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[GDC 2013]当たり前のことができていないゲームが多すぎる? 長期にわたって売上を維持するゲームに大切なこと
登壇者は,KONGREGATEというオンラインゲームサービス会社の共同設立者兼COOのEmily Greer氏で,最初に「長期にわたってお金を稼げるゲームの重要性」を説いた。資料として提示されたのは,2012年のセールスランキングデータ(北米で発売されたパッケージソフトのみが対象)の情報だ。下に掲載した写真を見れば分かるとおり,1位から10位までほどんどが続編,シリーズもので占められており,新規IPは一つしかない。新規IPタイトルがそもそもあまり発売されていないという理由もあるが,売り手も買い手もシリーズもの(続編)を求めているという裏付け的なデータだ。
決してプレイヤーが新規タイトルを求めていないというわけではないだろうが,続編,または同一ゲームのサービスを長期間続けていくことは,十分にビジネスとして成り立ち,とくにFree to Playのゲームが,そういったビジネスモデルを構築するのに向いているというのがGreer氏の主張だ。これに続き,なぜFree to Playモデルのゲームが,長期間にわたってお金を稼ぐスタイルに向いているのかという説明に移った。
Greer氏が所属するKONGREGATEは,Free to Playモデルのゲームを集めたポータル的なサービスをやっている会社だ。同社が提供しているゲームのプレイヤーデータによると,長期間プレイする人ほど,ゲーム内でお金を使う傾向にあり,売上の90%が4%ほどのプレイヤーによって支えられているそうだ。この傾向はタイトルを問わず,基本的に,プレイし続ける人達の数やサービス期間に応じて,売り上げに差が出てくる形である。
売上という観点から見ると,ゲームのジャンルはRPGにつきるという。ソロプレイがメインになるゲームでも,そのほかのジャンルに比べて,RPG要素があるゲームは売上が高くなる傾向があるそうだ。
ちなみにGreer氏は,「面白いこと」を,「とにかくやることが多い」ゲームと,ここでは定義づけている。お金を多く消費するプレイヤーの64%は,遊ぶコンテンツがなくなるとゲームを辞めてしまうというデータが,同社のアンケート調査で出ているという。しかし同アンケートでは,新しいコンテンツが追加されれば,70%はゲームに戻ってくるという調査結果も出ているのだ。
だからといって,ハイペースでコンテンツを追加し続けていくというのは現実的ではない。コンテンツ追加のサイクルを遅くするためには,マルチプレイ要素やUGC(User Generated Content)などを用意しておくことを,Greer氏は奨めていた。
続いてGreer氏が挙げた条件は「ソーシャル要素」だ。オンラインゲームにとっては当たり前といえるものだが,チャットやフォーラム,ゲーム内メールなど,プレイヤー同士が人間関係を築くためのシステムが不可欠なのだという。
中でもギルドの存在は大きく,「友達に会いたい」からゲームにログインする一方,「仲間はずれにされたくない」というプレッシャーを感じてログインするという効果も生むそうだ。また,自分のためではなくギルドのためだと思うと,有料アイテムの購入に対するハードルも下がるという。
4つめは「公正であれ」。例えば大きなアップデートを実施し,そこで致命的なバグが見つかり,慌てて修正/謝罪をしても,ゲームをやめたプレイヤーの多くは戻ってこないという。そもそも大きなバグがある状態でアップデートを実装するなという話であり,万が一バグが発覚しても,場当たり的な対応ではなく,完全に直したうえでプレイヤーに説明/謝罪をする,という真摯な対応が不可欠だとGreer氏は述べた。
また,成功しているゲームには,「Player Counsel」と呼ばれるゲームに詳しいプレイヤーで構成される組織を用意し,ゲーム内コミュニティのマネジメントなどをやってもらっているそうだ。こういった施策は,とくに初心者プレイヤーのケアに結びつくし,Player Counselを通じて,プレイヤー目線での開発がやりやすくなるという利点もある。
また,Greer氏はカスタマーサービスの重要性も説いた。カスタマーサービスはプレイヤーとの接点になる場所で,テンプレート化した返事を出すといった対応は,ゲームのプラスにはならない。生の意見を収集するためにも真摯に対応することを勧めていた。
最後は,「専心すべき」という,これまた当たり前のこと。ゲームが売れると,「同じようなものをもう一つ作れば売上は2倍になるじゃないか」といったことを考えがちだが,安易に続編を作るのは危険だという。ここまでに説明したとおり,一つのゲームを運営しつづけるというのは大変なことで,それと同じことをもう一つのゲームでやるには2倍以上の労力がかかる。適当に続編を作るくらいなら,現状のものをアップデートして確実に売上をアップさせるほうがいいのだという。
ちなみに,Greer氏は続編の開発を絶対にするなといっているわけではない。元となるゲームが売れており,それでいてあまり強固なコミュニティがない場合は続編を考えてもいいのではないかと説明していた。
ここまで読んで,「当たり前のことばかりじゃないか」と思った人も多いだろう。だが,この当たり前がきちんとできていない会社は思いのほか多いようだ。そしてたとえ目立っていなくても,しっかりできている会社のゲームが,長期にわたり売り上げを維持しているのは事実だ。
もちろんGreer氏が挙げたことを守ったからといって,ゲームが確実にヒットするわけではない。だが,すでにヒットしているタイトルを分析した結果なだけに,これらを実行しないと長期運営は難しい……という裏付けにもなるだろう。
とくに「同じようなゲームをもう一つ作れば売上が2倍じゃないか」的なことは,別の業界からきた数字しか見ない偉い人あたりが言ってきそうな話だ。ソーシャルゲーム界隈では,“色違い”レベルの似たようなゲームが出てくることさえある。
そういったものを用意すれば,一時的に売上は伸びるかもしれないが,安易な続編やコピータイトルを作ることは,すでに成功しているタイトルの首を絞めることにもなりかねないのだ。たんに1社の売上が落ちるだけならまだいいが,長い目で見ると,ゲーム業界全体にあたえるダメージも少なくない。今回,Greer氏はそこまで語ってはいなかったが,そういったことをほのめかすような講演だったのではないだろうか。
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