インタビュー
Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
「ウィザードリィ・外伝 〜戦闘の監獄〜」
(Windows XP,2005年)
DIMGUILが発売されてから5年後となる2005年に,「ウィザードリィ外伝・戦闘の監獄」が発売されました。プラットフォームはWindowsで,これまでとはガラリと違っていますが,当時の開発経緯についてお願いします。
徳永氏:
私はDIMGUILの開発作業を終えてから,ウィザードリィ以外のいくつかのタイトルを手掛けたのち,フリーに転身しました。
ですが,アスキーに在籍していた頃から,「自分が作りたいウィザードリィ」を形にしたいという想いが,少しずつ募っていたんです。とはいえ,アスキー時代はディレクターとして関わっていたものの,プログラミングに関しては素人でした。また,直接の業務とも関係がないので,独学でプログラミングを勉強しながら,少しずつ開発作業を進めていました。
4Gamer:
徳永さんはゲームボーイ版の外伝シリーズでも,オリジナリティを大切にされていましたよね。それとは別に「作りたいウィザードリィ」があったということでしょうか。
徳永氏:
はい。実は外伝シリーズを手掛けていた頃から,ゲームメーカーがシナリオを販売するビジネスモデルに対し,限界を感じていました。それならいっそのこと,ユーザーが自分でシナリオを制作して,それを望む人がいればダウンロードで相互に供給するシステムを構築したほうが,私も含め幸せになれるのでは? と。
つまり,自分が作りたかったのは,「シナリオエディタの機能を搭載したウィザードリィ」になります。
そしてそのシナリオエディタの実装を踏まえると,ゲームの基本のシステムはシンプルな方が望ましい。具体的にはナンバリング作の#1〜#3や#5,そして外伝シリーズの初期のような,ある意味で原点回帰ともいえる内容です。
4Gamer:
なるほど。
プログラミングは独学とのことですが,開発作業はスムースに進んだんでしょうか。
徳永氏:
なんだかんだで遊べる形にするまで,トータルで10年近く掛かりましたね。
4Gamer:
じゅ,10年!?
徳永氏:
しかも,完成させたときはフリーの身だったので,販売してくれるパブリッシャさんを探したのですが,これも難航しました。すでに時代が変わっていたのか,ダンジョンRPGに対して前向きなメーカーさんが見当たらなかったんです。
それで世に出すのを諦めてかけていたのですが,そんなときにアスキー時代に一緒に仕事をしていた金田さんにダメモトで相談したところ,手を差し伸べてくれました。
金田氏:
当時の私は有限会社を設立して,ウィザードリィとはとくに関係のない事業を手掛けていました。会話ロボットのシナリオ制作とか,携帯電話関連のサービスの立ち上げとか。
そういったなか,久しくやりとりをしていなかった徳永さんから「自分で作ったウィザードリィをログインソフトでリリースしたかったけど,頓挫しそうなんです」といった連絡が来て。びっくりしつつも,ひとまず見せてもらいました。
4Gamer:
あの戦闘の監獄が,ログインソフトからリリースされる可能性があったとは。それで,徳永さんが作られたウィザードリィは,金田さんからどのように見えましたか?
金田氏:
長年ウィザードリィに関わっていた徳永さんだけに,ダンジョンRPGとしての基本システムは,しっかりしていました。ですがグラフィックスやサウンドなどが簡素で,このままでは商品として世には出せないなと。仮にウィザードリィの看板を付けて,それにふさわしい体裁を整えるとなると,おそらく1000万円規模の開発費が追加で必要だろうと思いました。
その額を当時の弊社が単独で捻出するのは難しそうだったので,IRI-CT(※当時の社名。現在はイード)の宮川社長(※現在もイードの社長)に打診しました。実は彼は,アスキー時代の同期なんです。
そしてこのときのIRI-CTさんは,ちょうどパッケージゲームの部門を立ち上げるタイミングで,運良くその流れに乗ることができたというわけです。
4Gamer:
商品化のために,具体的にどういった作業を?
