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インディーズゲームをきちんとリリースするための秘訣とは? 敏腕コンサルタントが語る「すべきこと・すべきでないこと」
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印刷2016/05/09 18:01

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インディーズゲームをきちんとリリースするための秘訣とは? 敏腕コンサルタントが語る「すべきこと・すべきでないこと」

Becky Taylor氏。Reboot誌の編集に参加しているほか,AmazonやTencentでも働いていたという
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 主にSteamを市場とした(もちろんHumble Bundleなどそれ以外の世界的ダウンロード販売サイトも多いが)インディーズゲームの百花繚乱ぶりが,顕著になって久しい。これについては過当競争を懸念する声も強いが,モバイルプラットフォームに比べれば「ゆるい」競争であるのは言うまでもなく,今しばらくこの状況は続くと考えられる。

 とはいえ,競争が厳しくなっているのは事実だ。たとえSteamでゲームをリリースできたとしても,あまり大きなセールスにならずに忘れられていくタイトルというのは,決して珍しくない。また,αくらいのバージョンまで開発は進んだものの,そこでチームが空中分解したり,財政危機に陥ってプロジェクトが凍結されたりといった案件も見られる。

 その一方で,きちんとゲームを完成させ,少なからぬ熱心なファンを得るに至り,商業的に一定レベルの成功を収めたというインディーズゲームだって,もちろん存在する。いったいこの差はどこで生まれるのだろうか。
 Reboot Develop 2016において,これまでにコンサルタントとしてインディーズゲームを30本以上リリースさせてきたBecky Taylor女史が,インディーズゲームをリリースするにあたって「すべきこと」を語った。


人はミスから学ぶ


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 ……と,実用的な雰囲気を漂わせている講演なのだが,そのタイトルは実に刺激的で,日本語にすれば「ゲイブに殺害予告を送りつけるな」とでもなるだろうか。
 このタイトルは2014年に実際に発生した事案が元になっている。あるインディーゲームの開発者が,自作のSteamでのリリースに関わるトラブルに怒って,TwitterでSteamを罵倒するに留まらず,ついにValveの代表取締役であるGabe Newellに対する殺害予告までTweetしたのである。
 これに対し,Steamはかの開発者が所属するディベロッパーのアカウントをBAN。これに伴い,ディベロッパーが発売していたほかのゲームもすべて削除された(問題となった作品は,のちにほかのデベロッパーに権利を移譲してリリースされている)。

 なんともコメントしづらい事件だが,実のところこれは「ゲームが死ぬ最も顕著な例」というだけの話だ。Taylor氏は,「ゲームが死を迎えるにあたって,何もゲイブに殺害予告を送りつけるのだけが原因というわけではない」と語る。
 例えば,Free-to-Playでゲームをリリースしたものの,マネタイズがうまく回らずに,経済的に死ぬ。あるいは,制作途中でチームが空中分解して,正式リリースまで漕ぎ着けられずに死ぬ。あるいは,ディレクターがメンバーに対し過度にパーミッションを与えすぎたせいで,ソースを直接触る人が多くなりすぎて,ゲームの完成度を高めるどころか崩壊して死ぬ。
 ……いやはや,「ゲームが死ぬ」理由は実に多種多様だな,と思わされる。

 だがそれでも,「人はミスから学ぶことができる」とTaylor氏は述べる。どうすれば,こういった失敗を避けられるのだろうか?

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自分がやったことが,自分への態度として返ってくる


 まず最初に挙げられたのが,プロジェクト・ドキュメントの作成である。いわゆる,ゲーム制作を事務の面から見たときの,さまざまな書類だ。
 多くのインディーズゲーム制作チームにおいて,この手の面倒な仕事は,積極的に避けられるという。だが,たとえインディーズゲームといえども,(ビジネスとして動かす限り)それはビジネスだ。ドキュメントさえあれば避けられるトラブルは多いし,逆に言うとインディーズであってもビジネス面を管理する人はいたほうが良い(日本の同人ゲームにおいても,「次回作が出ない場合,サークル内部での取り分で揉めたと思って良い」という金言がある)。

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 次に,自分達が作っているゲームを「いつでも,すぐにアピールできるようにしておくこと」の重要性が語られた。
 いつでも,というのは,本当に文字通り「いつでも」である。昨今,世界中でゲーム関係のカンファレンスや展示会が開催されている。そしてここにおいて,飛行機の遅延やビザ発給のトラブルなどで,予定されていた出展者が出展できない事態にも,事欠かない。そんなとき,打診されたら,すぐに出展できるかどうか――これはゲームの最終的な露出に大きく影響しうる。
 加えて,「すぐに」アピールできるのも大事だ。一般来場者からクリエーターまで,イベント来場者は何やかんやで忙しい。「30分遊んでもらえば面白さが分かります」では,そもそもパスされてしまうと考えるべきだ。口頭で,できればスクリーンショットや動画も交えて,30秒ほどで作品のアピールができるようにしておくのは,展示会において非常に重要なポイントとなる。

