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印刷2020/09/03 15:45

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[CEDEC 2020]良いハイパーカジュアルゲームの条件とは。「世界で遊ばれるハイパーカジュアルゲームの作り方」をレポート

カヤック ゲーム事業部 佐藤 宗氏
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 2020年9月2日〜9月4日にオンラインで開催されているゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2020」。その初日である9月2日に行われたセッション「世界で遊ばれるハイパーカジュアルゲームの作り方」では,16か国の無料ゲームランキングで1位になった「Park Master」iOS / Android)を手がけたカヤック ゲーム事業部の佐藤 宗氏が,同作の開発秘話を語った。

 「ハイパーカジュアルゲーム」とは,ユーザーがスマホゲーム内に表示される広告を見てアプリをインストールし,それを遊ぶ中で別のゲームの広告が表示され……というように,流入と収益の両方で広告が利用されるのが大きな特徴だ。

 デベロッパは自社で作ったハイパーカジュアルゲームの広告を他のゲームに出すために広告料を払う。そして,自分たちのハイパーカジュアルゲーム内に他のゲームの広告を表示し,その分の広告料を受け取る。
 CPI(Cost Per Install。1人にインストールしてもらうためにかかる金額。ここでは,他のゲームに自社製ゲームの広告を出すためのお金)を,LTV(Life Time Value。1人のユーザーがゲームを通して生み出す収益。ここでは,ユーザーが自社製ゲームで表示される広告を見ることで生み出してくれるお金)が上回ると収益になるのだ。

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 まずは広告だけで興味を持ってもらわなければならないため,ゲーム内容は年齢,性別,国籍を問わず興味を惹くものとする。1〜2週間でプロトタイプを制作し,その後に少数のユーザーに向けて広告を配信する「市場テスト」が行われ,インストールしてくれた数が基準に満たなければ没になるという,スピーディーな開発と過酷な生き残りが求められる。佐藤氏いわく「10本作って1本が通ればいいほう」というから,なんとも狭き門だ。

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 正式配信後のアップデート前には,A/Bテストが用いられる。一部のユーザーに新機能や改善を加えたバージョンを配信し,そうでないユーザーとの反応を計測。反応が悪ければ,そのアップデートは没になってしまう。

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開発のマインドセットを切り換え,念願の正式リリースを勝ち取った「Park Master」


 佐藤氏がハイパーカジュアルゲームに携わることになったきっかけは,社内で行われたゲームアイデア募集企画に応募したことだったという。最初は3か月でゲームを作るも,市場テストの反応が悪く,残念ながら没に。その後有志に声をかけて再始動し,業務時間外で新たなゲームを作り始めたのだ。

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 しかしながら,ゲームを作っては没になるという日々が続く。敵の車をはじき飛ばす「Rockfall.io」はわずか数日で見込みなしと判断され,ジャンプしながら競争する「Jump Race」は自分でも面白いのかどうか疑問を持ちながら作ったのが災いしてかテストすらできなかったという。台座をタップで崩してボールをリングに入れる「Through the Hoop」は社内評価が高かったものの,最終的には没になって落ち込む……となかなか結果を出せなかった。

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 佐藤氏は,ここまでのやり方を「ただ作っていた」だけであったと反省する。そして,市場テストとは「広告のポテンシャルを見るもの」で,ハイパーカジュアルゲームのユーザー層は,ゲームの広告から流入してくることから「普段から自らゲームを探して遊ぶ人ではなく,ゲームを遊ぶことを主目的としない,純粋に楽しい時間を過ごしたい人」。そして,ゲームのモチーフは主観で選ぶのではなく,客観的な視点を持ちつつ「走る車,物体を引きつける磁石など,モノ自体の振る舞いやゲーム性を説明するものを選ぶのが大事」……であると認識を変えたという。そのうえで,市場テストを通過できなかった失敗を単体のものと捉えず,成功への過程の一部と考えるようにしたのだ。

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 その後の作品では,市場テストをパスできないながらも,自分の好みと違うテイストに挑戦するなどし,手応えを感じることができるようになったという。そうした中で作られたのが,指でコースを描いて車を動かし,うまく駐車させる「Park Master」だ。