金田氏:
まず,ウィザードリィの看板を掲げるのであれば,モンスターのデザインは末弥さんを起用したいところです。しかし予算を踏まえると,総てのモンスターを新規でデザインしてもらうのは無理です。そこで,コンシューマ版の開発時に使った原画を再利用する方向で考えました。
4Gamer:
今回はゲームボーイ向けではなくWindows向け,つまりカラー表示が可能なわけで,であれば末弥さんのイメージが真っ先に思い浮かびますよね。
金田氏:
ところが,末弥さんがファミコン版のために当時描いた原画は,非常にラフなものだったんです。
ファミコンの解像度は今ではありえないくらいの低さで,またモンスター1体を表示させる際も,たったの4色しか使えませんでした。仮にリアルな原画を持ってこられても,逆にデザイナーが困ってしまうような時代だったんです。
そのため,当時の原画を1枚1枚こちらで描き直し,それに対する監修作業を末弥さんにお願いする方向でまとまりました。
4Gamer:
ファミコン版のモンスターグラフィックスは,ブラウン管の“にじみ”すら逆手に取って表現されてる感じがありますし,こうやって描き直されたグラフィックスと見比べると,隔世の感がありますね。
金田氏:
次に音楽ですが,ここは景気よく羽田健太郎さん!※14 と言いたいところですが,さすがに予算が見合うはずもなく。
そこで,当時親しくさせていただいていた,ベイシスケイプ※15さんにお声掛けをしました。当時はすでにゲーマー間で有名で,ウィザードリィとの親和性もきっと高いだろうなと。「予算がこれだけしかないのですが……」と恐る恐る打診をして,引き受けていただいたときは嬉しかったですね。
※14
既述のとおりファミコン版ウィザードリィの音楽を担当した作曲家。クラシックからポップス,劇伴音楽からゲーム音楽まで多岐にわたる活躍を見せており,この当時は大御所と言っていいほどの存在で,手掛けた曲の知名度は半端なものではない。4Gamerでは以前,ファミコン版ウィザードリィにちなんで開催されたオーケストラコンサートの取材記事を掲載している。
※15
崎元 仁氏が代表を務める,ゲームサウンドのトータルプロデュースを手掛ける会社。「伝説のオウガバトル」「タクティクスオウガ」「ファイナルファンタジーXII」「十三機兵防衛圏」などなど,数々の名作を手掛けている。
4Gamer:
個人的に戦闘の監獄は,原点回帰の各仕様をはじめ荘厳なBGMや軽快な動作など,理想のウィザードリィそのものでした。徳永さんにとって,開発後の手応えはいかがでしたか?
徳永氏:
ありがとうございます。手応えがあったと言えれば良いのですが,当時はプログラマとして新米で,リリース時点ではバグも多く反省することしきりでした。
アップデートを重ねることでバグは解消できましたが,そのときも手応えというより,ようやく安心できたことのほうが印象に残っていますね。
4Gamer:
戦闘の監獄にシナリオエディタは搭載されませんでしたが,リリース後に無料の追加シナリオ「テッドの迷宮」と,有料の追加シナリオ「慈悲の不在」が登場しています。
徳永氏:
当時の私は戦闘の監獄本編のアップデート開発に手一杯で,シナリオエディタを公開する余裕まではありませんでした。ただ,エディタを内部で使う分には支障がなかったので,これを利用して追加シナリオを展開することにしたんです。
金田氏:
でも慈悲の不在は,販売実績があまり振るわなかったですね。
そもそも追加シナリオの形式だと,本編を持っている人しか入手できません。そして戦闘の監獄も,ウィザードリィの休眠層までは十分に届いておらず,ダウンロード販売に対する限界がありました。
4Gamer:
金田さんにとって,戦闘の監獄に対するビジネス的な評価はいかがでしたか?
