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神戸市やNTT西日本などがeスポーツの可能性を探る取り組みを発表。eスポーツは“withコロナ”時代のコミュニケーションツールとなり得るか
これは現在のコロナ禍のなか,eスポーツが新たなコミュニケーションやビジネスの手法となり得る可能性を探り,地域課題解決・産業振興につなげていくというプロジェクトで,主催企業及び団体が中心となって神戸市にて実施される。
当日は現地に赴くことができないメディアに向け,クローズドのオンライン中継も行われた。本稿ではそのレポートをお届けする。
説明会では当プロジェクトの中心となる団体から,NTT西日本兵庫支店長 川副和宏氏,PACkage社長 山口 勇氏,神戸市企画調整局つなぐラボ特命係長 長井伸晃氏が登壇。またプロジェクトの賛同企業代表として,上新電機社長兼執行役員の金谷隆平氏も参加した。
山口氏は,現在のeスポーツを紹介する中で,「eスポーツによる地域活性化」に触れた。東京都,秋田県,富山県などに続き,神戸市でも近年多くのeスポーツに関連する活動が行われているという。
それを踏まえ,長井氏は今回のプロジェクトについて,現在のコロナ禍そして“withコロナ”の時代において,課題とテクノロジーをかけ合わせて新しい価値を見いだすための4つの取り組みを,神戸を起点に行うと述べた。
その1つめ,eスポーツへの正しい理解を促進する「Webセミナーの開催」。「(eスポーツは)スマートフォンと同じ」とする長井氏は,うまく付き合い,利点を生かすことで豊かな生活につなげられると続けた。eスポーツに対する正しい知識を持つことで老若男女が安全に参加でき,家族やコミュニティ間でのコミュニケーションツールになる。さらにはコロナ禍によって産業,エンターテインメント構造が変化が迫られる今,オンラインでも楽しめるeスポーツを推奨することで,企業との連携や誘致,支援につなげる狙いだ。そのあり方を議論するセミナーを,この秋に開催できるよう調整しているという。
2つめは,「eスポーツを活用した実証事業」。コロナ禍による高齢者家族との面会機会の減少や,地域の活動減少,さらには高齢者健康低下といった課題に対し,eスポーツを使ってそれらを解決できないか検証するという。
NTT西日本のICTとPACkageのノウハウを使って高齢者にeスポーツを体験してもらい,課題解決の可能性を検証。ひいては情報格差の解消や健康増進へとつなげられないかを探る。
そして3つめと4つめは「コミュニティの醸成・関連イベントとの連携」「動画による取り組み・魅力発信」。PACkageが持つeスポーツチームの運営やイベント企画などのノウハウを生かし,神戸市内の関連企業やプレイヤー,学校関係者などをつなぐ。そこから生まれるコミュニティや関連イベントの取り組みを神戸市のYouTubeチャンネルなどから動画で発信し,PRしていくというものだ。
長井氏はこれら4つの取り組みにより,神戸市をeスポーツと地域課題が結びつく街へと発展させたいと語り,さらには産業振興やスタートアップ支援などにもつなげ,最終的には市民がeスポーツを新たな文化として取り入れ生活を豊かにするという目標を掲げた。
続いては川副氏が,NTT西日本が今回の取り組みにおいて実施する実証事業を説明した。同社がICTを活用してさまざまな社会課題を解決を目指す取り組みの中で,「高齢化社会」「地方創生」「新しいライフスタイルの創造」の3つが神戸市が抱える社会課題と親和性が高いという。とくにその中の「高齢化社会」の課題に着目し,今回の連携を契機に,ICTとeスポーツを関連付け,withコロナ時代に有効なシニアサービス提供に向けた実証事業を行うことを発表した。
eスポーツのプレイヤーとなるのはシニアサービスに入居している高齢者だ。離れて暮らす家族やシニアサービス職員などをネットワークでつなぐことにより,新たなコミュニケーションやエンターテインメントを体験してもらい,高齢者の生きがい醸成や健康増進の可能性を検証するという。
検証の柱となるのは,「コミュニケーションツールとしての活用」「健康増進への可能性」「シニアサービス事業における活用」といったもので,それらを「1・慣れる」「2・楽しむ」「3・活かす」という3ステップで,プロジェクトの期間である2年をかけて進めていく。
検証事業では,シニアサービスにおける高齢者の介護レクリエーションの一環としてeスポーツを取り入れ,施設にはバイタルセンサーやマット型センサーを導入。その体験時やネットワークを介したコミュニケーション時などのバイタルデータや操作ログ,睡眠データなどを取得し,それをサーバーに蓄積させることで,高齢者のオンライン健康相談に活用する。
高齢者がeスポーツを楽しんだときにどんな影響があるのか,蓄積したデータが新たな健康相談に使えるのか,そして健康増進策に展開できるのかを検証し,ヘルスケアサービスや医療分野への新たな可能性を探っていくという。
最後に上新電機の金谷氏は「今回の取り組みは,ニューノーマルにおけるeスポーツの可能性を探るものであり,そのしなやかな視点に感銘を受けた」と述べ,神戸の力を合わせてeスポーツの魅力を全国に発信していきたいと語った。
なお上新電機以外にも,兵庫県eスポーツ連合,ISRパーソネルといった企業がこのプロジェクトに賛同している。賛同企業は随時募集しているとのことだ。
質疑応答では,この発表での中心となった高齢者に向けたeスポーツ実証事業の質問が多く挙がった。
今回の実証実験がどの高齢者施設で行われるのか,という質問に川副氏は「これから公募となるが,お声がけはさせていただいている」と答え,現在は3施設を持つ事業所に打診しているが,公募によってさらに数を増やしていきたいと述べた。
また,介護レクリエーションとしてのeスポーツ活用の具体例を尋ねられると,eスポーツとして定義されるジャンルの中でも高齢者に馴染み深い将棋や囲碁などから始め,そこからの意見や希望,あるいは家族や施設職員からの案などを踏まえ,ジャンルやタイトルを選定していきたいとの説明があった。導入タイトルに関しては既にゲームメーカーにも打診済みで,その1つがセガの「ぷよぷよ」だということも山口氏が明らかにしている。
実験用機材の導入コストについては,クラウドゲーミングを想定しているため,高額なPCの導入は不要で,光回線の導入がイニシャルコストとして最も大きなものになるであろうと川副氏が回答。また,このサービスが高齢者にプラスになることが実証され,事業化が実現されたときは,高齢者施設側がコストをかけて導入できるようなビジネスモデルを目指しているとも語った。
高齢者向けの話題が中心となったことで,若い世代をどう取り込むのかという質問もあった。これに対し山口氏は自社が主に手がけるeスポーツのイベントを例に挙げ,その中で来客に対してゲームを教えたり,配信や制作に携わったりするなど,狭き門のプロゲーマーとはまた違った門戸から若い世代を取り入れていく案を回答とした。
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