インタビュー
メガドライブ版「ダライアス」は,なぜ「メガドライブミニ」に収録されたのか。キーマン4人にインタビュー
メガドライブを縮小サイズで再現した筐体の造形や,不可能だと思われていた版権タイトルの収録など,注目すべきポイントは多岐にわたるが,その中でも特筆に値するのが「ダライアス」の収録だ。このダライアスは当時リリースされたものではなく,SGDK(※1)を用いたファンメイド版がアイデアのベースとなっている。
※1 githubで公開されている,Stephane-D氏が開発したメガドライブ向けの開発ツール。ライブラリとカスタムツールのセットで,EclipseやCode::blocksなどのIDE(統合開発環境)に対応しており,C言語のプログラムからメガドライブ向けのバイナリファイルを書き出せる。
なぜ,ファンメイドの作品がメガドラミニ収録のダライアスにつながるのか。セガゲームスの奥成洋輔氏,エムツーの堀井直樹氏,タイトーの外山雄一氏,そしてメガドライブ版ダライアスのベースを開発した小西秀樹氏にインタビューを行った。
奥成洋輔氏:セガゲームス CSパブリッシング部のプロデューサー。メガドラミニのほか,「SEGA AGES」ブランドや「セガ 3D復刻」プロジェクトも手掛ける |
外山雄一氏:タイトーのゲーム開発2部に所属。かつてテクノソフト,コンパイル,ライジングなどで,さまざまなゲームのプログラミングやディレクションを担当した |
堀井直樹氏:エムツーの代表取締役社長。メガドラミニや,タイトーから発売されたNintendo Switch用ソフト「ダライアス コズミックコレクション」,自社販売の「エスプレイドΨ」(PS4 / Nintendo Switch)など,さまざまなレトロゲーム復刻に携わる |
小西秀樹氏:クリニックを経営する医師。趣味でダライアスの筐体やメガドライブ版ダライアスを作っていた。ちなみに,2016年のシューティングゲーム座談会で話題にのぼっていた“ハーフミラー筐体を自分で作っている人”というのが同氏のこと |
きっかけは発売延期×堀井氏の野望
よろしくお願いします。まず根本的な部分からなのですが,メガドラミニに新作のダライアスが収録される発端は何だったのでしょう。
奥成洋輔氏(以下,奥成氏):
どこからお話するかということにもよりますが,きっかけは堀井さんと僕です。メガドラミニは当初2018年内の発売,国内展開のみの予定だったのですが,4月の「セガフェス 2018」で発表したところ全世界から大きな反響がありまして,夏ごろに全世界での発売へとプロジェクトを拡大することが決まりました。これに伴って発売時期を2019年内に延ばすことになったので,開発スケジュールも当初より確保できることになり,エムツーさんに「何か大きなサプライズを用意したい」と提案したんです。その中でダライアスという案が出てきました。
堀井直樹氏(以下,堀井氏):
僕は,何かの機会さえあれば「小西さんが制作したメガドライブ版ダライアスはどうですか?」と言おうと,タイミングをうかがっていたんです。メガドライブ版ダライアスは以前から知っていたので,「うちの会社が協力して,何らかの形で皆に遊んでもらいたい」と思っていたんですよ。
奥成氏:
僕らがメガドラミニの話を持ちかける前,タイトーさんの「ダライアス コズミックコレクション」(※2,以下DCC)を作られていたときも話題は出たんじゃないですか?
※2 タイトーから2月28日に発売されたNintendo Switch用ソフト。通常版は「ダライアス」シリーズのアーケードタイトル7本,特装版は家庭用タイトルも含めた13本が収録されている(バージョン違い含む)。9月5日にはパッケージ版に向けたアップデートの実施と共に,通常版と同内容のダウンロード版,および特装版の追加タイトルをまとめた「ダライアス コズミックコレクション コンシューマーエディション」が発売される(公式サイト)。
堀井氏:
DCCは収録タイトルがすごく多くて,開発期間との兼ね合いもあり,それどころではなかったんです。たぶん入れてはどうかと言うだけは言ったと思うんですが,実際のところはやったら僕らが死んでしまうので,現実的な話にはなりませんでした(笑)。
4Gamer:
タイトー側としては,堀井さんの提案はどのように受け止められていたのでしょうか。
外山雄一氏(以下,外山氏):
社内でもメガドライブ版のダライアスを独自に作っていた小西さんの存在を知っている人はいたのですが,実際のところ「入れられるわけないだろう」という認識でした。
堀井氏:
ファンメイド作品をベースにオフィシャルの製品が開発されるのは,今の時代ほぼありえないんですよね。僕自身,現在の状況を「驚き」と受け止めています。
奥成氏:
一方,私は「メガドラミニにはサプライズタイトルが必要だ」と考えていました。最初は未発売のゲームで使えそうなものがないか探していたのですが,開発期間が延長されたので,さらに視野を広げて考えることにしました。例えば,その候補には「完全新作を作る」というのもありました。ただ,作業量も膨大になるし,まったく知らない新作ゲームを出して,それがメガドライブの規格上で動いていることを証明できたとしても,あまり喜んではもらえないと思ったんです。
4Gamer:
なるほど。それで移植ベースの企画になったんですね。
奥成氏:
当時「メガドライブに移植してほしかった」というタイトルを新たに作るなら,そちらはきっと面白がってもらえるだろうと考えたんです。その発想のきっかけもエムツーさんですね。エムツーさんは,実は10年以上昔に「スーパーロコモーティブ」や「三輪サンちゃん」といった1980年代前期にリリースされたセガのアーケードゲームのメガドライブ版を勝手に作っていて,当時見せてもらったことがあったんです。当時はPS2やWiiでなくメガドライブに移植するなんて,「それを作ってどうするの……?」といった感じでした。それを思い出して,今回のメガドラミニに入れるのならどうだろうかと,まず思ったんですよ。ただ,サプライズが「スーパーロコモーティブ」や「三輪サンちゃん」というのは……。
堀井氏:
いいじゃん! 最高じゃないか!!(笑)
奥成氏:
任天堂さんは「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」で「スターフォックス2」を入れているのに……。
堀井氏:
キツネに対してサンちゃんでいいじゃん!