実際にプレイされた方の評価は非常に高く,またほかのプラットフォームへの展開も行え,利益も出せました。ですが,「昔はウィザードリィにハマっていたけど,長らくゲームから離れている」といった,いわゆる休眠層の引き起こしには至っていません。
かつてウィザードリィをリアルタイムで経験した人は,年齢を重ねてお金にも比較的余裕ができている頃合いでしょう。過去のウィザードリィシリーズの販売本数を踏まえると,仮に休眠層へのアプローチが成功していれば,もっと良い結果を残せたはずです。その点では,反省が残るプロジェクトでしたね。
「ウィザードリィ・外伝 〜五つの試練〜」
(Windows XP,2006年)
戦闘の監獄の次は,「ウィザードリィ・外伝 〜五つの試練〜」が2006年という早いペースで発売されました。
金田氏:
IRI-CTさんから早々に,続編を制作しませんかと打診があったんです。でも,旧外伝シリーズの開発経験を振り返ると,仮にシリーズ化した場合は,新たな“売り”を作るのに苦労するのが目に見えていました。ですので,最初に打診を受けたときは難色を示しましたね。
実際には,1つだけ売りを用意することができたのですが,それは禁じ手でした。徳永さんが先ほど言っていた,シナリオエディタです。「仮にこれを公開したら,もう続編は出せなくなるかもしれませんよ?」と,IRI-CTさんに念を押したことを覚えています。
4Gamer:
それはつまり,ユーザーが自前で優れたシナリオを作れてしまうと,オフィシャルが続編を出す意味がなくなってしまうということですか。
金田氏:
そういうことですね。また,それとは別問題で,ユーザーが優れたシナリオを作れるかどうかも未知数でした。そのためシナリオエディタだけを売りにするのはリスクがあります。
そこで,仮にシナリオエディタが無くても楽しめるように,我々が制作した5本の公式シナリオをセットにして,「五つの試練」に仕上げました。
4Gamer:
シナリオエディタに対する,発売後の反響はいかがでしたか?
徳永氏:
驚くべきことに,現在に至るまで110本以上もの優れたシナリオが投稿されています。
4Gamer:
“とりあえず作ってみた”レベルではなく,きちんと遊べるシナリオが110本以上ということですか?
金田氏:
その通りです。
私はアスキー時代にツクールシリーズにも関わったことがあるので分かるのですが,一般のユーザーさんがエディタを使ってゲームを最後まで仕上げるのって,相当ハードルの高いことなんです。五つの試練のシナリオエディタも,ちょっと触って頓挫してしまう人が多いんだろうなと内心思っていました。
しかし実際には,公式シナリオを上回る完成度の投稿シナリオも少なくありません。皆さん,本当に素晴らしいです。
いま公式サイトを確認しました。リリースから15年も経過して,最新OSへの公式サポートすら行われなくなって久しいのに,現在に至るまで途絶えることなくシナリオが投稿されているんですね……。確かに,これはすごい。
金田氏:
ゲーム開発におけるアマチュアとプロの違いは,それでお金をもらっているか否かだけです。それよりも大事なのは,開発者がこれまで経験してきたことと,ゲームに対する情熱であり,それらは学校で習えるような代物ではありません。
今回のシナリオエディタに対する反響を見て,こういった情熱を持つ人が,今後のウィザードリィを背負うのが自然な形ではないかと思いました。そして,そのための環境を実現できたという意味で,五つの試練には大きな手応えを感じています。
4Gamer:
徳永さんにとっては,積年の想いが結実されたといえるんでしょうか。
徳永氏:
そうですね。
しかし,ユーザーがこだわることで,シナリオエディタの可能性はまだまだ広がる余地があると信じています。それを証明するために,五つの試練のリリース後も,地道にアップデート作業を続けています。
4Gamer:
とはいえ,ユーザーはシナリオエディタを無料で利用できる一方,アップデートの開発やサーバー周りの費用は発生し続けるわけですよね。
徳永氏:
費用は我々の持ち出しです。
先ほど申し上げた「自分の作りたいウィザードリィ」に直接関われるのだから,私は多少のことなら我慢できます。しかし金田さんは通常業務もあるなか,土日などに対応をお願いすることもあるので,申し訳なく思っています。
金田氏:
そこに関しては,別の面での反省もありますね。
やはり,完成度の高いシナリオを制作した人は,何らかの形で利益を享受できるようにしたいですね。当時はそういう仕組みを作るのが難しかったのですが,今なら可能性があるでしょうし。
4Gamer:
シナリオエディタがカスタマイズできる幅について確認をさせてください。
たとえばですが,ウィザードリィの過去シリーズ作を丸ごと再現するようなシナリオは作れますか?
