イベント
高輪区民センター主催のイベント「親子で学ぶゲーム文化トークサロン」をレポート。ゲームの変遷やゲーミフィケーションを親子で学べる
ワークショップは,岸本氏が投げかけた質問に,参加者が回答する形式で進行した。最初の質問は,参加した最年小の小学1年生から最年長の中学2年生までの子どもたちが,「今どんなゲームを遊んでいて,なぜそのゲームに夢中になるのか」というものだ。
子どもたちが今遊んでいるゲームとして挙げたのは,「フォートナイト」「あつまれ どうぶつの森」「LINE:ディズニー ツムツム」「スーパーマリオメーカー 2」の4つ。
そして,なぜそれらのゲームに夢中になるのかを問われると,「インターネットを介して世界の人と一緒に遊べるから」「自分の作ったコンテンツを世界に向けて提供でき,また逆に世界中の人が作ったコンテンツをプレイできるから」「ゲーム内に四季があり,クリスマスなどの季節イベントがあるから」「プレイを続けていると,うまくなっていくのが実感できて楽しいから」といった理由を挙げていた。
これらを受けて岸本氏は,今の子どもたちが遊んでいるゲームには,“世界とつながっている”という1つのキーワードがあることを親御さんたちに説明していた。
続いては,1980年にナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)が発売した「パックマン」についての紹介が行われた。岸本氏は「パックマンは“食べる”をキーワードとしたゲームで,『もっとも成功した業務用ゲーム』としてギネス世界記録に認定されるほど世界中でヒットした」と解説する。
加えてキャラクターとしてのパックマンは,「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」にもファイターの1体として登場するため,子どもの認知度が結構高いことも紹介した。
その「パックマン」の続編が,岸本氏が手がけた1984年の「パックランド」だ。このタイトルを岸本氏によると,開発にあたっては“走る”と“ジャンプする”をキーワードにしていたとのこと。
次に,黎明期のアーケードゲームから現代のゲームに至るまでの変遷が紹介された。1972年の「PONG」に始まり,1978年の「スペースインベーダー」,そして上記の「パックマン」などのアーケードゲームはゲームセンターに設置されており,人々はそこまで出向いて,各タイトルの筐体に100円玉を入れて遊ぶものだったと岸本氏は説明した。
そして1983年には,任天堂から発売されたファミリーコンピュータがヒットし,家庭でゲームを遊べる環境が一気に普及した。以降,現在に至るまでコンシューマゲーム機は,3Dグラフィックスに代表されるように表現力を高める方向に進化を続けている。
同じく現在では,Switchやスマートフォンを使えば,どこでもゲームを遊べるようになっている。これらのハードは通信機能を備えているので,子どもたちが指摘した“世界とつながっている”遊びを実現することも容易だ。
岸本氏からの2つめの質問は,「昔のゲームと今のゲームは,どこが違い,どこが同じか」というもの。どこが違うかについて,子どもたちからは「昔のゲームは何回遊んでも内容が同じだが,今のゲームにはアップデートがあり,ステージやコンテンツが追加され,遊び方が増えていく」「操作方法が違う」「昔のグラフィックスは2Dだが,今は3Dが多い」という回答が集まった。
その一方で同じ点については,「主人公を操作する」「食べられるアイテムがある」の2つが挙がった。
それらを受けて,岸本氏は自身が考える昔と今のゲームの違いなどを紹介した。まず違う点については,「グラフィックスが2Dから3Dになったこと」「昔はゲームセンターに行かないと遊べなかったが,今はどこでも遊べる」を挙げた。
