インタビュー
“音楽ライブに行く”くらいの心構えで来てください! 舞台「アクダマドライブ」で一般人,運び屋,殺人鬼を演じるキャスト陣にインタビュー
本舞台は,「ダンガンロンパ」シリーズの小高和剛氏がストーリー原案とキャラクター原案を担当するオリジナルTVアニメ「アクダマドライブ」(2020年7月放送)の舞台化作品だ。物語の舞台となるのは,はるか昔の戦争により分散し,カントウの属国となったカンサイ。そこでは政治と警察力が衰退し,“アクダマ”と呼ばれる犯罪者たちが横行していた。「アクダマドライブ」は,そんなアクダマたちそれぞれの“美学”がぶつかり合っていく,クライムアクションとなっている。
そうだ アニメ,見よう:第119回は小高和剛氏&小松崎 類氏原案の「アクダマドライブ」。7人の“アクダマ”達が繰り広げるピカレスクロマン
「そうだ アニメ,見よう」第119回は,「ダンガンロンパ」シリーズを手掛けた小高和剛氏と小松崎 類氏が原案で参加しているオリジナルTVアニメ「アクダマドライブ」。制作はstudioぴえろ,監督は「PERSONA3 THE MOVIE #2 Midsummer Knight's Dream」の田口智久氏が務めている。
本稿では,TVアニメに引き続き「一般人」を演じる黒沢ともよさん,舞台版「運び屋」役の蒼木 陣さん,「殺人鬼」役の本田礼生さんへのインタビューをお届けする。演出家・植木 豪氏が手掛ける独特の演出方法や,それぞれの役の見どころなどをお話ししてもらったので,ぜひ最後まで読み進めてもらいたい。
舞台「アクダマドライブ」公式サイト
これまで経験した舞台とはセオリーが違う。
身体の動きに心が追いつく独自の芝居作り
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。本番が目前に迫っていますが,今のお気持ちをお聞かせください。
蒼木 陣さん(以下,蒼木さん):
あっという間の感覚です。2月に入ってすぐくらいから稽古が始まったのですが,2月がほとんどなかったと感じるほどギュッと詰まった1か月でした。充実していて,気がついたら3月か……という感じです。
4Gamer:
充実されていたんですね。稽古の様子はいかがでしたか?
黒沢ともよさん(以下,黒沢さん):
私が今まで経験したことのない新しいアプローチでの稽古でした。はじめは自由に芝居をしながら,徐々に完成度を高めていくことが今まで多かったのですが,演出を担当されている植木 豪さんは身体を使った表現が得意な方で,最初から動きのプランを練ってきてくださったんです。
そのため私たち役者は,ダンスの振りのように動きをまず覚えていきました。「ここで動く」「このシーンはここを見る」と正解がほぼ決まっていたので,そこを目指して身体が先に動き,心があとから追いついていくという。こういったアプローチの仕方は新鮮で,とても楽しかったです。
4Gamer:
演出の動きに,さらにお芝居を重ねていくというのは難しそうですね。
黒沢さん:
稽古を重ねてもまだ追いつけていないなと思う場面もありましたが,心の進む早さと身体の動きがぴったり合うシーンができたときの喜びは大きいです。
相手の目を見て芝居できる場面だったら,お互いに追いついた! と通じ合えるんですよね。
蒼木さん:
つながった! ってなりますね。
黒沢さん:
リズムゲームの感覚に近いかもしれません。この速度でやれば,ドンピシャでできる楽しさ。
あと塗り絵にも近い感覚を受けました。線が細かく引かれたなかで,大きな間違いがなければ何を塗ってもいいよと言われているような。
4Gamer:
とても分かりやすいです。独特の一体感が生まれそうですね。
本田さんは,稽古をとおしていかがでしたか?
本田礼生さん(以下,本田さん):
2人が言ってくれたとおりです!
蒼木さん:
ひと言で終わらせるな!(笑)
本田さん:
本当にそのとおりで(笑)。舞台の稽古にはある程度セオリーのようなものがあるのですが,今回はこれまで経験したものとは異なる形で稽古が進みました。
植木さんの持つ独特の世界観と作り方のなかで,そこに追いつく,つながっていく感覚がとても面白いです。
4Gamer:
なるほど。芝居に関しては,こうしてほしいといった指示的なものはとくになかったんですか。
黒沢さん:
最初の振りつけの段階で演出を私たちに託して,感想をフィードバックしてくれます。お客さまの目線にたって,私たちに声を届けてくださる感じです。
蒼木さん:
植木さんは一人一人に愛を持って接してくれて。植木さんからの信頼を感じ,それに応えたいし,想像を越えたいという気持ちが強くなりました。
4Gamer:
信頼関係ができているんですね。しかし一般的な舞台のセオリーと少し違うということは,そのぶん苦労された部分もあるのでは?