徳永氏:
著作権のことはいったん脇に置いてエディタとしての可能性だけを言うと,少なくとも#1〜#3は再現可能です。#5は,1フロアのサイズが大きいので難しいですね。
ちなみにダンジョンは100層まで,アイテムやモンスターは999種類まで登録できます。呪文効果もある程度自由に変更できます。外伝シリーズなら,#1〜#4を全部足したよりもボリュームのあるシナリオが制作できますよ。
4Gamer:
かなり強力なエディタですね。
徳永氏:
ゲームボーイ版の外伝シリーズを開発していた頃,マップデータの入力作業に苦労していたのを思い出します。もし当時にこんなグラフィカルなエディタがあれば,開発作業も楽だっただろうなと。
金田氏:
あの頃はプリントしたダンジョンの図面を見ながら,壁やダークゾーンなどの座標を一個一個手打ちで入力していたんですよ。
壁のレイアウトを1マス間違えて「*いしのなかにいる*」も,開発中に何度もありましたね……。
4Gamer:
外伝シリーズのスタッフロールをあらためて見ると,関わっている開発者の少なさに驚かされます。デバッグ作業なんかも,きっと大変でしたよね。
金田氏:
ファミコンの頃は,アスキーの社員が総出でデバッグ作業を行っていました。外伝シリーズの初期に,社内にデバッグ専門のチームが出来て嬉しかった記憶がありますね。
徳永氏:
それでもマスターアップの直前にフラグミスが発覚して,何日間も帰宅できないとか,苦労が多かったです。全力で対応したつもりでも潰せなかったバグが多く,反省することしきりです。
「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版
(Windows 10,2021年)
4Gamer:
さて,そんなわけでようやくですが。
ついに,今回のインタビューの主題である「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版です。2006年に発売されたタイトルが,いったいどういった経緯でリニューアルに至ったのでしょうか。
徳永氏:
戦闘の監獄と五つの試練はWindows 98でも動作するように開発したのですが,その後のマイクロソフトのOSアップグレードに対応できない状態が長く続いていました。熱心なユーザーさんの間では,新たなOSに対応するための抜け道が伝わっていましたが,やはりオフィシャルが正式に対応させるべきでしょう。
金田氏:
でも開発に必要な予算を捻出できず,どうにかせねばと思いつつも,ズルズルと時間だけが経過していました。
そういったなか,iOS向けに展開している戦闘の監獄に関して,アップルから64bit対応を義務化する通達※16があったんです。対応しなければストアからリジェクトされてしまうため,これはマズいと重い腰を上げました。
※16
2014年10月20日に通達が出され,2015年2月1日からの対応が義務づけられた。
4Gamer:
私は戦闘の監獄に触れたとき,「これさえあれば,版権問題に悩まされずに昔ながらのウィザードリィを一生遊べる!」と大喜びしていたのです。まさか,OSのアップグレードで遊べなくなるとは,夢にも思いませんでした。
徳永氏:
WindowsやiOSの最新バージョンに対応させるだけなら,実はそれほど難しい作業ではないんです。実際に2017年の時点で,五つの試練のWindows 10版やiOS版は,内部では一応完成していましたし。
でも,どうせなら「将来的な展開」にも対応できるように,色々と仕込みをしたかったんです。そこでプログラムをUnityで作り直すことにしたのですが,ここからの作業がとにかく大変でした。
金田氏:
次に販売形態ですが,今回のパブリッシャであるイードさんと相談したうえで,Steamを通じてのダウンロード販売を採用しました。
4Gamer:
現在はダウンロード販売が主流ですからね。旧バージョンのパッケージ版はとても格好良かったので,少し残念ではありますが。
徳永氏:
確かに制作者側から見ても,戦闘の監獄と五つの試練のパッケージ版は,見ていて誇らしかったです。
金田氏:
そういえばアスキー時代も,パッケージの箔押しはお金が掛かるので,よく営業部に嫌がられていましたよ(笑)。
4Gamer:
Steam版の基本コンセプトはどんなものですか?
