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“小さな巨人”「Xbox Series S」のテクニカルディテールが明らかに。開発者インタビューもお届け
今回,一部のメディアに対して,「Xbox Series S Tech Deep Dive」と題されたブリーフィングが行われ,MicrosoftのTechフェローであるAndrew Goossen(アンドリュー・グーセン)氏や,Xbox Program ManagementディレクターのJason Ronald(ジェイソン・ロナルド)氏に話を伺う機会を得たので,紹介しよう。
Xbox Series Sは,Xbox Series Xと同じAMDのZen 2をベースにした8コアCPUを搭載している。シングルスレッド時の動作クロックはXbox Series Xの 3.8GHzに対して,Xbox Series Sは3.6GHz,マルチスレッディング時は前者の3.6GHzに対して3.4GHzだ。
どちらも8MB L3キャッシュを搭載し,CPUの性能では「Xbox One S」の4倍にも及ぶという。なお,Xbox Series XのSoCサイズは360mm2(平方ミリ),Xbox Series Sは197mm2だ。
Xbox Series XとXbox Series Sのスペックを比較したとき,最も大きな相違点となるのがGPUだろう。双方ともAMD製のカスタムRDNA2 GPUを搭載しているが,Xbox Series Xが 52CUs@1.825GHzなのに対し,Xbox Series Sは20CUs@1.565GHz。このため,GPUの処理能力は前者が12.15TFlops,後者は4TFlops。リフレッシュレートを60Hz(最大120Hz)にキープすることを重視したのか,Xbox Series Sは4K解像度(3840x2160)ではなく,2Kに相当する1440p(2560x1440)をサポートするに留まっている。
もっとも,こういったグラフィックスの違いを実感するには,ディスプレイも120Hzのリフレッシュレートや4K解像度に対応していることが必要となる。60Hz・HD解像度のディスプレイであれば,Xbox Series Sであっても,Xbox Series Xと遜色のないプレイが楽しめるはずだ。
PlayStation 5は,データの圧縮・展開に「Oodle Kraken」という技術を採用しているが,Xbox Series X/Sにも「BCPack」と呼ばれる技術がある。今回のブリーフィングでは詳しく語られなかったものの,搭載されたカスタムNVMe SSDの能力を引き出し,ゲームシーンの高速ローディングを行うテクノロジーであり,3万円台のゲーム機でこれを堪能できるのは大きな魅力となるだろう。
Xbox Series Sのグラフィックテクノロジー面での特徴としては以下のようなものが挙げられたが,これらはいずれも次世代Xboxの根幹をなすもの。前述した4K解像度や120Hzのリフレッシュレートをサポートしていないこと以外では,Xbox Series Xとの大きな差はなさそうだ。
DirectX Raytracing(DXR)
光源から発せられる光線を追跡することで,ある点において観測される像などをシミュレートする手法
Variable Rate Shading(VRS)
可変レートシェーディング。シェーダーがピクセルを1つずつではなく複数合わせて処理することで,GPUへの負担を減らす
Mesh Shading
既存のVertex ShaderとPrimitive Shaderを1つのステージで処理する新しいグラフィックパイプラインの仕組み
Sampler Feedback Streaming(SFS)
事前にレンダーされたフレームの情報を活用し,ミップマップの必要な部分を優先してオンデマンドでメモリに読み込む
DirectML
DirectX12に組み込まれた,機械学習を行うAPIで,ハードウェアレベルでの4Kアップスケーリングに利用されると思われる
今回のブリーフィングではサウンドシステムについても紹介された。すでにXbox Oneも対応しているバーチャルサウンドシステム「Windows Sonic」に加えて「Dolby Atmos」と「DTS: X」をネイティブサポート。耳殻,人頭および肩までふくめた周辺物によって生じる音の変化を伝達関数として表現した「HRTF」(頭部伝達関数 / Head-Related Transfer Function)と,立体的な音響空間を再現する「スペーシャルオーディオ」などのプロセッシング・オフローディング機能も持っている。
