インタビュー
「Draw Happy Life」をヒットさせたNew Storyに聞くハイパーカジュアルゲームの現状と今後。“面白い”ではなく“楽しい”“ハッピー”を提供する
ジャンル名に“カジュアル”とある通り,ゲーム内容は非常にシンプルなものが多いが,大きな特徴として,多額の費用を広告につぎ込んでプレイヤーを呼び込み,それ以上の収入をゲーム内で表示させる広告から得るというビジネスモデルが挙げられるだろう。
カジュアルゲームと呼ばれるジャンルはスマホの登場以前から存在しており,Game Developers Conferenceで「カジュアルゲームサミット」なるイベントが開催されたこともあった(関連記事)。そういったライトな層のゲーマー,あるいはゲームをプレイしない人向けのシンプルなゲームが,スマートフォンをプラットフォームとしたことで再度爆発したのが,ハイパーカジュアルゲームと言えるだろう。
スマホ向けのゲームでは,大手のパブリッシャが手がける大作が人気を集めているようなイメージがあるが,前述のとおり,世界のダウンロード数ランキングで上位を占めるのはハイパーカジュアルゲームである。売上で見てもジャンル全体での存在感は非常に大きい。
だがその一方,基本的にあまりゲームをプレイしない人に向けたタイトルのため,4Gamerを読まれているようなゲーマーにとっては触れることが少ないジャンルになるだろう。
そこで今回はNew Storyの代表取締役である因 雄亮(いん・ゆうすけ)氏にインタビューし,このジャンルの特徴と現状,今後について語ってもらうことにした。
2020年3月創業のNew Storyは,同年6月にリリースしたハイパーカジュアルゲーム「Draw Happy」シリーズが大ヒットし,同年11月には単月100万DLを突破。総計ダウンロード数は1億超という,このジャンルにおける新進気鋭の開発会社である。
メインターゲットはゲームをプレイしていない人
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。ハイパーカジュアルゲーム(以下,HCG)と聞いて,「ワンボタンで遊べるカジュアルなスマホ向けアクションゲーム」などを思い浮かべる人は多いと思いますが,最近はそこに当てはまらない作品も増えてきました。
特に昨年大きなヒットとなった「アーチャー伝説(Archero)」(iOS / Android)は,HCGに関係するタイトルだと認識していないプレイヤーも多いのではないかと思います。また,オンラインで複数人が対戦するようなスタイルのゲームも目に付きます。
このようにかなり混沌としてきたHCG市場なのですが,そもそも因さんはHCGをどのように定義されているのでしょうか。
HCGの定義は,開発する会社ごと,人ごと,あるいはそれを遊ぶ人ごとに異なるものだと感じています。ただ,共通する要素はいくつか指摘できます。
まずは広告収益が主となったマネタイズモデルです。また,言語や地域を問わず,世界中でプレイされるゲームであることも,重要な共通点です。
4Gamer:
New Storyも全世界でゲームをサービスしているのでしょうか。
因氏:
はい。App StoreやGoogle Playが使える地域すべてでゲームを提供しています。広告も全世界に出稿している状況ですね。
4Gamer:
対応言語でいうと,どれくらいでしょうか。
因氏:
5か国語程度ですが,HCGは直感的に理解して楽しめるゲームですから,ローカライズはそこまで大きな課題にならないんですよね。(言語としては対応していない)インドやロシアにも,弊社のゲームを楽しんでくださっているプレイヤーは,たくさんいらっしゃいます。
4Gamer:
いささか曖昧な言い方になってしまいますが,いわゆる一般的なゲームとHCGの最も大きな差は何になるでしょうか。
因氏:
HCGはゲーマーではない層をメインターゲットにしています。ゲーム好きな人が遊ぶゲームではありませんが,ゲームが持つ楽しさや幸福感を,あまりゲームに触れていない人に伝えるのがHCGだと思っています。
なので,コアなゲーマーがHCGに触れると,強い違和感を覚えるだろうとも思います。ほとんどのHCGは,難しいチャレンジを努力や攻略で乗り越えていくといった構造にはなっていませんから。
4Gamer:
確かにNew Storyさんがサービスされているヒット作は,自分たちのようなゲーマーにしてみると「これってゲームなの?」と考えてしまうような側面があるように思います。
例えば,「Draw Happy Life」(iOS / Android)には,迷路を解くステージがありますよね。あれは“普通のゲーム”なら,少なくともタッチパネルをドラッグして線を引く作業が要求されると思いますが,実際には迷路内のどこかをタップするだけでクリアになります。
因氏:
自分自身が,一番好きなゲームにCivilizationシリーズを挙げるくらいのゲーマーではありますので,HCGを知ったときは「ここまでシンプルでいいのだろうか?」という驚きはありました。自分たちで開発した作品がヒットした今でもなお,ゲーマーとそうでない人の差は非常に大きいと感じています。
4Gamer:
「ゲーマーでない人」は,どのようなゲームを求めているのでしょうか?
