連載
西川善司の3DGE:ソニー伊藤雅康氏インタビュー。PS4 Proと安く小さくなった新型PS4,その狙いを聞く
本稿は,9月9日掲載の当連載バックナンバー「PS4 Pro,そして新型PS4はいかなるゲームマシンなのか。現地取材で分かった新型機の深い話」をチェックしてもらっている前提の話となる。未読という人は,先にバックナンバーを読んでから戻ってきてもらえれば幸いだ。
小型になった新型PS4と,気になるストレージ周り
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
今回の発表では,低価格化してスリムになったマイナーチェンジ版の「PlayStation 4」(以下,PS4)と,高性能版PS4である「PlayStation 4 Pro」(以下,PS4 Pro)の2製品が登場しました。
まずは「CUH-2000」という型番の与えられた新型PS4――今回は便宜上「スリム型PS4」と呼びますが――のお話から聞きたいと思います。このスリム型PS4におけるコンセプトを教えてください。
これは,これまでのPlayStationの歴史でもたびたび繰り返されてきた,「性能はそのままに低価格化,小型化,軽量化」に取り組んだモデルです。
まだPS4をお持ちでなく,なおかつPS4の購入を検討していただいている方達に訴求する製品ですね。ある意味で,PS4 Proよりも“分かりやすい”製品と言えます。
4Gamer:
無線LANやBluetoothの機能アップが,PS4 Proだけでなくスリム型PS4にも適用となりましたね(関連記事)。
伊藤雅康氏:
はい。IEEE 802.11ac対応は,事実上の5GHz帯サポートに相当するものです。ご家庭のWi-Fiや電子レンジ,医療器具などとの相互干渉を回避しつつ,安定したネットワーク接続が可能になります。
Bluetooth 4.0のほうですが,こちらは初期型PS4も含む,全モデルでファームウェアアップデートによって対応しますね。
一方で,光デジタルサウンド出力用の角形端子は省略されました。
伊藤雅康氏:
スリム型PS4における光デジタル端子の省略は,私達が想定するユーザーの,この端子の利用依存度と,省略することによるコスト的なメリットを総合的に判断して行いました。
PS4 Proには引き続き実装します。
4Gamer:
インタフェース関連では,Serial ATA 3(≒Serial ATA 6Gbps)への対応も気になるところです。
伊藤雅康氏:
スリム型PS4,そしてPS4 Proとも,こちらはSerial ATA 2(≒Serial ATA 3Gbps)までの対応です。
2016年10月13日12:50頃追記:初出時はSerial ATA 2対応と記述しておりましたが,SIEから訂正があり,正しくはSerial ATA 3対応であることが判明しました。詳しくは関連記事を参照してください。本文は訂正前のまま掲載しております。
デザインについても聞かせてください。
スリム版PS4は,従来型PS4のデザインを残しつつも,従来とはかなり異なる見た目になっていますね。
伊藤雅康氏:
小さくしただけではなく,角に丸み,表面にはシボを与えることで,全体的に優しいイメージにしました。
PS4 Proがこの世に出た経緯
4Gamer:
それではPS4 Proに話題を移しましょう。形状の話が出たので,まずは続けて聞いてしまいますが,あの三層デザインはどういう意図によるものですか。
PS4 Proは(横置き時の)高さ方向に大きくなっているので,三層にして,上位機らしいしっかりしたフォルムを出すようにデザインしてあります。質感に関してお話しすると,PS4 Proにおいてもシボを与えています。
4Gamer:
さて,その名称ですが,意外にあっさりしたものですよね。
開発コードネームとしての「Neo」が一時は一人歩きしたり,あるいは映像体験にプラスアルファを提供するので「PS4 Alpha」になるなんて噂も聞いていました。
PSPの後継を「2」ではなく「Vita」としたときのように,今回も英語・日本語以外の言語で「上位」を意味する言葉を当てたりといった,おしゃれチックなソニーネームを想像していたんですが(笑)。
伊藤雅康氏:
今回はそういう手の込んだことをせずに,シンプルにいきました。ハイエンドゲーマー,コアゲーマーの方達に伝わりやすい,分かりやすい名前で,「プロ!!」ですよ(笑)。
4Gamer:
(笑)。
競合であるMicrosoftの上位モデル,開発コードネーム「Scorpio」は2017年の年末商戦期に発売と予告されていますが(関連記事),それに対してPS4プラットフォームは一年早く,高性能機の投入となりました。このフットワークの軽さは,競合に対する戦略的アクション……というわけではないですよね。
伊藤雅康氏:
「PS4の上位機」の構想はPS4計画の初期段階からありました。実際にPS4 Proの開発が実動となったのは2014年くらいからですが。
西川さんが,最初期のPS4が発売になる約1年前の2013年初頭に「PS4には上位機種が登場するだろう」という予測記事を書かれたたときは,我々はかなり「やられた!」と思ったんですよ(笑)。
4Gamer:
あのときはPlayStationのファンからかなりお叱りを受けました。「発売前にお前何言ってんの?」と。個人的には,技術的バックグラウンドと市場動向を分析して,そういう予測が成り立ったから書いたまでなんですけどね。
予測が当たって面目躍如ですが,ただ,競合より1年早く上位機を投入するところまでは読めていませんでしたよ。
伊藤雅康氏:
我々は,競合の動きに対してリアクションしているわけではありません。今回のPS4 Pro投入時期は,当初の計画どおりなんです。
4Gamer:
どういう計画だったのでしょう?
