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「FINAL FANTASY XV」の田畑 端氏による講演,「ゲーム産業フロンティアの景色」聴講レポート。ゲームは未来社会のインフラを支える産業になれる
「The Pegasus Dream Tour」公式サイト
現在,JP GAMESのCEOを務める田畑 端氏は,かつてスクウェア・エニックスで「FINAL FANTASY XV」のプロデューサーとして活躍した人物だ。独立後に設立したJP GAMESでは,パラリンピックの公式ゲーム「The Pegasus Dream Tour」(ザ ペガサス ドリーム ツアー。iOS / Android)を開発し,注目を集めている。
今回の講義は慶應義塾大学経済学部 インバウンド観光研究センターの藤田康範教授が,自身が担当する「金融リテラシー講座」の特別講義として田畑氏を招いたもの。田畑氏は,独立後にゲームをビジネス/産業として捉えるようになったことにより,これまでとは違った景色が見えるようになったという。
今から5年前,「FINAL FANTASY XV」のプロデューサーを務めていたときは,「ユーザーを見ていた」と田畑氏は語る。自分の作品を遊んでくれそうな人が,ゲーム産業や関連するアニメ/音楽産業のどこにいるのか,あるいはどの国にいるかを考えて,作品作りに役立てていた。
その頃に注目していたのが,YouTubeなどのゲーム実況の隆盛と,それに伴うゲーム業界の構造の変化だ。ゲームを遊ぶだけだったユーザーが,実況を視聴するという新たな楽しみを見つけたことから,流行を生み出す主体がメーカーからユーザーに移る。そのためビジネスのスタイルも,従来のBtoC(メーカーがゲームを消費者に売る)から,BtoCtoC(メーカーがゲームを消費者に売り,購入者が別の消費者に実況などで面白さを広げる)へと変化していったという。
独立してJP GAMESを設立した田畑氏が,新たな作品を手がけるうえでまず考えたのが「収益モデル」だった。通常,ゲームクリエイターが独立すると,まず「どんなゲームを作るか」を考えるのが普通だが,田畑氏の独立当時は上記のような産業構造の変化が起こっており,従来のようなデベロッパ的思考のままではリスクがあると感じたのだ。そこで田畑氏は「どんなゲームを作るか」ではなく,「どんなゲームビジネスをやるか」を考えたという。
そのうえで田畑氏が選んだのが,「パラリンピックのゲーム化」だった。パラリンピックは知名度は高いが関心度が伴っておらず,これまでのようなビジネスでは作っても採算が取れない。そのため,「コンテンツとビジネスを切り離す」ことで収益モデルを根本的に変えることにした。
通常のゲーム作りでは,ソフトを売る,ゲーム中のアイテムを売るといった具合に,コンテンツとビジネス(マネタイズ)は一体だ。しかし,ほかの業界に目を向けると,例えば民放ではコマーシャル収入でマネタイズを行い,バンドがYouTubeで楽曲を公開して広告収入を得るなど,両者が切り離されている例も珍しくない。このことを確認したうえで田畑氏は,「The Pegasus Dream Tour」でも,作品を「上物」と「土台」に分けて考え,その両方でマネタイズを行うという手法を導入した。
「上物」に相当するのは,ゲームの舞台となる仮想の街「ペガサスシティ」だ。すべてのコンテンツをペガサスシティに集約し,現実と連動した形で競技会やライブなどを開いてその価値を高め,パラリンピック終了後には仮想世界を舞台にしたビジネスを考えている企業に所有権を売却する予定になっている。ホテル業界などではよく見られる,不動産と運営サービスを別の会社が行うビジネスモデルから発想を得たという。
開発の「土台」を収益化するには,「The Pegasus Dream Tour」に使われた技術を,仮想空間でのサービスを構築するためのツール,「PEGASUS WORLD KIT」として販売することが考えられている。すでに情報が公開されているので知っている人も多いと思うが,「PEGASUS WORLD KIT」は「Unreal Engine 4」をベースとして,JCBの認証とソラミツのブロックチェーン技術が加えられたサービスキットだ。「The Pegasus Dream Tour」向けに開発したアセットも含まれているため,ユーザーがアバターを操作してペガサスシティ(と同じアセットを用いた仮想都市)の各種イベントに参加するといった形のサービスが展開できるという。
「ゲームの世界からルールを取り除くことにより,企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)に便利な世界が残る」と田畑氏は語る。これはまさに,「どんなゲームを作るか」から「どんなゲームビジネスをやるか」という視点の転換から生まれたアイデアだろう。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響でサービス開始が延期された「The Pegasus Dream Tour」だが,サービスとマネタイズが一体化した従来のモデルでは,ビジネスに大きな影響が出るはずだ。しかし,今回のケースでは,延期の期間中にANA(全日本空輸)が「PEGASUS WORLD KIT」の導入を決定するなどがあり収益化に成功。ゲームの開始を待たずに,コンテンツをさらに充実させられたという。ゲームとマネタイズを切り離す,田畑氏のコンセプトが奏効した結果といえそうだ。
独立を果たし,「PEGASUS WORLD KIT」で他業種との連携を行ったことにより,見える景色がマクロなものに変化したと田畑氏は述べる。
これまでのようにゲーム業界の内側からユーザーを見るだけでなく,ゲームで使われる技術とさまざまな企業を融合させることで,日本政府が提唱する「Society 5.0」(仮想空間と現実を融合させ,さまざまな問題を解決していく構想)が実現できるのではないか,と感じているという。ゲーム技術で作られた仮想空間に(ゲームとは異なる目的で)人々が訪れ,仮想空間で展開されるBtoBによって新たな産業が拓かれる――。田畑氏は「ゲーム産業は,娯楽だけでなく未来世界のインフラも支える巨大な産業になる可能性がある」と語り,講義を締めくくった。
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(C) 2021 JP GAMES, Inc. THE PEGASUS DREAM TOUR, and the shield logo are trademarks of JP GAMES, Inc. All other trademarks and trade names are property of their respective owners. c 2021 The International Paralympic Committee (IPC).
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