連載
レトロンバーガーOrder 39:新作FC互換カセット「アストロ忍者マン」で令和も宇宙も8bit。せっかくなのでRIKI氏にインタビュー編
2020年5月9日,秋葉原の電器店・家電のケンちゃんの通販サイトにおいて,FC互換カセット「アストロ忍者マン」が発売されました。ファミリーコンピュータが発売されたのは昭和58年ですが,令和2年に互換の新作ソフトです。平成をジャンプしての新作です。
そして発売から4分で完売しました。ザ・瞬殺です。そして,その4分間に滑り込めたうちの1人が,かねてより「キラキラスターナイト」や「8BIT MUSIC POWER」といったRIKI氏プロデュースのFC互換カセットを楽しんできた筆者でした。そんなわけで,今回は「アストロ忍者マン」でやっていきましょう。怪現象で前回の掲載が1週遅れになってしまったため2週連続となりますが,まあ前向き,および向こう見ず,かつ伏し目がちに,平常運転で常軌を逸してやっていきましょう。
「アストロ忍者マン」は,前述のとおりイラストレーター/漫画家のRIKI氏がプロデュースした,固定画面型の縦シューティング。人類は地球滅亡の危機を科学力で乗り越えたものの,地球の重力が100倍になってしまい,宇宙からの侵略者を引き寄せてしまったので,アストロ忍者マンが立ち向かうというストーリーとなっています。重力100倍といえば,ナメック星での戦いに向けてトレーニングするときの重力ですから,そりゃあ忍者も宇宙に出ますね。出ますさ。
「個人でFC互換カセットなんて作れるの!?」と思われたかもしれませんが,実は近年そういった作品が,個人ないしサークルから複数リリースされています。有名どころではIMPACT SOFTの「HARADIUS ZERO」や,むっく氏の「ぽるんちゃんのおにぎり大好き」がありますね。Kickstarterで「NES Cartrisge」と検索してみると,新作NES(北米版ファミリーコンピュータ)カセットを作ろうというプロジェクトが複数見つかったりもします。
FC互換カセット,あるいはエミュレータ用の.nesファイルを作るだけでも相当に困難なことです。ただ,それ以上にRIKI氏のプロデュースするタイトルで特徴的なのが,ハードの潜在能力を可能な限り引き出そうとすること。
“ファミリーコンピュータの限界に挑戦した”ゲームと言えば,スプライト数なら「サマーカーニバル'92 烈火」,一枚絵では「メタルスレイダーグローリー」,キャラクターのアクションなら「ジョイメカファイト」,サウンドなら(拡張音源非使用のもので言えば)日本未発売の「Silver Surfer」あたりが思い浮かびますね。そういった各方面に向けて,「アストロ忍者マン」は攻める! 例えば……。
自機であるアストロ忍者マンの操作は,「スペースインベーダー」や「ギャラガ」のように左右移動のみ。射撃は操作しなくても撃ち続ける完全オートマチックで,画面右下のニンジャパワーを示す手裏剣ゲージがMAXのときにボタンを押すと,強力な特殊攻撃・ニンジャソードを発動できます。オプションアイテムを破壊すると,自機のアストロ忍者マンが分身して,最大で4体のオプションが左右に展開されます。被弾するとオプションが消滅していき,オプション非装着のときに被弾するとゲームオーバーです。
少数人での開発のため,全体的なボリュームは物足りなさを感じたりはしますが,グラフィックス,サウンド,ゲームシステムといった各方面に職人芸が光ります。レトロハード向け新作タイトルを開発している人にとっては,「ここまで出来るんだ!」と,ドリームがさらに膨らむゲームでもあるでしょう。
といったところで,せっかくなのでRIKI氏にメールインタビューを行いました。
4Gamer:
「アストロ忍者マン」の発売,おめでとうございます。本作は以前の「キラキラスターナイト」(以下,キラスタ)や「8BIT MUSIC POWER」から一転して漢(おとこ)臭いテイストになりましたね。
