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「Among Us」が行ったTikTokでのプロモーションと,その実態。TikTokはゲームの広報に有益なのか?
GDC 2022では,そんなSNSを利用した広報活動から,とくにTikTokの活用に特化した講演が行われた。登壇したのはInnerslothのCommunity DirectorであるVictoria Tran氏――つまり「Among Us」(PC / PS5 / PS4 / Xbox Series X / Xbox One / Switch / iOS / Android)の広報を担当した人物だ。「Social Media Deep Dive: 'Among Us' TikTok Strategy」(ソーシャルメディアの掘り下げ:「Among Us」のTikTok戦略)と題して氏が語った,この講演の内容を紹介していこう。
新たな広報手段としてのTikTok
さて,まず読者が疑問に思うのは,「そもそもTikTokでゲームを宣伝する意味はあるのか」という点かもしれない。昨年のGDC 2021にも,広報におけるTikTokの有用性を指摘した講演があったが,ここはTran氏が今回の講演の後半に見せたスライドのデータを見るのが分かりやすいだろう。
単純な視聴回数で効果を測定するのは早計ではあるものの,「最大で880万再生」という数字は分かりやすい数字ではある。ゲームの広報においてTikTokが見過ごせないプラットフォームであることは,“そうなるかもしれない”ではなく,“すでにそうなっている”と言わざるを得ない状況なのだ。
このようにゲームの広報メディアとして注目されるTikTokだが,ではその利用者はTikTokに何を求めているのだろうか。ユーザー調査によれば,「何か新しいものを発見する」「何か新しいことを学ぶ」「インスピレーションを得る」が“期待するもの”の上位3つであり,つまり彼らは「新しい」ことに大きな価値を置いていることが分かる。
こうした「新しいもの好き」なTikTok利用者に対して,Tran氏が重視したのは以下の3点だ。
- ゲームタイトルの認知を向上させる
- プレイヤーをゲームにより惹きつける
- ゲームの寿命を延ばす
実のところ,「Among Us」は2020年12月の段階で世界的な大ヒット作となっていた。タイトルのブランド価値向上は当然継続するとしても,コミュニティを盛り上げるには結局のところ「もっと多くの人にこのゲームのことを知ってもらう」ことが欠かせない。この平凡だが困難な目標に対し,Tran氏は次のような方針を採用した。
- 提供するコンテンツの基本路線となるものを,3つの形容詞で定義する
- どのコンテンツにも共通する,ひと目で分かる要素を取り入れる
- 動画再生開始から3秒以内に「掴み」を見せる
- 今のTikTokにおける流行を把握する
Tran氏はこの方針によって「見た人の記憶に残るものになることを,最も重視した」という。
「プレイ動画」だけが強いわけではない
では実際にTran氏がTikTokに放ったコンテンツのうち,どのようなものがヒットしたのだろうか? 講演では5つの事例が紹介されたが,ここではそのうち3つを紹介したい。
1つ目は「ゲームのアップデート情報」だ。
これは最もシェアされることが多かったコンテンツだが,その一方でTran氏は「可能な限り短く内容を紹介するようにした」という。なかでも最大のバズとなったのが「Vent Cleaning」の動画で,これは880万再生/4万9200コメント/2万3100シェアという空前の反響を得た。
2つ目は「『中の人』を見せる動画」だ。
これもまた大きなバズを産みやすいコンテンツで,例えばTran氏をモデルとした「“新マップのリリース日”以外の情報を投稿しようとしている中の人」は,140万再生/5700コメント/523シェアという結果となった。ちなみにその内容は,「そんなことより新マップ」という反響を予想して,緊張しながら投稿する様子を映した短い動画となっている。
3つ目は「ゲームそのものとは関係のない動画」だ。
「Among Us」くらいまで大きな成功をすると,関連グッズやタイアップ企画も目立つようになってくる。ダンキンドーナツとのコラボ時に作られた宣伝動画は200万再生/2万2800コメント/1万3600シェアとなり,再生数に比してコメントとシェア率が明らかに高い投稿となった(そもそも再生数も多いのだが)。
