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[SIGGRAPH]「FINAL FANTASY XV」の戦闘シーンはどのように描かれるのか。リアルタイムデモをもとにポイントを解説
わずか5分間という持ち時間で,実際にデモ機でプログラムを実行しながら,講演者がその解説を行うという,ほかのイベントでは見かけない進行となっているのが,Real-Time Live!のポイントだ。テーマがリアルタイムレンダリングであるだけでなく,イベント自体もリアルタイムというわけである。
さて,今回のReal-Time Live!には,珍しく日本からスクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XV」(PS4 / Xbox One,以下 FFXV)開発チームが参加して,「Real-Time Technologies of FINAL FANTASY XV Battles」(FINAL FANTASY XVの戦闘におけるリアルタイム技術)というセッションを行った。
セッションを担当したのは,第2ビジネス・ディビジョン シニアプログラマーの長谷川 勇氏と,テクノロジー推進部 リードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏だ。
今回,FFXV開発チームがReal-Time Live!に登壇するのは,いわば4年前に提示したコンセプトから,実際のゲームがどうなったのかという結果報告ともいえるわけで,ゲーム開発者からの注目度は相当に高かったのではないだろうか。
そんな,FFXV開発チームの発表映像内容を,特別に実機からデジタル録画する許可を得たので,その映像を示したうえで概要を解説しよう。まずはその映像を見てほしい。デモ機が出力した映像の録画なので画質も非常に高く,見ているだけでも楽しめると思う。
なお,当然ながら映像は開発途中のものであり,製品版ではさらに改善するとのことだ。
なお,本作は今のところ,PlayStation 4用とXbox One用がリリースされることになっているのだが,デモに使われたのは開発用のWindows PCである。ちなみにデモ機のスペックは,CPUが「Core i7-5820K」で,グラフィックスカードは「GeForce GTX 980 Ti」搭載カード,メインメモリはPC4-21300 DDR4-SDRAM 8GB×4とのことだった。
リアルタイム布シミュレーションを適用した主人公たちの衣装
FFXVはオープンワールド型のRPGで,ゲームの舞台は,モンスターが棲息していて魔法も存在するといった,いわゆるファンタジーの要素が強い世界だ。しかし,世界を形作る物理法則は,我々の住む世界のものと極めて近いと設定がされている。この点については,すでに掲載したFFXVのビジュアルエフェクトを解説する記事でも触れたとおり。FFXVのはグラフィックスにおけるテーマは「説得力のあるフォトリアル」であり,リアリティの再現に,開発チームは相当な情熱を燃やしているそうだ。
さて,Real-Time Live!で公開されたシーンは,主人公ノクティスとその仲間たちが,湖近くの草原を探索している場面からスタートする。まずは,主人公たちの歩きや走りのアニメーションに注目してほしい。
歩きや走りを表現するときに,座標移動に連動して固定の歩行アニメーションを再生しているだけのゲームは珍しくない。しかし,FFXVの歩行アニメーションはとても自然に見えたのではないだろうか。
開発チームによれば,FFXVのキャラクター表現でこだわったのは「接地感」だったという。ゲーム内部の処理としては,「座標移動に合わせて歩行アニメーションを表示する」になっているのだが,実際に動く様子を見ると,左右の足を交互に着地させ,その足で地面を蹴り飛ばして前進している感じが,よく伝わってくる。
衣服の動きにも注目だ。走るアクションでひるがえる衣服の先端だけでなく,袖口の開いている部分まで動いている。また,静止したときにも,動きの余韻が衣服の動きに残っていることにも気がつくはずだ。
なによりも身体と接している部位から,ひらひらとはためく先端部分までの推移がなだらかで,ちゃんと「服を着ている」映像を表現できているのはすごい。
これらの動きは,リアルタイムかつ動的にバネとボーンベースの布シミュレーションを行うことで,生成しているという。これにより,ノクティスの上着から垂れ下がった紐が,太ももに当たって蹴り上げられ,ヒラヒラする動きまで再現されている。衣服同士でも接触を表現しているのである。
