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30周年に生まれた,新たな形の「かまいたちの夜」。原作 我孫子武丸氏とノサカラボがおくる「かまいたちの夜 〜THE LIVE〜」ゲネプロレポート
原作「かまいたちの夜」は,チュンソフト(現スパイク・チュンソフト)のサウンドノベルシリーズ第2弾タイトルだ。1994年に発売された第1作から30周年の今年は,6月に舞台(本公演),9月に「かまいたちの夜」シリーズ三部作を収録した「かまいたちの夜×3」(PC / Nintendo Switch / PS4)の発売を予定している(関連記事)など,アニバーサリーらしい盛り上がりを見せている。
本稿では,関係者・メディア向けに実施されたゲネプロ(通し稽古)を観劇したレポートをお届けしよう。ストーリー展開や演出,犯人のネタバレは避けているが,これから会場に足を運ぶ人はくれぐれも閲覧に注意してほしい。
[インタビュー]原作30周年に届く,新たな“我孫子武丸からの挑戦状”――前代未聞の意欲作,「かまいたちの夜 〜THE LIVE〜」の制作秘話を聞く
「かまいたちの夜」1作目の発売から30周年にあたる2024年,初の舞台化作品となる「かまいたちの夜 〜THE LIVE〜」が,6月に上演される。原作の我孫子武丸氏と,舞台の構成/演出を務める野坂 実氏に,舞台の見どころを聞いてきたのでお届けしよう。
“我孫子武丸からの新たな挑戦状”を受けて立つキャスト陣の意気込みは? 舞台「かまいたちの夜 〜THE LIVE〜」稽古場レポート
来る2024年6月20日,サウンドノベルの金字塔とも言える不朽の名作,「かまいたちの夜」を原作とする舞台「かまいたちの夜 〜THE LIVE〜」が開演する。合同取材会で行われた稽古の模様と,出演キャストへの合同インタビューをお届けしよう。
※2024年6月24日12:50,舞台写真を追加しました
舞台「かまいたちの夜 〜THE LIVE〜」
観劇前に気になるポイントをネタバレ無し解説!
「かまいたちの夜〜THE LIVE〜」
原作:我孫子武丸
構成・演出:
野坂 実
脚本:望月清一郎
出演:
ヴァサイェガ渉 高柳明音 ドロンズ石本
塩月綾香 細貝 圭 豊田陸人
田中孝宗
大髙雄一郎
槙原 唯
谷口就平
安田 裕 ほか
※敬称略。写真は囲み取材時のものです
「かまいたちの夜 〜THE LIVE〜」あらすじ
とある場所に閉じ込められた『かまいたちの夜』の登場人物達。
「こんや,12じ,だれかがしぬ」
という手紙が発見され,本当に殺人事件が起きてしまう。
プレイヤーであるあなたは様々な選択肢を選びながら物語を進めていく……。
でも,何かが『かまいたちの夜』とは違う?
そして,新たな殺人事件も発生?
いったい何が本当なのか?
舞台ならではの仕掛けもたっぷりの本作で,
あなたは真の犯人は見つけられるのか。
ほぼリアルタイムで原作をやり込み,シリーズ全作をプレイしていた筆者から,この舞台に少しでも興味がある人に向けて最初にお伝えしたいのは,「今すぐネットを閉じてすべての情報を遮断し,劇場に足を運んでほしい」ということだ。
……なんて言うと編集部に怒られかねないが,本音はもうこれ以上書きたくない。「とにかく劇場へ観に行け!」というのが正直なところである。なにせ本舞台は配信はおろか,Blu-ray / DVD化も予定されていないのだ。
が,レポートを依頼された以上,これだけではマズイので,どうにかネタバレを最小限に抑え,本作に興味を持っている人が気になるであろういくつかの疑問に答える形で進めていきたい。言うまでもないが,以下は筆者個人の感想となるため,その点はご了承いただきたい。
●原作を知らなくても大丈夫? 原作ファンは楽しめる?
