJECT CARS 2ではi5-10600Kに分があるということでいいだろう。i9-10600Kも,R9 3900XTやR9 3900Xより高めの平均フレームレートを記録しており,全般的にIntel勢のほうが有利になるようだ。
以上,実ゲームの結果をまとめると,R9 3900XTとR9 3900X,R7 3800XTとR7 3800Xの比較では,わずかながら最大クロックの差が,とくに低解像度において現れるようである。とはいえ,ほとんど誤差程度の違いとまとめてしまっていいだろう。
R5 3600XTとi5-10600Kについては,やはりi5-10600Kのほうが実ゲームでは好成績を残すことが多かった。i9-10900Kの結果についても同様に言えることだが,現在のところRyzen系よりIntel系のほうが,最適化によって好成績を残すゲームタイトルが多いので,その傾向が反映されたと見ていい。ただ,RyzenとComet Lake-Sの差は,快適にゲームをプレイ可能かどうかという視点で言えば,ごくわずかであるということも事実だろう。
ゲーム録画では8コアのRyzenで新製品がわずかに好成績
続いては,レギュレーション23.1のCPU性能検証で追加したOBS
結果を以下の動画で示しておこう。
視覚的には,6コアCPUはいずれもフレーム落ちが多く,8コアCPUでもややフレーム落ちが見られる。一方,10コア以上のCPUでは比較的スムーズという程度しか判別できない。
そこで,参考までに平均ビットレートを比較してみることにしよう。まず12コアおよび10コアの場合,R9 3900XTとR9 3900Xが約6200kbpsで横並びで,i9-10900Kは約5900kbpsとなった。R9 3900XTとR9 3900Xのゲーム録画におけるマルチスレッド性能は同等であるが,10コアのi9-10900Kはわずかに低いと言っていいだろう。
8コアCPU同士の比較では,R7 3800XTが平均約6600kbpsで,R7 3800Xが約6400kbpsとなった。12コアCPUや10コアCPUよりも平均ビットレートが高くなってしまった理由は不明だが,8コア同士で比べるとR7 3800XTのほうがやや高いビットレートで記録できている。最大クロックが+200MHzされた効果が出ているように思える。
6コアCPU同士を比較すると,R5 3600XTが約3500kbpsで,i5-10600Kが約3900kbpsとなった。約400kbpsの差は十分に有意であり,R5 3600XTよりもi5-10600Kのほうがゲーム録画に強いという理解でいいだろう。
一部のテストでRyzen 3000XTシリーズが高いスコアを記録
続いては,レギュレーション23.1に準拠した非ゲーム用途の性能比較を行おう。
まずはPCMark 10(version 2.1.2177)だ。なお,PCMark 10は現在,個別スコアのうちWindowsやアプリケーションの快適さを見る「Essentials」と,ゲーム性能を見るFire Strike相当のテスト「Gaming」のスコアしか得られなくなっている。そこで今回は,Essentialsのスコアと,詳細スコアの中から3Dレンダリングおよび表示の性能を見る「Ren
結果はグラフ24のとおり。
R9 3900XTとR9 3900Xは,どちらのテストでもスコアが横並びとなっており,ここでは両CPUに性能差はないとしていいだろう。
R7 3800XTは,EssentialsでR7 3800Xよりも約2%,Ren
6コアCPU同士の比較では,R5 3600XTはEssentialsでi5-10600Kの約97%,Ren
なお,Ren
続いては,ffmpeg(Nightly Build Version 20181007-0a41a8b)を用いた動画のトランスコード時間を比較していこう(グラフ25)。
R9 3900XTは,R9 3900Xと比べてH.264で約1%速くエンコードを終えたが,H.265は横ならびとなった。最大クロックが+100MHz程度では,大きな差にならないのは当然だろうか。
i9-10900Kと比べると,H.264で約10%,H.265では約4%ほどR9 3900XTのほうが速い。エンコードに関しては,12コアのR9 3900XTが有利になるわけだ。
8コアCPU同士の比較では,R7 3800XTがH.264で約2%,H.265では約3%速くエンコードを終えている。最大クロックが200MHz異なるので,R9 3900XTとR9 3900Xの場合よりも差が顕著に出ているようだ。
