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西川善司の3DGE:次世代機「Nintendo Switch」についての答え合わせをしつつ,追加でいろいろ想像してみる
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印刷2016/10/22 00:00

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西川善司の3DGE:次世代機「Nintendo Switch」についての答え合わせをしつつ,追加でいろいろ想像してみる

 開発コードネーム「NX」として知られてきた次世代ゲーム機の名称が「Nintendo Switch」(ニンテンドースイッチ)に決まった。2017年3月発売予定だ。
 実際のところ,2016年10月20日のNintendo Directで明らかになった情報は少ないのだが,流れたプロモーションムービーを見れば,いろいろと想像をめぐらせることはできるだろう。


 筆者は2016年の初頭に,任天堂が米国特許商標庁に出願していた特許技術から,任天堂の次世代機がどうなるかを予測したことがあるのだが(関連記事),今回はその答え合わせをしつつ,さらなる想像を巡らせてみたいと考えている。


まずは「2016年の年始企画」の答え合わせから


連載バックナンバー「2016年新年企画。任天堂次世代機の姿を公開特許文書から推測する」より,特許技術文書にあった図版の1つ
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 まず,特許文書に描写されていた内容で最もインパクトのあった,「四辺形に囚われない自由な形状のフリーフォーム液晶ディスプレイを採用。アナログスティックは物理デバイスだが,ボタン類は画面上のバーチャルボタン」というイメージコンセプトは,実際に発表されたNintendo Switchとは見事に異なっている。筆者の予想は盛大に外れたわけだ。
 任天堂はゲームの遊びやすさや操作性を重視するメーカーなので,特許は出してみたものの,やはりボタンがバーチャルなタッチ操作というのはユーザーのゲームプレイ体験に配慮したとき受け入れられなかったということなのだろう。もしかすると「ゲーム専用機でゲームをプレイするのに操作系に妥協しては,任天堂の看板は掲げられない」くらいの判断が下ったという可能性もある。

シャープ製FFDの例
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 フリーフォーム液晶ディスプレイ(以下,FFD)も,採用があるとすればこの技術を唯一実用化できているシャープのものになるはずだが,現実にはシャープもFFD自体のプロトタイプを展示している段階で,実用事例がない。任天堂はゲーム機を出す場合,いつも価格を重視する傾向にあるので,まだ採用例がなく,導入コストの高そうなFFDの採用は見送った公算が高そうだ。

 一方,2016年の年始企画ではまとめで「ゲーム機としての形態」について言及しているが,ここで「携帯ゲーム機モードと据え置き型ゲーム機モード,2つの動作モードになる」とした予測は見事に的中した。
 任天堂は,欧米では苦戦しているものの日本では大成功している「携帯ゲーム専用機」という軸を捨てきれない。しかし,欧米市場で「携帯ゲーム専用機」が受け入れられないというのは,Nintendo 3DS(以下,3DS)の苦戦はもちろんのこと,競合製品であるPlayStation Vitaの苦戦も見て,肌で感じているはず。なので,「携帯ゲーム専用機」を世界市場に展開する計画は,早いタイミングで排除したはずだ。

Wii U。良作タイトルは少なくなかったが,販売数的にはWiiに遠く及ばなかった
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 ならばもう一度据え置き型専用機を出す選択肢はなかったのかと言えば,Wii U失敗のダメージが大きすぎたということに尽きるだろう。
 Wii Uの発売は2012年。大成功したWiiの後継として,ソニー・コンピュータエンタテインメント(※当時)のPlayStation 4(以下,PS4)やMicrosoftのXbox Oneよりも早く市場投入されたWii Uで任天堂は,先行逃げ切りを図ったと思われ,良作なゲームはけっこうあったとも思うのだが,Wiiのユーザーが付いてきてくれなかったため,不調が続いたのだ。

 なので任天堂としては,

  1. 日本で成功している3DSのユーザーを引き込むためにも,携帯ゲーム専用機のプラットフォームは捨てきれない
  2. しかし,据え置き型と携帯ゲーム専用機の二本柱で,世界で勝負するのは危険すぎる

ことから,携帯ゲーム機モードと据え置き型ゲーム機,2つの動作モードを持つ「ハイブリッドゲーム機」という落としどころに行き着いた,というか,行き着くほかなかったのではなかろうかと考えている。