 3つめの鍵は,積極的に人にアピールしていくことだ。世界中どこに行っても,ゲーム開発者というのは対人関係を作るのがあまり上手でなかったり,あるいは自分のことを変人だと思い込んでいるがゆえに,「普通の人」に理解されないという思いこみを抱いていることが多い。結果,自作をアピールする機会を失いがちになる。だがTaylor氏は,「どうせみんな少しずつ変人なんだから,自分が変人かもしれないなどと恐れる必要はない」と断じる。
 加えて,コミュニケーションの基本として,「誰にでも別け隔てなく,善き人であれ」と氏は語った。ゲーム開発者のコミュニティは驚くほど小さく,誰かの悪口を言えば,その悪口は高確率で本人の元に(発信者情報とあわせて)届く――最悪,悪口の対象が,実は目の前にいた,ということすらあり得る。
 一方で,他者に対して親切・親身であれば,そのことは必ず自分に対する親切として返ってくる。Taylor氏は「自分がやったことが,自分への態度として返ってくる」と力説していた。

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 4つめは,ゲームをシェアできるように設計することだ。といっても,無料でキーをばら撒くとかいう話ではない。
 昨今,YoutubeやTwitchがインディーズゲームの知名度に与える影響は大きい。それだけに,ストリーム配信に向いたゲームであるかどうかは,ゲームの成功を大きく左右しうる。同様に,Gifを使ったワンポイントの動画も有効だという。
 こういった動画(あるいはスクリーンショット)は,ただ単に「そういうものが簡単に作れる」だけでなく,ワンボタンでSNSに投稿できるようにしておくべきだ。ここにおいて,FacebookやTwitchが提供するAPIはとても便利なので,積極的に活用したい。
 またSNSに関して言うと,Twitterの重要度は高い。Twitterでの情報発信には大きな意味があるので,たとえプログラマであってもTwitterアカウントを公開し(あるいは専用のアカウントを作り),未来のユーザーと積極的にコミュニケーションを取ったり,情報を公開していくべきであると,Taylor氏は語った。

 最後に重要なのは,学び続けることだ。結局のところ,ゲームの良し悪しは技術力で決まる。そしてゲームエンジンからソーシャルメディアまで,新しいものが常に発表され続けている。学ぶことに「これでいい」状態などないのだ。

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すべきではないこと


 さて,ここまでが「すべきこと」である。一方で,数こそ少ないが,「すべきでないこと」もあるという。殺害予告はその頂点付近に位置するが,そういった極端な例を除いても,すべきでないことはいくつかある。以下,簡単にまとめてみよう。

  • 殺害予告はするな:言うまでもなく
  • 批判は受け入れろ:無条件にすべての批判を受け入れる必要はないが,いちいち反論する必要もない
  • 完璧を求め過ぎるな:ゲームは芸術であり,芸術に「完璧な完成」はない。手の止めどころがどこかを強く意識すべき。
  • SNSはしばしば呪いをもたらす:殺害予告とまで行かなくても,誰かを罵倒すれば,それは記録として残る。場合によっては,そのTweetが原因になって,特定パブリッシャのブラックリストに入るかもしれない。また,「罵倒した投稿を消せる」と思ってはいけない。殺害予告は投稿者によって即座に削除されたが,そのスクリーンショットは世界中に残っている。
  • 嫌なヤツになるな:繰り返しになるが,あなたが行ったことは,あなたに向かって返ってくる。
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 全体的に,やや精神論的なところも多めの講演ではあったが,「製品としてのゲームは,作品単体として完結しているのではなく,それを取り囲む社会の中で評価され,流通する」という視点は,非常に重要なものであると言える。
 「とても偏屈だが,作り上げる作品の質で周囲を黙らせる職人」というステロタイプは,しばしば日本人にとって(そして実のところ世界中で)憧れの存在だが,実際には「偏屈だ」の段階で,その作品も顧みられないことが多い。世の中,その程度には「代わりがいる」のだ。
 ということになると,「なんだよ結局“コミュ力”勝負なのかよ」と愚痴のひとつも言いたくなるところだが,Taylor氏の言うとおり,「どうせみんな少しずつ変人なんだから,自分が変人かもしれないなどと恐れる必要はない」のだ。まずは「善き人」であるために一歩踏み出すこともまた,自分のゲームの完成度を高め,より多くの人に作品を楽しんでもらうための,大事な一歩と言えるだろう。
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