黒沢さん:
孤独だったら辛かったと思います。ですがありがたいことに,皆さんプロフェッショナルで,かつ優しいというか,お芝居を作り上げていくことに協力的な方ばかりでした。
誰かが追いつけていない部分があればそれを指摘し,みんなで共有して,これなら追いつけるかもねと生産性のある会話のなかで進められたので,とても充実していました。
蒼木さん:
本当に皆さん,役者としてだけでなく,人としても魅力的な方ばかりです。それぞれ違う個性を武器にしていて,見ていて楽しいし,刺激になりました。
4Gamer:
とくに刺激を受けた方をお聞きしてもいいでしょうか。
蒼木さん:
処刑課FORCEの皆さんは,ダンサーとして世界で戦っているような方たちです。普段の舞台ではご一緒する機会がないので,皆さんの動きにはつい魅入ってしまいます。植木さんの演出にもぴったりで,世界観の引き締め要員にもなっているなと感じました。
4Gamer:
それは注目したいですね。ちなみに蒼木さんと本田さんは,以前からのお知り合いとのことですが,今回共演されていかがでしたか。
蒼木さん:
礼生とは中学から一緒で,共演したこともありますし,彼の舞台をよく観に行っています。そのためこれくらいの芝居をするだろうと想像してはいたのですが,生で見るとこんなにすごいのかと……。
でもそう思う反面,周りの役者さんたちからも「礼生はすごい」と一目置かれている姿を見て,自分はそうじゃないよって振舞いたくなる部分もありました(笑)。同じ役者として,素直にそう思いたくない自分がいます。
4Gamer:
友でもあり,ライバルでもあるんですね。
蒼木さん:
作品の向き合い方,役作りなど本当にすごいし,今回共演できてよかったと思います。
本田さん:
僕は陣の作品を多くは観られていないのですが,印象的な作品がいくつもあります。僕たちは2人とも今年30歳になる節目の年でもあるので,このタイミングで一緒にできたのは良かったです。プライベートと現場では違うので学ぶことがあります。
蒼木さん:
やっぱりプライベートで会うときとは違いますからね。でも違和感は,思ったよりなかったです。
本田さん:
想定の範囲内ではあったね。もっとムズがゆくなるかと思っていたよ(笑)。
“スキマ”に注目してほしい!
舞台(生身の人間)だからこその苦労と魅力
4Gamer:
黒沢さんは声優として一般人役を演じられましたが,舞台で演じるのとは違った感覚があるのでしょうか。
黒沢さん:
声優だから,舞台だからというのはとくになかったですが,アニメから引き続き出演させていただけているので,原作でのイメージにとらわれすぎず,挑戦的なお芝居ができたと思います。もちろん原作は大事にしつつですが,アニメとまったく同じ再現は考えていませんでしたし,あえてやりませんでした。
ですが,ほかのキャストさんたちは,すでに世に出ているキャラクターたちの印象があり,ファンから期待されるものがあって,私よりも枷が1つ多いんです。そのなかでもこんなに生き生きと,役を自分のものにして演じられていることに感動しました。今回の稽古場で勝ち得たものなんだろうと思います。
4Gamer:
黒沢さんはアニメと舞台の役者,両面のアプローチを見るという貴重な立ち位置ですね。
黒沢さん:
皆さんどちらも素晴らしい魂の方たちだなと思いました。それに役者だけでなく,スタッフの皆さんが原作を大事にしてくださっていることを稽古をとおして感じることもできました。
4Gamer:
蒼木さんと本田さんは,視聴者としてアニメを見たときと,実際にご自身が演じたことで,キャラクターの印象が変わった部分はありますか。
本田さん:
人と会話をすることで初めて分かることがたくさんありますし,「俺にはこう見える」という殺人鬼ならではの瞬間がいくつもありました。
4Gamer:
殺人鬼はかなり個性的な役柄ですが,役作りで苦労されたところは?