スペーシャルオーディオは,VRヘッドマウントディスプレイのアプリケーションではポピュラーではあるが,ここ最近海外の大手パブリッシャの看板タイトルでサポートされていることが多く,日本のゲームでも「バイオハザード RE:2」などが対応しているようだ。CPUに専用のオーディオハードウェアブロックが割り当てられるは当然ではあるが,Xbox Series SのCPUはXbox One Xのものよりもパワーがあるため,次世代ゲームの臨場感をアップさせたい人は,質の良いヘッドフォンやイヤフォンを使うといいだろう
今回のブリーフィングでは,サンプラー・フィードバック・ストリーミングについてのテクノロジーデモが公開された。ゲーム機は世代が変わるごとにGPUパフォーマンスがアップするため,ゲーム開発者はより美しいグラフィックの実現を目指すが,それと比較するとメモリ容量の大型化ペースは遅いため,テクスチャのローディングの効率化がカギとなる。Xboxのリサーチチームが次世代ゲーム機に移行するにあたって,メモリにロードされるテクスチャを減量する方法を模索した結果が,サンプラー・フィードバック・ストリーミングであるという。
利用されているのは「Partial Residency」(もしくはPRT)というテクスチャ技術だ(関連記事)。テクスチャを1枚の比較的大きなタイルにしてパイプラインに通すことにより,処理回数を減らすというものである。古くは2012年初頭に登場したAMDの「Radeon HD 7970」に採用され,その後はDirect 3Dにも取り込まれていった。
しかし,どのタイルをいつの時点でストリームするかの判断基準を測定する手法が見い出されなかったため,言わば見捨てられたテクノロジーになりかけていたのだが,これをサンプラー・フィードバック・ストリーミングによって解決することができたという。
サンプラーフィードバックを使用すると,シーンのレンダリング中にタイルシェーダーを計測して,必要なテクスチャの中間レベルの領域の,理想的なセットデータを収集していく。次に,タイルはそのデータを使用して,必要に応じてシーンを正しくレンダリングするために必要なテクスチャの一部のみを読み込むことによって,さらに細かいテクスチャデータをロードできるようになる。
これによって効率が飛躍的に向上するだけでなく,メモリとストレージの使用においても良い効果をもたらすことになるという。ゲームデベロッパは,その節約を利用して,さらにテクスチャの種類やディテールを増やしたり,オーディオやアニメーション,AIといったほかのシステムにメモリを割り当てたりできることになる。
これは,サンプラー・フィードバック・ストリーミングだけの特性というよりも,「Xbox Velocityアーキテクチャー」がハードウェアとソフトウェアレベルでつなぐカスタムSSDや圧縮技術,Direct Storage APIといった技術が相互に働き合うことで実現できるものであるという。
今回のブリーフィングで公開されたデモの舞台は,無人の幼稚園のクラスルームのような場所で,10GBを超えるテクスチャが利用されているという。これまでのテクスチャストリーミングエンジンであれば,目に見える範囲のオブジェクトに使われているテクスチャーを判断してMIPレベルをメモリにロードしていたが,技術者には“テクスチャーバジェット”と呼ばれる,メモリーに振り当てられている分よりも多いテクスチャーをロードしてしまったり,逆に少なすぎて修正に時間がかかるといったミスが生じることが多かった。
サンプラー・フィードバック・ストリーミングでは,メモリにロードするデータを最適化することで,より高速でのレンダリングを達成できるという。今回はデモ映像の再生速度を4000分の1にまで落として,カメラを動かしてシーンを変化させるたびに,カクカクとタイル状のテクスチャーが動く様子が紹介された。もちろん,実際のゲームではこれよりもさらに多くのオブジェクトが散りばめられているのは間違いないが,今回のデモで表示される処理速度は,まだまだ余裕があったのは印象的だった。
開発者インタビュー
Q:新世代ゲーム機のローンチにおいて,スペックの異なる2種類をリリースするのは前例のないことですが,当初からそのような計画があったのでしょうか?
A:同じ次世代機能とゲーム体験を提供しながらも,2つの種類の異なるハードウェアを同時にローンチするというビジョンをかなり以前からもっていました。このアプローチの根本的な目的は,より多くのプレイヤーに次世代ゲーム市場へ乗り換える機会を得てもらうことです。そのため,Xbox Series XとXbox Series Sという2つを同時発売することに至りました。
Q:2つの異なるスペックを持つハードウェアを同時にサポートするゲームデベロッパの中からは,オプティマイジングなどに対する作業の増加についての不安の声も聴かれます。これは,実際問題として想定されていることでしょうか?
