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[NDC21]「4次産業革命時代のゲームの定義」をレポート。コロナ禍で加速したデジタル化の時代におけるゲームとは
本稿では,初日となる6月9日に行われた,NEXON Korea 新規開発統括副社長 Kim Daehwon氏による基調講演「4次産業革命時代のゲームの定義 - 伝統のゲームを超え,新しいゲームに向かって」の模様をお届けしよう。
セッションの冒頭,Kim氏は聴講者に向けて「ゲームとは,どんなものを指すのか」と問いかけた。例えばKim氏が最初に触れたゲームは,コントローラのスティックでプレイヤーキャラクターを動かし,ボタンを押すと敵キャラクターを攻撃するようなもので,当時の自身にとってはまさにそういうものこそがゲームだったという。
そこから時間の経過とともに,ゲームはさまざまな形に発展していく。具体的には,ゲームセンターに置かれるアーケードゲームに始まり,家庭で遊べるコンシューマゲーム,インターネットを介してほかの人と一緒に遊べるオンラインゲーム,オンラインゲームを競技化したeスポーツ,そしていつでもどこでも楽しめるスマートフォンゲーム……といった具合だ。
それでは,最新のゲームとはどんなものだろうか。例えば,いわゆる“放置ゲーム”は,スマホゲームの台頭以降に主流の1つとなったジャンルである。このジャンルはそれまでのゲームと異なり,プレイヤーはほぼ画面を眺めているだけで,たまに操作するだけで進行していく。
また,ゲームのようなトレーニングツールも登場した。その代表がバーチャルサイクリングアプリの「Zwift」だ。簡単に説明すると「Zwift」は,かつてフィットネスバイクに搭載されていた単純な計測ソフトが,莫大な投資によって非常に高度化し,まるでオンラインゲームのようになっていったアプリである。とくに多人数でランキングを競うレース機能は,自分の身体を使って行うゲームそのものだ。
Kim氏は「Zwift」について,「ゲームを作ろうとして自転車を使ったのではなく,自転車でフィットネスをするためにゲームを作った」と指摘。
一方,似たような試みは以前から存在している。例えば任天堂の「Wii Fit」や「リングフィットアドベンチャー」がそうだ。kim氏は「Wii Fit」などについて,「当初からゲームとして設計され,そこに運動の要素を多く加えたゲーム」とし,「Zwift」とはアプローチが異なることを説明。
以上を踏まえてKim氏は,「Zwift」のようなアプリを「ゲームと呼ぶべきなのか」と,迷っていることを明かした。
kim氏が次に挙げたのが,「Zoom」や「Teams」などのオンライン会議システムである。オンライン会議システムは,コロナ禍の影響によりこの1年で急速に進化・普及しており,業務目的だけでなく,遊びを含めたさまざまな用途でコミュニケーションツールとして活用されている。
Kim氏は,オンライン会議システムで参加者がそれぞれのウインドウに映し出されているのを見ると,アバターチャットを使ったクイズゲームを思い出すという。そのため,遊びに使われるオンライン会議システムも「ある意味,ゲームなのかも」と考えるようになったそうだ。
そう考えていくと,「TikTok」のような動画SNSや,あるいは移動距離などのデータを記録・確認できる位置情報アプリもゲームとして捉えることが可能になると,Kim氏は語った。
その一方で,上記のように「これがゲームかどうか」と考えること自体が無意味だという可能性もあるとのこと。というのも,20年前は「これがゲームだ」という定義が明確で,コンピュータや電子機器をホビーとする人くらいしか積極的に関わろうとしないものだったが,今では誰もがスマートフォンというコンピュータを持ち歩くようになったからだ。
スマートフォンを使って余暇時間を楽しむ人も増えており,その中にはゲームの要素を含むホビーが多数存在するし,ゲーム自体も誰もが気軽に楽しめるホビーの1つになっている。また子ども達にとっても,「Roblox」や「Minecraft」のようなタイトルはデジタル玩具である半面,完全なゲームでもある。