本田さん:
どの役でも苦労しないことはないのですが,ただ先ほどお話ししたように今作は挑戦的なところを目指しているので,そこは大変でした。想像がつかないような展開,演出方法があり,そこが1本につながるように頑張らないといけないなと。
4Gamer:
その想像がつかない演出,非常に楽しみです。蒼木さんは運び屋を演じていかがでしたか。
蒼木さん:
運び屋は稽古をやっていくなかで,もっと自分に近くてもいいのかなと思うようになりました。
黒沢さん:
運び屋さんはどちらかというと自由度が高い役だよね。
蒼木さん:
最初はアニメのイメージに近づけなければと,自分で自分に制限をかけていたんです。でも稽古のなかで役に縛られず会話したほうが自然だなとか,人間が演じている意味があるなと思って,そこからは通し稽古のなかでも毎日楽しい瞬間が多くなりました。ちょっとずつ運び屋さんと仲良くなれた気がして,うれしかったです。
4Gamer:
なるほど。それでは皆さんが演じられるキャラクターの見どころを教えてください。
本田さん:
“スキマ”に注目してほしいです。アニメで言えば,カットに写らないシーンを見られるのも,舞台の醍醐味だと思います。あの場面で殺人鬼はこんなことやっていたのかというのが見えるし,もちろん想像と全然違うことをしているなんてこともあるんですけど(笑)。殺人鬼に限らずなので,ぜひ全員のスキマの芝居にも注目してほしいです。
黒沢さん:
ちょうどその話を,アフレコ現場で声優仲間ともしたんです! その子は生粋のオタクで,2.5次元舞台にも通った経験があるんですけど,「どこに魅力を感じたの?」と聞いてみたんですよ。そうしたら彼女は「推しがしゃべっていないときの顔を見られるのが最高」だと言っていました。
4Gamer:
確かに舞台全体を見るもよし,好きな登場人物に注目するもよしというのが観劇の楽しみ方ですよね。毎公演ごとに,少しずつお芝居も違いますし。
蒼木さん:
僕もその感覚は,原作アニメで体験しました。何周も観たのですが,観るたびに新しい発見があるんですよ。アニメでもそうなんだから,生の人間が演じる舞台はもっとそうなりますよね。
黒沢さん:
いろいろな味わい方ができるんだなと思いました。私自身は舞台オタクとして,“その役者さんが注目してほしい瞬間”を見るのが好きなんです。物語にあわせて観客の視線が,フォーカスされる役者さんにどんどんバトンタッチされていく……。それが毎日少しずつ変わる部分があったりするんですが,同じ印象になるようにバチっとハマる感じといいますか。
そのためバトンタッチしたあとの役者さんの表情を見る,という感覚がこれまではなかったんです。そこに注目する方もいるんだと新鮮な気持ちになったので,今回は私自身そこも大事にしています。
4Gamer:
“スキマ”注目します! 目が足りない状態になりそうですね。黒沢さんが演じる一般人の見どころも教えてください。
黒沢さん:
一般人としては,舞台を観に来てくださる“2022年を生きる女の子たち”とあまり齟齬なくいられることに,今上演できる意味があるんじゃないかと思っています。私以外の登場人物の顔がよく見えるように,皆さんの“箱船”になれたらと。
私が見ているものを一緒に見てほしいですし,私が何かを見ているときはぜひその先にあるものを見てもらいたいです!
4Gamer:
すてきなお言葉ありがとうございます。ちなみに今回,歌があるとのことですが黒沢さん自身が歌われるシーンはあるのでしょうか。
黒沢さん:
歌います!
蒼木さん:
かっこいいです!
黒沢さん:
かっこいいらしいです(笑)。あと私は蒼木さんと本田さんのアクロバットにも注目してほしいです。
蒼木さん:
そうですね,そこにも注目してもらいたいです。アクロバットはかなり動いているので,原作の運び屋とはちょっと違う印象になるかもしれませんが,そこは僕がやっている意味だと思っていただけたら。
本田さん:
「自分がバイク」ってくらい動くね。
黒沢さん:
「運び屋/バイク役」くらい(笑)。アニメはカット数が多く,カッティングがかっこいい作品でしたが,それを生身でやるのがすごいです。視界が揺れる感覚がありました。
4Gamer:
そんなに! SNSで「酸欠になった」というコメントを見かけたので,どれだけ稽古がすごいんだろうとは思っていましたが。
黒沢さん:
2人ともすごいんですよ! 飛んだり,跳ねたり。
蒼木さん:
そのあたりも,植木さんの演出だからこそです。できることをたくさん引き出していただいています。
舞台「アクダマドライブ」は
エンターテインメント性の強い作品!
4Gamer:
そのほかに注目してほしいキャストや,演出はありますか?
黒沢さん:
猫じゃないですか? 私,演じてみたいくらいです。どんな表現になっているのかはお楽しみですが,ぜひ注目してみてください。
蒼木さん:
たぶんおどろくんじゃないかなと思います(笑)。
4Gamer:
どうなっているのか,大変気になります。ちなみにもう衣裳を合わせての稽古もされたのでしょうか?
蒼木さん:
これからです。運び屋は義手なのですが,実際につけた状態で芝居したことがないので,どうなるのか早く動いてみたいです。
4Gamer:
運び屋は大事なバイクもありますね。
蒼木さん:
まだ本番用のバイクはきてないんですよ。
黒沢さん:
稽古中は木馬に乗っているようなかわいい感じですね!