そのほかにも,主人公が突然動き出したとき,仲間たちも連動してすぐに走りだすのではなく,まずは頭を動かし視線で追ってから,走る挙動に移っているのも注目すべきポイントだ。
今回のデモにはなかったが,各キャラクターのAIはアニメーションと相互連携しているので,近くに岩があれば自発的に手を置いたり,進行方向に草木があれば,自発的に掻き分けたりもする。キャラクター自身がゲーム世界と自発的にインタラクトしている表現には感銘を受けた。
FFXVの自然な景観を支える技術
主人公一行が水辺を進むと,その足は水面を叩き,そこを起点にして波紋が広がる様子が描写される。製品版ではさらに,水しぶきも上がるという。
水面には周囲の情景だけでなく,主人公たち動的なキャラクターも映り込んでいる点に気がついただろうか。
遠方の映り込みは,キューブ環境マップによるもので,近景の映り込みは,局所的なレイトレーシングを用いた画面座標系のポストエフェクトである「スクリーンスペースリフレクション」(Screen Space Reflection,SSR)によるものだ。近景の映り込みが,一部だけキャラクターのシルエットで抜かれるような場面が一瞬あるが,製品版では,局所的なキューブ環境マップを別途設定することで改善するとのことである。
ムービーでは,ここでカメラが空を向いて,逆光のようになる。ここで注目すべきは,天球と雲の描写だ。
FFXVの空は,「アーティストが描画したテクスチャ画像」ではない。「天球のどの位置に太陽があるか」によって,大気中の陽光が観測点(カメラ)までに,どのようにして空気を散乱させながら到達するかをシミュレーションしながら,リアルタイムに空模様の色を生成しているのである。
FFXVのゲームエンジンである「Luminous Studio」では,時刻を入力すると,それに応じた空模様を自動生成する仕組みがある。FFXVにおいて,日の出や日没時には地平線付近が赤らんだり,真昼には濃い青空となったりするのは,天球シミュレーションを行った結果として得られているものなのだ。
なにげなく見える雲についても,触れておく必要があるだろう。
動画の空に浮かんでいる雲も,アーティストが描いた画像ではなく,プロシージャル生成されたものだ。
さらに,雲は時間経過に応じて,種となるパラメータをもとに変調していくことで,時々刻々と姿を変えていく。この変化の様子も,事前に生成したアニメーションではなく,リアルタイムに生成されているわけである。
ただ,ボリューメトリックなデータのままではCGとして描画できないので,実際には視点位置から雲密度の分布を定義した構造体に向けてレイ(光線)を投げ,各レイが取得した雲の密度値に応じて,雲の色を決定して映像化しているという。
さらに,空の色や地表からの照り返し光,太陽や月からの直接光にまで配慮したライティングも行っている。それゆえに,太陽や月の近くにある雲は,明るく照らされるし,雲の上層は空の青さを反映した色に,雲の下層は地面の色を多少反映することになるわけだ。
また,雲は複数の層で形成するものなので,下層の雲で密度の高い部分は,陰って見えるはずだ。FFXVではこの計算も行って,雲のセルフシャドウを生成している。それに加えて,雲のシルエットは影生成用のシャドウマップにも反映されるため,地表には淡い雲の影が落ちるという凝り具合だ。
続いてデモ映像では,デバッグモードが起動して,時間を早回しすることで天球上の太陽を動かす動作を見せた。太陽が動くと,ゲーム世界の影も太陽の位置とは反対方向に動き,日が暮れるころには影の背がとても長くなる様子が描かれる。
さらに,その状態で空を晴天状態から雨天状態へ切り替えると,ゲーム世界は雨でずぶ濡れになった。
雨天になると,窪地には水が溜まって水たまりができ,主人公たちの衣服は,黒味を増して濡れた状態になる。雨粒は地面で跳ねて小さな波紋を作り出すだけでなく,映像では分かりにくいが,キャラクターにも衝突して跳ね返るという。
突然の雨に,服が濡れるのを気にするキャラクターや,空を仰ぐキャラクターがいたりするのが,なんとなく微笑ましい。
戦闘シーンのビジュアル的な見どころは
映像の続きを見ていこう。
空模様を晴天に戻すと,今度はデバッグ画面で複数のモンスター(ガルラ)を出現させて,戦闘シーンへと移行した。
魔法が生み出した炎は,敵にダメージを与えるだけでなく,ゲーム世界の草にも燃え移っている。草に燃え移った炎は勢いを増して,モンスターたちの身体にも燃え広がり,耐久力の低いモンスターになると,黒焦げになって息絶えてしまうものもいるのが分かる。
