インタビュー
[E3 2013]なぜ399ドル? PS Vitaはどうなる? PS4に対するさまざまな疑問をSCEJAプレジデントの河野 弘氏に直接ぶつけてみた
とはいえ,両ハードに対しての疑問はまだ山ほどあるというか,発売されるまで尽きることはないだろう。今回はその疑問のうちいくつかを,ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアのプレジデント,河野 弘氏に直接ぶつけてみた。399ドルというPlayStation 4(以下,PS4)価格設定の根拠,定額制サービスであるPlayStation Plus(以下,PS Plus)の今後の展開,現行携帯機としてまだまだ活躍が期待されるPlayStation Vitaについて,そして河野氏のPlayStation 4にかける思いを,じっくりと読み込んでほしい。
PS4にPS Cameraを同梱しないのは,ローンチ時に性能を活かしたタイトルを供給できないから
4Gamer:
PS4は,北米での価格が399ドルとして発表されました。これは,競合にあたるXbox Oneの499ドルを意識した価格なのでしょうか。
河野 弘氏(以下,河野氏):
ここは本音で言わせていただきますが,あの価格は,競合の発表に対してのリアクションとして設定したわけではありません。
上の人間は当然「高く売る」ことを望むわけですが(笑),この価格は「PS4の適正価格っていくらだろう?」とストレートに議論を重ねていくうちに導き出されたものです。それが399ドルなんです。
4Gamer:
価格に関連して,Xbox Oneの新たなKinectに対抗して,PS4にはPlayStation Camera(以下,PS Camera)が同梱されるのでは……という大方の予想とは異なった結果になりました。その点についてはいかがですか?
河野氏:
そうですね。PS Cameraはとても魅力的なデバイスですが,我々はオプション製品とすることを決断しました。
決断の理由の一つは,PS4の発売日に,PS Cameraの性能をフルに活かしたタイトルを提供することが難しいと結論付けられたためです。
4Gamer:
たしかに,標準で付属していても使えるソフトが少ないのでは,その価値が高まりませんね。
河野氏:
そうです。PS Cameraの性能を十分に生かせるタイトルを現在開発中ですので,そのときに効果的なプロモーションができればと考えています。
PS4発売のタイミングでは,値頃感を重視して,PS Cameraを同梱せずに399ドルという価格を選択しました。PS Cameraの性能をフルに活用したタイトルが出てきたときには,同梱版のリリースを考える必要があるかもしれません。
PlayStation Plusを,PS4を遊ぶファンの標準的なサービスにしたい
4Gamer:
PS4では,マルチプレイを楽しむために,定額制サービスであるPS Plusへの加入が前提となりましたね。
はい。PS3からPS4へのハードの進化に合わせて,サービスも進化させていく必要が出てきました。プレイ動画のクラウド保存,動画や写真の共有を実現するShare機能など,PS3世代と比較してかなり高度な機能を実現させます。そしてこれにはやはり,設備投資も必要になるんですね。
PS4ユーザーに向けたトータルサービスを維持していくためには,PS Plusを標準化していく必要があると判断した結果です。
4Gamer:
Xbox 360ユーザーにとっては,有料サービスであるXbox LIVEのゴールドメンバーシップが,河野さんのおっしゃる“標準的”な位置付けになっていますよね。それもあってか,Xbox 360が広く普及した欧米では,PS Plusの標準化に対する反感はそれほど強くないようです。「PS4もXbox 360と同じようになるのか」といった程度の認識でしょう。
しかし,PS3が支配的な日本でも同じように受け入れられるでしょうか。
河野氏:
おそらく,「オンラインで遊ぶためにはPS Plusに入る必要がある」という訴え方ではダメで,「PS PlusはPS4をさらに楽しむための(付加的な)サービス」として訴求していく必要があるでしょうね。
それに,PS Plusでオンラインプレイ以外のサービスも充実させていく必要があるでしょう。PS Vita,PS3のユーザーにとっても「PS Plusに入るとお得だ」と思ってもらえるように努力したいと考えています。
4Gamer:
今後はそのあたりのプロモーションが重視される,と。
河野氏:
そうですね。実は,PS3の時代は欧米でPS Plusのプロモーションに力を入れていたんですけどね。次は,そんなプロモーションを日本で集中してやろうと考えています。
PS4はゲーム機。家電機器を楽しくするような使い方を提案していく
4Gamer:
ところで,Xbox Oneは「手持ちのテレビをスマートテレビ化する」という機能を強くアピールしてきました。一方でPS4は「究極のゲーム機」というメッセージを強く打ち出していましたよね。
河野氏:
PS3はインターネットが見られたり,HDDレコーダになったり,各種動画配信サービスを利用できたりと,ある意味究極のエンターテイメントボックスでした。
個人的にPS4は,ソニーが手がける家電機器と組み合わせることで,何かを「スマートにする」というのとはまた違う,「家電機器が楽しくなる」ような使い方を提案していきたいと考えています。
4Gamer:
そうなると,PS3における「torne」や「nasne」のようにAV機器を巻き込むような周辺機器が,PS4にも出てきそうですね。
河野氏:
うーん,それについては言及できません(笑)。
しかし今回,ソニーのE3プレスカンファレンスで登壇したMichael Lynton(マイケル・リントン)が,PS4で提供するコンテンツ配信サービス「Music Unlimited」と「Video Unlimited」を紹介しましたね。彼はPS4におけるエンターテイメント部門の総責任者で,ソニー・ピクチャーズの共同会長兼最高経営責任者(CEO)ですが,彼が行ったプレゼンテーションは,PS4が提供する「ゲーム機能以外のエンターテイメント」の部分でした。
PS4では,そうした機能やサービスにも相当な力を入れていきます。なので,PS4がつながるテレビは,スマートテレビというか,それ以上に楽しいものになると思っています。
4Gamer:
テレビ関連などのサービスは地域性の強いものになりますから,地域ごとにサービス内容を変えて提供していく必要がありそうですね。Xbox Oneも,そのウリとなっているスマートテレビ関連機能は,それぞれの国や地域にに適した形でサービスや機能を変えていくようですし。
河野氏:
PS4でも,音楽配信サービスや動画配信サービス,ほかの機器との連動機能は,地域ごとに適したカスタマイズが必要だと思っています。
今回はE3ということで,グローバル戦略についての情報を披露しましたが,今後,東京ゲームショウ2013前までには,日本市場向けのアナウンスをやりたいと思っています。ただ,それは「完全に日本向け」というより,日本を含むアジア地域向けといった雰囲気になるかもしれませんが。
4Gamer:
それはどういうことでしょう?