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なぜメインプロセッサがNVIDIAのTegraなのか


 Nintendo Switchは,メインプロセッサとしてNVIDIA製SoC(System-on-a-Chip)である「Tegra」のカスタム版を採用することが,NVIDIAのBlogエントリーで明らかになった。
 ただ実のところ,この情報は,2016年の春頃に「確度の高い噂」として業界を駆け巡ったことがあったりする。

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 さらに続けると,「確度の高い噂」は,3DSのときにも業界を駆け巡ったことがある。2009年頃と言われる3DS用プロセッサ選定時に,NVIDIAが任天堂にTegraの売り込みを行い,好感触を得たというものだ。
 しかし,最終的にTegraは落選し,日本企業であるディジタルメディアプロフェッショナル製の「PICA200」が採用されたというのはご存じのとおり。

 当時,PICA200採用の決め手になったのは,「Tegraは省電力性能に弱点がある」点だったという。また,3DSがデビューした2011年当時だと,携帯機サイズの電気容量(=バッテリー容量)でプログラマブルシェーダを動かすことが現実的でなかったというのも副次的な理由だったとされている。
 PICA200は,固定機能シェーダでもプログラマブルシェーダでもない「コンフィギュラブルシェーダアーキテクチャ」を採用していた。これはゲームグラフィックスで用いられる定番のシェーダ部品をハードウェアで提供し,これらをある程度の制限内で組み合わせたり,パラメータで制御したりするもので,固定機能シェーダの持つ省電力性能と,プログラマブルシェーダに近い表現自由度を兼ね備えた,ハイブリッドなアーキテクチャであったのだ。

 3DSのときにもNVIDIAが売り込みをかけていたという話が本当だったとするなら,Nintendo SwitchにおけるカスタムTegraの採用は,念願叶ったりといったところだろう。

 まあ,今やスマートフォンのSoCでPS4やXbox Oneと同等世代のプログラマブルシェーダが動いている時代なので,このタイミングでプログラマブルシェーダアーキテクチャの採用を渋る理由はない。半導体の製造プロセスも微細化が進んでいるため,消費電力的にも問題ないという判断があったのだろう。
 むしろ,2017年発売機ではコンフィギュラブルシェーダアーキテクチャを採用する必然性がない。

 ところで,任天堂のWii,そしてWii UはGPUとしてAMD(というか前身である旧ATI Technologies)のプロセッサを採用していたはず。今回のNintendo Switchでは,同系のAMD製組み込み型APU SoCの選択は考えられなかったのだろうか,という話になるが,「携帯ゲーム機としても据え置き型ゲーム機としても使える」コンセプトだと,PS4やXbox Oneで採用しているようなAPUは,消費電力的に採用しにくい。400ドル以下のノートPCが採用するようなエントリー市場向けAPUなら,消費電力面のハードルはクリアできるが,今度は性能的要件を満たせない。

 なら,QualcommのSnapdragonシリーズに代表される,スマートフォン向けに提供されるハイエンドSoCという選択肢はなかったかといえば,ないこともなかったとは思う。
 スマートフォン向けのSoCが採用するGPUコアのトップエンドモデル――高性能すぎて純粋なスマートフォンでは採用例がなかったりするが――だと,単精度浮動小数点(FP32)理論演算性能は1TFLOPSを超えているものもあるからだ。
 ただ,「既存のゲーム開発環境との親和性」「ほかのゲームプラットフォームとの相互移植性」などを考えると,「NVIDIAという選択肢」はなにより安定感がある。というのも,NVIDIAは「GameWorks」などに代表されるゲーム開発向けの技術支援を積極的に行ってきた実績があり,ゲーム開発シーンからの信頼が厚い。そして,GeForceの流れを汲むGPUコアは,過去にPlayStation 3や初代Xboxに採用されたことがあり,なによりPCゲーム市場の主役であって,GeForceベースのソフトウェア資産は潤沢だ。おそらく今回決め手となったのは,このあたりではないだろうか。

Nintendo Switchは,「Nintendo Switchドック」に差し込むことで,据え置き型ゲーム機として利用できるようになる
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Nintendo Switchの性能はどれほどか


 さて,Nintendo Switchが採用するカスタムTegraというのは,どんなプロセッサなのだろうか。
 残念ながら,3分半のプロモーションムービーにも,任天堂のリリースにも,NVIDIAのblogエントリーにも,スペックに関する言及は一切ない。