ちなみに,今回のデモでは行われなかったが,小屋があればそれにも火が燃え移って,最終的に破壊できるそうだ。
ここで,スタッフが再びデバック画面を操作をすると,地表が緑になり,画面中心に黒い穴が開く。フレームレートは大幅に低下しているが,これは,このデバッグ画面がとても重いためだ。
ここで表示されているのは,「ナビゲーションメッシュ」というゲーム世界の移動可否を示す情報である。
ゲーム世界を描画する地形データは,ポリゴンで構成されているが,この描画用ポリゴンデータとは別に,キャラクターの移動時などに参照する地形データを,ゲーム側が別に持っているのは珍しくない。この参照用地形データを,三角形をつなぎ合わせたポリゴンメッシュで構築したものがナビゲーションメッシュ(ナビメッシュ,ナブメッシュとも)である。このデバック画面で見えている緑色の領域は,移動可能な地形を示しているわけだ。
一方,黒い穴が開いたような領域は,炎が燃えている部分であり,ナビゲーションメッシュが「移動不可」に上書きされたことを示している。FFXVでは,こうしたデータの変化がAI制御にも変化をもたらす。
黒になった移動不可領域に隣接する主人公たちやモンスターは,AIによって積極的にそこから遠ざかろうとする。つまり,デモのこの部分は,環境の変化にAIが能動的な行動を起こす様子を見せているわけだ。
これに続いて,主人公が氷の魔法を発動すると火は消えて,火が燃えているときは移動できなかった領域が,再び移動可能となる。氷の魔法は敵の動きを遅くする効果もあるので,モンスターの動きがもっさりとしているのが分かるだろう。
デモでは,再び炎を放ってまた焼け野原にするのだが,今度はデバック画面で,天気を雨天に変更している。すると,映像では分かりにくいと思うが,草原で燃えている炎が雨によって消えていくのだ。
魔法の火や氷,天候の雨といった具合に,FFXVのゲーム世界でも,それぞれのマテリアルは現実世界のように,強弱関係を持っているというわけである。
動画の最後で主人公は,召喚魔法を使って巨人「タイタン」を召喚。遠くに出現したタイタンは,山ほどもある巨体を揺るがして走り込んでくると,地表のモンスターに怒りの拳をお見舞いする。
ここは,ダイナミックな戦闘演出を楽しむパートではあるが,それとは別の見どころもある。
それは遠方に現れたタイタンも,ちゃんと主人公たちがいるゲーム世界に出現しているという点だ。
FFXVの召喚魔法は,単なるCGムービーを再生しているのではない。タイタンは,主人公たちと同じゲーム世界に出現しており,カメラもその出現場所から,戦闘地域までシームレスに移動するのだ。タイタンの読み込みやカメラの切り換えによる映像のカク付きもない。
なにより,主人公たちよりもはるかに巨大なタイタンが同一の縮尺で,同じゲーム世界に存在しているところがポイントだ。
なお,映像をよく見ると,主人公のところに走ってくる途中で,タイタンの足が岩をすり抜けてしまう様子が見える。これは開発途中版であるためで,最終的にはきちんと岩を乗り越えるとのこと。
リアルタイムデモでゲームへの期待がさらに高まる
今回のReal-Time live!で示されたFFXVのゲームグラフィックス要素は,当然ながらほんの一部にすぎない。「近代ゲームグラフィックス技術がほぼ全部入り」といわれるだけに,グラフィックス的,あるいは技術的な見どころは,まだまだ存在する。
SIGGRAPH 2016では,全部で6つのFFXV関連技術セッションが行われたのだが,そのすべてが大変興味深い内容だった。それらについても追ってレポートしたいと思う。
アクションゲームを好むため,FFシリーズはあまりプレイしていない筆者だったが,2016年9月30日に予定されているゲームの発売は,今から楽しみでならない。
SIGGRAPH 2016 公式Webサイト
4GamerのSIGGRAPH 2016レポート記事一覧
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FINAL FANTASY XV
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(C)2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. MAIN CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
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