因氏:
愛や恋といったテーマは広く受け入れられます。一方でゲーマーにとっては定番の「銃でゾンビを撃つ」といったものになると一気にウケが悪くなって,ゲームを成立させるための難度が跳ね上がります。
4Gamer:
ウケの良し悪しは,何で判断されているのでしょうか?
因氏:
具体的に言えばCPI(Cost Per Install)です。荒っぽく言うと,10万円の広告予算を使って広告を出した結果,1万人がそのゲームをインストールしてくれたとしたら,CPIは10円になります。
CPIは低いほどいいわけですが,ゲーマー向けのテーマにすると,これが上昇しがちなんです。
4Gamer:
実際にどんなゲームであるか以前に,扱うテーマの段階でその差が出てしまうわけですね。
因氏:
HCGは原則として,スマホアプリ上の広告経由でプレイヤーさんがやってきますが,その広告はInstagramやTikTokといったメディアにも出ます。そういった,あまりゲームと関係ない場所で前情報もなく接触するわけですから,そのゲームが受け入れられたかどうかは,如実にCPIに出てきます。
データを注視し,おかしいと思ったらすぐ変える
4Gamer:
HCGの将来性には,賛否両論があるように感じています。それこそ「これからのモバイルゲームはHCGが中心で,ガチャで稼ぐモデルに未来はない」から,「HCGはもう完全なレッドオーシャンであり,資本力勝負になっている」まで,総論としてだけでもその幅は広いかと。
またHCGと広告は切っても切れない関係にありますが,その広告のあり方についても議論が分かれていて,これがHCGの将来性についての議論と混ざってしまっている印象もあります。
HCGを成功させた側としては,現状をどう捉えていますか。
因氏:
なかなか難しい質問ですね。
HCG市場そのものは拡大傾向にあります。2019年には全世界トータルで30億ダウンロードだったものが,2020年には70億,2021年には100億に到達すると見込まれています。成長は確かに鈍化していますが,伸びているのは間違いありません。
一方で作る側にしてみると,CPIは確実に上昇しています。HCG市場に参入する開発者が増えたのが主な理由ですね。
4Gamer:
NewStoryさんも,初期に作ったHCGはパブリッシャに断られたと聞いたことがあります。それだけハードルは上がっているわけですね。
因氏:
はい,パブリッシャが支援するタイトルとして選んでもらえなかったという形になります。
4Gamer:
パブリッシャが支援を決める基準はどんなところなんでしょうか。
因氏:
それも数字に見えています。主にCPIとRR(Retention Rate,継続率)です。自分たちの場合,パブリッシャはRRをよく見ており,1日後にそのゲームをプレイしたかをチェックする形でした。
4Gamer:
たった1日ですか?