奥成氏:
堀井さんはこう言うんですけど(笑)。任天堂さんのスターフォックス2に肩を並べる,メガドライブの“夢のソフト”は無いかと調べたりはしたのですが,あっても「テトリス」くらいで。メガドライブ版のテトリスにしても,メガドライブ版「フラッシュポイント」と一緒に「SEGA AGES 2500シリーズ Vol.28 テトリスコレクション」で収録していますから。ほかにも他社さんでお蔵入りになったゲームもいくつか知ってはいるのですが,それでも「スターフォックス2」に匹敵するインパクトを持つものはありませんでした。
そこでダライアスの話になったんです。実現できるかは危ぶんでいましたが,スケジュールだけで考えれば,やれそうな見通しが開けてきました。でも肝心なライセンスの問題があります。ちょうどそのころセガが本社を大崎に引っ越しましたので,タイトーの方々に「うちの新社屋を見に来ませんか」と案内を送って,来ていただいたときに「実は……」と相談させていただいたんです。
外山氏:
新社屋見学のメールをやり取りしていたとき,文末に「では,メガドライブ版ダライアスの実現に向けて!」と書いてあって,そのときは冗談だと思っていたんです。でも,実際にお話してみたら「どうも本気だぞ?」みたいな(笑)。
それから交渉がスタートして,社内のブランドマネージャーや知財担当といろいろ話をしてみたんですけど,最初はうまく行かなかったんですよ。一時は雲行きが怪しかったんですが,セガ側では奥成さんや宮崎さん(※3)にも尽力していただいて,時間が無い中で,なんとか落としどころを調整していったという感じです。実現のキーになったのは,タイトーの開発本部長である植村(※4)がセガ出身だったこともあり,宮崎さんと直接話ができたことでしょう。それで,「ダライアスファンのためになるなら」と決断してくれました。この2人のつながりが無かったら、ゴーサインが出る前に時間切れになっていたかもしれません。
※3 セガゲームス・国内アジアパブリッシング事業本部 プロモーション統括部 統括部長の宮崎浩幸氏。
※4 “ブラック博士”としても知られる,「甲虫王者ムシキング」や「オシャレ魔女 ラブ&ベリー」のプロデューサーを務めた植村比呂志氏。セガグループを2014年に退職後,マーベラスなどを経て,2018年にタイトーへ入社。
堀井氏:
内情だなあ(笑)。
4Gamer:
雲行きが怪しいというのは,具体的にどこが懸念点だったのでしょう。
外山氏:
正直なところ,タイトーにはあまりメリットが無いわけですよ。でも,ワールドワイドで出るメガドラミニならダライアスがあまり有名でない国にも認知を広げられますから,僕自身はそこをメリットと考えていますけどね。そもそも,タイトーの許諾を得ずに作っていたと聞いた時点で,快く思わない人がいなかったわけではないですし。それを何とか説き伏せて調整していきました。
堀井氏:
「通ったらいいな」という気持ちはありつつも,与太話の中での提案だったので,見事に実現して驚きです。
奥成氏:
実は堀井さんからはダライアスだけでなく,「ファンタジーゾーン」も提案されていましたが,そっちには見向きもせず,最初から「ダライアスだけで進めよう」という話にしました。
堀井氏:
残念ではあったのですが,「開発期間は限られているし,どっちもシューティングゲームだし,どちらが意表を突けるかといえばダライアスだろう」という話をされて,取捨選択として分かりやすいジャッジだったので,素直に納得できました。
“メガドライブ版のファンタジーゾーン”というのは,当時出ていたら最高だったタイトルではあるのですが,すでにサンソフトさんの「スーパーファンタジーゾーン」を収録できる目処が立っていたので,似たタイトルが並んでしまうという難点もありました。「ファンタジーゾーン」自体も,これまでにPS2や3DSに移植していて,Nintendo Switchに移植することも決まっていますから,それのメガドライブ版を作ってもインパクトには欠けます。
小西秀樹氏(以下,小西氏):
なんだか裏話を聞くと大変なご迷惑をおかけしているみたいで……。本当に感謝しています。
堀井氏:
いえいえ,これを世に出せるだけで全然OKですよ。
小西氏:
ダライアスは,もともと単に遊びで作っていたんです。それが,レトロゲーム好きな地元の友達に「埼玉で大きめなゲームのファンイベントがあるから,そこに出展したら皆に喜んでもらえるかも」と言われて,僕も調子に乗って持っていきました。そのときはPCで動かしていて,自作の筐体に組み込んだ横長の画面で26体のボスと戦うものだったのですが,たまたまお客さんとして来ていたエムツーの長野(敦也)さんにいろいろと褒めていただいて。
堀井氏:
だって凄いですからね。小西さん,40歳を過ぎて「ゲームを作ってみたかった」とプログラムを勉強し始めて,メガドライブ版ダライアスをほぼ完成させていたわけですから。
小西氏:
有頂天になって,堀井さんにも遊んでもらいたいと思ったんですけど,そのときは来られなかったんですよね。
堀井氏:
残念ながら行けなかったんですよ。
小西氏:
それで,自作の筐体をエムツーに郵送したんです。今思えば勝手なことをしたと思うんですけど(笑)。
堀井氏:
同梱の手紙に「2つ作ったものの,家の者が邪魔扱いするので送ります」と書いてあったのですが,「すごいのが来たな」と。あれも製品化すればいいと思うんですけど(笑)。
制作の履歴で言うと,まずアーケード版「ダライアス」(以下,AC版)用の筐体を実寸で作られていましたよね。
小西氏:
基板を買ったので,家で遊べる環境を作ってみたんです。そのくらい,僕はダライアスがとにかく大好きなんですよ。音楽にしても,グラフィックスにしても,ゲームの内容にしても,最高だと思っています。
奥成氏:
基板を買ったのはいつなんでしょうか。
小西氏:
5,6年前ですね。大学までは結構ゲームを遊んでいたんですけど,それ以降は基板を買うまで長らく遠ざかっていました。
奥成氏:
最初に基板を買うのって勇気がいるものですけど,そのきっかけが気になりますね。
小西氏:
ネットオークションに出ていたんです。携帯電話に通知が来て,そのときは仕事中だったんですけど,即決で衝動買いしてしまいました。それで買ったのはいいんですけど,遊ぶ環境が無かったので……筐体を作りました。
(爆笑)
堀井氏:
ダライアスが好きすぎて筐体を自作している人がいるのは知っていたんですけど,具体的なプロフィールは知らなかったので,送られてきた筐体の曲面加工などを見ながら,「設計事務所にお勤めなのだろう」と思っていたんですよ。でも,お話してみるとそういうわけでもなくて,ビックリしました。
小西氏:
ええ。産婦人科の開業医です。
4Gamer:
最近,セガの「ホログラム・タイムトラベラー」(※5)を個人輸入されていた眼科医の方もおられるので,「医者系レトロゲーマー,すごいな!」と勝手に驚いています。
奥成氏:
さらにズレますけど,ホログラムと言えば「ホロシアム」(※6)のミニチュア筐体を自作された方もいましたね。そのメインプログラマが「幻のゲームになっていた力作を筐体から作って遊んでくれるなんて!」と感動していました。
※5 セガ・エンタープライゼス(当時)から1991年にリリースされたアーケードゲーム。ゲームデザイナーはRick Dyer氏で,同氏の代表作「ドラゴンズレア」と同様,シーンに応じた入力で映像を進めていく。筐体は曲面鏡を用いた特殊仕様となっており,立体感のある映像を楽しめた。
※6 1992年にリリースされた格闘ゲームで,「ホログラム・タイムトラベラー」と同様の筐体(コンパネやタイトル表記のステッカーは変更)を用いる。
製品版への作り直し
4Gamer:
メガドライブ版ダライアスの話に戻ります。エムツーでは製品版へ作り直すにあたりブラッシュアップが必要だったと思うのですが,そこはどのように行われたのでしょうか。
奥成氏:
延びたとはいえ開発期間は極めて短かったので,エムツーさんにはすぐに開発作業をスタートしてもらい,並行してタイトーさんとの交渉を進めていきました。「なんとか許諾できる目処が立ちました」という連絡を外山さんからいただいたのが,今年の年明けくらいでしたかね。
堀井氏:
まず小西さんのダライアスを皆でプレイして,直すべきところを片っ端から洗い出していきました。それで上がってきたレポートをもとに,小西さんとやり取りしながら開発していったんです。要は,いつものやり取りを,いつも通りに進めた形ですね。
ただ「何を・どこまで・どう直すか」というのは悩みどころで,実はエムツーが用意したドライバでサウンドを鳴らす考えもあったのですが,最終的にはSGDKのドライバを使うことにしました。
小西氏:
楽しかったですよ。
堀井氏:
そう言っていただけて僕らからすると嬉しいんですけれども,本業がある中で山のように相談が届くのは大変だったと思いますよ。
奥成氏:
タイトーさんには「タイトーのオフィシャルとして出すからには,タイトーが認めるクオリティでなければならない」と言われました。もちろんセガとしても,不具合の無い商品クオリティに達したものにしなければならない。ダライアスとテトリスはメガドライブミニの中でも別格で,デバッグも通常の新作ゲームと同様にやっていたんです。
堀井氏:
品管(品質管理)が普通に入ったということですね。
外山氏:
タイトーとしてはDCCを作ったことで,“ダライアスを監修するノウハウ”ができていました。それでクオリティを保証することができたからこそ企画を通せたんです。DCCを作った後でなければ実現はできなかったでしょうね。
奥成氏:
外山さんからは「サウンド面は,かなり直してほしい」ということも伝えられて。
外山氏:
サウンドはZUNTATAの石川(※7)が,メガドラミニとメガドライブ実機環境でガッツリ聴いて,OKかNGかを判断しています。
※7 タイトーのサウンドチーム・ZUNTATAのリーダーである“ばび〜”こと石川勝久氏。
奥成氏:
うちにもセガ・インタラクティブの西村(※8)という社員がいるんですが,本職ではないのにものすごくサウンドにうるさいんですよ。なので,これまでの3DSやSwitchの移植でもプライベート時間にサウンドチェックをしていて,アドバイスをもらったりしていたのですが,彼にも見せたら,まあ細かいチェックがいっぱい入りまして。サウンドの再現だったり,それ以外も。表示部分やデザインといった部分は一発で違いが分かるところなので,それらを「Sバグ」「Aバグ」として,まずトップ・プライオリティで直していきました。
※8 「ソニック・ザ・ヘッジホッグCD」などに携わった“まぢん”こと西村真人氏。「シェンムー 一章 横須賀」に,スロットにハマっている客として出演したりもしている。ZUNTATAの配信番組「月刊ZUNTATA NIGHT」5月号(メガドライブ特集)では,奥成氏と共にゲスト出演している。
4Gamer:
まずは作り込みより,スタイルを整えることが最優先だったと。
奥成氏:
デバッグがスタートしたのは1月だったのですが,開発終了が3月末を目処にしていたのもあって,「セガもタイトーもエムツーも,できるところまで頑張ろう」という雰囲気でしたね。
それでも,僕も西村もダライアスがものすごく大好きなのは「これ幸い」といった感じでした。とくに西村も今回は音だけでなくプレイもすると言って,翌朝になると「ここがAC版と違う」みたいなことを報告してくるんです。それも一応「Cバグ」「Dバグ」としてバグレポートに加えていきました。
堀井氏:
もはや,不具合チェックじゃなくて移植度チェックですよ。
奥成氏:
僕らが月曜からプレイして,金曜までレポートを提出。次の月曜には新しいROMが返ってくるという形で,だいたい1週間単位で回っていましたね。それで,ROMが更新されるときにSバグ,Aバグだけじゃなく細かい改善要望まで全部修正されているんですよ。
堀井氏:
ちょっとありえないペースでした。
奥成氏:
最初はここまで手を入れられるとは思っておらず,自機の移動スピードとかゲームバランスの話とかを余談的にチョコチョコ書いていた程度だったのですが,それらが週明けになるとすべて修正されているということが2週,3週と続くと,僕らにも欲が出てきて「これはさらにイケるぞ」「もっとしっかり見よう」となったんです。
堀井氏:
遠慮が無くなったよね!