PlayStationが持つ20年以上の歴史を振り返ると,5年前後という各世代機のライフタイムにおいて,これまでは,最初に登場したときのスペック内でゲーム開発者には制作してもらっていましたし,ユーザーはのそのスペック内のゲームを楽しんでいました。
しかし,家庭用ゲーム機,ゲーム専用機でゲームをプレイするユーザー層にはコアなゲームファンが多く,そうしたユーザーはこの縛りを快く思わなくなってきたわけです。ゲームの開発サイドも同様の意見ですね。
最近では,そうしたユーザーがPCゲームのほうに目を向ける状況にもなってきています。そのなかで,我々のPlayStationプラットフォームでも何かできないかと考えたときに出てきたアイデアが,PS4 Proだったのです。
4Gamer:
iPhoneに代表されるスマートフォンのモデルチェンジサイクルはとても早いですよね。新モデルの価格もそれなりに高価です。
ただ,現実問題として「早いモデルチェンジサイクル」に目くじらを立てる人の数は多くありません。これは,新モデルへ乗り換えても,強化された性能の恩恵が分かりやすく得られ,なおかつ既存のソフトウェア環境をそのまま継承できるからこそだと思いますが,PS4 Proで目指しているのはそういう流れということでしょうか。「PS4で目指しているもの」と言ってもいいかもしれませんが。
伊藤雅康氏:
ゲーム機においても,そうした提案ができるようになっていければなと考えています。PS4 Proはまさしくそうした位置づけの製品と言えますね。
それにしても,スリム型PS4との価格差は絶妙ですよね。1万5000円は,頑張れば手の届くギャップですし。
伊藤雅康氏:
PS4 Proで提供する「上位のゲーム体験」は主に映像面になります。そこから判断するとこの価格差は妥当だろうと考えて設定しました。
4Gamer:
無理してませんよね?
伊藤雅康氏:
してません(笑)。
標準PS4とPS4 Proのスペック差
4Gamer:
さて,スペックの話ですが,PS4 Proでグラフィックス性能は大幅に向上していますが,CPUコアとGPUコアで共有するメモリの容量は8GBのまま変わっていませんね。4Kへの対応を考えると,少し増やしてきたりする可能性もあるのかなと考えたりしていたのですが。
メモリサイズを変えてしまうと,容量の大きいほうに合わせて開発して,結果,互換性が取りにくくなる問題が出てきそうだったため,容量は8GBのままで据え置きました。
4Gamer:
メモリのフットプリントまで同じということで,OSも同じものが動いていると考えていいですか。
伊藤雅康氏:
基本は同じと考えてもらって構いません。
4Gamer:
ともあれ,PS4 Proが登場したことでPS4プラットフォームは2つの性能バリエーションを持つことになりました。
今回,発表会後には,ゲームスタジオに所属するエンジニア達とのラウンドテーブルセッションにも参加させてもらいましたが,「PS4 Pro専用ソフトは開発しない」「ゲームの開発ターゲットはあくまで標準スペックのPS4」「PS4 Proユーザーには+αの体験を提供する」という話を繰り返し聞かされました。
伊藤雅康氏:
そうですね。我々から,「標準のPS4とPS4 Proに向けたゲーム開発のガイドライン」は示させていただいています。
まず,「PS4 Pro専用のタイトルを開発しない」というのは(ガイドラインに)あります。逆に「標準PS4専用のタイトルを開発しない」というのもありますね。
4Gamer:
ただ,そういうガイドラインがあるとしても,PS4 Proが高性能である以上,標準PS4とのゲーム体験としての「格差」は必ず出てくると思うのですが。
伊藤雅康氏:
今回,我々がゲーム開発者に示しているガイドラインは,それほど厳格なものではありません。簡単に言うならば「標準PS4用とPS4 Pro用を,映像表現においてのみそれぞれ適切な形で対応してください」とお願いしているだけです。
その「PS4 Pro向けの映像表現」も,厳格なルール設定があるわけではないのです。
4Gamer:
すると,極端な話ですが,アドベンチャーゲームでPS4 Pro版はテキストフォントの表示が綺麗とか,アクションゲームで体力ゲージが高精細とか,そういうのでもいいということですね
伊藤雅康氏:
極端に言えばそういうことです。
4Gamer:
「PS4 Pro専用のゲームタイトルは開発させない」ということですが,性能が違う以上,自然とそうなってしまうことはありませんか。