因氏:
シビアですよね(苦笑)。たとえそのゲームを気に入っていても,たまたま翌日はプレイしなかった,ということは十分にあり得るわけですから。
4Gamer:
普段ゲームをしない人がターゲットなら,1日という単位は短すぎるような気がします。まぁ,それくらい手軽にプレイされるものが必要だということなのでしょうが。
因氏:
ただ少し見方を変えれば,入口自体は広いんですよ。CPIとRRだけを見るようなスタイルですので,チャレンジそのものは容易なんです。
4Gamer:
なるほど,確かに審査側の好みなどではねられないのは公平ですね。
話を戻して,HCGの将来性についてですが,ジャンルそのものが持つ生命力の強さは感じています。実際,これまで何度も「HCGはもう終わり」という議論が起こってきましたが,現在でも市場は成長し続けています。
HCGが持つ「言語を問わず,人の心に訴える」というコンセプトの強さが,この生命力の強さの根底にあるように感じています。
4Gamer:
先ほど因さんは,好きなゲームとして「Civilization」を挙げていらっしゃいました。そういったコアなゲームが好きなのであれば,「アーチャー伝説」に代表されるような,いわゆるゲーマー向けHCGへの挑戦は考えなかったのでしょうか。
因氏:
ハイブリッドカジュアルと呼ばれるジャンルですね。その方向性は,自分としては選びづらかったものです。端的に言いますが,そのタイプのゲームを作るには,会社に体力が必要なんですよ。
4Gamer:
なるほど。確かに従来のHCGに比べればガッチガチの“ゲーム”ですからね。
因氏:
一般的に,HCGは開発に2週間程度しかかけられません。そうやって次々にゲームをリリースし,プレイヤーの反応を見ながら,それぞれのゲームをブラッシュアップしていくのがセオリーです。このサイクルに「アーチャー伝説」のような規模のゲームは,とても合わせられないんです。
4Gamer:
今お話に出たようなHCGのサイクルを初めて知ったとき,「フィーチャーフォン時代のモバイル系ソーシャルゲームに似ている」と感じました。あのジャンルもまた「走りながら作っていく」傾向が強い作品群でしたが,HCGではCPI以外にどういった要素を見ながら調整をしていくのでしょうか。
因氏:
各ステージのクリア率と滞在時間は特に注目します。
滞在時間が長いということは,そこが「詰まる」ところだ,というわけです。ですのでそういったステージはリアルタイムで修正をかけます。
重要なのは,「おかしいと思ったらすぐ変える」ことですね。厳密な分析よりも,データの鮮度を重視する方向性を取っています。もちろん実際に稼働中のゲームでのABテスト(複数のパターンを並行して実行し,結果を比較するテスト)なども行っています。
4Gamer:
なるほど,まさにソーシャルゲーム全盛期のライブ感ですね。Facebook向けのカジュアルゲームを多数ヒットさせたZyngaも,ユーザーインタフェースのABテストをライブで行うことで有名でした。
しかしながら,全世界でサービスしているゲームをリアルタイムで修正しながら運営となると,業務時間が大変に気になるところです。
因氏:
ちゃんと夜は寝てますよ(笑)。というのも,日本時間だと,朝イチにアメリカ市場のデータが揃うんですよ。HCGはアメリカ市場の持つインパクトが大きいので,まずはこのデータをみんなで検討することから仕事が始まる感じです。
4Gamer:
なるほど,時差を味方に付けている,と。
因氏:
アメリカ市場の影響が大きいと言いましたが,ゲームのコンセプトというか,アイコンレベルで,HCGはアメリカ文化の影響する部分が大きいと感じています。
4Gamer:
アメリカ市場でウケるものは,全世界的にウケるということですか。
因氏:
はい,それはご指摘のとおりですが,話はそこに留まりません。
ゲームのアイコンを「アメリカっぽくする」と,露骨なくらいにCPIが改善するんです。具体的に言えば,アイコンの中にハンバーガーや金髪の女性が入ると,ぐっとインストール数が伸びます。
これは自分たちでも何度もABテストをした結果にも現れています。長い時間をかけてハリウッド文化が全世界に浸透していったのだろうと考えています。最近ではアメリカで制作されたテレビドラマなどの影響も強いと思いますし。
4Gamer:
かつて日本のゲーム開発会社は海外市場を狙うにあたって「その土地ならではのローカライズ・カルチャライズが必須」という結論に至っていましたが,まるで違う着地点なのが大変興味深いです。
それを踏まえてあらためて聞きますが,地域による差は感じられませんか。
因氏:
ないとは言いません。むしろ文化の差は,間違いなく感じています。
ただ,弊社がサービスしている地域,アメリカはもちろん,インド,ベトナム,ブラジル,ロシアといったところでは,地域よりゲームのテーマによって生まれる差のほうが大きいわけです。
あえて地域ごとの特徴を言えば,インドはCPIが安い,ブラジルも似たような傾向,ロシアはやや特殊で放置ゲームがヒットする傾向あり,日本は広告に対する嫌悪感が強い……といったところでしょうか。
2021年5月に実施されたiOSのアップデートで,アプリがユーザーのデータを収集する場合,ユーザーの許可が必要になりました。結果,ユーザーのほとんどが「収集を許可しない」ことを選んでいるようです。うかがったように,HCGの運営はデータドリブン,データが生命線であるわけですが,どの程度の影響が出たのでしょうか?
