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[CEDEC 2023]2023年9月に3周年を迎える「CROSSLINK」のキーマンが明かす,ブロックチェーンゲームで持続可能な経済を構築する方法とは
セッションには,ブロックチェーンゲームの開発・運営を手がけるプラチナエッグの代表取締役 竹村也哉氏が登壇し,ブロックチェーンゲームにおける持続可能な経済設計を実現する方法などを披露した。
ブロックチェーンゲーム経済が抱える問題
まず竹村氏は,ブロックチェーンゲームが直面している問題として,「持続しないタイトルが多いこと」を挙げた。実際,「数か月もてば,長続きした」と言われるレベルで,ひどい場合,数日で経済が崩壊してユーザー離れが起き,終わってしまうタイトルもあるという。
そんな事態になった理由として竹村氏は,「ユーザーが増えない」「儲からないから既存ユーザーが辞める」「NFT/トークン相場が下がるから,既存ユーザーが売り抜ける」「稼ぎたい以外のユーザーが居ない」「過度のポンジスキーム的な手法(あとから参加するユーザーから新たに集めた資金を,以前からいるユーザーに払い出す手法。以下,ポンジ)」を挙げ,「これらのいくつかが複合要因となって,悪循環に陥っている」とした。
さらに竹村氏は,破綻する経済を作ってしまう理由として,「そもそも,経済が破綻しているゲームをライバルにしている」ことを挙げた。たとえば競合他社が「1か月でお金が倍になります」と謳うタイトルを出していたら,月利100%とはできないけれど,80%くらいのタイトルを提供しなければならないというプレッシャーがあるという。しかし,そんなに稼げるタイトルばかり作っていては,破綻して当たり前である。
また,「マーケットが小さい」ことも理由の1つ。ブロックチェーンゲームのマーケットは,スマートフォンゲームやコンシューマゲームと比較して,ユーザー数では100分の1以下であり,売上規模もタイトル数も少ない。そうなると,お金をたくさん払ってくれる「稼ぎたい層」がどうしてもメインターゲットになり,上記のように,月利が高く,破綻するタイトルを出すことになる。
さらに,「持続性を気にしない事業者も多い」とのこと。極端な話,「タイトルが1か月で破綻しても,会社が儲かればいい」と考える事業者も少なくないと竹村氏は捉えているそうだ。
竹村氏は「リービッヒの最小律」を引き合いに出し,「いろんな理由があって,一番弱いところから崩壊が始まる。一度どこかが崩れると,そこから悪循環が始まる」と指摘する。そんな中,プラチナエッグのタイトルが何年か継続できているのは,最低限の条件を満たしているからだと説明した。
その最低限の条件とは,「ユーザーが増える,または一定数をキープ」「儲からなくても既存ユーザーがあまりやめない」「トークン相場がある程度キープされる」「稼げなくてもいいユーザーが一定数いる」の4つである。
ブロックチェーンゲーム経済にまつわる諸々の議論
竹村氏は,自身の挙げた最低限の条件を満たすにはどうすればいいかを示す前に,ブロックチェーンゲーム経済を議論しなければならないとする。
まず,先にいたユーザーが儲かり,あとから入って来たユーザーほど儲からなくなる状態を生み出すポンジに関しては,「必ずしも悪ではない」と竹村氏は考えている。たとえばスマホゲームでも,優れた課金アイテムを出すような施策を連続で打てば,そのときは売上が上がっても,施策を止めたときに誰も課金しなくなる。つまりタイトルの寿命が縮むわけだが,「スタートダッシュが必要」といった,そのときどきの状況を鑑みて施策を打たなければならないこともある。
ブロックチェーンゲームにおけるポンジも,そうした施策と同じというのが,竹村氏の見解である。とはいえ,ポンジを乱発すればそのタイトルの寿命は確実に縮むとも話す。
また,「ポンジ好きなユーザーが一定数いる」のも事実とのこと。竹村氏は「ポンジは頭のいい人が儲かる仕組みである」とし,「持続しないブロックチェーンゲームは,ポンジ好きのユーザーと,そのユーザーを狙う運営の二人三脚で作られている」との持論を展開した。
さらに竹村氏は,ポンジを程度問題だと捉えていることを明かした。たとえば「超ポンジ」状態にすると,「稼げる」という話が一瞬で広まり人が集まるが,タイトルの寿命は短い。その一方,「微ポンジ」状態にすると,ユーザーはちょっと稼げるが,そこまで人は集まらない。稼ぎが小さいので,ポンジ好きなユーザーも当然来ない。
そうした事例を踏まえて,竹村氏は「ポンジにするなら,最初は多く稼げるようにして,徐々に緩くし,最終的にゼロポンジにすれば破綻しない」と説明した。
また,ブロックチェーンゲームは,儲かるユーザーと損をするユーザーが常に存在するゼロサムゲームだと指摘されがちだが,竹村氏によるとそうではないタイトルも作れるという。具体的には「最初に集めたお金を運用して,その利益をユーザーにバックする」「広告で収入を得る」「eスポーツの興行のような施策を打ち,スポンサーを募る」といった形で,ユーザーの課金以外から収入を得ればゼロサムゲームではないタイトルが可能になるとのこと。
