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[AnimeJapan]スタジオジブリが磨き続けてきたアニメ制作ソフト「OpenToonz」とは何か。オープンソース化を実現したドワンゴが語る,その狙い
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印刷2016/03/26 23:59

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[AnimeJapan]スタジオジブリが磨き続けてきたアニメ制作ソフト「OpenToonz」とは何か。オープンソース化を実現したドワンゴが語る,その狙い

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 2016年3月26日,東京・有明の東京ビッグサイトで開催されているイベント「AnimeJapan 2016」のクリエイションステージにて,「アニメーション制作ツールのオープンソースプロジェクトについて」と題された講演が行われた。
 これは先日発表され,講演当日の2016年3月26日に配布が開始された2Dアニメーション制作ソフト「OpenToonz」の概要を紹介するというもの。同ソフトは,スタジオジブリの劇場作品で長らく使用されてきた「Toonz」をベースに改良が施されたもので,この度開発元であるDigitalVideoをドワンゴが買収したことにより,オープンソース化が実現したという経緯がある。

 登壇したのはドワンゴの技術コミュニケーション室 室長を務める清水俊博氏と,東京大学大学院情報学環 助教の岩澤 駿氏,そしてスタジオジブリのエグゼグティブイメージングディレクターの奥井 敦氏の3名で,講演ではそれぞれの立場から,Toonzのオープンソース化についての意気込みが語られた。ゲームとはやや別ジャンルの話題ではあるが,興味深い部分も多かったので,本稿ではその内容を紹介していこう。

左から清水俊博氏,岩澤 駿氏,奥井 敦氏。本講演は当初ドワンゴ代表取締役会長の川上氏が登壇する予定だったが,この日は病欠とのことで,代って清水氏が「OpenToonz」の紹介を行った
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「OpenToonz」公式サイト



映像表現の研究開発とアニメの制作現場つなぐエコシステム


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 まず清水氏からは本プロジェクトの概要として,なぜドワンゴがアニメーション制作ソフトをオープンソース化するのか,という狙いが語られた。

 ニコニコ動画やニコニコ生放送といったWebサービスで知られるドワンゴだが,そういったサービスを実現する裏には,同社が行っている映像に関するさまざまな研究開発がある。そういった研究の成果は,もちろん既存のサービスに活かされているわけだが,それをよりオープンな場で活用したいというのが,本プロジェクトの発端なのだそうだ。

 一方でアニメ制作の現場では,映像の研究開発にコストを割く余裕はない。スタジオジブリでは,ソフト開発エンジニアを雇って社内で使うツールの開発・メンテナンスを行っているが,こうしたことができるスタジオはなかなかないだろう。そのため,既存のソフトウェアに可能な範囲で,なんとか工夫をしながら作品を作っているというのが実情である。

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 ドワンゴの狙いは,この苦しいアニメの制作現場と,映像表現の学術研究を行う大学や企業とをOpenToonzによって結び,新しいエコシステムを生み出すことにあるという。研究によって生まれた最新の映像表現が,すぐに最新のアニメに反映され,より良い作品が生まれる。こうしたサイクルを加速させるために最適なのが,誰もが無償で利用できるオープンソース化と,それに付随するオープンソースコミュニティの力というわけだ。

OpenToonzは修正BSDライセンスによって提供される。アニメの制作現場がソフトウェアの購入にかけているコストを,ソースコードのカスタマイズコストに割くことで,研究開発が加速することを望んでいると清水氏は語っていた
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 続いて岩澤氏からは,機能面についての解説が行われた。
 氏は2014年3月までスタジオジブリが社内で使用するソフトウェアを開発・メンテナンスしていた人物であり,今回のプロジェクトにおいては,ドワンゴと東京大学による共同研究に,開発メンバーの一人として参加しているという。