A:Xbox Series XとXbox Series Sは,すでにこのプラットフォームでゲームを開発しているデベロッパたちの声を第1に汲み上げ,彼らのフォードバックに影響を受けてデザインされたものです。双方のゲーム機で,CPUとI/Oパフォーマンスの劇的な向上を達成しており,旧世代より遥かに変革した新世代のゲーム体験に進化させることを可能にしています。また,どちらもDirectXレイトレーシング,可変レートシェーディング,サンプラー・フィードバック・ストリーミングなど,同じ次世代機能をサポートしています。その結果,Xbox Series XとXbox Series Sの両方でまったく同じ開発環境とツールを使用できます。
我々は,ゲームデベロッパの皆さんにはXbox Series Xを念頭に置いたゲームのデザインと開発を行ってもらい,今日一般的に利用されている動的解像度スケーリング(Dynamic Resolution Scaling)などの手法を用いてXbox Series Sの解像度に調整していただくことを期待しています。それによって,Xbox Series Xの全てのパワーを利用しながら,双方のゲーム機や前世代にも対応してもらえるからです。
Q:Xbox Series Sのモックアップ筐体を見ると,ストレージ拡張用のスロットが用意されているようですが。
A:はい。Xbox Series XとXbox Series Sの双方で,Seagate製1TBストレージ拡張カードをサポートする予定で,Xbox Velocityアーキテクチャーによる高速アクセスをフルに生かせます。
Q:Xbox Series X/Sは,21:9もしくは32:9の解像度をサポートしていますか?
A:私たちは,常にプレイヤーや開発コミュニティのフィードバックに耳を傾けていますが,現時点では双方のゲームシステムともに,ウルトラワイドディスプレイをサポートする予定はありません。
Q:120Hzのリフレッシュレートに対応したテレビやディスプレイはそれほど多く市場に出回っていません。Xbox Series Sはこの点を踏まえて開発が進められたものなのでしょうか? また,フルHDのディスプレイではどのような恩恵があるでしょうか?
A:Xbox Series Sは,あくまでも1440p/60fpsの対応と,120Hzまでのフレームレートの対応を念頭にデザインされたものです。そのうえでXbox Series Sは,ソフトウェアのネイティブ解像度がいかなるものであれ,4Kテレビに接続した際に自動的に解像度をアップスケールするハードウェアレベルでの機能を持っているのです。1080pのFull HDに接続した場合でも,スーパーサンプリングによる映像をご提供できます。
Q:60Hzのディスプレイで120fpsのゲームをプレイするとティアが発生すると思いますが,これは自動的に調整されるのでしょうか?
A:Xbox Series X/Sは,接続されたディスプレイを自動的に認識し,それに合わせた映像を出力しますので,プレイヤーは何もする必要がありません。
Q:Sampler Feedback StreamingはXbox Velocityアーキテクチャの独占的なものなのでしょうか?
A:いえ。SFSは,DirectX12 Ultimateに帰属するものですから,いずれはWindows 10搭載PCのゲーマーにも恩恵をもたらすことになるでしょう。
Q:Xbox Series Sのメモリ容量はXbox One Xよりも少ないようですが,これが旧世代タイトルの互換に問題をきたす可能性はありますか? 例えば,Xbox Series Xならプレイできるが,Xbox Series Sはプレイできないといった問題です。
A:Xbox Series Sは,Xbox One Xではできなかった形で旧世代のゲームを効率良く処理することが可能です。CPUとGPUを合わせたパフォーマンス上の性能はXbox Series Sが2倍ほどに達しており,Xbox Series SでXbox One対応のゲームをプレイした場合も,そのフレームレートは2倍ほどを示しています。また,プラットフォームレベルでは,Xbox Series Sは向上したテクスチャーフィルタリング,より高速なローディング,そして自動HDRといった,旧世代では不可能だったエンハンスメントにも対応しています。個々のゲームソフトの改善状況はソフトウェア開発者のサポートにもよりますが,ローンチが近付くにつれて,より詳細についてお伝えしていけるかと思います。
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