さらに,「価値」も重要となる。とくにブロックチェーンゲームでは,お金以外に,それぞれのユーザーにとって価値があるものを作っていくことが重要だという。たとえば「キャラクターが可愛い」「ゲームが面白い」など,そのユーザーが求める価値を提供すれば,満足して継続してくれるそうだ。竹村氏は,「ユーザーに価値を提供して満足してもらうことが,ブロックチェーンゲーム経済の本質」とし,「ほかのブロックチェーンプロダクトにはほぼない,ブロックチェーンゲームならではのユニークな特徴」と語った。
そうした価値を創造することを,竹村氏は「今までになかったものに価値を与えること」だとする。たとえばゲーム内にユーザーがイラストを投稿できる機能を実装して,そこに投稿されたイラストにほかのユーザーがお金を払うことは,価値の創造にあたる。
あるいは強い武器のレシピをあるユーザーが作り,それにお金を払うユーザーが現れた場合も,やはり価値の創造である。竹村氏は,「実際の経済でも,たとえば石油がほしい人に石油を提供して,お金をもらっている」とし,それが「UGC(ユーザー生成コンテンツ)とブロックチェーンゲームの相性がすごくいい」と言われる由縁だと説明した。
また外貨を得ることも重要とのこと。ここで言う外貨とは,ゲームの外部から得る収入のことで,上記の資金運用や広告収入,あるいは助成金などで得たお金を指す。竹村氏は「外貨がないと,ユーザーに払い出すための原資が作りづらく,ほぼゼロサムゲームになったり,ポンジ的だと揶揄されたりするとのこと。
そのほか「誰がお金を出すのか?」という議論も重要だとする。一般的なスマホゲームなら,各タイトルのプレイヤーが課金という形でお金を出しているが,ブロックチェーンゲームは,プレイヤー以外のスタンスでお金を出すユーザーがいるという。投資目的でお金を出すユーザーも存在するので,「このユーザーは何のためにお金を出してくれるのか」をしっかり考えることが必要になるそうだ。
逆に,「ゲームにお金が入る」ことについて考えることも,また重要だという。一口に入金と言っても,売上だけでなく,貸付や手数料,投資,預入といったさまざまな手段があり,それらを活用して入金を確保する必要がある。
そのほかブロックチェーンゲームの強みがエンターテイメントであることなど,以下のような知見が示された。
プラチナエッグの事例
上記の議論を踏まえて,持続可能なブロックチェーンゲームの経済設計をしているのが,プラチナエッグのタイトルである。本セッションでは,2つの事例が示された。
1つめの事例では,3周年を控える「クロスリンク」(iOS / Android)が紹介された。このタイトルは,放置ゲームタイプのRPGで,広告収入や賞金の配布といったビジネスモデルで運用している。またユーザークラスタは,ゲーム内の土地を売買して投資以上の利益を求める投資家層と,主に賞金目的で課金プレイするゲーマー層,無課金だが少しの稼ぎを求めてプレイするサポーター層に分類される。
2つめの事例として,現在開発中の「クライマーズ」(iOS / Android)が紹介された。このタイトルは,「Fall Guys」に代表されるようなマルチプレイのバトルロイヤルゲームで,レースに参加して上位に入賞したユーザーに賞金が提供される。また,各ゲームのステージをクリエイトしてインセンティブを得ることが可能だという。
ユーザーが「ガバナンストークン」を各ステージに投票できる仕組みもあり,投票したステージの売上に応じて,そのユーザーに収入が入る。そのほか,キャラクターの使用権を販売して,ユーザーが利益を生みやすい構造を作っているそうだ。
「クライマーズ」は,「クロスリンク」に見られた投資家層とゲーマー層,サポーター層に加え,ハイリスク・ハイリターンを狙う「投機家層」,UGCを作成する「クリエイター層」,実況プレイなどで広報的な活動をする「ストリーマー層」を取り込むとのこと。
まとめ
以上をまとめて竹村氏は,「ちょっとだけのポンジ」「きちんとファンがいる」「ユーザークラスタを複数に分けて,それぞれに対して経済循環を作る」「外貨を獲得して,利益に応じてユーザーに払い出しをする」といったことを意識すれば,ブロックチェーンゲームは持続可能になるのではないかと語った。実際,「クロスリンク」と「クライマーズ」では,これらを意識して開発しているという。
さらに「どの層を取りに行くのか」や「妥当な報酬設計」を考えること,「そもそもユーザーを一括りにしない」ことなどが重要であることも示された。
それらを踏まえて,ユーザーが稼げるブロックチェーンゲームを作るためには,「逆説的だが,面白いゲームを作らなければならない」と竹内氏は語る。もちろん,「面白い」の定義はいろいろあるが,少なくとも遊んでいるユーザー達が面白いと表現してくれるようなタイトルを作ることが,必要になるという。
竹内氏は,「持続可能なブロックチェーンゲームへの道のり」として「ゲームのファンは必須」「稼げるポイントも必要」とし,「面白くて稼げるブロックチェーンゲームを作っていく人が増えていくとありがたいと思っています」と述べた。
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(C)2020 Platinum Egg Inc.
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