 氏はまず,近年のアニメ制作現場で起こっているさまざな変化について説明を行った。作画作業のデジタル化はもちろんのこと,3DCGと2D作画の融合や制作環境の高解像度化などがその代表例だ。そうした変化に追随するための強力なツールとなりえる本プロジェクトは,アニメ業界にとって大きな意義があるものだと氏は語った。

 OpenToonzの特徴は幾つもあるが,その中でもとくに大きいのは日本でも有数のアニメ制作スタジオであるスタジオジブリで,その前身であるToonzも含めて20年にも及ぶ使用実績があることだ。OpenToonzの前身となったToonzは,1995年の「もののけ姫」の一部のシーンから使用され,さらには2010年の「借りぐらしのアリエッティ」以降では,ジブリの制作環境に合わせて改良が加えられた「Toonz Ghibli Edition」(以下,Ghibli Edition)が用いられている。OpenToonzは,最新のToonz 7.1をベースにこのGhibli Editionに加えられたカスタマイズを統合,さらにエフェクト効果を外部プラグインとして読み込む機能が追加したものとなる。

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 またOpenToonzには,スタジオジブリで使用されているスキャンツール「OpenToonz GTS」(以下,GTS)が同梱されている。OpenToonz自体は作画から撮影まで,アニメ制作における実作業をすべてデジタルで行える統合環境だが,制作の現場では,作画までは紙と鉛筆のアナログ作業でまかなう現場も少なくない。スタジオジブリはまさにその典型で,その後の仕上(彩色)の工程に進むためには,紙に描かれた動画をスキャンしてデジタルデータに変換する必要がある。それを担うのが,このGTSである。

なおジブリでは英語版のToonzを使用していたが,OpenToonzではすべてのインタフェースが日本語にローカライズされているとのこと
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GTSの特徴は,スキャン時のすべての設定を保存し,再スキャン時にも再現できる点にある。カットの一部にリテイクが生じた場合も,これにより以前と同じ線の質感が得られる
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OpenToonzのファイルフォーマットは独自の形式が採用されている。ラスターデータ(いわゆるbmp形式)ならアンチエイリアス付きの描線での作業も可能だ
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撮影のインタフェースは時間が横に流れるタイムライン方式ではなく,アニメの現場で一般的な,縦に時間が流れるタイムシート方式を採用する
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また仮想の撮影台に素材を置いていくように,直感的な絵作りができるのも大きな特徴だ。素材合成時の位置指定も,px単位ではなく実寸のmm単位で調整可能
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ファイル形式は独自だが,一般的なファイルフォーマットへ変換することもできる。アニメ制作の一部のパートのみをデジタル化するなど,さまざまなワークフローに対応する
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公式サイトではすでにインストーラが公開されており,自由にダウンロードして使うことができる。ただし,マニュアルの整備は不完全とのことで,ここは後日アップデートされる予定とのこと
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 エフェクトプラグインについて,少し詳しく紹介しよう。
 注意深くアニメ作品を見ていると分かるように,我々が目にするアニメの映像には,さまざまな特殊効果がかけられている。深夜アニメのサービスシーンでお馴染みとなっているお風呂の湯気などもその一つだし,少し古いアニメであれば画面に光が差す“入射光”も,よく見られる表現だった。
 OpenToonzでは,こうした特殊効果をプラグイン化し,新しい効果を簡単に追加できるようになっている。またプラグインを開発するためのSDKがドワンゴから提供されており,最新の映像表現を比較的簡単に取り込めるとのこと。またドワンゴの開発チームによるエフェクトプラグインがすでに幾つか公開されており,OpenToonz利用者はこれを自由に作品に用いれる。またソースコードも付属しているので,プラグイン開発のサンプルとして参考にすることも可能だそうだ。

ドワンゴが開発したエフェクトプラグインの一例。これは写真にイラストのタッチを反映させるニューラルアートプラグインで,画像解析にはディープラーニングの技術が利用されている
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今となってはちょっと懐かしい感じもする入射光を再現するプラグイン。かつてはフレネルレンズなどを用い,実際にセルに光を当てながら撮影を行っていた
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レンズの前に波ガラスを置いて撮影することで,水中を表現する波ガラスプラグイン。デジタルならパラメータを少し変更するだけで,表現を細かに調整できる
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「Toonz Ghibli Edition」が生まれた経緯