奥成氏:
エネミーセットが間違っているとか,ここの敵の攻撃はレベルが上がっていないとか,そういう話から始まって,最終的には「追加ボスのゲームバランスどうしよう?」みたいなところまで行きましたね。そういう細かい修正事項を書き連ねたバグレポートを出すと,休み明けにROMが届くので,僕らにとっては「寝ている間に小人さんが靴を作ってくれる」みたいな感じでした。
小西氏:
どこがおかしいのか指摘してもらうことで気付けたのは嬉しかったですね。
奥成氏:
アーケードをもとにしたゲームモードのほか,PCエンジンの「スーパーダライアス」(以下,PCE版)に準拠した形で26体のボスを実装した「26 BOSSES」モードも搭載できました。最初の段階では,PCE版の追加ボスは「いちおう出てくる」みたいな形で実装されていて,マトモな攻撃も入っていなかったので,外山さんからは「26体の実装はやめたほうがいいんじゃないか」と言われていたのですが。
外山氏:
PCE版のボスまで作っていたら,絶対に間に合わないと思ったんですよ。
小西氏:
自作していたときは,26体のボスは「とりあえず全部入れる」というのが目標だったので,AC版に出てこないものは作り込めていなかったんですよ。それをそのまま商品にされるのは,僕としても納得できませんでした。
奥成氏:
僕はメガドライブミニのサプライズになるなら,26体のボスをなんとか実装したかったので,メガドラミニ全体のディレクションを担当しているエムツーの駒林さんに,「26 BOSSESはぜひやりたい!」という話をさせていただいて。駒林さんと仕事をするのは今回が初めてなのですが,「分かりました」という回答だけが気持ちよく返ってきて,「エムツーさんはさすがだな!」と(笑)。
4Gamer:
26体のボスと言えば気になるのが「PCE版はNECアベニュー発売」という点なのですが,NECとの交渉もあったのでしょうか。
奥成氏:
そこはもちろんタイトーさんに調べてもらって,結果的にはタイトーさんがPCE版の権利をすべて所持されているということで大丈夫でした。
外山氏:
ボスのデザインにしてもタイトーがやっていたので,問題はありませんでした。これもDCCで「ダライアス アルファ」を入れていたから分かったことで,それがなければこんなチェックはしていなかったでしょうね(笑)。
奥成氏:
セガ側では僕と西村で「このボスの攻撃はどうしよう」と相談して,修正要望をバンバン出していきました。あと,PCE版の攻撃のままだとボスの強さと出現ゾーンのバランスが取れていないと思っていたので,エムツーさんには「攻撃方法は大きく変えてもいいから,ゲームバランスをちゃんと取りましょう」という話をしました。一方でPCE版ボスのギミックは再現したかったこともあり,最終的にはPCE版の雰囲気に近づきましたね。
小西さんは今回のプロジェクトに参加されて,このあたりはいかがでしたか。
小西氏:
自分で遊びながら,発射されるミサイルの数や弾が出るタイミングが変わると,確かにちょっと面白くなるなとか,そういうのは感じました。縦軸で移動するボスも,ちょっと動きを速くするだけで難度が大きく変わったりするんですよね。気付かなかった部分がいっぱい見つかって,毎回感心していました。
堀井氏:
そういうのって,自分だけで作っていると気付かないんですよ。面白いですよね。
小西氏:
ただ,教えてもらうまで知らなかったのですが,AC版だと自機とアームの判定は別なんですよね。貫通攻撃などで死ぬとき「アームは表示されているのに自機は爆発」というのもあって。メガドライブ版では一緒に処理していて,修正にはコードの大もとを変えないといけなかったので,そこはAC版とは違う仕様のままになっています。
堀井氏:
まあ,その辺りも含めて目コピの移植ですからね。今回のメガドラミニ版は“昔ながらの移植”という言い方をしてもいいと思うんですが,「目コピでどこまでオリジナルに近いところへ到達できるか」という挑戦ですから。
別ラインで移植していたテトリスのほうは,アーケードの基板からデータを持ってきて,当時のメガドライブだったらこういう方法で移植しただろうというのをやっていて,「本物のメガドライブ版テトリスをどのように作ったかは分からなくても,このやり方が本物だよね」という作り方です。移植方法の方向性が異なる2本がメガドラミニには収録されている。これは嬉しいことですよ。
目コピだからこそ直せる幅が大きい部分もありますよね。西村のこだわりとして「AC版がベースなら,ダライアスに2ダメージの攻撃はあってはならない」という要望もありました。即死のレーザーなどを除いて,どんな攻撃でも1ダメージというのがAC版のスタイルですが,PCE版はビッグラジャーンヌのウェーブなど,いくつかの攻撃が2ダメージなんですよね。
堀井氏:
アームが削られやすくなってるんですよ。
奥成氏:
それでアームが1枚だけのときは当たると即死だったりしたのですが,西村はそれが許せなかったらしく,そこはAC準拠にしようと。そういった部分を含めてのバランス調整を延々とやっていました。
実は,メガドライブ時代に西村はゲームのクオリティチェックの仕事をやっていた時期があったので,“メガドライブソフトのデバッグ”を25年ぶりにやったことになるんです。