金田氏:
私は最初,なるべく工数を掛けずにサクっとリリースするのが良いかなと考えていました。その点を踏まえると,すでに完成しているiOS版の戦闘の監獄をベースにして,Windowsへの移植や五つの試練への対応を行うのが確実です。
ですが,イードさんが非常に乗り気になってくださいまして。このあたりの詳しい話は,ディレクターである堀江さんに聞いてもらうのが早いと思います。
イード 堀江 陽氏(以下,堀江氏):
はじめまして。今回のSteam対応版でイード側のディレクターを担当している,堀江と申します。
金田さんがおっしゃる,モバイル版をベースにベタ移植する方法は,確かに開発工数だけなら少なく済むでしょう。しかし,かく言う私もウィザードリィが好きで,五つの試練を再びリリースできないか,社内でずっと働きかけを続けていました。その結果,今回の再リリースにつながったわけで,せっかくなら現在のゲーム環境で欠かせないSteamへの対応をはじめ,遊びやすい環境を構築したいと思ったんです。
4Gamer:
Steamへの対応以外には,どういった開発作業を行ったんですか?
堀江氏:
移植作業のベースとなるiOS版の戦闘の監獄は,UIレイアウトなどがスマートフォン向けに最適化されています。ですが今回のSteam対応版は,高解像度かつワイド画面でのプレイを想定しています。その環境で迫力のあるゲームプレイを楽しむには,新たなUIレイアウトが必要だと思いました。
一方で,ウィザードリィといえば,白と黒が織りなすシンプルなUIレイアウトを思い出す昔ながらのファンも多いでしょう。そういった人に親しみを持って遊んでもらうために,ややクラシック寄りにしたUIレイアウトもあるとベターです。これら2種類のUIレイアウトを,新規で開発することにしました。
新規UIレイアウト「HD MODE(仮)」 | 新規UIレイアウト「HD Classic(仮)」 |
徳永氏:
ちょっと補足すると,Steam対応版のUIレイアウトは,イードさんが主導でデザインされた2種類と,従来のスマホ向けのものをベースにした2種類があります。計4種類あるどのUIレイアウトでもゲーム内容は同じなので,遊びやすいものを選んでいただければと。
4Gamer:
さきほど私も開発バージョンを触らせていただきました。プログラムをUnityで作り直しているとのことですが,ダンジョン内の演出なども微妙に違っていますね。
堀江氏:
解像度が最大4Kまで対応しているほか,ダンジョン内を3D化していたり,ちょっとしたオマケ機能も追加していたり,またゲームパッドにも対応していたりと,内部的にはかなり変更しています。タイトル名やゲームの内容こそ,ユーザーの皆様に15年愛していただいた「五つの試練」ですが,2021年に登場するPC向けゲームとしてふさわしい機能を盛り込んでいます。
特に印象に残った点のひとつは,モンスターのグラフィックスです。
末弥さんが手掛けられたグラフィックスを,フルスクリーンで堪能できるのは素晴らしいの一言です。思わず,手元にあるウィザードリィの画集と見比べてしまいました。
徳永氏:
モンスターのグラフィックスに関しては,「戦闘の監獄」や(旧バージョンの)「五つの試練」の開発時に描き直していただいた原画をもとに,あらためて制作しました。
実は,当時描き直した原画は緻密に描かれていたのですが,戦闘の監獄の画面解像度は640×480ピクセルだったため,その良さを完全には生かせていなかったんです。今回のSteam対応版で,ようやく原画にふさわしいグラフィックスを実現できたと思います。
4Gamer:
好評だったシナリオエディタに関しては,Steam対応版ではどうなるのでしょうか?
もちろん,実装していますよ。シナリオエディタも「Wiz Tools 2.0」として,イチから作り直しています。
シナリオ投稿用に新たなサーバーを構築しており,過去に投稿されたシナリオも全部コンバートします。また,ゲーム内メニューでシナリオをダウンロードできるなど,よりアクセスしやすくなっています。
4Gamer:
……ということはリリース時点で,五つの試練の公式シナリオだけでなく,110本以上ものユーザーシナリオも丸ごと遊べるわけですか?
徳永氏:
そういうことですね。
そのほかにも,制作中のシナリオのオートセーブ機能を追加するなど,シナリオエディタ自体も大幅にアップデートしています。これまで優れたシナリオを制作してくださった皆さんに対しては感謝するとともに,ぜひ今後の展開にも期待してくれればと思います。
4Gamer:
リリース後の展開に関して,現在お話できることはありますか?