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 最後に奥井氏からは,OpenToonzの前身であるToonzをなぜスタジオジブリが選んだのか,という採用の経緯についての説明が行われた。

 スタジオジブリにおけるデジタルによる映像制作は,「もののけ姫」(の一部のシーン)が最初だったと先に説明があったが,実はそれ以前の「平成狸合戦ぽんぽこ」「耳をすませば」でも,デジタル作画は用いられている。しかし,その当時は外部のプロダクションに依頼する形だったそうで,そこで良い感触を掴んだことで,ジブリ内にデジタル部門が設けられることになった,というのが正確なのだそうだ。

 さて,ではどの部分からデジタルに移行するかだが,ここでジブリは仕上から先の工程をデジタル化することにした。アナログで彩色されたセルを取り込み,撮影のみをデジタル化することも考えたが,簡単に色を塗り分けられるデジタルは,仕上作業と相性が良いだろう,という判断である。
 そこで,仕上から先の作業が行えるソフトウェアを探してみると,候補となるソフトが3つ見つかった。うち2つがToonzを含むラスター系で,残る1つはベクター系(描線をベクトルで表現する形式)のソフトだったそうだが,このうちベクター系の1つは早々に候補から外れることになる。アナログのシーンとデジタルのシーンが混ざったときに,違和感が出てしまうからだ。
 残る2つのラスター系ソフトのうち,どちらを選ぶかを決定づけたのは,実作業時のPC負荷だった。劇場映画のクオリティ――今でいう2K解像度でのデジタル作画は,20年前の当時のPCではかなり高負荷な作業であり,それがストレスなく行えたのはToonzだけだったそうだ。

 こうして採用が決まったToonzだったが,その選択は正解だったようで,もののけ姫では見事にアナログシーンとデジタルシーンを違和感なくつないだ映像が完成した。この結果をもって,スタジオジブリでは次回作「ホーホケキョ となりの山田くん」から,Toonzによる完全デジタル作画に移行することになる。

 しかし,何もかも順風満帆ではなかったそうだ。ToonzはVer.4.xから5.xへメージャーバージョンアップが行われるにあたって,ベクターの導入が行われた。しかし,ジブリではベクターを一切使用せず,ラスターデータのみで作業を行っているため,これは不要な機能である。
 そこでジブリは,開発元であるDigitalVideoと交渉を行い,社内用のカスタマイズ版Toonzを,自社でメンテナンスしていくことを決意する。これが今回のOpenToonzにも統合されている「Toonz Ghibli Edition」だ。ちなみに岩澤氏は,このときからジブリに参加し,以降の開発とメンテナンスを担当したとのことである。

 奥井氏によると,Ghibli Editionは基本的に長編アニメを制作するスタジオジブリに特化したものとのことで,一般的なアニメスタジオで使うには,ハードルが高い部分も少なくないという。OpenToonzとして公開するにあたり,それを下げる努力をしているが,それでもまだ足りないと感じているとのこと。
 また,スタジオジブリでは今もGhibli Editionで制作を行っているが,現在普及しているほかのアニメ制作ソフトと比べると,エフェクト関連が弱いのは認めざるをえないとのこと。そのためにOpenToonzではプラグイン機能が追加されており,オープンソースコミュニティの手によって,これが強化されることを期待していると語り,講演を締めくくった。

 なお,AnimeJapan 2016ののKADOKAWAブースの一角では,スタジオジブリの制作スタッフによるOpenToonzによる仕上や撮影の実演が行われているとのこと。実際にOpenToonzを触ることもできるそうなので,興味のある人は同ブースを訪れてみるといいだろう。

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「OpenToonz」公式サイト

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