因氏:
「これまでの運営手法は終わった」と言ってよいレベルの影響が出ています。「HCGはもう死んだ」という人もいましたね(笑)。
実際,iOSからは正確な広告データが取れないので,現状は「雰囲気で出稿している」といったところです。特にグローバルでの出稿が大変になりました。これは遠からずAndroidでも適用されるでしょうから,HCG業界としては戦々恐々というところでしょうね。
ゲームよりも広告が先?
4Gamer:
まさに今「日本は広告に対する嫌悪感が強い」というお話が出ましたが,正直に言いますと,自分もHCGプレイ中の広告は嫌いなんです。ほとんどがゲーム,しかも同じタイトルの広告ばかり出てくるので……。もう少しバリエーションが多ければ,むしろ「自分の知らない情報が得られて嬉しい」まであるんですが。
因氏:
それは現状の広告表示システムによって起こる現象ですね。広告を表示する媒体側としては,たくさんのユーザーがインストールするアプリの広告を表示したいわけですから,どうしても「反応の良い広告」ばかりが表示されることになっているのだと思います。
4Gamer:
なるほど。広告についてさらにうかがいたいのですが,プレイアブル広告についてはどのような感触をお持ちでしょうか。
いろいろ取材する中で「すごい宣伝効果がある」から「あまり効果がない」まで,正反対の評価をあちこちで耳にします。
実際にプレイアブル広告を出稿されているNew Storyさん的に,手応えはどうですか?
因氏:
弊社は「他社さんがやってないからプレイアブル広告を出す」という方針ですね。効果そのものは高く,差別化が効いている面もあると思います。
ただ,当然ながらプレイアブル広告は,作るのが手間なんです。一方でHCGの広告はとにかく数を作る必要があるので,その兼ね合いがあって,あまり採用されないのではないかと思います。
4Gamer:
HCGは広告でも試行錯誤があると聞きますが,どれくらいの数を作るものなのでしょうか。
因氏:
「無数」と言うほかないですね……1つのゲームで100,200と作るのが当然という現状です。本当に細かな修正やテストを繰り返して,最も反応の良い広告に落とし込んでいく作業が必要なんですよ。当然ですが,かなりの作業時間を持っていかれます。
4Gamer:
なるほど,その数ではプレイアブル広告を採用しづらいのも分かります。
因氏:
HCGと広告の関係は,従来のゲームのそれとはまったく違ったものだとです。普通はゲームを作ってからその広告を考えるという順番ですが,HCGは広告が先のイメージです。
実際,自分たちがHCGを作る場合は,まずは「こういうシーンをプレイヤーに見せたい」というところから考えます。そのシーンを実際に遊べる必要はなく,人の心を動かすシーンを作るところから着手するんです。
そうでないと,短い広告でゲーマーではない人たちの心を揺さぶったり,そもそも目を止めてもらうこと自体,困難になりますから。
4Gamer:
ゲームデザインの話が出たところでうかがいたいのですが,「Draw Happy」シリーズは何から着想を得てあのようなゲームになったのでしょうか? 実際に画面に線を引くと,その線が物理エンジンをもとにステージに影響して……という,ゲームとは全然違うところから来ているように感じるのですが。
因氏:
「Draw Happy」シリーズは,もともとパズルゲームから生まれたものです。
弊社は以前,脱出ゲームアプリを作っていたことがありまして,「これを新しくできないだろうか?」と考えた結果が,あの作品なんですね。
4Gamer:
言われてみれば,脱出ゲームもシンプルなシステムですし,普段ゲームをしない人もプレイすることが多いジャンルですね。とはいえ,脱出ゲームは高難度をウリにしたものも目立ちますから,それが「Draw Happy」シリーズにつながっていたとは意外です。