堀井氏:
メチャクチャ嬉しそうでしたよね。「当時とまったく同じやり方でやってるんだよ!」と言っていて,容赦なく見てるなあと思いました(笑)。
奥成氏:
エムツーさんと仕事するときの部分というのは,SYSTEM16版の「ファンタジーゾーンII」(※9)などを除くと,ほぼ95%がエミュレーションで作るものだったので,もともとのゲームの中にないことはできなかったじゃないですか。でも今回は方法論が違うので,修正の自由度が高い。
※9 セガ・マークIII用ソフト「ファンタジーゾーンII オパオパの涙」を,同年代のアーケード基板・SYSTEM16用に再構築したもの(関連記事)。「SEGA AGES 2500シリーズ Vol.33 ファンタジーゾーン コンプリートコレクション」のために作られ,ROMを搭載した基板がアイエヌエイチ主催の「3大シューティング祭り」(2008年)でプレイアブル出展された。
堀井氏:
ある意味,「我々がメガドライブに望んでいたゲームを作る」という開発でした。
奥成氏:
例えばゾーンAだと,「スタート地点を2画面ぶん前から始めてください」とお願いして開始位置を修正してもらったんです。ダライアスって,ある程度やりこんでいるプレイヤーだと自機が右画面に寄っていくじゃないですか。
4Gamer:
弾切れ(※10)対策でそうなっていきますね。
※10 オブジェクト描画の上限に基づく自機ショット発射レートの低下のこと。
奥成氏:
だから右側に寄ったときのプレイスタイルで遊べないと,BGMと敵の攻撃と背景のタイミングが一致しないと感じたんです。それに,ボスに入るところもBGMと演出がうまく合わないんですよ。そこの調整ができたのは,やっぱりエミュレーションじゃないからです。
現在だから可能なテクニックと,当時のテクニック
外山氏:
メガドライブのパレット(※11)は16色のものが4本しかないのに,このグラフィックスを実現できているのがすごいですよね。これは2枚のBG(※12)に1パレットずつ割り振っているのでしょうか。
※11 描画オブジェクトの色を定義するテーブル(データ格納領域)のこと。
※12 メガドライブはBG(背景画像の表示枠)を2つ持っていて,主に多重スクロールの演出に用いられた。
小西氏:
背景は2面とも1本でやっています。スコアなどのパネル部分と自機やミサイルに,もう1本を割り振っていて,そこにグレースケールも入れて一部の敵キャラに使っています。地上キャラとかボスキャラとかにもう1本。あとアームが曲者で,それだけでパレットを半分くらい使うんですよ。
(爆笑)
堀井氏:
メガドライブには一番きついデザインですよね(笑)。
小西氏:
しかもダメージを受けると赤くなるので。そこでまたパレットを半分くらい使ってますね。あと,アーム用パレットの余った部分をアイテムに割り振っています。ただ,アイテムはパレットの中身を書き換えて対応しているので,青アイテムと赤アイテムを同時に出せないんですよ。そこは,微妙に出現タイミングをずらして同時に出ないようにしています。
奥成氏:
「幽☆遊☆白書 魔強統一戦」で4人対戦するときも,1人だけ本来のカラーで出ないんですよね。パレットを背景で1本使って,あとの3本を4体のキャラクターに使うから,1キャラクターぶんはどうしても,どこかのパレットを流用しないといけなくなる(笑)。
外山氏:
メガドライブの開発経験がある人にとっては,この話はすごく面白い(笑)。「エクスランザー」だと,パレットを書き換えて色をいっぱい出していますよね。ただ,あれはそういう手法を前提としたゲームデザインだから可能なわけで,移植だとそれが使えない。僕がメインプログラムを担当した「武者アレスタ」はダメージ用のパレットがBGと共通だったので,デザイナーは「スプライトに適用するとダメージ表現っぽくなるよう色を並べた背景用パレット」を考えたりしていました。
堀井氏:
それが普通でしたよね。ダライアスとは全然関係ないのですが,PCエンジンで開発されている人は,ボスキャラのパレットを通常時とダメージを受けたときで2本用意していて,それらを切り替えるだけでダメージを演出していたんですよ。そんな贅沢な使い方が許されるなんて!
外山氏:
PCエンジンはスプライトだけで16本もパレットがありますから(笑)。
奥成氏:
たくさんのパレットを使ったゲームをメガドライブに移植するとなると,普通はプログラマによる“匠の技”の出番になりますよね。
外山氏:
当時なら,ここまでやるのは離れ業ですよ。
小西氏:
今は画像編集ソフトがいろいろあるので,それで似たような色をまとめて同じ色にしたり,隣り合う色の組み合わせによる見え方の違いなどを何度も試したり,そういう作り方ができます。
奥成氏:
堀井さんは当時だと,メガドライブ版「ガントレット」で鮮やかな色使いを実現されていますよね。
堀井氏:
全体的にくすんだ色調に揃えて,彩度の差をごまかすような描き方でやりました。「どの部分の色をまとめればいいのか?」という考え方は小西さんと一緒ですね。まあ,本当にメガドライブはパレットが少ないです。
外山氏:
8本あったら全然違ったんですけれどね。それか,せめてBGとスプライトが別だったら。
堀井氏:
それだけでも相当違いましたよ!