R5 3600XTは,H.264ではi5-10600Kよりも4%ほど遅いが,H.265では逆に,約4%ほど速い結果を残した。エンコードに関してはいい勝負と言ったところか。
次にDxO PhotoLab 3(Version 3.2.0 Build 4344)を用いたRAW現像時間を比較していこう(グラフ26)。
12コアCPU同士では,なぜかR9 3900XTのほうが,R9 3900Xよりも約3%ほど遅くなってしまった。原因は不明だ。一方,i9-10900Kと比べれば,R9 3900XTのほうが約2%ほど速く,コア数が多いほどRAW現像では有利という当然の結果だ。
8コアCPU同士では,R7 3800XTのほうがR7 3800Xよりも約1%ほど速い。最大クロック+200MHzの効果かもしれないが,差はごくわずかだ。
6コアCPU同士では,R5 3600XTのほうがi5-10600Kよりも約4%ほど速かった。RAW現像のような処理では,R5 3600XTのほうが有利ということだろう。
続いてマルチコア性能がスコアに反映される3Dレンダリングベンチマーク「CINEBENCH R20」の結果(グラフ27)を見ていこう。
R9 3900XTは,R9 3900Xよりも約1%スコアが高い。i9-10900Kとの比較では,R9 3900XTのほうが約14%も高いスコアを残している。ここはコア数でR9 3900XTが押し切った形だ。
R7 3800XTは,R7 3800Xよりも約3%高かった。処理時間の短いCINEBENCHでは,最大クロックの差がストレートに出るようだ。同様に,6コアのR5 3600XTは,i5-10600Kと比べて約4%ほどスコアが低かった。ここもクロックの差が出たのではないだろうか。
非ゲームテストの最後は,7-Zip(Version 19.00)の結果をグラフ28で見ていこう。
R9 3900XTは,R9 3900Xよりも約4%スコアが高く,R7 3800XTは,同様にR7 3800Xよりも約6%スコアが高い。7-Zipではかなりストレートに最大クロックの差が出るようだ。i9-10900Kと比べた場合,R9 3900XTのほうが約17%も高いスコアを残した。ここはコア数で圧倒する形だ。
一方,R5 3600XTは,i5-10600Kと比べて約5%ほど低いスコアとなった。CINEBENCHの結果と合わせて考えると,CPUを短時間だけ高クロックで動かすテストでは,最大クロックに勝るi5-10600Kが良好なスコアを残すのかもしれない。
以上の結果を俯瞰すると,R9 3900XTとR9 3900X,R7 3800XTとR7 3800Xは,短時間CPUを回すような用途では,1〜6%程度の差が見られる。逆に,長時間CPUを回す処理では差が縮まるという傾向が見られるとまとめられそうだ。
一方,R5 3600XTとi5-10600Kの比較ではテストによって勝ったり負けたりで,非ゲーム用途ではいい勝負ではないかと思う。
Ryzen 3000XTシリーズの消費電力はそれなりに高めに
Ryzen 3000XTシリーズの消費電力も調べてみたい。ここでもベンチマークレギュレーション23.1に準拠した方法で,CPU単体の消費電力と,システム全体の最大消費電力を計測している。
まず各テストにおけるEPS12Vの最大値と,無操作時にディスプレイ出力が無効化されないよう設定したうえで,OSの起動後30分放置した時点(以下,アイドル時)の計測結果を,ゲーム系テストの結果はグラフ29に,ゲーム以外のテスト結果はグラフ30にまとめた。
R9 3900XTでピークを記録したのは,PCMark10実行時で150.8W。一方,R9 3900Xのピークはffmpeg実行時の145.2Wで,約5WほどR9 3900XTのほうが高いということになる。R7 3800XTでピークを記録したのは,3DMark実行時の114W。R7 3800Xはffmpeg実行時の104.9Wで,こちらも9WほどR7 3800XTのほうが高い。どちらも最大クロックが引き上げられた影響と考えていいだろう。
R5 3600XTのピークは,ffmpeg実行時の94.3W。i5-10600Kは,同じくffmpeg実行時の119.6Wがピークである。R5 3600XTは,ピークでもTDPの95W以下に収まっており,極めて優秀と言っていいだろう。
