インタビュー
「世界樹の迷宮X オリジナル・サウンドトラック」発売記念。作曲家の古代祐三氏に世界樹シリーズの音楽について聞いた
“3DS最後の世界樹”として2018年8月2日に発売された「世界樹の迷宮X」(以下,世界樹X)は,ニンテンドーDSと3DSで展開してきた「世界樹の迷宮」シリーズの集大成といえる作品だ。OSTには「世界樹X」用に書き下ろされた新曲15曲に加え,「世界樹の迷宮III 星海の来訪者」(以下,世界樹III)の楽曲のアレンジバージョンが収録されている。
今回4Gamerでは,同シリーズの楽曲を手がけてきた古代祐三氏に,これまでを振り返りつつ「世界樹X」の音楽について語ってもらった。
「世界樹の迷宮X」公式サイト
「世界樹の迷宮X オリジナル・サウンドトラック」の情報ページ
(音楽レーベル「U/M/A/A」の公式サイト内)
“懐かしくて新しい”FM音源調で始まった
世界樹シリーズの音楽
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,古代さんが世界樹シリーズの音楽を手がけることになった経緯を教えてください。
古代祐三氏(以下,古代氏):
※第1作「世界樹の迷宮」ディレクターの新納一哉氏
4Gamer:
オファーの時点でFM音源調の楽曲でいこうと決まっていたのですか。
古代氏:
いえ,その段階ではまだです。懐かしい曲調のデモをいくつか作って新納さんに渡したところ,「曲は良いけど,どこかゲームのコンセプトと合わないところがある」と。ひょっとしたら音色の問題じゃないかと思ってFM音源で試してみたところ,新納さんからも「このイメージです」と返事をいただけて,この路線で行くことが決まりました。
4Gamer:
リリース後の楽曲への反響はどうだったのでしょう。
古代氏:
まず当時,FM音源はほとんど使われていなかったんですよね。FM音源をスパイスとして使うケースはあっても,それだけで作られたゲーム音楽というのがほとんどなくて。
4Gamer:
では,FM音源を知らないプレイヤー層も多く,新鮮なものとして受け止められたと。
古代氏:
チップチューン文化はありましたが,ちょっとブームが落ち着いていた時期で,そういった背景もあったかもしれないです。加えて私のことを昔から知っている人達からは「これこれ!」みたいな反応をいただけました。
4Gamer:
「世界樹の迷宮」といえばFM音源の楽曲という認知を得たと思いますが,プラットフォームがニンテンドー3DSに移行した「世界樹の迷宮IV 伝承の巨神」(以下,世界樹IV)からは生演奏による楽曲となりました。この転機について聞かせてください。
古代氏:
金田さん(※)から,「プラットフォームが変わるので方向性を変えたい」という打診があったんです。私自身の中にも,「FM音源で3作やってきたから,世界樹の音楽を違った音で作ってみたい」という思いもありました。
※「世界樹IV」でディレクターを務めた金田大輔氏
4Gamer:
生演奏で行けると思った理由はどこにあったのでしょう。
古代氏:
理由はいろいろありますが,スーパー・アレンジ・バージョン(※)が好評だったというのが1つですね。それもあって,普通にシンセサイザーの打ち込みで作っても面白くないかと思って生演奏を試してみたら,これが結構よかったんです。
※世界樹シリーズのアレンジCDアルバム。ゲーム内で使用された楽曲の生演奏バージョンや,著名なアーティストによるアレンジ楽曲が収録されている
4Gamer:
10周年記念ライブ(関連記事)に出演された際,ご自身のスタジオを持ったことで制作環境が変わったというお話をされていました。
古代氏:
スタジオを作ったのは2013年の秋で,世界樹シリーズだと「新・世界樹の迷宮 ミレニアムの少女」(以下,新世界樹1)以降の話ですね。「世界樹と不思議のダンジョン」からは,ほぼ全曲を私のスタジオで作っています。
4Gamer:
何が大きく変わったのでしょう。
古代氏:
時間をかけていろいろと実験できるようになったところでしょうか。もちろんスケジュールの範囲内ではありますが,自分の都合いいタイミングでそういった時間を作れるようになったのは大きいですね。
4Gamer:
スタジオを持ってから,思ったように作りたかった音が作れるようになったと。
古代氏:
いえ,なかなかそうはいかないんですよ。例えば良い音作りをするためビンテージ機材を導入したいとなっても,そういった機材は高額なので,そう簡単に一度で揃えることはできませんから。プロジェクトの都度,機材を導入したり入れ替えたりを繰り返しながら好みの機材を揃えて,少しずつ環境を整えていきました。
4Gamer:
1作目の発売から最新作の「世界樹X」まで,スピンオフ作品を加えればほぼ毎年シリーズ作品が発売されてきました。長い間シリーズの楽曲を担当されてきて,ここは苦労したというものはありますか。
古代氏:
実は作曲に関してはほとんど苦労はないんです。奏者や楽器の状況で変わる生演奏の収録で考えされられることがあったり,PCが壊れたとか急用でスケジュールが変わったとかいうアクシデントに困らされるといったことはありましたけどね。
4Gamer:
シリーズ作品によってはフィールド移動もありますが,基本的に街と迷宮の行き来と,迷宮の階層によって雰囲気が変わっていくという構成ですよね。作品ごとに差別化していくのは大変そうだなと思っていたのですが。
古代氏:
私自身はそこで苦労することはありませんでした。逆にアイデアはいくらでも思いつくんです。
例えばイベント用の楽曲であれば,ゲーム自体のコンセプトや物語の背景さえしっかりあれば困らないです。迷宮の第1階層といえば森ですが,「新しい森の楽曲を作れる」という気持ちの方が強くて,「また森か……」みたいに思うことはないですね。
4Gamer:
苦労よりは楽しさのほうが勝っていると。
古代氏:
はい。強いて大変なものを挙げるなら戦闘曲でしょうか。階層の雰囲気が変わって出現する敵が変わっても基本はそのままで,繰り返し何度も聴くことになる楽曲ですから。
4Gamer:
たしかにボスやF.O.E戦なども含めて,戦闘曲はプレイヤーにとっても「こういう曲調だろう」というイメージができている楽曲かと思います。
古代氏:
そうですね。とくに序盤の戦闘曲はゲーム全体のイメージを決めてしまうものなので,慎重に作らなければなりません。逆にそれさえ決まれば,あとは順調に進むことが多いです。
シリーズの集大成であることを意識した
「世界樹の迷宮X」の音楽
4Gamer:
古代氏:
小森さん(※)とはこの依頼がある前から,お酒の席などで「次はこうしたい。こういうことができたらいいね」みたいな話をしていたんです。そこで話していたことが実現したような感じで,「ようやくその時期がきたんだな」くらいの思いでした。
※世界樹シリーズのプロデューサー・ディレクターである小森成雄氏
4Gamer:
感慨にふけるようなことはなかったのですか。
古代氏:
はい。極めてフラットでしたね。時期的にも,3DSのゲームとしてのまとめに入ることは想像できるタイミングでしたから。むしろ,どうやって曲を詰めていくかについて考え始めていました。
集大成となるのであれば,昔の曲も使うことになる。そうなると「世界樹IV」以降の3DS用作品の楽曲がクローズアップされるし,3DS向けに収録したことがない「世界樹III」の楽曲をアレンジして再録しなければならない。メモリの関係で曲数は限られる……といったことなどですね。
4Gamer:
すでに具体的な作業について考えていたと。「世界樹X」用の新曲は,どのように作られたのでしょう。
古代氏:
あくまでシリーズ集大成であって過去作品の楽曲がメインとなるため,ほかの楽曲より目立ったりジャンルが違いすぎたりしてはいけない。過去のシリーズ作品を“つなぐ”役割を持った楽曲になることは考えました。
4Gamer:
なるほど。たしかに「世界樹X」をプレイしていて,自然に溶け込んでいたというか,あまり新曲を「新曲だ」と強く意識して聴くことは少なかったです。
古代氏:
メインというよりもサイドという立ち位置で,そういった意味では「世界樹X」用の楽曲制作はやりやすさもありましたね。
具体的には,いつも使っていた管弦楽器を外し,そこにシンセを加えることで差別化を図りました。ほとんどの楽曲を4ピースのバンドにシンセを加えた編成で収録しています。
4Gamer:
DS作品からだと,「世界樹III」の新アレンジ楽曲が使用されています(※)。OSTのDisc2にも収録されていますが,このアレンジも担当されたのでしょうか。
※「世界樹の迷宮」と「世界樹の迷宮II 諸王の聖杯」は,それぞれ「新世界樹1」「新・世界樹の迷宮2 ファフニールの騎士」で3DS用に新録されている
古代氏:
いえ,こちらは上倉(※)さんにお願いしました。