BGと言えば,山岳地帯の雷ですよ。エムツーさんから「残念ながら,あれの再現は不可能です」と言われていたのに,途中から入っていたじゃないですか。バグレポートに書いていないのに,勝手に直っていた(笑)。
小西氏:
CゾーンなどではVRAMが少し余っていたので,入れることができました。Xゾーンではどうやっても入れられなかったんですが。
堀井氏:
VRAMも64KByteですからね。まあ,この仕様で2万1000円という本体価格を実現してくれたと思うので,当時は納得して頑張りましたけど。……今なら文句を言ってもいいかな(笑)。
奥成氏:
メガドライブを設計した石川さん(※13)とか,佐藤さん(※14)とかの話を聞くと,あの値段を実現するために何を削るかというのは,やっぱり相当苦労したそうです。拡大縮小を削ったり……。
※13 石川雅美氏。セガグループでハードウェアの研究・開発を行っていた。
※14 2001〜2004年にかけてセガ(当時)代表取締役社長を務めた佐藤秀樹氏。同社における家庭用ハード開発の中心人物でもあった。
メガドライブを選んだ理由とは
4Gamer:
そもそも,移植先としてメガドライブを選んだ理由は何だったのでしょうか。ファンメイド開発の界隈では,X68000などのレトロPCが好まれている印象がありますが。
小西氏:
メガドライブだとFM音源を使えるというのが大きかったですね。ダライアスの音楽はFM音源を活かしきった,それでしか実現できないサウンドだと思っていて,移植するならFM音源が搭載されているメガドライブしかないと。X68000にもFM音源はあるのですが,当時触ったことがなかったですし,実機で遊ぶハードルも高いじゃないですか。でも,メガドライブは僕も遊んでいて,実機で遊びやすい。あと,メガドライブだと二重スクロールを再現できるというところもあります。
外山氏:
そこでX68000を選んでいたら,そのダライアスは世に出てなかったかもしれない
(一同笑)
奥成氏:
ROMは32Mbitなんですよね。最初エムツーさんから伝えられたとき,容量まで当時の基準に合わせたのかとビックリしました。
堀井氏:
「スーパーストリートファイターII」よりも少ないのかよっていう容量(笑)。
奥成氏:
海外では「Toy Story」とか,一部のゲームでは40Mbitまで使っていますね。あれは裏技なんでしょうか。
堀井氏:
バンクを切り替えているんじゃないですかね。まあ,それをやらず普通に作った時,32Mbitというのがメガドライブの最大容量です。
奥成氏:
裏技の40Mbitではなく,普通の32Mbitにしたのは何か理由があるのでしょうか。
小西氏:
SGDKの出力するバイナリデータが,32Mbitを超えると動かせなくなるんです。コンパイルはできるんですけど,メガドライブの環境だと動かない。
堀井氏:
メガドライブのソフトって,16Mbitを使うようなものは大作だったので,32Mbitもあったら「それでやるしかないよね」というレベルではあるんですけど。
外山氏:
ちなみに,画像の圧縮はしているのでしょうか。
小西氏:
してません。
堀井氏:
発売日に合わせるのが最優先だったので,さらにメガドライブらしい容量に収めるような余裕は一切ありませんでした。本来なら,圧縮した画像を展開しながら描画することも場所によっては可能だったし,サウンドもPCMをそのまま使っていたりするので,やれることはあったと思うんですけどね。
小西氏:
そういえば,最初のほうで話されていた交換用のサウンドドライバはできていたんですか?
堀井氏:
いちおう全曲鳴るところまでは作っていました。
奥成氏:
ただ,サウンドドライバをそのまま入れると容量の問題でボスを26体は入れられないという話だったので,ボスを優先してもらったんです。
堀井氏:
機会があれば,いずれまた!