RIKI氏:
完成したカセットのパッケージをテレビの横に飾ってるのですが,一区切りして落ち着いた今,自分でも驚いてます。
4Gamer:
最初にお披露目されたとき,「今回は女の子じゃないんだ?」と思いました。RIKI氏の作風的には,そっち系の印象が強かったので。
RIKI氏:
実は活動初期のイラストや,その画風で描いたイラストのページを数年前から公開してるのですが,元々のRIKI画風のルーツ的な作画スタイルは,こっちなんですよ。そして,このページの過去絵の中に,アストロ忍者マンの登場ボスキャラクターの元絵があります。
日本における女の子の漫画絵というのは,とても洗練されたデフォルメ記号になっていて,時代によって流行の形が大きく変わってきます。でも時代の流行を取り込むと,たった数年で陳腐化するんですよ。数年前に爆発的に売れた作品に対して「古い」と感じやすいんですよね。そこで今回は,女の子以外の絵柄を中心に,陳腐化が少なく,何年たっても遊びたくなるような熱い魂を込めた絵にしてみました。
4Gamer:
方向転換と言うより,元に戻ったということですか。ゲームデザイン自体も硬派というか,“ゲームらしい”ものとなっていますね。
RIKI氏:
キラスタを作った3人で「アストロ忍者マン」も作っています。プログラム担当の市川栄次郎さんが,ネットでキラスタの賛否両論なレビューを見てしまい,ハートに火がつきまして,ゲーム開発に熱くリベンジしてくれたため,力の入ったゲームとなりました。内部的な話をしますと,キラスタを分解し,要素を追加,再構築して,進化させています。かなり凝ったことができるシステムなんですよ。カマタノリヤスさんによる,練り込まれたゲーム性にも注目してください。ビジュアルもキラスタと真逆に振り切った感じになりましたし,比べて遊んでもらえると嬉しいかぎりです。
4Gamer:
話は変わりますが,BitSummit 2015に「8BIT MUSIC POWER」を出展されていたとき(関連記事),「通常の3倍におよぶスプライト表示を実現している」というお話をうかがいました。
RIKI氏:
細かい解説をしますと,通常のスプライトサイズが「横8x縦8」ピクセルです。それを「横8x縦16」ピクセルの縦倍モードを使用し,さらに1/60の速度で高速の表示/非表示を繰り返して,最大で通常の4倍までスプライトを表示できました。これはブラウン管や,当時の性能低めな液晶テレビだと問題なかったのですが,今の高性能な大画面のテレビで表示すると,チカチカして結構目が痛くなるような表現でしたね。当時も少し心配していて,チカチカする場面を少なく抑え,色も調整したのですが,結果的に良かったと思います。
4Gamer:
あの時点で「ファミコンの限界を超えた!」というお話をされていた覚えがあるのですが,今回は多彩なオブジェクトがアニメーションしながらグリグリ動き,さらに進化しているように感じます。この驚異的なグラフィックスは,どのように実現されているのでしょう。
RIKI氏:
驚異の技術は,例えばゲーム中に登場するキャラクターのアニメーションが非常になめらかですが,RIKI得意の手書きと3Dレンダリングを手修正したもので構成されているうえ,すべて60fpsでアニメーションさせています。近年のゲーム描画も基本60fpsなので,今のゲームっぽく見えますよね。その辺の話は「ゲームラボ 2020春夏号」(6月18日発売)に執筆してしまったので,興味がありましたら,ぜひそちらもお読みください。
4Gamer:
個人的な感想ですが,キラスタなどでは「ファミコンらしい」音作りだったところ,本作のサウンドには,変な言い方かもしれませんが「DAWのチップチューンプラグインで書いたような曲が実機で鳴っている」といった印象があり,かなり衝撃的でした。参加コンポーザの方々には,どのようなオーダーをされたのでしょうか。
RIKI氏:
シューティングゲームの音楽でカッコイイのは最終面じゃないですか。そこで,それぞれ音楽家さんに「最終面の音楽を作ってください」とお願いしたんですよ。すると皆さんから,プレッシャーになるからそれは嫌だと言われまして。ははは(笑)。
なので,「最終面じゃなくて良いです」と改めまして。“和風かつ未来感のある感じ”をお願いしました。ただ,何度も一緒に仕事をしてる塩田信之さんには最終面として依頼しました(笑)。
ステージ道中曲とボス曲をセットで作ってもらったのは功を奏しましたね。各面に音楽家の個性がバリバリ出てるんですよ。並木 学さんの強烈な音楽からはじまる1面,Bunさんの内蔵音源を駆使した「アストーロ忍者マン」のコーラスが印象的な2面,齋藤博人さんの得意とする和風な8Bit音楽の3面,塩田信之さんの堂々たるラストステージを飾る4面。どの曲も聞きどころ満載です。
4Gamer:
キラスタや8BIT MSUIC POWERはCD-ROMないし書籍の付録,またはコロンバスサークルによるカセットROMの販売で提供されていました。今回はなぜ,独自にカセットROMを開発することになったのでしょう。
RIKI氏:
「アストロ忍者マン」はRIKIホームページで「スポンサー募集」と公言していたことから,声掛けしてくださる会社さんもあったのですが、金銭的に厳しいようでした。ゲーム自体の開発に3年かかりましたが,たとえ1年間だったとしても,開発者3人分の人件費を出すには,近年のご時世だと難しいかもしれませんね。
なので自分達で作ったわけですが,カセットROMの製造に国内工場を使った場合,少数生産でも100万円を超える金額を前金で準備しなければいけません。製造するのは清水の舞台から飛び降りる覚悟が要りました。
よく「なぜそこまでするのか」と聞かれるのですが,「好きだから」としか言いようがないですね。
4Gamer:
本作の初回販売分は4分で完売,受注生産も規定数を達成し,マニアからの注目の程が察せられます。受注生産で「本当に求める人」の手には,ほぼ余さず届くかと思いますが,冊子付録やデータによる,言うなれば“普及版”の発売は考えているのでしょうか。
RIKI氏:
今も真っ最中なのですが,カセットROMを作るのは,とてもとても大変でして,しばらく何もできないと思います。実は現在,市役所からのお仕事で,埼玉県ふじみ野市の歴史マンガをフルカラーでRIKIが執筆中なんですよ。返礼品のキラスタ(関連記事)が人気だったり,ゲーム大会やイラスト教室をやったりしていますが,地元にけっこうな貢献になっているとのことで,とにかく責任重大です。順調に進めば来年中には終わるので,全部が一区切りつかないと,次のことは考えられないですね。
4Gamer:
もし次作や新バージョンなどの構想がありましたら,お聞かせください。
RIKI氏:
大きい声では言いにくいのですが,次は「8BIT MUSIC POWER ENCORE ふるさと納税 ふじみ野版」をカセットROMで,返礼品として出す予定があります。三才ブックスから発売されたRIKI単行本「8BIT MUSIC POWER ファイナル&アンコール」の付録CD-ROMに収録されたバージョンの「8BIT MUSIC POWER ENCORE」から2曲追加し,グラフィックと演出を強化して,完成版としたものです。音楽では新たにhallyさんと齋藤博人さんに参加していただきます。
「アストロ忍者マン」受注生産分を発注するとき,それ用に,少し余分に基板作成してみます。また自腹ゆえの少数生産となってしまうから,希望者が多い場合「なんで少ししか作らないんだよ」って怒られてしまうかもしれないですね。そのときは「カセットが好きだから,少しか作れなくても,どうしてもやりたかった」と言いますよ。ははは(笑)。
4Gamer:
また争奪戦&瞬殺になりそうですね(笑)。ゲームもマンガも,さらなるご活躍に期待しています。
RIKI氏の公式サイト
- この記事のURL:
キーワード