プレイレポート
「The Medium」プレイレポート。精神世界と現実世界で同時に進行するサイコロジカルホラーアドベンチャー
本作は,霊的な超能力を持つ女性・マリアンを操作して,マリアンの身に降りかかる不思議な現象と謎を解き明かしていくホラーアドベンチャーである。フィールドを探索し,能力を用いて先へと進んでいくタイプのオーソドックスなゲーム性ながらも,2画面同時進行という演出を採用しているユニークなタイトルだ。楽曲はArkadiusz Reikowski氏と山岡 晃氏が担当している。
ホラーは映画もゲームも大好物な筆者が本作をクリアまでプレイしてみたので,そのプレイレポートをお届けしよう。
マリアンだけが見る,異形の光景。画面分割で見せる,2つの世界
物語は,マリアンの育ての親であるジャックの葬儀から始まる。マリアンが持つ霊的な超能力は,その異質さゆえに,子供の頃から彼女を孤立させた。この能力を「才能」と呼び,子供の頃から常にマリアンの味方でいてくれたジャック。そんな彼の喪失に,もう大人になったとはいえ,マリアンは少なからずショックを受けていた。
ジャックは生前,葬儀場を営んでおり,マリアンもその手伝いをしていたようだ。マリアンはジャックに代わり,ジャック自身の葬儀の準備をしていく。
このジャックの葬儀は,オブジェクトを調べて情報を得ることで登場人物の関係性を深く理解していくアドベンチャー型のゲーム性と,マリアンの念視能力のお披露目の意味合いもあるプロローグ的なパートだ。
しかし,雨天ならではの薄暗さと,シトシトと雨が振りしきる雰囲気が素晴らしい。葬儀場という場所,親しい人との死別という悲しいシーンでありながらも,どこか美しく,「The Medium」の世界に一気に引き込まれる。
ジャックの葬儀準備中,不意に彼女の能力が発動する。能力の発動中は,“あの世”とでも言うべき精神世界と,現実にマリアンがいる場所が画面分割で表示される。そして精神世界と現実世界のマリアンは同時に動く。
これにより,「マリアンだけが見ている景色」と,そのマリアンが現実世界でどういう動きをしているかをプレイヤーは客観視することができる。マリアンが子供時代からこうした経験をしてきたとすると,その振る舞いは,周囲の人間にはさぞ奇異の目で見られただろうと想像できる演出だ。
霊となったジャックと対話し,“成仏”させる。これまで,マリアンが幾度となくしてきたのであろう行為を最も親しかった人に行い,マリアンは現実世界へと戻ってくる。
──と,そこへ一本の電話が。憔悴しきっていたマリアンは「今日はもう閉店」と別の葬儀社を紹介しようとするが,トマスと名乗るその男は「君の能力を知っている。君の助けが必要だ」と言い,マリアンが子供の頃から見ている奇妙な夢の内容を言い当てる。マリアンは不審に思いながらも,トマスに会う決意をする──。
廃墟と化した保養所の探索。徐々に加速していくホラー体験
マリアンはトマスが指定してきた場所へと向かい,物語の舞台は「ニワ保養所」という場所へと移る。このニワ保養所での探索行が,本作の大部分を占めることになる。
保養所は尋常でなく荒廃しており,マリアンは,ここで普通ではない“何か”があったことを感じ取る。トマスは見当たらず,《悲しみ(サドネス)》と名乗る少女の霊と出会うことで,保養所にまつわる新たな謎も湧いてくる。
保養所に入って少し進むと,マリアンの新能力ともいえる「幽体離脱」が可能になる。
マリアンの身に時々訪れる,「精神世界と現実世界の同時体験」は画面分割で示され,マリアンが移動すれば,2つの世界を2人のマリアンが同時に移動する。しかし,この最中に幽体離脱をすることで,マリアンの体は現実世界で動かないまま,精神世界でのマリアンのみを移動させることができる。
2つの世界の構造は同じではなく,たまに,「現実世界では道が閉ざされているが,精神世界側なら行ける」ということがある。こういうときが幽体離脱の出番だ。ただの画面分割状態だと2人のマリアンが同時に動くため進めないが,幽体離脱によって現実世界の体の動きを止めることで,精神世界側でしか行けない道を進むことができるというわけだ。探索中にアクセントをつける,ちょっとしたパズル要素だと言えるだろう。
また,精神世界側にしかないギミックの1つとして,「無数の蛾に阻まれた道」がある。ダッシュで強引に通ることもできるが,蛾が攻撃してきて,マリアンの体力を削られてしまう。
こういう場所を通るために必要なのが「霊魂の盾」だ。精神世界では「光(霊魂?)」が強い力を持っており,時々,光を吸収できる場所がある。そこから光をチャージし,その光を消費することで「霊魂の盾」という,光のバリアを張ることができる。