徳永氏:
仮に今後新しい何かをするにせよ,きちんとリリースしてプログラムを安定させなければ話になりません。それをクリアした後の話にはなりますが,ぜひ実現したいのは,シナリオエディタのアップデートです。
これまでの投稿作品を通じて,ユーザーさんの熱意は十分に届いています。その熱意に答えるべく,エディタ内のカスタマイズ幅を広げるなど,より奥深いシナリオを制作するための環境を整えたいですね。
金田氏:
ただ,カスタマイズ幅を広げると,制作時のハードルが高まるという側面もあります。ですので,カスタマイズ幅をどこまで広げるかの判断は悩ましいですね。まぁ,究極まで突き詰めると,自分でゼロから作れば何でもできるわけですが(笑)。
4Gamer:
半分冗談かと思いきや,金田さんは外伝1で,徳永さんは戦闘の監獄でそれを実行されていたわけですね……。
堀江氏:
あとは,シナリオを投稿するサーバーに関して,「Steamワークショップ」にアップロードする方法も予定しています。
4Gamer:
ほかプラットフォームへの展開はいかがでしょうか。
今回はゲームパッドにも対応しており,最新のコンシューマ機でも遊んでみたいなと思いました。また,iOS版から移植されたUIレイアウトもあるわけで,スマホ向けの展開も行えそうです。
堀江氏:
今のところ何も決まってはいませんが,将来的にそういった展開も検討できるように,まずはリリース時の完成度を高めたいですね。
4Gamer:
海外に向けての配信予定はいかがでしょうか?
太古の昔より,日本で展開されるウィザードリィは,ゲーム内コンフィグで英語を選べます。またSteamなので,海外対応も極端に難しくはなさそうです。
金田氏:
実際には,公式シナリオやシナリオエディタの翻訳作業も必要になるので,すぐに対応というわけにはいかないでしょうけど。海外のウィザードリィファンが制作するシナリオは,ぜひ見てみたいですね。
4Gamer:
個人的には,Andrew C. Greenberg氏やRobert Woodhead氏にも,本作のことを伝えたいと思いました。あなた達が作ったWizardryは,今もなお日本でこんなに愛されているんですよ,と。
それと,もちろん三田さんにも……!
金田氏:
三田さん,もし見ていたら連絡お待ちしてます!
4Gamer:
では,そろそろ締めに入らせて頂きます。
まず,長年のウィザードリィのファンに向けて,本作の見どころをあらためてアピールしてください。
堀江氏:
今回リリースする五つの試練は,「ウィザードリィ・外伝」シリーズの最新作です。そして同時に,皆さんが“ウィザードリィ”と聞いて思い浮かべるであろう,Apple II版やパソコン版,ファミコン版,ゲームボーイ版,スーパーファミコン版における,あの良さを存分に引き継いだ作品です。ウィザードリィのファンなら確実に楽しめるので,ぜひご期待ください。
4Gamer:
そして,ダンジョンRPG未経験者に向けてのアピールもお願いします。
堀江氏:
五つの試練のダンジョンは,シナリオによってそれこそ千差万別です。謎を解かない限り一歩進むだけで帰らぬ人になるようなダンジョンや,地獄のような悪鬼が蠢く中,屍の山を築き上げるダンジョン,深いことは考えずにスキップ気分で進められるダンジョンなどなど。ユーザー投稿シナリオを含めると,その可能性はまさに無限大です。
ウィザードリィは長い歴史があるので,名前を聞いて尻込みする人もいるかもしれません。ですが基本システムは非常にシンプルで,遊ぶためのハードルも低いです。しかもSteamなので,もし興味を持ったらすぐにダウンロードして遊べます。ぜひこの機会に,ダンジョンRPGの神髄を味わってみてください。
4Gamer:
期待しています。
本日はありがとうございました。
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「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版をレビュー。現時点で113本のシナリオをとことん遊べる,古き良きダンジョンRPGの決定打
Wizardryシリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版のアーリーアクセスが,ついに始まった。筋金入りのファンが過去15年間に制作したユーザーシナリオを含む,合計113本ものシナリオを2980円(税込)で遊べてしまう。本作の魅力や各種システムなどを紹介しよう。
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- レビュー
- ライター:川崎政一郎
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ウィザードリィ外伝 五つの試練
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