ところで,i9-10900Kは,CINEBENCH R20実行時に251Wという非常に高いピーク消費電力を記録しており,かなり厳しい。前回のテストから引き続き,ピーク消費電力からみると扱いにくいCPUと言わざるをえない。
続いて,アプリ実行時の典型的な消費電力を示すCPU単体の消費電力における中央値を,グラフ31,32にまとめてみた。
R9 3900XTで最大を記録したのは,RAW現像時の134.2Wだ。中央値がTDPをはっきりと超えており,これは少々厳しい結果と言える。i9-10900Kは,ffmpeg実行時に131.8Wを記録しているが,それよりも中央値が大きくなってしまったのは痛い。R9 3900XはRAW現像時で128.6Wと,TDPとほぼ同程度の中央値に収まっていたのに比べると,R9 3900XTの消費電力増加はインパクトが大きいといえるだろう。
R7 3800XTが最大を記録したのは,CINEBENCH実行時の106W。R7 3800Xも同じくCINEBENCH実行時の98Wだった。中央値で8Wの増加は大きく,やはり最大クロックの引き上げが電力面でインパクトを与えていることが分かる。
R5 3600XTは,RAW現像時の87.4W。i5-10600Kは,CINEBENCH実行時の107Wが最大だ。中央値からして,R5 3600XTのほうがはるかに扱いやすいCPUであるとまとめていいだろう。
最後に,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テスト実行時点におけるシステムの最大消費電力をグラフ33,34にまとめている。システムの消費電力はGPUが支配的で,CPUとGPUの双方に高い負荷がかかるゲーム録画時が最も高くなるのが一般的な傾向だ。
ゲーム録画で比べると,R9 3900XTの消費電力はR9 3900Xよりも約10Wほど高い。またR7 3800XTも,R7 3800Xより約10Wほど高く,システムの消費電力にも最大クロックの引き上げがインパクトを与えていることが見て取れる。i9-10900Kの463.6Wに比べれば,かなりマシなのが救いだろうか。
一方,R5 3600XTは374.6Wで,i5-10600Kは359.4Wと,ここではR5 3600XTのほうがやや消費電力が大きくなっている。R5 3600XTのシステム消費電力は,マザーボード側の消費電力による影響が表面化しているようだ。「AMD X570」は,すべてのPCI Express(以下,PCIe)スロットでPCIe 4.0をサポートするために,チップセットの消費電力が大きいことが知られている。消費電力が低いCPUや,アイドル時の消費電力に,チップセットの消費電力増が負の影響を与えていることは否定できない。
消費電力の計測結果をまとめると,R9 3900XTやR7 3800XTは最大クロックの引き上げ分だけ,既存の製品に対して消費電力が上がっているのが明確である。性能差はわずかなことを考えると,消費電力の増大が割に合うとは言えなそうだ。
一方,R5 3600XTは消費電力面で優秀だが,代わりにX570搭載マザーボードの消費電力が重荷になる。R5 3600XTを利用するのなら,「AMD B550」のようにチップセット側のPCIeスロットがPCIe 3.0止まりのマザーボードを選んだほうが,消費電力面では有利だろう。
Ryzen 3000XTシリーズの評価は実勢価格次第
Ryzen 3000XTシリーズの性能や消費電力を見てきたが,既存のRyzen 3000Xシリーズと比べて性能差はあまりないので,価格次第で選ぶかどうかが分かれるCPUになると言える。
一方,R5 3600XTの税込3万2120円という予想実売価格は,R5 3600Xと比べて2000円ほど高いだけで,CPUクーラーも付属している。R5 3600XTが予想実売価格と大きく変わらない価格で市場に出てくるのであれば,R5 3600XTを選ぶほうがいいだろう。
ゲーム性能では,R5 3600XTよりもi5-10600Kのほうが優秀だ。i5-10600Kの実勢価格は3万6000円前後なので,価格対性能比を考慮するのであれば,R5 3600XTにも分があるだろう。ゲーム性能を重視するか,価格を重視するかで選ぶのがいいのではなかろうか。
AMDのRyzen Desktopプロセッサ製品情報ページ
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Ryzen(Zen 2)
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