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ドイツ,そして世界のアナログゲームは今後どこへ向かうのか。有力出版社やゲームデザイナーによるパネルディスカッションを聞いてきた
ゲーム出版社側からは,Stephen Buonocore氏(Stronghold Games),Sophie Gravel氏(Plan B/Next Move),Carol Rapp氏(Asmodée Deutschland)。ゲームデザイナー側からは,Friedemann Friese氏(2F-Spiele),Ignacy Trzewiczek氏(Portal Games),Eric M. Lang氏(CMON)が参加し,司会のFrank Zirpins氏によってディスカッションは進行していった。
いずれも業界を代表する出版社の責任者や有名ゲームデザイナーであり,会場となったメッセエッセン内部のベルリンホールは,聴衆でほぼ満員となった。
各国のゲーム文化の違いとグローバル化
ドイツ(Zirpins氏,Rapp氏,Friese氏),ポーランド(Trzewiczek氏),カナダ(Gravel氏,Lang氏),アメリカ(Buonocore氏)と,登壇者の出身地が世界各国に散らばることもあり,今回のパネルディスカッションで主要な話題の1つとなったのが,それぞれの国で異なるゲーム文化だ。これは,各国で作られるゲームの違い,そして各国のプレイヤーが好むプレイスタイルの違いとして現れる。
国ごとの個性については,例えば,木製のミープルやキューブを使ったワーカープレースメントや経済・建築ゲームを作るのが得意なドイツ,ゲームシステムだけでなくビジュアルも重視するフランス,興味深い小型のゲームを数多く輩出する日本のような違いがある。
ボードゲームにおけるプレイスタイルの違いについては,フランスを初めとするロマンス語圏の国々のプレイヤーが刹那的な楽しさを求めるのに対し,ドイツのプレイヤーは知的なチャレンジとして捉える傾向にあるのだとか。
また,アメリカではプレイ中にプレイヤーが頻繁に議論するため,カタログ上の所要プレイ時間を大幅にオーバーすることが多いという。どちらかといえば,ステレオタイプ的ともいえるこうした各国の人々の特徴が,ゲームプレイには如実に現れるというのが面白いところだ。
ゲーム出版社としては,このような各国の文化の特徴を踏まえ,販売戦略を立てていく必要がある。近年のアナログゲーム出版社は,買収合併や企業間提携を促進して多国籍化を進めているところが多いが,そのような提携は単純に製品の販路を拡大するだけでなく,各国のゲーム文化に通じた人材を確保し,社内で意見交換をしながら世界各国で通用するゲームを製作するうえでも重要なのだという。
とはいえ,大手のアナログゲーム出版社といえども,信頼できるパートナー企業を現地で見つけるのは簡単ではない。また,欧米の主要言語を使用しない日本などの国々では,ローカライズの問題も当然発生するため,言語依存度の高いゲームの場合はそれが障壁になる。
言語依存度の高くない作品であっても,ルールブックの翻訳時には,字数オーバーのために独自の校正が必要だったり,言語特有の表現の違いから本来の意図を伝えるのが難しかったりと,アナログゲームに限らない「ゲーム翻訳あるある」事例が頻発するのだとか。
もちろん英語のまま輸出することも可能なのだが,対象国の言語に翻訳することで,プレイヤー側も「自分達のために特別に翻訳してくれた」と感じて,そのゲームに愛着を持ってくれることが多いため,ローカライズをきちんとしてくれるパートナー企業はやはり欠かせないそうだ。
Kickstarterのメリット・デメリット
このような販売戦略を話すなかで,話題はKickstarterにも及んだ。Kickstarterは,予算が限られ独自の販路を持たないインディー系ゲームのデザイナーにとって,言うまでもなく資金調達や宣伝上で大きなメリットがある。
しかし最近は,Stronghold Gamesのように,大手出版社であってもKickstarterを積極的に利用しようとする動きも見られる。これは,Stronghold Gamesが個々のインディーブランドを活かす販売戦略をとっているからでもあるだろう。
彼らにとっても,リリース前に世界中のファンと交流ができるマーケティングイベントとして,あるいはゲーム開発をライブ感覚で逐一報告すると共に,大規模なパブリックβテストとして活用できるKickstarterは,魅力的に映るとのことだ。
一方で,Kickstarterへの参入に消極的なNext GamesのGravel氏やAsmodéeのRapp氏は,Kickstarterの利用層にコアなアナログゲームファンが多いことから,このシステムが合う作品とそうでない作品が存在すると指摘する。
また,有名ゲームデザイナーであるTrzewiczek氏やFriese氏も,Kickstarterによってファンの期待や熱狂がコントロール不能なまでに高まった結果,要らぬ憶測を生んだり,失望させてしまうリスクがあると述べていた。このようにKickstarterは,ゲーム制作者サイドにとっては悪目立ちしすぎてしまうデメリットも存在するのだ。
アナログゲームのブームとどう向き合うか
年々拡大し続けるSPIELに象徴されるように,欧米のアナログゲーム業界は順調に業績を伸ばしている。だが,新作ゲームが次々とリリースされる(今年のSPIELに出展された新作は1400点に及ぶ)なかで,埋没しない優れた作品を製作しそれを販売していくのは,ゲーム出版社とデザイナーの双方にとって大きな課題だ。
また,ドイツなどのヨーロッパ各国では,ゲームの需要に対して印刷所・製造所の生産量が不足するキャパシティの問題も深刻になりつつある。
登壇者の意見が一致したのは,それぞれが試行錯誤を恐れずに,小型ゲームからゲーマーズゲームまで,あらゆる種類の作品の製作に挑戦していくことだ。
個々のゲームの成功は連鎖し,アナログゲーム業界全体に寄与していくものだという意見や,大量にゲームを製作してまぐれ当たりを狙うよりも質を優先すべきだという意見,あるいは手作りで楽しみながらゲームを作る感覚を忘れてはならないという意見が頻出したことは,彼らが過度の商業主義化を警戒し自らを戒めているように筆者には思えた。
今回のパネルディスカッションは,欧米における現在のボードゲーム人気をアナログゲーム業界の最前線にいる人々がどう考えているかという生の声が聞けた点で,非常に意義深いものだった。
惜しむらくは,ここに日本などアジア諸国からの登壇者がいなかったこと。今回のディスカッションの内容は,4Gamerが今年のSPIELで取材した安田 均氏のインタビューと響き合う部分が多いように感じた。アジア圏の事情をより詳しく紹介できるパネリストが1人でもいれば,議論はさらに面白くなったのではないだろうか。
なおSPIEL'18では,この前日の10月25日にも,ドイツ文化評議会やドイツゲーム作家組合,そして連邦議会や州議会の各政党の議員を交えた「文化財としてのゲーム」を主題として,別のパネルディスカッションも開催された。
こちらの方も,デジタルゲームと比べてアナログゲームへの政府の支援が薄いことや,書籍のようにアナログゲームに対しても軽減税率を適用すべきか否か,図書館や教育機関のアナログゲームの受け入れを一層強化すべきかなど,各話題について突っ込んだ議論が行われていた。
ある現象が社会に広がっていく過程では,政治との関わり合いはどうしても避けられないが,アナログゲーム大国のドイツでも,業界と政治との協働はそれほど進んでいないことに筆者はむしろ驚かされた。
公共・教育機関での利用の促進を初め,ここで話題となった各テーマも日本で当てはまる部分は多い。ドイツにおける政治とアナログゲームとの関係が,今後どのように深化していくのかは,注目しておく価値があるだろう。
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