河野氏:
ご存じのとおり,ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は4月1日から,日本地域を担当してきたSCEジャパンと,アジアを担当してきたSCEアジアを統合して,ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(SCEJA)となりました。私はそのSCEJAのプレジデントなのですが,SCEJAによるPS4関連アナウンスということで,日本とアジア向けになるかもしれないという意味です。
日本以外のアジア地域の方は,日本の動向に関して非常に高い関心を持っていらっしゃいます。さらにいえば,欧米の動向にも関心が高く,両方の視点を持ち合わせてらっしゃるんですね。
いずれにせよ,日本とアジア向けのPS4関連アナウンスは,東京ゲームショウ2013までにはやりたいと考えています。
4Gamer:
そういった状況のPS4ですが,今年の年末商戦期には,少なくとも欧米市場で発売になります。まあ,もちろん日本でも出ると思っていますが,ここでPS4がどんと登場するとなると,プロモーションの仕方いかんでは,たとえば「グランツーリスモ6」などのようなPlayStation 3(以下,PS3)向け新作タイトルが,古く感じられてしまうかもしれません。このあたりのバランスについてはどうお考えですか。
河野氏:
新しいものが出るときにやってしまいがちなのは「それまでのものが古いんだ」といったプロモーションのやり方です。しかし,これはメーカーのエゴだと思っています。
今でもPS2のゲームをプレイしている人はいますし,PSPにおいても同様ですよね。今年後半に出てくるPS3対応ソフトの多くは,それこそ2年近い開発期間をかけていますから,そうしたタイトルの取り扱いには注意が必要だと思っています。
とくに日本では,PS4とPS Vitaとの連携が重要になる
4Gamer:
PlayStationプラットフォーム関連でいうと,PlayStation Vita(以下,PS Vita)は引き続き現行機としての立場が続きます。PS4との連動もありますから,今後,その重要度はますます上がっていくでしょう。
しかし,2012年の年末商戦は寂しい結果に終わりました。2013年末はPS Vitaのプロモーションにも力を入れる必要がありそうですね。
ええ。2013年はPS Vitaにとって重要な年です。
2013年内には150タイトルが発売される予定があり,PS Vitaは徐々に盛り上がりつつあります。我々もその点は手応えとして感じていまして,小さなイベントを開催しても,我々が驚くほどたくさんのユーザーに集まっていただけるんですよ。
しかも,PS Vitaのユーザーはたくさんタイトルを購入してくれる,という動向も見えてきています。スマートフォン向けのゲームの一部が,PS Vitaでもリリースされたりしていますが,PS Vitaのユーザーのほうが,プレイの進捗度も高いと聞いています。つまり,Free-to-Playのようなゲームにおいても,PS Vitaユーザーはよくゲームを遊んでいるということです。
盛り上がりつつあるPS Vitaをさらに加速させるべく,今年後半に向けてPS Vitaのプロモーションにも力を入れていきます。
4Gamer:
PS4はPS Vitaとの連携機能についても大きく訴求されていました。PS Vitaの成功はPS4の成功にかかっていると言えるかもしれませんね。
河野氏:
そうですね。とくに日本は,PS4とPS Vitaとの連携が重要になってくると思っています。
4Gamer:
では最後に,既存のPlayStationファミリー製品のユーザーや,PS4に期待している読者に一言お願いします
河野氏:
いつも私は,「PlayStationというマシンはエンターテイメントの代名詞的な存在でなければ」と思っています。そしてPlayStationでどれぐらい新しい遊びを提供できるかが,日本におけるエンターテイメントの活性化に対して一定の影響力を持っていると思うようにしています。
なので今年は,PS4とPS Vita,そしてその2つを連携させる遊びについて,広く訴えていく必要があると考えています。
それには,マスメディアで訴えるだけでなく,既存のPlayStationユーザー達にも,その魅力を直接訴えかけていく方策を考えています。それが,PlayStationファンのコミュニティ内側から外側に向けて,PlayStationファミリーの盛り上がりとして伝搬して行ってくれればと期待しています。
年末に向けて,我々はさまざまな仕掛けを用意していますので,ぜひご期待ください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。