たとえば,標準PS4ではフレームレート30fpsのゲームがPS4 Proでは60fpsになって,事実上のPS4 Pro推奨になってしまうとか。
性能面でPS4は2つのバリエーションを持つことになりますが,PS4プラットフォームのゲームコミュニティとしては,これまでもこれからも1つということは強調しています。具体的に言えば,対戦ゲームをプレイしていただいたとき,「PS4 Proだとゲームプレイが有利になる」というようなゲーム要素をPS4 Pro版には設けないでほしいということはお願いしています。
4Gamer:
揚げ足を取るわけではありませんけれども,PS4 Proでは高解像度レンダリングを行って4K出力できます。すると,遠方のキャラクターがより鮮明に見えて,攻撃しやすくなるという事態はあり得ると思います。
先ほど伺ったフレームレート差異の件もそうですが,「図らずともPS4 Proが有利になってしまう」という局面はあるかと思うのですが。
伊藤雅康氏:
鋭いですね(笑)。確かにそのとおりです。
ただ,そのあたりの細かい判断については,ゲーム開発者側に委ねています。遠方の敵の細かさを揃えろとか,フレームレートを同じにしろとか,そういう細かい注文を我々が出すことはありません。
4K Blu-rayへの非対応と,全PS4におけるHDR対応について
4Gamer:
PS4 Proにおいて4K Blu-rayことUHD Blu-rayへの対応を見送ったことで,オーディオビジュアル(AV)業界から驚きの声が上がっています。とくに,最近登場した「Xbox One S」がUHD Blu-rayに対応してきたので(関連記事),それとのコントラストが話題になっているようです。
ソニーグループだと,ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントでUHD Blu-rayソフトを出していますから,PS4 Proという一種の旗艦製品が非対応というのは,かなり大胆な決断だと思うのですが,いかがでしょう?
歴史的にもPlayStationは,DVD,そしてBlu-rayの普及に貢献してきましたし……。
その(編注:AV業界)方面からの声が上がっているのは存じております(笑)。
ただ,UHD Blu-rayへの対応についてお話しすると,比較的早い段階から見送りが決定していました。「4K映像への対応はストリーミングへの対応で十分だろう」という判断です。とくに「競合が対応するから我々も対応しなければ」という流れにはなりませんでした。
4Gamer:
一方で,HDR(High Dynamic Range,ハイダイナミックレンジ)にはかなり前のめりな印象がありますよね。
PS4 ProがHDR出力に対応するだけでなく,最初期モデルも含め,すべてのPS4がHDRに対応するというのは,かなりのホットトピックだと思います。
伊藤雅康氏:
4KとHDRは今のところ,セットになっていますね。「HDR対応テレビ」は今のところすべて4Kモデルですし。「大画面テレビ」と「4K&HDR」という映像要素は相性がいいと思います。
4Gamer:
お聞きしたいのはまさにそこなんです。
今後,HDRがすべてのPS4に向けて提供されることになると,標準PS4ユーザーでHDRを楽しみたいという人がきっと増えてきますよね。そうなったときに今だと「HDRテレビを購入する」がイコール「4Kテレビを買う」になってしまっているわけです。「4Kは別にいらない,HDRだけ楽しみたい」という人に向けた選択肢がありません。
ただ,SIEさんは――当時はソニー・コンピュータエンタテインメントでしたが――以前,2011年に,3D立体視対応ディスプレイを製品化しましたよね(関連記事)。あれは当時としては性能も画質も上々で,価格も比較的リーズナブルでした。また,あんな感じの「フルHD×HDR」のディスプレイをSIEから出すなんてのはどうですか。
伊藤雅康氏:
ああ,たしかに。その発想はなかったですね。覚えておきましょう(笑)。
4Gamer:
ぜひお願いします。本日はありがとうございました。
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西川善司の3DGE:PS4 Pro,そして新型PS4はいかなるゲームマシンなのか。現地取材で分かった新型機の深い話
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