以上をまとめてKim氏は,かつてはそれぞれ異なる領域にあったホビーが,デジタルの恩恵を受けて今や境界線がなくなっているとし,ゲームはゲーム以外のホビーと余暇時間を奪い合う時代になったと語った。
そうなると,今後のゲームはゲーマーだけをターゲットにするのではなく,すべての人が楽しめるように設計する必要が生ずる。とくに視点の細分化・多様化が進んだ昨今,既存のゲームに対して抱いていた概念と基準を,再構成する必要があるとのこと。
それを実現した例として挙げられたのが,「ポケモンGO」だ。「ポケモンGO」はARとIPを組み合わせることで,大手パブリッシャが注目していなかった層を取り込むことに成功した。また「Roblox」も,子ども用玩具をデジタル化して新しい市場を作った事例として紹介された。
もちろん,これまでゲームと呼ばれていた領域を良くしていくことも重要となる。その上で,既存のゲームの領域を超えてすべての人々が楽しめる何かを作ることが必要になっていくわけだが,それには任天堂がWiiを世に出したとき以上の革新が必要だとKim氏は語る。
そしてその革新を実現するには,ほかのホビーよりも魅力的に見せるという使命もある。そのためには,ゲームの強みを把握することが必須となる。
Kim氏は,ゲームをゲームたらしめる最大の要因は,インタラクティビティ(相互作用性)にあるとする。インタラクティビティは,「自分の行動や考えを評価されたがる」という人間の根源的な欲求と大きな関連があるとのことで,多くの人は「ハードルがあれば超えてみたい」「問題があれば解決したい」「ライバルがいれば勝ちたい」と考えるという。あるいは「他者とコミュニケーションを取りたい」「力を合わせて目的を達成したい」というのも,同じような欲求だ。
ゲームは,こうした欲求を満たす優れたホビーの1つであるとkim氏は語る。すなわちゲームは,プレイヤーとの直接的な相互作用に基づいて内容が立体的に変化し,ほかのプレイヤーと競争・協力するなど,社会的相互作用を経験できるものであると言える。そして,それらの相互作用がさまざまなインターフェースと技術的なサポートを介して最大化し,プレイヤーに強烈な没入感を提供する。これこそが,ゲームの持つ強みであるとKim氏はアピールした。
話題は,インタラクティビティをより活かすにはどうすればいいかということにもおよんだ。Kim氏によると,かつて想像するだけだった相互作用が,技術の進歩とともに実現できる未来が近づいているという。例えばゲームでも,以前ならマウスを動かしてクリックしてコマンドを選ぶ必要があったが,今後は音声やジャスチャーで指示を飛ばせるようになっていくというわけである。
そのほかKim氏は,AIがプレイヤーの集中度や反応を観察して好みを判別し,嗜好に合ったストーリーの展開を作り出していくゲームや,表情の変化をもう1つのコントローラにするゲームなども実現可能だろうと話していた。
また技術が発展して機能が普遍化すると,コンテンツ共有プラットフォームは今まで以上にさまざまな形態が登場すると予想されるとのこと。アリーナVRクラウドやストリーミングカメラの映像移植などの技術が開発されることにより,想像上の存在だった相互作用が実現し,それを介した強烈な体験と没入感は,ほかのホビーよりゲームを魅力的にする武器になるとKim氏は語る。
最後にKim氏は,ゲーム開発者は時代の変化に伴いゲームの在り方が変わることを踏まえ,未来に向けて準備するべきだと語る。とくにコロナ禍の影響により,デジタルとバーチャルリアリティへの移行が加速され,産業の境界が曖昧になった昨今では,これまでと同じようなゲームを作っていたのでは,競争に加わることすらできなくなると警鐘を鳴らした。
※画像はすべて配信をキャプチャーしたものです。
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