(爆笑)
4Gamer:
小西さんはゲームのプログラミング自体,ダライアスが初めてだったとのことですが,どんなところで苦労しましたか。
小西氏:
最初のコードは処理が重かったんですよ。どうすれば処理の軽いコードが書けるのか,いろいろ調べました。SGDKがある程度は計算を効率化してくれたりするんですけど,掛け算や割り算はなるべく使わないとか,計算の部分はシフト演算やビット演算を意識したコーディングにするとか,そうやってきちんとコーディングしたほうが速くなるんです。
堀井氏:
今の環境でダライアスを作ろうと思ったら,普通そういう苦労はしないんですけどね(笑)。
外山氏:
Cでシューティングゲームのプログラムを書くという発想自体,メガドライブの時代にはなかったですし。コンパイルしたとしても,当時の環境だと処理速度の遅いコードが出力されたと思うんですよ。
堀井氏:
こういう環境が今になって出てくること自体,メガドライブがどれだけ愛されているかを感じられます。
小西氏:
最初は30フレームの半分だけ当たり判定があるようにしていたのですが,処理を工夫していったら最終的には全フレームで当たり判定を計算できるようになりました。
堀井氏:
AC版を再現する必要がなければ,当たり判定は2フレームごとにやって処理を端折ったりするようなところですが。
小西氏:
ところで,AC版だと背景とミサイルの判定処理は交代で行われているのでしょうか。たまにミサイルが地形を通り抜けるんですよね。
堀井氏:
確証はないですが,見た目から言えばおそらくそうだと思います。
奥成氏:
そういえば,ボス戦に入るときのフェードやWARNINGの処理を最後まで引っ張っていましたね。そこもプログラム的な問題があったのでしょうか。
小西氏:
最初に作ったものはWARNINGをBGに描いていたんです。だから,背景画像を完全に消してからでないとWARNINGを出せなかったんですよ。
奥成氏:
AC版って,WARNINGの「W」が出た瞬間に敵の全滅処理が入って,残りの文字が出つつ背景や地形がフェードアウトしていきますが,それが別々になっていたと。
外山氏:
タイトー側から「そこにタイミングよく警告音が重なるところが気持ちいいんだ!」という指摘をさせて頂きました。
奥成氏:
ボスと言えば,キングフォスルにミサイルが当たったときのエフェクトも4回くらい直してもらいましたね。ボスが爆発する音も,容量が足りなくて全部のSEをサンプリングできず,それらしく聞こえるようにするまでに,かなりの時間がかかりました。発売前にこんな話ばかりするのもアレですけど(笑)。
堀井氏:
まあ「ハードが違うから」という部分も楽しんでいただきたいですね。
僕の私のメガドラ時代
4Gamer:
メガドライブ版ダライアスの話をうかがってきましたが,ここで皆さんにメガドライブ自体の思い出をお聞きしてみたいと思います。
奥成氏:
セガの入社試験を受けたのも,セガ・マークIIIやメガドライブを買っていたからというところがありました。ただ,入社後はセガサターンの部署に配属されたので,まだゲームギアとかメガドライブとか……あとスーパー32XとかメガCDとかも作っていたころだったんですけど,メガドライブにはせいぜいデバッグの手伝いくらいでしか関われませんでした。
なので,今回の“メガドライブ用ソフトの新作”を作れたことは,プロジェクトの中でもとくに嬉しかったところです。
堀井氏:
ゲーム野郎としては,ある種,「人生の締めくくり」的なところがあるよね。
(一同笑)
奥成氏:
好きなメガドライブのソフトを1本挙げるなら,「トージャム&アール」ですね。メガドライブはストイックな名作があるのと同時に,知らないことを体験させてくれるような変わったゲームもあって,その中でも「トージャム&アール」は面白いのか面白くないのかすら判別が難しいほどで,すごくビックリさせてもらいました。
小西氏:
僕はメガドライブを「大魔界村」と一緒に買って,けっこうやり込んでいました。ほかには「ザ・スーパー忍」だったり,アクションゲームが思い出深いです。シューティングゲームも好きなのですが,それはどちらかと言うとPCエンジンが……。
堀井氏:
PCエンジンはシューティングが充実していたからなあ(笑)。
教本を本屋さんで割と簡単に入手できたこともあって,僕はメガドライブの発売前からMC68000(※15)に触れていたんですよ。後に「ガントレット」を作ることになるんですけど,「もしかしたら自分達でゲームを作るというのもワンチャンあるんじゃないか」と,すごく期待していました。サブCPUも経験の範囲内にあったZ80で,すごくユーザーと近いところにあるハードウェアだと思っていたんです。
※15 当時のMotorolaから発売されていたマイクロプロセッサ。メガドライブのメインCPUとして採用されている。
外山氏:
僕がメガドライブのタイトルを作ったのは,コンパイルに入ってからでした。その前のテクノソフトでは,MSXの「ヘルツォーク」を作っている横で,X68000の「サンダーフォースII」が作られたりしていましたね。
直後に転職して,MSXで出ていたものとは別の「アレスタ2」を作ることになったのですが,その企画はセガさんに買ってもらえなくて(笑)。そんな「アレスタ2」をもとに別のパブリッシャーさんを見つけて「武者アレスタ」を作っていくわけですが,その間にテクノソフトから「サンダーフォースII MD」や「サンダーフォースIII」が出るわけですよ。それが……ムカついて!!
(爆笑)
堀井氏:
当時の外山さんならムカつくよね。負けてられないし(笑)。
外山氏:
僕が作った「ヘルツォーク」も,「ヘルツォーク ツヴァイ」としてメガドライブに出てきて,しかもそれが高い評価を得たり。そういったところへの鬱憤を晴らすため「武者アレスタ」を作り上げました(笑)。
4Gamer:
いろいろなタイトルが入っているメガドラミニですが,「入ってよかった」あるいは「入ってほしかった」タイトルなどはありますか。
奥成氏:
僕はラインナップを決めた立場なのでアレなのですが(笑)。エムツーさんには70本のタイトルをメガドラミニ用に作ってもらって,最終的には65本ほどが日本・欧米・アジアに分配されたのですが,完成したけど世に出せなかったタイトルが5本くらいありました。それが惜しいですね。
堀井氏:
タイトルは言えないけど,そうなんだよねえ。
奥成氏:
ライセンス交渉段階で拾えなかったタイトルも何本かあって,それらも入れたかったです。ラインナップは高い評価をいただいている一方,「あのゲームは入っていてほしかった」といった意見も寄せられていますが,「僕も入れたかった」と思っているんです。
4Gamer:
それでも,ラインナップは高く評価されていますね。