「面白い」ではなく,「楽しい」「ハッピー」を提供する
4Gamer:
HCGの持つネガティブな面についてのお話もうかがいます。
まずは,遺憾ながらHCGとは切っても切れない関係になってしまっている,「パクリゲーム」問題です。それこそまだHCGという概念が薄かった「Threes!」の昔から,ゲームアイデアやシステムを事実上完全コピーし,別のゲームとしてヒットさせる手法が存在しました。
今では「ゲームショウに出展されたインディーズゲームのベータ版や,ゲームジャムの成果物をコピーして,先にモバイルでリリースする」といった手法すら見受けられます。
もちろん,ゲームのルールや実装は特許で守れるはずですが,HCGのライフサイクルやシンプルなシステムが,特許の申請手続と相性がいいとは思えません。
この点についてはどうお考えですか?
因氏:
かなり無茶なことをする人たちがいるのは間違いありません。弊社の作品も,システムを模倣するならともかく,グラフィックスのアセットまでガッツリとコピーしている人たちまでいますからね(苦笑)。裁判を起こそうにも,国境を越えるとなかなか難しいですし。
ただその一方で,あるゲームルールやシステムに,「これは俺のほうがもっとうまくできる」という対抗意識を燃やす人がいた結果として,HCGのクオリティが高まってきた面もあります。間違いなく,HCGというジャンルで発表されるゲームの品質は向上し続けているんです。
そうやって互いにリスペクトを持ち,高めあっていくのが,このジャンルの開発者たちの基本的なスタンスだと思っています。
でもまあ,繰り返しになりますが,無茶をする人がいるんですよね(苦笑)。
4Gamer:
講談社や集英社がインディーズゲーム制作者を支援するプログラムを開始するなど,昨今は改めて非ゲーム企業がゲームにも投資するケースが増えました。
こういった流れに素直に乗るとしたら,漫画やアニメなど強いIPをゲームに乗せるという手法が考えられると思いますが,HCGでは現実的に可能でしょうか。そういったIPホルダーの多くは自社で漫画配信サイトやサービスを運営していますので,理論上はそこをプラットフォーム化することも可能ではあると思いますが。
因氏:
難しいですね。IPは売上に対してロイヤリティが発生しますが,HCGは極限の薄利多売なので,ロイヤリティを払おうとすると採算が合わなります。
ただご指摘のように,漫画配信サイトとHCGの相性は良いと思いますので,IPホルダー側に,メディアとしてのHCGをもっと活用していただけるようになればいいと感じています。
4Gamer:
「アーチャー伝説」以降,HCGにもゲーマーに訴求する作品が増えています。フィーチャーフォン時代のモバイルソーシャルゲームでは,最初シンプルなゲームで満足していた人たちが,やがてゲーマーとして成長し,より「濃い」ゲームを求めるという流れがありました。
これらを踏まえると,HCG市場もまたゆっくりとコアゲーマーが楽しむゲームに寄っていき,開発期間と費用が上昇……という定番のルートを歩む可能性も見えるのかなと思いますが,そこはどうお考えでしょうか。
因氏:
自分としてはHCGを,いわゆる“ゲーム”とは違う山として見ているような感覚があります。
HCGは「面白い」ではなく,「楽しい」「ハッピー」を提供するものです。ですから遊ばれ方もまるで違います。
あえて言えば,HCGって「無限プチプチ」に近いと思うんです。「無限プチプチ」は無限にプチプチできることが最も大事なのであって,プチプチしていくうちにどんどん難しくなっていったら楽しくないですよね? このようにHCGは「深まっていく」ものではない,と感じています。