※作曲家の上倉紀行氏。「世界樹X」のほか,「世界樹と不思議のダンジョン2」の編曲や「世界樹IV」スーパー・アレンジ・バージョンのプロデュース,SQ F.O.E bandのメンバー(バンドマスター)などで世界樹シリーズに関わる
4Gamer:
上倉さんの名前が出たところでライブについても聞かせてください。3年ぶりに開催された2016年以降,3年連続で開催されており,世界樹シリーズの1つの名物にもなっています。
古代さんも毎回ゲストとして出演されていますが,次はこんなライブをやってみたいという希望はありますか。
古代氏:
ライブは私が主導しているものではないので,あくまで個人的にですが……これまでのライブとは別に,管弦楽を入れてもう少し規模を大きくしたものをやってみたいですね。
4Gamer:
例えばオーケストラコンサートはどうでしょう。
古代氏:
オーケストラに合う楽曲もありますが,戦闘曲のようなテンポのいい曲が人気であることを考えると,あまり大規模なものよりはバンドに少人数をプラスして編成したもののほうがよさそうですね。それなら理想のアンサンブルになると思います。
4Gamer:
答えにくい質問かもしれませんが,古代さんは世界樹シリーズの今後にどのような期待を持っているのでしょうか。あくまで“3DSでは最後”というひと区切りを迎えただけで,ファンは次の展開を楽しみに待っています。
古代氏:
これも具体的な話がきているわけではないので,あくまで勝手な想像ですが,アトラスさんなのでやはりコンシューマだろう,いまメインとなっている現行のゲーム機がプラットフォームになるだろう……といったことは考えたりします。
あとは原点といえる「Wizardry」に立ち戻り,あらためて3Dダンジョンを再構築してみても面白いんじゃないか,などですね。
4Gamer:
最近はゲーム用のデータを印刷して遊ぶインディーズゲームが出ています。あえて紙とペンを使って,プレイヤー自身の手でマッピングして遊ぶというのもありですよね。
古代氏:
ええ。新しい要素を増やすのではなく,逆にシンプルな方向に戻すのもいいんじゃないかと。そういう意味では楽曲も,基本的な部分はそのままだと思いますが,同じようなことが言えるかと個人的には思います。
4Gamer:
シリーズファンとしては,新作展開と古代さん作曲による楽曲が楽しめる日を楽しみにしています。
それでは最後に,「世界樹X」のOSTについて注目してほしいポイントや,オススメしたいところについて聞かせてください。
古代氏:
まずはCD化されたことで,高音質で「世界樹X」の音楽を聴けるところですね。ハイレゾ音源もあるので,再生環境がある方はこちらで楽しんでほしいです。
あと,新曲を単体で聴くと,ちょっと地味な印象を受けるかと思いますが,盛り上がりすぎないように計算して,あえて引き算のアレンジをして作っていますので,そこを感じてほしいですね。
4Gamer:
先ほどの,過去の作品と作品をつなぐという役割のお話ですね。
古代氏:
はい。ただそういったコンセプトは,ゲームをプレイしてみないと分かりませんし,曲単体で聴いても伝わりにくいものだと思います。例えば,歴代シリーズ作品のOSTと一緒にシャッフル再生したりプレイリストを作ったりして聴いてみることで,「世界樹X」の楽曲の良さが分かるかもしれませんね。
4Gamer:
過去作品のOSTや「世界樹III」のアレンジ曲が収録されたDisc2などを足すことで,世界樹シリーズの音楽の集大成が楽しめる。それは面白い聴き方ですね。ぜひ試してみたいと思います。本日はありがとうございました。
世界樹の迷宮X(クロス)
オリジナル・サウンドトラック
発売日 : 2019年5月29日
価格 : 税抜3,200円
品番 :UMA-1119/20
トラックリスト
[Disc1]
01. 新たな冒険の舞台へ
02. 交錯する旅路
03. 街景 大志を抱き、その名を刻め
04. 街景 孤島のゆりかご
05. 島景 見果てぬ大地
06. 街景 秘宝を求めて
07. 迷宮 四方ノ霊堂
08. 戦場 高揚
09. 戦場 そして、蛮勇は血に沈む
10. 戦乱 屠られしもの
11. 迷宮 世界樹ノ迷宮
12. 戦場 死が分かつ十字路
13. 戦場 狂気を血で染めて
14. 戦乱 生きとし生けるものの黄昏
15. 迷宮 奈落ノ霊堂
[Disc2]
01. 街景 夕闇が包みし海の都 (世界樹の迷宮X Ver.)