観る前は正直,「原作を知らないと楽しみは半減するのかも」と思っていた。が,まったく問題ないと言って差し支えないと思う。理由は後述するが,そうは言ってもファンが喜ぶポイントは満載なので,“「かまいたちの夜」という作品を知っていれば知っているほど沸く”のは間違いない。
まずは原作でも使われた音楽の数々。今ではTV番組で使われるほどメジャーになった音楽だが,テーマ曲をはじめ,談話中の曲,疑惑が生まれたときの曲,犯人探しの曲――枚挙にいとまがないが,少し流れただけでいくつもの原作のシーンが脳内で再生される人は多いはずだ。さらには懐かしい映像なども演出としてふんだんに使われているし,「シュプール」を思わせる舞台セットも登場する。
もう1つお伝えしておきたいのは,「かまいたちの夜」ならではの空気感だ。これを言葉にするのは本当に難しいのだが,「ここ笑っていいの……?」と(良い意味で)顔が引きつってしまうシリアスとコメディがスレスレの場面や,誰もが犯人に見えてくるような緊迫感あふれる展開。頭の中を「?」や「!」でいっぱいにしながらストーリーを追うなかに,突如現れる選択肢のワクワク感と少しのプレッシャー。
「かまいたちの夜」の世界としか言いようがないこの雰囲気は,本舞台には原作の脚本を担当した我孫子武丸氏がブレーンとして参加していることが大きい気がする。登場しているわけではないのに,背後に存在を感じるのは筆者だけではないと信じたい。
冒頭に「原作を知らなくても大丈夫」と太鼓判を押したが,そもそも「かまいたちの夜」は,ゲームという形で表現されたミステリー作品としてめちゃくちゃ面白かった。
であれば,舞台に姿を変えた「かまいたちの夜」が(しかも原作の我孫子氏が関わり,原作の大ファンである野坂 実氏が構成/演出したものが)面白くないはずがないわけで,そういう意味では初めて「かまいたちの夜」に触れる人がほんの少し羨ましいと言えるかもしれない。舞台そのものが初めてという人にとっても,間違いなく忘れられない体験になるだろう。
●観客参加型ってどういうこと? 分岐って?
本舞台には,ストーリーの途中で選択肢が登場する。どちらに進むかは,うちわを使った観客の多数決で決まるスタイルだ。エンディングだけでも20以上,途中のルートに関しては100通り以上あるとのこと。
選択肢の決定はゲネプロでも本番同様に行われていたが,周りの様子を見てうちわを上げる人もいて,なんとも絶妙な空気が生まれていた。すぐ隣にいる人の反応をうかがったり,他人は何を考えているか分からないと思わされたりする感じ,それもまた「かまいたちの夜」らしくてとても痺れた。
●キャストたちはどうだった?
以前のインタビューでの野坂氏の発言を引用する。
“「1人の役者さんが1つの役だけを演じるとは限らない」ともお伝えしておきます。しかも,舞台演技だけでなくテレビドラマのようなお芝居とか,1人のキャラクターでも異なるアプローチが必要になったりします。”
「どういうこと?」と感じると思うが,観劇したあとになって「なるほど!」と合点がいった。どのキャストも極めて複雑で難度の高い演技を要求されていたのだが,全員がそれにしっかりと応え,それぞれの見どころもたっぷりとある。ルートがいくつも存在することもあり,何度も足を運ぶ価値は間違いなくある。実にいろいろな顔が見られる。
●観る前に知っておいたほうがいいことはある?
詳しくは書けないが,この舞台は「何が起こるか分からない」と思っていてほしい。また,良い意味で簡単なストーリーではないし,犯人を推理していく上でそこそこの集中力がいるので(というか推理しながら観るのが楽しい),万全のコンディションで臨んでいただきたい。
●犯人はちゃんと分かる? バッドエンドにならない?
選択肢を観客が選ぶという構成上,必ずしも自分が選びたいルートやエンディングが観られるとは限らない。実際ゲネプロでもそう感じる場面はあったし今の筆者の頭の中には「これ」という答えはあるのだが,「エンディングが1つしか観られなくて残念だった」というよりは,終わった瞬間「うわ〜,『かまいたちの夜』だ〜!!」と心のなかで叫んだし,「今すぐもう1回プレイして別のエンディングが知りたい!!」というポジティブな感情が生まれた。いや本当に何度でも観に行きたい。
●ぶっちゃけ面白い?
こちらも以前のインタビューでの我孫子氏の発言を引用しておく。
“ミステリーはだいたいそんな感じかもしれませんが,原作「かまいたちの夜」は“ゲームだからできること”を必死で考えてあれこれ詰め込んだ作品でした。今回は“舞台だからこそできること”をやりたいとお願いしていたこともあり,そういう“メディアの特殊性”を意識しているところは,「かまいたちの夜」らしさの1つと言えるかもしれません。”
もう本当にこの言葉に尽きる。だがもう1つだけここに付け加えるなら,本作は“舞台だからこそ,そして今だからこそ完成した「かまいたちの夜」だ”と表現したい。その意味は観れば分かる。面白いか面白くないかで言えば本当に,ものすごく,めちゃくちゃに面白かった(筆者個人の感想です)。
それと同時に,「よく作ってくれた……!」という感謝の気持ちでいっぱいだ。先ほども書いたが,なんなら全ルート全エンディングを観たい。だが,この公演数ではすべてを上演することは不可能なのである。なんという贅沢な舞台なのだろう。
言うなれば本作は「30周年に生まれた,まったく新しい形の『かまいたちの夜』」だ。繰り返しになるが,この舞台は配信もなければBlu-ray / DVD化の予定もない。そのときその瞬間にしか存在しない作品なので,気になった人は劇場へ。ぜひ,後悔のないようにしてほしい。
「かまいたちの夜 〜THE LIVE〜」公式サイト
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(C)Spike Chunsoft/我孫子武丸/田中啓文/牧野修
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