Pascal世代のTegra(≒Parker)が載るモジュール。中央に見えるのがTegraだ
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 ただ,そうは言っても,この業界に魔法はないので,技術動向からある程度の想像をすることはできる。
 GPUアーキテクチャだが,2017年登場のマシンである以上,現時点における最新世代,すなわちPascal世代になる可能性が高い。
 Pascal世代のGPUを搭載したTegraとして,NVIDIAは2016年8月に,自動運転向けとなる「Parker」(パーカー,開発コードネーム)のスペックを明らかにしているが(関連記事),Parkerそのものにならないとしても,これが1つの目安にはなるはずである。

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 なおNVIDIAは,次世代Tegraとして2016年9月に開発コードネーム「Project Xavier」(プロジェクトエグゼイビア)の存在を公表している。こちらはPascalの次世代アーキテクチャである「Volta」を採用したSoCだが,

  • 最新を追いすぎない任天堂の方針
  • 最新を他社に提供しないNVIDIAの戦略

を考えると,Xavierもしくはそれに近いSoCを採用する可能性は極めて低い。
 もちろん,「最新を追いすぎない任天堂の方針」からすれば,前世代のMaxwellアーキテクチャを採用した「Tegra X1」系プロセッサを採用する可能性もなくはないのだが,「いまさら携帯前提の端末でTSMCの20nmプロセス技術をベースとした物理設計を採用する意味があるとは思えないので,16nm FinFETプロセス技術を採用するPascalを使うだろう。Pascal系ならParkerのカスタムだろう」と考えるほうが自然だとは思う。

 さて,気になる性能に話を戻すと,Wii UのGPUが持つ理論演算性能値としての単精度浮動小数点演算性能は352 GFLOPSで,PlayStation 3の同224 GFLOPSに対して約1.57倍という数字になっていた。
 それに対し,Parkerだと768 GFLOPS。NVIDIAはParkerの性能をアピールするとき,1.5 TFLOPSという表現を好んで使うのだが,これは自動運転の処理で重要な半精度浮動小数点(FP16)の演算性能値なので注意してほしい。

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 タブレット端末向けSoCのTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は高くても10W〜15W程度。このTDPだと,16nm FinFETプロセス技術を用いたとしても,単精度の浮動小数点性能値は1 TFLOPS前後がいいところではないかと思う。
 Nintendo Switchの理論性能値を仮に768 GFLOPSもしくは1 TFLOPSと仮定すると,順にWii Uの2.18倍,2.84倍という理論演算性能ということになる。

 そしてその場合,Nintendo Switchは,Wii Uより高性能でも,PS4の1.84 TFLOPS,PS4 Proの4.2 TFLOPS,Xbox Oneの1.31 TFLOPSには歯が立たないということになるが,任天堂はWiiの時代で競合との性能競争から下りているため,いまやここに驚きはない。
 ただ「もっと高性能だったら!」の希望的観測をするならば,Nintendo Switchは「携帯ゲーム機モードと据え置き型ゲーム機モード,2つの動作モードを持つゲーム機」なので,ACアダプター駆動時となる電源接続時の据え置きモードではより多くのGPUコアが駆動するとか,より高いクロックで動作するとかして1 TFLOPSオーバーの性能を発揮し,バッテリー駆動時は稼働するコアや動作クロックを抑え,相応の性能に留めてゲームプレイ時間を延ばす,なんて仕様を採用している可能性はある。
 もちろん,「ACアダプター接続時に768 GFLOPSで,バッテリー駆動時は384 GFLOPSに落ちて解像度が下がります」という逆パターンも考えられるわけだが(笑)。

 少なくとも,Nintendo Switchが,バッテリー駆動時に単精度浮動小数点演算性能で1.5 TFLOPSを超えてくる可能性はほぼないと言っていいように思う。


Wii Uや3DSとの互換性はなく,PS4と同様のリニアなモデルチェンジを採用か


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 新世代ゲーム機が登場するたびに話題となるのは下位互換性だが,今回,TegraというARMベース,正確にはARMv8-AアーキテクチャベースのCPUコアを統合するSoCを採用したことによって,WiiおよびWii Uとの互換性はなくなったと考えられる。3DSはARM系のARMv6アーキテクチャを採用しているので,可能性はなくもないが,Nintendo Switchとは画面構成や操作系の違いがありすぎるので,こちらも互換性はなくなったと見るのが自然か。