また「アーチャー伝説」のようなタイトルにしても,やはり根底にあるのはHCGだと思います。というのは,プレイヤー獲得の手法がHCGに似た広告モデルだからです。確かにIAP(In-App Purchasing,ゲーム内課金)などの特徴はありますが,IAPありきの作品にはなっていません。
4Gamer:
プチプチの例えはしっくりきました。ではNew Storyさんでは,今後もHCGを中心にゲームを開発されるのでしょうか。
因氏:
あと1〜2年はHCGを開発したいと思っています。HCGというジャンルも,それくらいまでは大丈夫だと思いますし。
ただこれは,このジャンルで我々が戦えるのはあと1〜2年ではないかという危機感の裏返しでもあります。先程述べたように,プラットフォームのルール改定によってユーザーデータが取れなくなると,考え方を大きく変える必要があります。
現在のHCGはデータを読める人が有利ですが,将来的にはアーティスティックな人のほうが強くなるのかもしれませんね。
4Gamer:
時間もなくなってきたようですので最後にお聞きしたいのですが,New StoryさんがHCGで成功できた理由は何だとお考えですか。
因氏:
HCGって本当にデータドリブンな世界なので,自分たちが成功できた理由はデータと真摯に向き合った結果だと思っています。
自分たちがゲーム好きなものですから,開発するにあたっての信念と呼ぶべきものがあります。でもその信念を否定するようなデータが出てくることがある。そうなったときは,自分たちを否定し,データを肯定しています。解釈の仕方は多数あるので,まずは事実を見る。それがHCGというビジネスの感覚であり,そこと折り合いをつけ,咀嚼できたからこそ成功できたのだろうと思いますね。
4Gamer:
なるほど。自分たちが納得できないデータを信じるのは,そう簡単にできることではなさそうです。
因氏:
ただこれはあくまで,「そうすればいい」ということが分かってからの話でもあります。
実のところ,自分たちがNew Storyを立ち上げたときは,右も左も分かりませんでした。ゲーム制作の技術にしても,広告関係の技術にしても,本当に何も知らない状態でした。
そんな状況から今の成功までやってこれたのは,よき指導者に出会えたおかげだと感じています。日本にはゲーム制作や運営のノウハウを持っている人たちがたくさんいて,それぞれの分野のプロと話すことによって得られることがたくさんあるんです。それこそ,自分たちが世界市場にちゃんと出ていけたくらいに,です。ですから自分たちが成功できた本質的な理由を言うなら,「良い人に,良いときに出会えた」ということになりますね。
4Gamer:
本日は長時間,ありがとうございました。
ハイパーカジュアルゲームというジャンルの規模感や,そこで起こるさまざまな動きを見ていると,かつてのフィーチャーフォン向けソーシャルゲーム全盛期を思い出す。非ゲーマーへの市場拡大,小規模な開発体制,データドリブンでのライブオペレーション,あっという間に広まるクローンゲーム……良くも悪くも「懐かしい」というのが正直な思いだ。
一方,その手のゲームが消えていった最大の要因がスマートフォンだったことを考えると,ハイパーカジュアルゲームのこれからは,ユーザーデータの取り扱いだけでなく,「スマートフォンの次は何か」という問いにもつながっているのではないだろうか。このようにゲーム産業の未来を占う点でも,ハイパーカジュアルゲームは非常に興味深いジャンルと言えるだろう。
- 関連タイトル:
お絵かきパズル-Draw Happy Life-
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