奥成氏:
最初に30本くらいを選んだときは,幽☆遊☆白書 魔強統一戦や「アイラブ ミッキー&ドナルド ふしぎなマジックボックス」といったタイトルは無理だと思っていたので,欄外に「ドリーム枠」として10本くらい並べていたんです。セガのライセンス部が総出で動いて,Sega of Americaも含めて全社一丸となって各方面に交渉を行った結果が,今回のラインナップにつながりました。
その中にはタイミングが良かったタイトルもいくつかありますね。昔はテクノソフトとの連絡がなかなか取れず,こういった商品への収録が難しかったのですが,今はテクノソフトの版権をセガで管理できるようになっています(関連記事)。東亜プランさんのタイトルも,Wiiのバーチャルコンソールのころからずっと出したいと思っていたんですけれども,権利交渉する相手が見つけられなくて。そこに弓削(※16)さんが立ち上げたTATSUJINで東亜プランの版権を管理されるようになったので,メガドラミニに「スラップファイト」と「スノーブラザーズ」を入れられました。
これがまた5年後,10年後だったら,もっとタイトル数は増えるのかもしれないし,逆に連絡が取れないところもあるかもしれない……こんな物騒なことを言っちゃいけないんですが,実際この20年の間にそういうことは実際に起きていますから。
※16 かつて東亜プランでプログラムとサウンドを担当していた弓削雅稔氏。2017年にTATSUJINという会社を立ち上げ,東亜プランタイトルの版権管理やゲーム開発などを行う。
4Gamer:
最初は30本くらいの想定だったのですね。
奥成氏:
開発期間の都合上,それくらいの想定でした。それに,タイトルを増やしすぎると1作ごとの存在感が薄れるという問題もあったんです。延期により追加することができて40本ということになったのですが,ライセンスが下りないと思っていたタイトルに続々と許可が出て,とどめとしてダライアスとテトリスの両方にOKが出たので,40本+サプライズの2本という形にしたんです。
4Gamer:
小西さんにとって,収録タイトルの中で思い出深いのはやっぱり「大魔界村」や「ザ・スーパー忍」ですか。
小西氏:
それはもちろんですけど,「ゴールデンアックス」とか「スーパーファンタジーゾーン」とかもやっていましたね。当時やっていなくて,メガドラミニでじっくり遊んでみたいと思っているのが「VAMPIRE KILLER(バンパイアキラー)」や「ストーリーオブトア」です。あと,当時だと「コミックスゾーン」の存在は,そもそも知りませんでした。
奥成氏:
終盤になると,もうセガサターンが出ていましたからね(笑)。
堀井氏:
並べてみると,ソツがないと言うか,当時メガドライブを持っていなかった人が友達の家で遊ばせてもらったタイトルだったり,雑誌で気になってそれで終わっていたようなタイトルがズラッと並んでいる感じですよね。
収録タイトルは概ねバッチリだと思っていますが,どう遊ぶのか困るようなゲームが1,2本あってもいいかなとは思っています。メガドライブはその気になればポリゴンも描画できていたので,その意味で「スタークルーザー」もチョイスできたら良かったですね。
あと,これは言わずにいられないんですけど,「ガントレット」を入れられたら僕は人生を閉じてもいいんじゃないかと思いました(笑)。
4Gamer:
外山さんはいかがでしょう。
外山氏:
ダライアスは別格として,コンパイル出身の者としては「武者アレスタ」や,「ぷよぷよ通」「魔導物語I」の収録は感慨深いですね。あと個人的に「重装機兵レイノス」が好きすぎて,そのアンサーゲームとしてPCエンジンの「スプリガン mark2」を作ったりもしていますので,レイノスの収録はとにかく良かったと思います。
武者アレスタ |
ぷよぷよ通 |
堀井氏:
やっぱり「スプリガン mark2」は「重装機兵レイノス」へのアンサーだったんですね!
外山氏:
ゲームデザインも近いですしね。ところで堀井さん,この中に“テルプシコラ”を使ったゲームって入ってないですよね。
堀井氏:
ああ,入ってないですね。
4Gamer:
サウンドドライバのことでしょうか。
堀井氏:
ええ。崎元さん(※17)の作ったFM音源ドライバで,ガントレットや「ヴェリテックス」に使われていたんですよ。
※17 ベイシスケイプ代表取締役社長の崎元 仁氏。
外山氏:
崎元さんの曲が入ってないのは,ちょっと惜しかったです。今の立場的には,ダライアス以外のタイトータイトルが入ってほしかったというのも(笑)。
堀井氏:
崎元さんのサウンドドライバが入ってないのを惜しむ意見は,うちの社内でもけっこうありましたね。あれはメガドライブでも出色の音を鳴らしていて,「ミッドナイトレジスタンス」なんて,「カスタムチップが乗ってる」と言われるくらいでした。あとデータイーストで言えば,Genesisでしか出てないですが「Captain America and The Avengers」なんかも。
奥成氏:
Captain America and The Avengersは,実はバーチャルコンソールで出したくて少しだけ調べたんですが,Marvelのライセンス問題以前に,ゲーム自体の権利をどこの会社も継承していないんですよ。
4Gamer:
個人的には「エクスランザー」が入ってほしかったんですよね。そういった意味で,「メガドライブ2ミニ」みたいな夢は無いのでしょうか。
奥成氏:
最初にメガドラミニの企画を立ち上げる時,社長から「小出しにするな。これ一回で完成したものを出せ。拡張などは考えずに,1つで満足できるものを作れ」と言われましたので,メガドラミニの第2弾や,サターンミニやドリキャスミニといったものは今のところ予定はまったくありません。
4Gamer:
なるほど。では,一期一会的なものと考えた方がいいんですね。
奥成氏:
メガドラミニの企画は,「メガドライブの30周年を祝おう」という側面もありました。発売延期により31周年の今年発売となるのですが,僕は発売月の10月までならギリギリ“30周年期間内”じゃないかと言っています(笑)。
ちなみに北米だと1989年発売なので,「Genesis Mini」だけ「Genesis 30th Anniversary」というマークがパッケージに入れられていて,ちょっと羨ましいんですよ。逆に欧州では,まだ29周年だったりします。
4Gamer:
メガドライブの30周年(期間内)を,ダライアスという新作と共に祝える日を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
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