 「過去の自分が制約になる」というコンセプトをベースに,スマートフォンに合わせたスワイプ操作と車のモチーフが選ばれた。市場テストの結果は目標の7割ほどだったものの,クオリティ的な伸びしろを買われて念願の正式配信が決定。ハイパーカジュアルゲームの主戦場であるアメリカ市場でリリースするため,さまざまな改良を行ったという。

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広告の改善だけで,ランキング1位へ返り咲く


 こうして2019年11月に世に出た「Park Master」。12月7日には無料アプリランキングの3位になったものの,約3週間後の12月26日には339位と急降下してしまった。インストール数は伸びたものの,継続率が高くないため利益が出ず,ユーザーを呼び込むための広告費をかけられないという状態になったという。

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 ここで取られた対策は「安い広告費で効果的にユーザーを呼び込める広告を作る」「継続率を上げて収益性を高める」の2点である。

 広告では,動画の内容をできるだけシンプルにし,遊ぶ人の顔をワイプで入れて共感性を高めるといった工夫が行われた。当初はゲームの魅力を伝えるべく,綺麗な背景と色とりどりの4台の車,うまく走らせることで地面のコインを拾える……といった要素が盛り込まれていたが,2台の車がスワイプで走ってぶつかるだけのものにしたところ,驚くほどの効果が上がったという。また,ワイプはFacebookの広告でとくに効果的だったそうだ。こうした広告の改善だけで無料ゲームの1位に返り咲き,3か月以上トップ100位圏内をキープしたというのだから,ハイパーカジュアルゲームビジネスにおける広告の重要性が分かるだろう。
 
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良いハイパーカジュアルゲームの条件は,分かりやすさと親しみやすさ,そしてユニークさ


 佐藤氏が「Park Master」の次に手がけたのが,製麺機から出る麺をどんぶりに入れてラーメンを作る「Noodle Master」だ。本作の広告は,「シンプル」「実写でスタート」「麺がどんぶりからこぼれる程にIQの数値が下がる」「プロと初心者のプレイを並べて比較する」という4パターンが作られた。最も効果的なのは最後の「プロと初心者のプレイを並べて比較する」もの。通常,このパターンの広告は効果的でないとされていたが,「Noodle Master」では逆の結果が出たというから不思議なものだ。

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 3作目「Paint Dropper」では,コピータイトルとの戦いが繰りひろげられた。同作は,スポイトを使い,絵画から誤った色を吸い取り,正しい配色に戻すというパズルゲーム。テスト配信後にA/Bテストによる改良を進めていたところ,同じアイデアのコピータイトルが発見された。先を越されてはマズイということで公開を優先し,機先を制することができたという。

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 佐藤氏は,良いハイパーカジュアルゲームの条件について「広告だけで遊び方やどんな体験ができのるのかが伝わる分かりやすさ」,「誰からも拒絶されないアートによる親しみやすさ」「今まで遊んだことのないユニークな面白さ」と分析。そのうえで,プレイヤーはゲーム性やギミックよりも純粋に楽しい時間を過ごしたいと考えており,ゲーム開発に慣れたスタッフがやるような,ゲーム性の盛り込み過ぎには気を付けたいと語った。「Park Master」の場合,社内テストで簡単過ぎるという評価が出たため,ゲーム性を追加したバージョンを開発。従来版とA/Bテストを行ったところ,継続率は落ちたそうだ。

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 最後に佐藤氏は,これからハイパーカジュアルゲームを作ろうとする人に向け,「アメリカの無料ゲームランキングトップ100のタイトルをチェックしてゲームの要素を細かく分析し,自分で作るときに意識する」というアドバイスを贈った。分かりやすさが勝負のハイパーカジュアルゲームにおいて,ヒットしているタイトルに無駄な要素はないからだそうだ。そのうえで,プロトタイプを素早く開発して市場テストを行える環境を構築。まずは難しい市場テストの通過ではなく,比較的実践可能な開発日数の短縮を目標にするといいのだという。


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 佐藤氏は「ハイパーカジュアルゲームの世界は,分かりやすさと親しみやすさ,ユニークさがあれば,どんなゲームにもチャンスがあるので,非常に面白いです。やってみたいという人が増えればいいなと思っています」と,このモデルの魅力を語り講演を締めくくった。

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