 一方で,将来に関しては重要な示唆がある。
 Nintendo Switchは,カスタム版とはいえ,完全に新規開発のプロセッサではなく,NVIDIAのTegraという「ブランドもの」「シリーズもの」を採用したわけだが,そこに向けて任天堂とNVIDIAは,Nintendo Switch(≒カスタムTegra)専用のゲーム開発API「NVN」を共同開発したと,NVIDIAがblogエントリーで明らかにしているのだ。
 NVNの「NV」は「NVIDIA」,「N」は「Nintendo」のような気もするが,APIの名称はともかく,ここでポイントになるのは,任天堂とNVIDIAが,Nintendo Switchプラットフォームを共同で成長させていく可能性が高いということである。

 そして,その場合に導き出されるシナリオは,「Nintendo Switchが,Tegraプロセッサの進化とともに成長する」というものになる。つまり,Nintendo Switchは,後方互換性だけでなく,前方互換性を維持しつつ高性能化していくことがありうるのだ。PS4 Proのような「ハーフ次世代機」の形になる可能性もあるが,いずれにせよ,PS4やXbox Oneと同じく,Nintendo Switchも,そのライフタイム中に性能が固定化する可能性は低いと,筆者は考えている。
 そもそも任天堂はすでに,3DSの発売から3年後にあたる2014年に,高性能版である「New Nintendo 3DS」を市場投入済みだ。これくらいの時間感覚で,“New Nintendo Switch”的な高性能版が出てくることは十分にあり得るだろう。

 なお,NVIDIAサイドの話をすると,同社はTegraをスマートフォンなどのいわゆるモバイルデバイスへ展開していく可能性を否定しており(関連記事),現在は自動運転用のドライブコンピュータと,NVIDIA自社ゲームプラットフォーム「SHIELD」用に開発を進めている状態だ。後者は必ずしもうまくいっているとは言えないだけに,ゲーム分野でNintendo Switchがサポート対象に加わるというのは,NVIDIAにとっても大きい。


「みんなで持ち寄ってゲームプレイ」は大丈夫なのか? Wiiリモコンは終了?


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 プロモーションムービーとNVIDIAのblogエントリーから想像できるのはこれくらいだろうか。
 ムービーを見ていて1つ心配になったのは,登場する,おしゃれな大勢の美男美女達――「家族」じゃないのも新鮮だった――が,自分のNintendo Switchを持ち寄って,本体から分離したゲームパッド「Joy-Con」でゲームを楽しんでいるシーンだ。
 参加者自らがマイWii Uを持ち寄るタイプの「Splatoon(スプラトゥーン)」パーティを自ら2回も開いた筆者は(関連記事1関連記事2),無線コントローラの混信に相当悩まされたので,本当にこんなことが可能なのか,と少し疑問に思ってしまった(笑)。

 もう1つ衝撃的だったのは,今回のムービーにWiiリモコン,あるいはそれに似たデバイスが一切出てこなかったことだ。
 Wiiで「モーションコントローラ」革命を起こし,Wii Uでその深化を務めてきたWiiリモコンを,Nintendo Switchはサポートしていないように見受けられる。なにしろムービー中ではおしゃれな美男美女達が,こぞってクラシックなゲームコントローラを握って「これって最高じゃんネー?」という風情で微笑んでいるのだ。

 子供と親,その親世代が仲良くWiiリモコンでプレイするという訴求が長かったからこそ「捨てるのは惜しい」という気もするのだが,よくよく考えると,今回のプロモーションムービーも全体的には「外で使える」ことの訴求のほうが強かったくらいだから,どちらかといえば任天堂も,携帯ゲーム機寄りの血筋を持つ新製品と捉えているのかもしれない。Wiiリモコンがなくなったのだとすれば,それも自然な流れという気はする。
 ビデオの後半で,Splatoonの続編らしきゲームが出てくる以上,Nintendo Switch側に加速度やジャイロといったIMU(Inertial Measurement Unit,慣性計測装置)機能くらいは搭載されると思うが。

任天堂のNintendo Switch公式ページ

任天堂のNintendo Switch関連ニュースリリース

NVIDIA公式blogのエントリー「NVIDIA の技術が任天堂の新ゲーム機「Nintendo Switch」に採用されました」

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    Nintendo Switch本体

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