インタビュー
[インタビュー]「なつもん! 20世紀の夏休み」は綾部 和氏と和田康宏氏のコラボにより,これまでとはひと味違う夏休みを体験できる
オープンワールドで展開される,夏休みのひとときがどのようにして企画されたのか。そして,開発の裏話なども語られたのでお伝えしよう。
なお,合同インタビューの直前にはメディア向けハンズオンイベントが行われた。その模様は以下のリンクからご覧いただきたい。
[プレイレポ]「なつもん! 20世紀の夏休み」を北陸で体験。サーカス一座の息子となって,オープンワールドの「よもぎ町」で夏の思い出を作ろう!
スパイク・チュンソフトから2023年7月28日の発売が予定されている「なつもん! 20世紀の夏休み」のハンズオンレポートをお届けする。本作の舞台を彷彿とさせる北陸の地で,オープンワールドによる夏休みアドベンチャーを一足早く体験してきた。
創立121年,木下大サーカスを観覧して,「なつもん! 20世紀の夏休み」の重要なフィーチャーであるサーカスを知る!
スパイク・チュンソフトが2023年7月28日の発売を予定している「なつもん!20世紀の夏休み」は,サーカスが重要なフィーチャーになっている。今回,4Gamerでは同社主催の取材で「木下大サーカス」を観覧し,その魅力を知ることができた。
「なつもん! 20世紀の夏休み」公式サイト
トイボックスとミレニアムキッチンの初コラボは,綾部氏が温めていた企画
――「なつもん! 20世紀の夏休み」の企画と開発を,トイボックスとミレニアムキッチンが手がけることになった経緯から聞かせてください。
和田氏:
2年ほど前だったと思いますが,弊社の金沢(金沢十三男氏)の発案で,綾部さんにお話をさせていただいたのがきっかけでした。
僕は「牧場物語」シリーズ,綾部さんは「ぼくのなつやすみ」シリーズ,お互いに「戦わないゲーム」という異端なタイトルを作ってきたことから,たまに食事をしたりといった交流はあったんですが,あらためて「一緒に仕事をしてみたら面白いのではないか」という金沢の提案があって,そこから始まったんです。
綾部さんと一緒にゲームを作るにあたり,僕自身は「何か面白いケミストリーがないか」と考えていたんですが,その段階で綾部さんの中には作りたいものの明確なビジョンがありました。それならばと,僕は一歩引いた立場で開発を見ることに専念して,クリエイティブな部分をすべて綾部さんにお任せすることにしたんです。
綾部氏:
昨年,「クレヨンしんちゃん 『オラと博士の夏休み』〜おわらない七日間の旅〜」を出させていただきました。あのゲームは背景が2Dの「ぼくのなつやすみ」の手法を踏襲しているんですが,同じような仕組みと世界観の完全なオープンワールドゲームが作れないか,という発想が僕の中にあったんです。最初にフィールドの全体マップのラフを作って,2日ぐらいかけてその精度を上げて……。それがもう,すぐにゲーム画面として出せるくらいにゲームエンジンとの相性が良い企画だったんですね。
和田さんとのプライベートなところからスタートした企画ですが,開発環境をはじめ,いろいろな要素がすごくいい方向に進みました。こんなに楽しく,こんなにいろいろなアイデアを入れられたのは初めてじゃないかというほどに充実していて,本当にいい機会をいただきました。
和田氏:
綾部さんに作っていただいた2Dマップの完成形は,本当に全フィールドを真上から見た地図で,ちゃんと等高線も書かれていました。高さや地形も分かる詳細なものでしたが,それは秋口ぐらいにできていたんです。
そこから数日で全体の3Dマップの基礎となるランドスケープができたんですが,短期間でここまでのマップを作れるのなら,綾部さんにはもっとゲームデザインやアイデアに力を入れていただけると確信したんです。大きな手応えをつかんだ瞬間でした。
綾部氏:
土台ができるのが早くて,そこから先はひたすら上に積み重ねていく作り方ができました。たぶん今でも,開発者の誰かが思いついたことをこっそり重ねていると思います。だから私の知らない要素もけっこう入っていると思います(笑)。
――主人公をサーカス団の息子に設定した理由を教えてください。
綾部氏:
これには大きく2つの理由がありまして,夏が終わったらこの町を去っていく設定にしたかったというのが1つ目の理由です。短期間だけ,その町にいるというキャラクター設定ですね。