ここまでは,多くの人が,さほど「怖い」という感覚を持たずに進めることができるのではないかと思う。その最大の理由は,マリアンに“危機”が訪れないからだ。蛾のいる場所でジッとしていない限り,ゲームオーバーにはならない。
しかし,「そろそろウォーミングアップはできたかな?」と言わんばかりのタイミングで登場するのが,「魂の捕食者」だ。
これまで,蛾以外はマリアンに直接危害を加えるような存在はいなかったのだが,魂の捕食者は,「捕まったら即ゲームオーバー」という,実にホラーゲームらしい強敵。追いかけてくる捕食者から走って逃げたり,見つからないように隠れながら進んだりと,緊張感のあるパートになっている。まれに現実世界にも出現することがあり,その場合,姿が透明で視認しづらい。
マリアンを動かして,オブジェクトを調べる。オブジェクトを回してみる。2画面と幽体離脱のパズル。蛾へのバリア。そして,魂の捕食者の登場。ここまで読むと分かると思うが,少しずつ,非常に丁寧に,ホラー体験が加速していくようになっている。ついてこれない人が出ないための配慮だと思うが,実際,とてもプレイしやすかった。それでいて,ホラーゲームにありがちな「怖くて先へ進められない」という感情はなく,常に「ストーリーの先を知りたい」という気持ちがグッと前に出てくる。
死した人間の世界ともいえる不思議な場所をさまよい,そこに渦巻くネガティブな感情を時にはグロい表現で見せたりといった部分は,「サイレントヒル」シリーズ後期のような雰囲気も感じられる。だが,グロいと言っても,思わず目を逸らしてしまうような場面はない。より多くの人が受け止められるラインを見極めている印象を受けた。
新進気鋭のホラー・アドベンチャー。細かい不満はあるが,触れる価値はある
画面分割による2画面同時進行の演出は,高いハードスペックを必要とするため,PCとXbox Series X|S用のタイトルになったという経緯がある。2つのゲームを同時に動かしているようなものなので,なるほど納得だし,非常に挑戦的な試みだ。
その一方で,既存のゲームによく見られる要素やアクションもある。そうしたものが出てくると,「ああ,あれね」という安心感はあるものの,ゲームプレイがそこだけ急に平凡に感じられてしまうこともあった。
各パズルやアクションを振り返ってみると,これまでのホラーゲームの総決算と言ってもいいほどに幅広く,それでいて,難解なものや,複雑でウンザリするようなものは一切ない。難度設定は絶妙だ。どこかで見かけたような要素にしても,ホラーゲームの先輩たちへのリスペクトなのかもしれない。
「The Medium」は非常に“ストーリー主体”のゲームだ。ゲーム部分は,あくまで物語を追いかけるための手段に過ぎない。そのため,一部の謎解きやパズル要素が,少々,取って付けたような印象を受けることもあった。
ニワ保養所は広大なホテルだが,行動可能な範囲はストーリー進行によって限られているため,広範囲をウロウロすることはできない。話が進むと,それまでに探索できた範囲には行けなくなったりもする。そのため,探索の楽しみにあふれているとは言えず,ストーリー進行に見合った範囲を“調べさせられている感”がある。
行動可能範囲が狭いので,迷わないというメリットはあるように見えるが,マップがない。次に何をすべきかの目的表示はあるが,内容が具体性に欠ける。ほんの些細なことに気付かなかったせいで,長時間詰まってしまったこともあった。ゲームの難度設定は良いのに,微妙に不親切だと感じる部分があるのは否めない。ここは少々残念に感じる点だ。
ただ,ミステリアスなストーリーによる牽引力と,フィールドの美しさは見事の一言だ。新たなロケーションが登場するたび,その景色に見とれてしまうし,ストーリーの先が気になって,やめ時を見失う。
「The Medium」はホラーゲームだが,ただ怖がらせたりビックリさせたりするというホラーゲームではない。プレイヤーを怖がらせることが目的ではなく,霊能力にまつわる人間ドラマを真剣に描こうとしたら,ストアなどでは便宜上ホラーゲームに分類されてしまったという印象だ。
ホラーゲームに出てくる霊というと,とにかく怖くて「敵」というイメージが強いが,本作の場合は霊的なものがもっと身近で,現実的なもののように感じられる。ここに,ホラーゲームの新しいアプローチを見たような気がするのだ。
ホラーゲームが苦手な人でも,ゲーム内に形作られた世界や風景を見て「ああ,いいなぁ」と感じたことのある人や,本稿の画面写真を見て惹かれた人には,ぜひ触れてみてほしいタイトルだ。「The Medium」には,この作品が全力で築き上げた圧倒的な「世界」が,確かにそこにある。このゲームに触れる人すべてに,その世界が“見えて”くれたら──と願う。
「The Medium」公式サイト
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