このほかゲームプレイの一部を切り取った動画や,制作裏話的な動画(とても古いバージョンの「Among Us」)といったものが人気だったそうだ。
データを見ながらの試行錯誤は必須
こうして結果的に大成功を収めたTikTokでのプロモーションだったが,それまで経験を積み重ねてきたTran氏であっても(そして「Among Us」という強力なタイトルだったとしても),その成功は一朝一夕で成し得たものではなかったという。
実際にTran氏が初期に投稿した動画の再生数を見れば10万再生前後のものが,それなりに見受けられる(講演で示された範囲では8万再生ちょっとのものも)。10万再生でも大したものという気もするが,「Among Us」というタイトルの力も考えれば,確かに失敗ではあるだろう。
この点についてTran氏は,試行錯誤が必要なだけでなく,実際に動画を投稿していくなかでゲームのコミュニティと積極的に関わっていくこと,また各種KPIを複合的に見て判断していくことが必要だと指摘した。
そもそもTikTok利用者がモバイルに集中している以上,「TikTokユーザーが『Among Us』の動画を見て,Steamのウィッシュリストに入れる……という可能性がないのは,あまりに当然」なのだ。実際,TikTokでの宣伝に寄せられるコメントの定番が「これはスマートフォンで遊べるゲームなのか?」「無料で遊べるのか?」であったのも,頷ける話である。
「コミュニティの一員となる」ことの重要性
講演の最後では,コミュニティとの関わり方についてのレクチャーが行われた。
GDCでもさまざまな講演で繰り返し語られているが,いわゆる「トキシックな行動を行うプレイヤー」(罵詈雑言を書き込んだり,荒らしたりするプレイヤー)は洋の東西を問わず存在し,そういった人達にどう対応するかは,コミュニティマネージャーにとってずっと頭痛の種となっている。
それは「Among Us」であっても同じで,例えば「新マップをリリースします」という情報を出せば,「ゲームがまだ面白かったうちにリリースすべきだった」「このゲームはもうクソゲーに成り果てたのに,いまさら新マップとか」「2か月前ならまあまあだね」「もっと早くリリースしていれば,このゲームが死ぬことはなかった」といった,もはや類型的といっていいコメントがつくとのこと。
しかしながら,こういったコメントが本当に現在の「Among Us」プレイヤーの本音なのかということになると,実はそうとも限らない。興味深いことに,ゲームをこき下ろすコメントに対し公式アカウントがコメントを寄せると,「言い過ぎだった,すまない」的な回答がコメント主から返ってくることも珍しくないというのだ。
この現象を指して,Tran氏は「ネガティブなコメントが集まっていても,SNSやプレイヤーを憎んではならない」と指摘した。自分が管理しているコミュニティの一員となることが重要であり,たとえそれが絵文字によるリプライでしかないにしても,参加しないより参加したほうが絶対に望ましいとのことである。
Tran氏の講演は非常に興味深いものだったが,とはいえ注意すべき点もあるように思える。SNSを用いた広報活動は,それ自体,作業者にとってとても負荷が大きいということだ。Tran氏の場合,TikTokには「最低でも週1本,新しい動画を上げる」ことを目標としていたそうだが,それでも大きな負荷を感じるという。
- 動画制作に1本あたり15分〜1時間
- TikTokでの流行を調査するのに週1〜2時間
- コメントを返したり,ほかのアカウントにコメントしたりするのに,週1時間
具体的にかかった時間で数えれば上記のようになるが,もちろんただ一人のコミュニティマネージャーであるTran氏の仕事はTikTokだけでない。ほかのSNSやSteam内の掲示板の管理など,広報活動のすべてが氏の双肩にかかっているわけで,そのうえでの「毎週1本」の大変さは,推して知るべしだ。
実際,マーケティングに関連したGDC 2021のほかの講演でも「TikTokは有益」としながら,「負担は高め」という評価だった。考えなしに「よしやろう」で手を出すべきではない領域であるということは,肝に銘じておいたほうが良さそうだ。
「Among Us」公式サイト
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- ライター:徳岡正肇
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