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[SPIEL’19]今年も世界最大のアナログゲームの祭典がスタート。現地から開幕前日の模様をレポート
毎年のように拡大し続けるSPIELだが,今年もまだまだ右肩上がりの傾向を見せている。参加するパブリッシャは全世界53か国から1200以上,参加者はのべ19万人以上が見積もられている(昨年は50カ国から1150ブース,のべ18万人の参加。参加者の国籍は100以上)。また会場で発表される新作は1500と,こちらは並のコンピュータゲームイベントでは追いつけない規模となっている。
これに伴い会場となるエッセンメッセの利用床面積は8万6000平方メートル(昨年は8万平方メートル)となり,これは5年前の倍に相当する。gamescomが2017年の段階で20万平方メートルを使っているのに比べると小さく見えるが,東京ゲームショウは5万4000平方メートルなので,SPIELのほうがずっと前から広さ的には東京ゲームショウを上回っている。
この盛り上がりは世界市場においても明確に観測でき,ドイツのボードゲームとカードゲームはもはや輸出産業にシフトしつつある。また世界全体におけるアナログゲーム市場は2022年までの間,年9%の速度で成長を続けるという予測がアナリストからは提示されている(アメリカ市場の成長率は年率20%)。
デジタル・テクノロジーとの融合も積極的に推進されており,SPIEL’19では初めてSPIEL公式のストリーム放送が行われる(英語とドイツ語での放送)。これまでもBoardgame Geekなどの,有志・企業による放送は行われてきたが,公式のストリーミングはより多くの人をこのイベントに注目させるきっかけとなり得るだろう。
加えて(これは我々の感覚から言えばもはや当然とも言えるが)SPIELを取材するゲームメディアのほとんどはいまやWebメディアであり,YouTube・Podcast・ブログといったメディアにより,個人の発信力もかつてなく高まっている。そしてこれに伴い,SPIELでもブロガーとの交流イベントやYouTuberによる講演が予定されている。
加えて,SPIEL’19では「ボードゲームの教育利用」といった方面にも注目が集まっており,今年は10月25日(金曜日)に「EDUCATORS' DAY」として各種講演が予定されている。あえていえば「ゲームショウ」としてスタートしたSPIELが,その拡大にあわせてカンファレンス要素を強めてきていることには,大いに注目したい。実際「アナログゲーム専門の技術カンファレンス」は,筆者の知る限り,世界規模のものは存在しないはずだ。またEDUCATORS' DAYの講演の多くは英語で行われる。
アナログゲームが本格的に競争力を高めていく過程において,いわゆる「産学連携」は欠かせない要素になるだろう。
「産学連携したからすぐにうまく行く」というわけではないが,そういったノウハウや失敗事例も含めて世界と知見を共有していくことは,ゲーム教育利用という範囲にとどまらず,今後のアナログゲームにとって大いに役立つだろう。
もっとも,このように右肩上がりの拡大傾向が続いていけば,問題も起きやすくなる。
SPIEL’19で言えば,イランのボードゲーム事情を講演してくれる予定だったイラン人パブリッシャのドイツ入国を,テヘランのドイツ大使館が却下したというのがその典型と言えるだろう(2019年10月23日現在,まだ状況は流動的)。
この手のトラブルは,イベントの規模が拡大するに伴い必ず発生している。(関連記事)。「アナログゲームの世界でこんな変わった問題が起きた」というトピックとしてではなく,世界のゲーム開発者やゲームパブリッシャにとって共通する問題として本件を認識する姿勢が必要だろう。
面白いゲームを作ったり売ったりする才能は世界中で発見できるが,なんらかの理由でそれらの才能が十分に発揮できない状況というのは,誰よりも我々ゲーマーにとっての損なのだ。
Inno Spielは「Ab Durch Die Mauer」が受賞
プレスカンファレンスでは,エントリーレベルの先にある,ある程度まで複雑なゲームに対する需要の高まりが指摘された。これまでは,販売本数という点ではエントリーレベルのゲームが中心的だったが,近年においてはもっと難度の高い,戦術的なゲームの販売本数も好調だという。
またKickstarterにおいても「重たい」作品に注目が集まっている。2018年においてKickstarterでのボードゲーム・カードゲームに対する投資は1億6500万ドルに達しているが,なかでも顕著な成功を収めた「Tainted Grail: The Fall of Avalon」は625万ドルの投資を集めた。この作品は15のシナリオ(合計10万単語)を有し,1シナリオごとに4時間のプレイタイムが必要になるという,明らかに「重い」ゲームだ(1つ110ユーロでの販売)。
この傾向はアメリカ市場でも明確に観測でき,Amazon・Target・Walmartといった量販店(およびネット通販サービス)において最も注目されたのは「グルームヘイヴン」で,2位が「ROOT」,3位が「ウィングスパン」となっている。
さて,Spielのプレスカンファレンスといえば,「もっともイノベーティブだったゲーム」に与えられるInno Spiel賞の発表である。
今年ノミネートされたのは「Ab Durch Die Mauer」「Detective」「KeyForge」の3作品。磁石を使うだけでなく回転するボードを活用する「Ab Durch Die Mauer」,デジタルとアナログを巧みに融合させたドラマチックな協力型推理ゲーム「Detective」,リチャード・ガーフィールド氏による新しい対戦型カードゲーム「KeyForge」と,どれがInno Spielを獲っても不思議ではない傑作揃いである。
そんななかでInno Spielに選ばれたのは「Ab Durch Die Mauer」だった。この3つの作品のなかでもっとも言語依存度が低く,またルールの難度も低いのが「Ab Durch Die Mauer」だというのは重要なポイントかもしれない。
ドイツゲーム大賞は「ウィングスパン」
SPIELでは“ゲーマーが選ぶアナログゲーム賞”である「ドイツゲーム大賞」の発表も行われる。今年のラインナップは以下のようになっている。
Flügelschlag(邦題:ウィングスパン) Elizabeth Hargrave Feuerland
Die Tavernen im Tiefen Thal(邦題:深い谷の酒場) Wolfgang Warsch Schmidt Spiele
Teotihuacan - Die Stadt der Götter(邦題:テオティワカン:シティオブゴッズ) Daniele Tascini, David Turczi Schwerkraft
Spirit Island(邦題:スピリット・アイランド) R. Eric Reuss Pegasus Spiele
Architekten des Westfrankenreichs(邦題:西フランク王国の建築家) Shem Phillips, S. J. Macdonald Schwerkraft
Detective Ignacy Trzewiczek, Przemysław Rymer, Jakub Tapot Portal Games/Pegasus Spiele
Underwater Cities(邦題:アンダーウォーター・シティーズ) Vladimir Suchy Delicious Games
Newton(邦題:ニュートン) Nestore Mangone, Simone Luciani Cranio Creations
Just One(邦題:ジャスト・ワン) Ludovic Roudy, Bruno Sautter Repos Production
Gloomhaven(邦題:グルームヘイヴン) Isaac Childres Feuerland
〇子供向け部門受賞作品
Concept Kids - Tiere(邦題:コンセプト) Alain Rivollet, Gaetan Beaujannot Repos Production
今年も大量の展示が広がるプレス向け内覧会
最後に恒例のプレス内覧会の模様をお届けしよう。この内覧会にはすべてのゲームが並んでいるわけではないが,注目作すべてをカバーするのは不可能だ。以下,とくに印象的な作品を写真でご紹介しよう(どうしても写真映えするゲームが中心になってしまっているのはご容赦頂きたい)。
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