02. 迷宮I 垂水ノ樹海 (世界樹の迷宮X Ver.)
03. 戦場 初陣 (世界樹の迷宮X Ver.)
04. 戦場 その鮮血は敵か汝か (世界樹の迷宮X Ver.)
05. 戦乱 剣を掲げ誇りを胸に (世界樹の迷宮X Ver.)
06. 迷宮II 海嶺ノ水林 (世界樹の迷宮X Ver.)
07. 戦乱 その忌むべき名を呼べ (世界樹の迷宮X Ver.)
SQ F.O.E bandのライブ出演情報
瀬上純氏率いる『ソニック』バンドと,
上倉紀行氏率いる「SQ F.O.E band」の対バンライブ!
FACE to FACE vol.2
〜SONIC ADVENTURE MUSIC EXPERIENCE & SQ F.O.E band〜
2019年6月22日(土)に渋谷ストリームホールで「FACE to FACE vol.2 〜SONIC ADVENTURE MUSIC EXPERIENCE & SQ F.O.E band〜」が開催されます。
本公演は,ゲームミュージックライブイベント「JAPAN Game Music Festival」のスピンオフ企画“FACE to FACE”の第2弾です。今回は,セガの代表作『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』シリーズの楽曲などを多数手掛けている,瀬上純氏率いる「SONIC ADVENTURE MUSIC EXPERIENCE」と,『世界樹の迷宮』シリーズライブの演奏でお馴染みの,上倉紀行氏率いる「SQ F.O.E band」による対バンライブとなります。
また,『世界樹の迷宮』の作曲を担当した古代祐三氏も「SQ F.O.E band」にゲスト参戦いたします。『ソニック』シリーズや『世界樹の迷宮』シリーズファンの皆様は,是非足を運んでみてはいかがでしょう。
FACE to FACE vol.2 〜SONIC ADVENTURE MUSIC EXPERIENCE & SQ F.O.E band〜
2019年6月22日(土)
開場:17時00分
開演:18時00分
■会場
渋谷ストリームホール
最寄り駅:JR「渋谷」駅[16b]口直結
■出演
<SONIC ADVENTURE MUSIC EXPERIENCE>
Gt. 瀬上 純
Ba. 種子田 健
Dr. Act.
<SQ F.O.E band>
Gt.&Key.:上倉紀行
Gt.:宮崎大介
Sax.:藤田淳之介
Vn.:テイセナ
Ba.:中西道彦 from Yasei Collective
Dr.:白川玄大
Special guest
Key.:古代祐三
MC:伊藤賢治
■チケット
6,480円
※税込
※スタンディング
※整理番号順入場
※ワンドリンク代別途500円要
※未就学児入場不可
■主催
株式会社ナウ
ローソンチケットのチケット販売ページ
「世界樹の迷宮X」公式サイト
「世界樹の迷宮X オリジナル・サウンドトラック」の情報ページ
(音楽レーベル「U/M/A/A」の公式サイト内)
- 関連タイトル:
世界樹の迷宮X
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