そして,主人公はステッカー(スタミナのような要素)がたくさん溜まると,超人的な体技ができるようになるんです。例えば2段ジャンプとかですね。その設定に違和感がない主人公の成り立ちには,一体どんなものがあるかと考えた結果,サーカス団の息子という設定になりました。
――ゲーム中,カメラ視点が屋内などの特定の場所では固定されます。この仕様を採用したのはなぜでしょう。
綾部氏:
3Dだけど2Dっぽく背景が止まっている場所がないと,僕の持ち味が出せないのではないかという懸念があったんです。ただ,これはどちらかと言えば,プロデューサー的な考えですね。
実際には,マップの狭い場所でカメラが動いたら画面表示がおかしくなる,というゲーム的な理由でそうしているところもあります。
和田氏:
日本の場合,リアルに近い縮尺で家屋を作っていくと,すごく狭くなるんですよ。その中でフリーカメラにすると,いろいろなところにぶつかったり,めり込んだりして,快適なプレイフィールを保てないことがある。これが,開発上の大きな理由ですね。
もう一つ,カメラを固定する利点として,画角を意識してその画面を見せることができます。どう見せれば,その画面がいい感じに見えるか。これは綾部さんが「ぼくのなつやすみ」で培ってきた,最も得意とするところですし,そうした相性もいいかなということで採用しました。
綾部氏:
2Dっぽくしないと情報量が足らなくて,生活感のある屋内などは描ききれないのではないか,という懸念もあったんです。しかし,3Dを作ってくれた開発チームがすごく頑張ってくれて,結果として3Dでもしっかりと生活感が描けたんです。ですので,現在の結果を見てから作っていたら,もしかすると2Dのところはなくなっているかもしれません。それでもやっぱり,狭いところはカメラを固定したほうが見やすいんですよね。
和田氏:
今回の開発ではローディングにものすごく気を使っています。オープンワールドの世界で建物を出入りしても,いかにストレスなく移動できるかというところに力を入れました。
もちろん,ゲームの開始時には一定時間のローディングが入りますが,始まってしまえば,どこに行こうとほぼローディングのストレスを感じないような作りです。屋内外の切り替えにおいても,部屋の中の見た目の解像度を保ちながらデータ的には軽くしているんです。
窓の外に見える景色をフィールドのそのままの形で見せたい,という綾部さんの希望もがありました。これも開発チームが非常に頑張ってくれて,実際にそのまま見えているわけではないんだけど,それらしく見えるような工夫をして,窓の外の景色に違和感がないようにしています。
――本作の大きな特徴である,屋外のさまざまな場所を登れるアクションはどのような経緯で生まれたのでしょうか。
綾部氏:
発想としては,活発でわんぱくな主人公にしたかったということがあります。全部の屋根に登れるのは,作るのもデバッグも大変なので,最初は家ではなく電柱を登らせるつもりでいて,登れる壁と登れない壁を分ける仕様で作っていたんです。それがいつの間にか,ほぼ全部登れるようになっていました(笑)。
そうなった理由はひとえに,開発が楽しかったんだと思います。作業効率を考えればそこまでやらなくてもいいのに,楽しいからそうなってしまったということですね。その結果,実際に遊んでみても楽しい。作っていても遊んでいても楽しいというのは正義だと考えて,デバッグが大変なことも承知の上で採用させていただきました。
和田氏:
開発は終盤に入っていますから,壁登りをしてどんなところに行けるのか,全部見ているつもりではありますが,発売後に多くのプレイヤーに遊んでいただいたときに,自分達が想像もしていなかったことが起こるでしょう。それが楽しみでもあり,怖くもあります。
子供の頃,高いところに登ると大人からは「危ないから止めろ」と注意されるけど,本人たちはめちゃくちゃ楽しいじゃないですか。「なつもん!」の壁登りで,あの頃の楽しさをちょっとでも感じてもらえたら嬉しいですね。
綾部氏:
壁登りのお楽しみとして,オススメしたい大きなポイントがあります。花火が上がるゲーム内イベントがあるんですが,これを高い場所から眺めると,自分の目線よりも低いところで花火が見られます。これはかなり新鮮な体験になると思いますので,ゲームが発売された暁には,ぜひ然るべき場所から花火を眺めてみてください。
古くから存在するサーカスというエンターテイメントを本格的に導入
――お子さんや親子で楽しめるようなポイントを教えてください。
綾部氏:
本作には釣った魚を家のおばちゃんに渡すと,その日の晩ご飯に出してくれるという要素があります。子供の体験としてはかなりスペシャルなご褒美だと思いますので,大きな魚だったり,数を釣ったりするといったチャレンジをしてほしいです。
虫も200種類以上登場しますが,中には「これ,虫じゃないんじゃないの?」みたいなものが混じっています。ぜひそれも見つけてほしいですね。よりによって,私がテストプレイのときに最初に捕まえたのがそれだったんですが(笑)。
実は,親戚の子供が「ぼくなつ」を遊んだことで,すごく昆虫に詳しくなったという出来事があったんです。ゲームがきっかけで昆虫博士が生まれたら素敵じゃないですか。本作もそういうタイトルになることを期待しています。
和田氏:
明確にお子さん向けというものではありませんが,ゲーム内イベントに「探偵ごっこ」があります。困っている人を助けたり,謎解きをしたりするような小さなエピソードがたくさん入っていて,それらを解決したときには名探偵の気分と爽快感を味わえます。
榊原氏:
本作は,私達のような親世代が子供だった頃を描いている内容ですが,今の子供達もやっていることは大きく変わらないと思います。「やっていることは同じだけど昔はこうだった」という話を,親子で楽しんでいただきたいですね。
――ゲーム中に登場するサーカスの演目のうち,皆さんのお気に入りを教えてください。
綾部氏:
ゲームではおそらく後半で観ることになる「ホイール・オブ・デス」が気に入っています。巨大な鉄の輪を鉄骨でつないだ車輪を使う演目で,演者がその上で命がけの演技をするというものです。
サーカスのシーンでは演目を見せるだけでなく,音楽の同期などもかなり工夫しているので,演出面なども意識して見ていただけると嬉しいですね。
和田氏:
演目を1つだけ選ぶのは非常に難しいです。例えば,サーカスの華である空中ブランコや綱渡りはたくさん見どころがあります。ただ,何よりサーカスを扱ったゲームがこれまでに見当たらないということもあり,初めてサーカスを本格的に物語に組み込んだレアなタイトルになったという自負はあります。
大きな鉄のボールの中でバイクがグルグル回る演目がありますが,子供の頃に見たサーカスの古い記憶にそれが残っていたんです。本作の開発に携わったことで,今でもそれが演目として披露されていると知りました。世の中にいろいろな決まりごとができて,制約も増えている中で,ギリギリの線で頑張っているサーカス団の皆さんを知ることができたのは,すごく印象的でした。
榊原氏:
「シーソー」という演目の中で,団員のナガセさんとラッキーさんのやりとりが個人的に気に入っています。シーソーは最初から選べる演目なので,ゲームらしいと言いますか,演出的にあまりリアリティのない会話を見て,ニヤリとしていただきたいですね(笑)。
――従来の綾部さんのタイトルでは,夏休みの1日の経過時間がプレイヤーにとって「ちょっと足らない」感覚がありました。今回はオープンワールドを採用していますが,時間経過の調整は難しくありませんでしたか。
綾部氏:
1日の長さに関しては正解がなくて,これまでも「ちょっと足らない」ところを目指していました。今回の「なつもん!」でも同様でしたが,場所によっては「ここで呼び戻されたら,さすがに泣くよね」というところもあるので,ちょっとしたゲーム的なフォローを用意しています。
また1日ではなく,夏休み全体の31日間については,ほどよい感じの配分になったという手応えがあります。普通の速度で遊んでいるとちょっと足らないぐらいですけど,正解がないからこそ,時間の進み方を遅くしたり速くしたりする機能を入れることにしたんです。
3段階の速度を設定できるので,どうしてもここはじっくり進めたいと思ったら時間経過をゆっくりにするみたいに切り替えてみてください。
和田氏:
時間の設定は大変でした。綾部さんのイメージは最初から開発チームに伝えていて,時間帯によってはリアルタイムに進む時間が遅くなるといった仕組みを考えてみましたが,それだとコンテンツが揃わない最初のうちは時間が余りがちになってしまうんです。
ゲームの密度が足りなく感じられるので,それを埋めるためにコンテンツを増やすと,今度は時間が足りなくなる。そのうえ,増やしたコンテンツがゲームにとって本当に必要なものなのかを検討しなければならないので,開発期間の終盤,数か月はその調整に費やしました。
最終的には綾部さんの「ちょっと時間が足らない」バランスに納めることができましたが,その場にぼーっと座っているだけでも懐かしい空気感を味わえるゲームを目指していたのも確かなんです。ゆったりしたペースで遊んでもいいですし,周回したいという人は経過速度を上げて楽しんでもいい,可能な限りの自由度を設けた仕様になりました。
――綾部さんのこれまでの作品よりもアクション要素が増したような印象がありますが,差別化は意識されましたか。
綾部氏:
計画的に差別化を図ろうということはなく,いろいろなことができるように作ってきた結果として,今の形になったというのが正直なところですね。
和田氏:
僕もゲームを作る人間なので変な話ですが,僕が作ったら僕が作ったものにしかならないんですね。綾部さんの作品もまた然りです。今回は「オープンワールドを作ろう」ということになりましたが,綾部さんが作りたいものを作った結果が今の形で,できることが増えた結果が差別化に見えているように思います。
シンプルに「わんぱくでやんちゃな少年が自由に動き回れる,オープンワールドの夏休みゲームが作りたい」というのが本作の原点であり,技術的な部分などでも差別化を意識したことはないんですね。
――ハンズオンは2時間でしたが,周回プレイも楽しめそうな手応えを感じました。
綾部氏:
オープンワールドになって,そこそこたくさんの要素を用意させていただいたので,かなり効率よく動いても,どうしても何かを残してしまうことになると思います。
プレイスタイルや好みによって「夏休みは1回きり」という人も,「すべて見たいから,もう1回!」という人もいらっしゃると思います。心残りがある人のために一部の要素を引き継いで,夏休みをもう一度楽しんでいただける仕組みにしています。
――オープンワールドという言葉をあまり知らない人や「ぼくなつ」を遊んだことがあるという人に向けて,本作をアピールしていただけますか。
綾部氏:
ゲームの立ち上げのときに,和田さんとよく話していたのは「この作品は夏休みの“お話”ではなく“体験”」ということです。とにかく自由な夏休みを体験して,やんちゃに遊び回れるゲームを目指してきました。「ぼくなつ」ファンの皆さんにも「これまで以上にいろいろなことができるゲームができました」と,自信を持って言えるタイトルだと思います。
また,今回の舞台をイメージするために北陸の各地を取材しています。どこか具体的な地名が出てくるわけではないんですが,知っている人が見れば,「なるほど」と気づける場所がたくさんあります。よもぎ町を隅々まで走り回って,遊び倒してください。
和田氏:
小さい子供を公園に連れて行くと,あれこれ言わなくても,自分で好きなように駆け回って遊ぶじゃないですか。それがそのままゲームになった感じですね。そこにサーカスという独自の要素が絡んで,あまり前例のないゲームができあがったと思います。
派手な演出があったり,バトルをしたりする内容ではないですが,このゲームにしかないプレイ後の清涼感が残る体験がたくさん詰まっています。ぜひ手に取って遊んでいただければ嬉しいです。
榊原氏:
今回,スパイク・チュンソフトとしてはご縁があって,綾部さんと和田さんとご一緒させていただきました。新しい方向性を開拓するタイトルとして7月28日に発売いたします。
我々としても「なつもん!」の世界をできるだけ崩さないように,起動時にドクロマークのスパイク・チュンソフトロゴを表示しないといった初めての試みもしています。たくさんの方に手に取っていただき,本作の素晴らしさを体験してほしいと思います。
――ありがとうございました。
「なつもん! 20世紀の夏休み」公式サイト
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