2023年7月28日から7月31日まで,中国の上海新国际博览中心にて行われたゲームショウ「ChinaJoy 2023」。その会期中に
「Awaken - Astral Blade」(觉醒异刃)のデベロッパ,Dark Pigeon Gamesの
刘 海深氏に話を聞く機会を得た。
「Awaken - Astral Blade」は,いわゆるメトロイドヴァニアと言われるタイプの探索型アクションゲームだ。中国のインディーデベロッパが手掛ける作品の中から優れたものを選出するSony Interactive Entertainmentのプロジェクト
「China Hero Project」の第3期タイトルの1つでもある。
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もともとアクションゲームを作るのが得意なメンバーが集まったという本作は,バトルを売りにしたタイトルとなっている。筆者もSteamで配信されているデモ版に触れてみたところ,ジャスト回避やパリィで相手の攻撃をかわしながら,変幻自在にコンボを決めていくという爽快なアクションを楽しめた。
インタビューでは,刘氏にDark Pigeon Gamesを立ち上げた経緯や本作がメトロイドヴァニアとしてどのようなところにこだわって開発を進めているのかなどを聞いている。
刘 海深氏(Dark Pigeon Games CEO,「Awaken - Astral Blade」プロデューサー)
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4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずDark Pigeon Gamesについて聞かせてください。どのような経緯で立ち上がった会社なのでしょうか。
刘氏:
それについては私の経歴からお話しする必要がありますね。私は2003年に大学を卒業し,それからずっとゲーム業界にいます。最初は韓国系のゲーム会社に勤めていたんですが,2006年にセガの中国支社に転職し,2017年にはアメリカの会社に移って仕事をしていました。
4Gamer:
さまざまな会社を経験してこられたのですね。
刘氏:
その後,2021年にDark Pigeon Gamesを設立したのですが,その大きなきっかけとなったのが,コロナ禍で「自分自身を見つめ直す時間ができた」ということでした。
中国の市場というのは,スマートフォン向けのタイトルが非常に人気で,会社もそのニーズに合わせてゲーム開発を進めます。私も前職まではスマホ向けのゲームを開発しており,ユーザーのニーズに応えることに必死でした。
ただ,隔離生活の中でふと自分の開発者人生を振り返ったときに,自分の心の中にある「好きなゲームを作りたい」という気持ちと,向きあえてなかったんじゃないかと思ったんです。そこでPCとコンシューマ機向けに
「自分たちが作りたいと思うゲームを作ろう」と思って会社を立ち上げたんです。
4Gamer:
「Awaken - Astral Blade」が生まれたのは,その「好きなものを作りたい」という気持ちが原動力だったんですね。
刘氏:
もともと横スクロールの2Dアクションゲームが好きなんです。メトロイドヴァニアはゲームの面白さが詰まったジャンルだと思いますし,まさに自分自身の作りたいものだったんです。
4Gamer:
意地悪な質問かもしれませんが,メトロイドヴァニアというジャンルは人気がある一方で,競合タイトルが多く存在することも事実としてあると思います。下手をするとゲームが埋もれてしまう可能性もあるわけですが,そういった懸念は抱かれなかったのでしょうか。
刘氏:
おっしゃる通り,埋もれてしまう可能性も考えました。メトロイドヴァニアは大きく分けて「探索」「バトル」「ストーリー」の3つの要素で構成されていると思いますが,今回「Awaken - Astral Blade」を作るうえで最も重視したのは,「バトル」の部分です。
もともとアクションゲーム作りに長く携わってきた3人が集まってできた会社なので,
「バトル」の部分にフィーチャーしてゲームを作っていけば,十分に差別化は可能だと思いました。
4Gamer:
では「Awaken - Astral Blade」のバトル部分を作っていくうえで意識したポイントは何ですか。
刘氏:
「Awaken - Astral Blade」では“プレイすればするほど,プレイヤーが気持ちよくゲームをプレイできるようになる”という点を意識して作っています。探索を進めていくと,さまざまな武器やバトルスキル,探索を有利に進められるバフを習得していきますが,これを組み合わせることによって,どんどんカッコよく,気持ち良くアクションを決められるようになるんです。
今後も正式版のリリースに向けて武器のバリエーションや探索中に手に入るスキルについて,拡張していく予定です。
4Gamer:
確かにバトルは色んなスキルを使ってコンボをバンバンつなげられて,非常にスタイリッシュにできていました。影響を受けたタイトルなどはあるんでしょうか。
刘氏:
世界設定などはまったく違いますが,アクション部分は
「朧村正」に影響を受けています。
4Gamer:
ああ,なるほど! 確かにこのアクション性の高さは「朧村正」と通ずるところがありますね。背景のグラフィックスの作り込み方に力が入っている点も共通していますし,納得しました。
刘氏:
Wiiで発売された当時に徹夜で夢中になってプレイした思い出があります。和風の美しいグラフィックスや華麗にコンボを決められるアクション性など,素晴らしいゲームだと思います。「朧村正」は中国だと知らない人が多いので,話が通じて嬉しいです(笑)。
4Gamer:
Steamのストアページにはアクションの気持ち良さ以外にも,メトロイドヴァニアでありがちな「ダンジョンで迷う」という問題を無くしていることがアピールポイントとして書かれていました。具体的にはどういった手段で,道に迷う問題をクリアしているのでしょうか。
刘氏:
これについては,ダンジョンの至る所に経験値である赤いオーブを配置して,道しるべを作るようにしたほか,ゲームを再開する際に,今進めている大目標を改めて確認するアナウンスを入れています。
メトロイドヴァニアは,広大なダンジョンを行ったり来たりするので,どうしても迷いがちになります。また,「久しぶりにゲームを再開してみたら,どこまで進めたかを忘れて,何をすればいいか分からない」なんてこともよくあります。こうした問題をクリアするために,道に迷わずストレートにボスまで行けるゲーム設計にしているんです。
4Gamer:
寄り道をしたり,迷いこんだ先で偶然新たな発見をすることが,メトロイドヴァニアの醍醐味の1つだという考え方もあると思います。今回,あえて迷わない設計にしているのはなぜでしょうか。
刘氏:
メトロイドヴァニアになじみのない人にもゲームを楽しんでほしい,という思いがあるからです。
確かに私たちのようなジャンルのファンにとって,迷いつつも新たな発見をするというゲーム体験は魅力的に映るものでした。しかし,今の若い世代のプレイヤーはそういった迷うことになじみがない人が多いですし,遊ぶゲームの選択肢も昔よりずっとたくさんあります。そんな中で無理に迷うゲーム設計を押し付けても受け入れてもらえるのかなと思ったんです。
4Gamer:
時代に合わせてデザインをカスタマイズされているんですね。
刘氏:
私は「Awaken - Astral Blade」を作る際に,過去7年間のSteamで配信されているメトロイドヴァニアのゲームの中から約80タイトルを分析したんですが,そこでちょっと面白いことが分かったんです。ウィッシュリストにメトロイドヴァニアのゲームを登録した合計3000万ユーザーのうち,実際に購入したのは約1800万人しかいなかったんです。
私はこの原因として、メトロイドヴァニアというジャンルの客層が固定化されていて,興味を持った人であっても,実際になかなか手を出しづらい状況になっているのではないかと思ったんです。
4Gamer:
だからこそ間口を広げようと思われたと。
刘氏:
はい。より多くの人にメトロイドヴァニアというジャンルの楽しさを知ってもらうために,遊びやすくなる工夫や興味を持ってもらえる入り口をいろいろと用意しています。
4Gamer:
主人公のビジュアルが初期と今とで大きく変わっていますが,これもより多くの人に興味を持ってもらうためなのでしょうか。まさに主人公というのは,プレイヤーの関心を引くとても大切な入り口の1つだと思うのですが。
初期段階の主人公は黒髪のロングヘアだった。現在は白髪で髪の長さも短くなっている
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刘氏:
そうですね。本作は,ワールドワイドでの展開を予定しているのですが,Twitterで調査をしたところ,黒髪のロングヘアの戦士というのは,東アジア的な美的センスで,アメリカやヨーロッパのユーザーにとってはあまり“戦士感”のないデザインだということが分かったんです。そこで,ショートで白髪という多くの人が見て“戦士感”のあるビジュアルへ変更しました。
ただ,初期のデザインが完全にボツになったというわけではなく,本作では主人公のビジュアルをチェンジできる要素も実装する予定です。多くの人に刺さりやすいように初期のビジュアルを変えたというだけなので,自分の好みに合わせていろいろなカスタマイズを用意しますので,楽しみにしていてください。
4Gamer:
「自分たちが好きなゲームを作りたい」という思いで独立されたという刘さんですが,「どうやったら自分たちの好きなものを多くの人に理解してもらえるのか」という別の視点も持っている方だと思いました。
そうしたバランス感覚は,これまでのゲーム開発の経験で培われたものなのでしょうか。
刘氏:
ゲームの開発からプロモーション,販売まで一貫して携わった経験があるので,それは間違いなく生きていると思います。
あとは,私自身ユーザーがプレイしているところを横から見ていて分析するタイプの人間だということもあるかもしれません。「プレイヤーがどんな表情をしているのか」「どこでやめたのか」ということを見ながら,フィードバックとして生かしてくということを繰り返してきているので,それが今回のゲーム作りにも反映されているのかもしれませんね。
4Gamer:
なるほど。
刘氏:
ただ,自分の好きなものを作っていくという点はブレずに大切にしていきたいと思っています。中国には「自分の好きになれないものは,誰も好きになってくれない」という,ことわざがあります。より面白いゲームを開発するためには,まず自分が心から好きだと思えるものを作ることが第一だと私は信じていますから。
4Gamer:
「Awaken - Astral Blade」の完成が楽しみになりました。Steamのストアページによると,日本語はサポートされないようですが,これから日本向けに展開していく予定はあるのでしょうか。
刘氏:
日本向けの展開を考えていないわけではありません。プロジェクトを立ち上げる段階でワールドワイドに展開しようと思っていましたし,日本語を含むマルチ言語に対応させる計画でした。具体的な見通しは未定ですが,日本でも展開できる準備が整いましたらアナウンスいたしますので,ぜひウィッシュリストに登録して続報をお待ちいただければと思います。
4Gamer:
続報を楽しみにしています。本日はありがとうございました。