本田さん:
あのままでいいんじゃない?(笑)。
蒼木さん:
だんだん愛着がわいて,気がついたら座っています(笑)。
4Gamer:
その光景は見てみたいですね。本田さんはビジュアル撮影で衣裳を着てみていかがでしたか。
本田さん:
白いなーと(笑)。あとシルエットが気に入っています。普段でもゆったりした服が好きなので,芝居で動いたときにどうなるのか想像できました。衣裳とすごく似た服を見つけたので,稽古でもよく使っています。
4Gamer:
シルエットにも注目ですね。黒沢さんはいかがでしたか。
黒沢さん:
私はこれまでアイドル役のときに似た衣裳を着ることはありましたが,カラコンやウィッグもつけて役とまったく同じ姿になるのは初めての経験でした。身長に合わせてバランスを考えて,一般人に似るように作っていただけてうれしかったです。あと,全部がかわいい!
小さいころ「美少女戦士セーラームーン」のミュージカルが大好きで,お母さんに作ってもらったキャラの衣裳を着て,観に行っていたりしたのですが,ビジュアル撮影のときは,そのときの童心に返ったみたいに「わーっ!」と楽しくなりました(笑)。クリエイターさんたちのこだわりに,わくわくします。
4Gamer:
本番が早く観たくなりました! 最後に,舞台を楽しみにしているファンの皆さんへのメッセージをお願いします。
本田さん:
今,本番に向けてラストスパートをかけているところです。僕たち自身変わらなければいけない部分もありつつ,全体のビジョンも見えている時期。最初にお話ししたとおり,通常のセオリーをたどっていない演劇になっているので,楽しんでもらえるという自信と,頑張っていかなければいけないという不安,良い緊張感のなかでここまできました。そういうところを楽しみにしていただけたらと思います。
蒼木さん:
とっても楽しみです! 熱量も高い作品になっていると思うし,何度観てもいろいろな発見がある作品だと思うので,楽しみに観に来てください。
黒沢さん:
作品として扱っているものは,命や選択などハードなものですが,何の予習もなく楽しめるエンターテインメントになっています。わくわくするし,派手だし,元気いっぱいの作品になっています。疲れて難しいものを見たくないなという方も,ぜひ観に来てほしいです。
そこにどれだけメッセージ性をつめられるかは,こちらの挑戦だったりするのですが。観ていただけたら何か受け取ってもらえると思うので,何も考えずに来てほしいです。
4Gamer:
ちなみにアニメでは泣いてしまったのですが,舞台もハンカチの用意はしたほうが?
黒沢さん:
取り出していただけるかは,私たちの戦いですね! でもお子様が見ても楽しんでもらえるほど,エンターテインメント色の強い作品です。舞台を見たことがない方も楽しめるショーになっていますので,音楽ライブに行くくらいの心構えで来てください。お待ちしています!
蒼木さん・本田さん:
お待ちしています!
4Gamer:
ありがとうございました。
――2022年3月1日収録
くり返しになるが,本舞台の東京公演は,3月10日から21日(14日は休演日)までの全17公演,大阪公演は3月26日と27日の全4公演行われる。東京公演のチケットはローソンチケットにて,大阪公演はチケットぴあ,ローソンチケット,イープラスにて発売中だ。3月10日の東京公演と,3月27日の大阪での千秋楽公演は配信も決定しているので,気になる人はぜひチェックしてもらいたい。
【舞台「アクダマドライブ」概要】
キャスト
一般人:黒沢ともよ
運び屋:蒼木 陣
チンピラ:長妻怜央
医者:吉川 友
ハッカー:廣野凌大
喧嘩屋:桜庭大翔
処刑課弟子:星波
処刑課後輩:佐久間貴生
兄:中村琉葦・国井 煌 (Wキャスト)
妹:佐久間凛奈・神津優花(Wキャスト)
殺人鬼:本田礼生
処刑課師匠:唐橋 充
処刑課FORCE:Toyotaka ・RYO ・HILOMU ・Dolton ・KENTA ・KIMUTAKU
スタッフ
原作:ぴえろ・TooKyoGames
演出:植木 豪
脚本:白鳥雄介
音楽監督:田中マッシュ
美術:松生紘子
アクション指導: 冨田昌則
照明:大波多秀起
音響:山口剛史
映像:佐々木章介
衣裳:加藤佑里恵
ヘアメイク:瀬戸口清香
特殊造形:林屋陽二
演出助手:杉山恵
舞台監督:小林広道
技術監督:堀 吉行
宣伝美術:吉永祐介
宣伝写真:河合克成
制作:S-SIZE
テーマソング
浦島坂田船「鈍色Wheels」
作詞:HIKARI 作曲:HIKARI、TAKAROT 編曲:TAKAROT
主催:舞台「アクダマドライブ」製作委員会
舞台「アクダマドライブ」公式サイト
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