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[GDC 2016]ヘッドフォンをしていても音が横からではなく前から聞こえる技術「Nx」,WavesがVRなどのゲーム用に展開
Nxとは何か
「ヘッドフォンやヘッドセットの利用時にも音が横からではなく前から聞こえる」と聞くと,いわゆるバーチャルサラウンドサウンド的なものを想像するかもしれない。しかしNxの場合は,外部のWebカメラ,もしくはWavesが提供するヘッドフォン/ヘッドセット用ヘッドトラッキングシステム「Nx Head Tracker for Headphones」でユーザーの頭がどこにあってどの方向を向いているかを追い,ユーザーの向いている方向にかかわらず,常に固定された場所から仮想的な2chフロントスピーカーセットを鳴らすことができるのである。
つまり,ヘッドフォン/ヘッドセットを装着してPCディスプレイを正面に見据えた状態では,左右の斜め前に2chスピーカーセットがあるように聞こえるが,その状態でたとえばユーザーが左を向くと,音は右から聞こえるようになるというわけだ。
従来型のヘッドフォン/ヘッドセットが抱える問題は,「本来,ユーザーの斜め前に置いてあるスピーカーからステレオ感を伴って聞こえるべき音」を,ユーザーの右と左に分離してしまうことにあった。この場合,人間の耳というか脳は,分離されて入ってくる音の情報を「左右それぞれの真横から入ってくる音」として認識してしまい,結果として,正しいステレオ感が得られなくなる。
ある音楽をスピーカーで聴いているときには気にならなかったのに,ヘッドフォンで聴いていると,パーカッションやツインギターなど,特定の音だけやたら片方から聞こえて違和感がある,なんて体験をしたことがあるのではないかと思うが,あれはまさにこの問題の結果である。
それに対してNxでは,音が人間の鼓膜に到達した状態をシミュレートするバイノーラル技術を応用し,フロント2chスピーカーを仮想空間に“設置”する。これにより,ユーザーが正面を向いた状態では音が前から聞こえ,それこそ左を向けば右から聞こえるようになるというわけだ。
ヘッドトラッキングの効果により,頭を左右に振ったり傾けたりしても,仮想空間にあるスピーカーの位置は動かない。これが聴感上の違和感を低減するため,長時間のリスニングにおける疲労感の低減にも効果があるという。
従来のバーチャルサラウンドだと,フロント方向のサラウンド効果が弱くなることが多く,これがゲームプレイにおける違和感につながりがちだ。だからこそ,4Gamerでヘッドセットのレビューを担当している榎本 涼氏は,4Gamerでリファレンスのバーチャルサラウンドサウンド機能として採用する「Razer Surround Pro」で,フロントのサテライトをセンターに寄せて,前方向の音を聞き取りやすいようにしているのだが(一例となる記事),これがNxで解決し,サラウンド情報が分かりやすくなるのであれば,かなり画期的だろう。
現在のところ,ゲーム対応版Nxのリリース時期,および対応製品のリリースは未定。Wavesは一般消費者向けに製品を売るタイプのメーカーではないため,おそらくは将来的に,PCメーカー,あるいは周辺機器メーカーの新製品としてNxを組み込んだゲームPCやゲーマー向けヘッドフォン/ヘッドセットが登場することになると思われる。GDC 2016中に追加情報がもたらされるのかどうか,動向を見守りたい。
Waves公式Webサイト
Wavesのプロ用Nx公式ページ
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