昔と今のゲームとで同じ部分については,「自分が主人公(主人公を操作できる)」「クリアできるように作られている」「ゲーム内で何か達成すると,褒められる」点を挙げ,これがそのまま「ゲームが面白い3つの仕掛け」に当てはまることを指摘した。そしてゲーム開発者が,意図的にこれらの仕掛けをゲームに組み込んでいることを明かした。
イベントの後半では,ゲーミフィケーションの説明が行われた。ゲーミフィケーションとは,「身の周りのことにゲーム要素を入れて,人を楽しくやる気にさせる」ことであると,岸本氏は説明する。その一例として,親御さんの財布に1枚は入っているであろうポイントカードが挙げられた。ポイントカードを持っていると,ついその店で買い物をしてしまいがちになるのも,ゲーミフィケーションの効果というわけである。
その後,岸本氏は子どもたちへ「ゲームと勉強,どっちが好き?」という質問を投げかけた。選択肢はゲームと勉強に加え,“それ以外”もあったが,参加していた男子は全員がゲームを選び,女子は全員が“それ以外”,つまり習いごとや部活などのほうが楽しいと回答した。
男子も女子も勉強が好きではないというが,岸本氏が「苦手な勉強をゲームみたいにしてみればどうか?」と質問すると,全員が「それはいい」と回答する。
“苦手な勉強をゲームみたいにする”とは,すなわちゲーミフィケーションである。岸本氏は,どうすれば上記の「開発者がゲームに施す3つの仕掛け」を勉強に組み込めるだろうかと子どもたちに問いかけた。
子どもたちからは,「計算問題に正解すると,敵が倒せる」「自分で問題を作って,ほかの人に提供できるようにする」「教科書を1ページ読むとポイントが貯まり,10ポイントで好きなものを買ってもらえる」「テスト全科目の合計が一定以上になると,ご褒美がもらえる」「歴史上の人物がゲームに登場する」などの回答が示された。
岸本氏は,これらの子どもたちの回答を踏まえ,親御さんに向けて「ゲーミフィケーションで勉強を楽しくするのは手段に過ぎない。目的は,その結果として自分から勉強するようになること」「ゲーミフィケーションは,子どもだけでなく,大人が苦手なことを乗り越えることにも有効」と説明を加えた。
そして「『勉強は苦しいからこそやるものだ』という人も未だにいるが,実際には楽しいことのほうが続く。勉強にしろ家事にしろ,苦手なものは褒められなければ続かない。そこにゲームのように面白くなる仕掛けを入れていこうというのが,ゲーミフィケーション」とまとめていた。
イベントの最後には,参加者が感想を述べる一幕も。その中には,「スマブラに出てくるパックマンのゲームを作った人から話を聞けるなんて,すごくビックリした」「昔のゲームについて知ることができてよかった」というものもあり,筆者としてはゲームの歴史や変遷を若い世代に伝えていくことの大切さをあらためて実感した次第である。
イベント終了後,主催者代表である高輪区民センター所長 奈雲美徳氏に話を聞くことができたので,以下に掲載して本稿の締めとする。
4Gamer:
よろしくお願いします。「親子で学ぶゲーム文化トークサロン」を企画した意図などを教えてもらえますか。
奈雲美徳氏(以下,奈雲氏):
まず高輪地区の地域の絆を深めるのに,何が重要な要素となるのか,接着剤的な役割を果たすのは何かと考えたときに,“ワクワク感”が大切になると考えました。ワクワク感と言えば,ゲームを楽しむことです。かつてナムコでゲーム開発に携わっていた私であれば,その当時の話をしていくことによって,区民の皆さんのワクワク感を引き出せるのではないかと考えました。
またこのイベントでは,親子の絆を深める手法の1つとして,ゲーミフィケーションを取り上げました。そこでナムコ時代の大先輩でゲーム開発の話ができて,かつ今はゲーミフィケーションの第一人者である岸本さんに,講師をお願いしたというわけです。
4Gamer:
勝手なイメージですが,区民センターという施設では,何となくご年配の方向けのイベントが行われる印象があります。
奈雲氏:
港区の区民センターは,多世代間の地域交流という位置付けなんです。おっしゃるような年配の方向けの施設としては,高齢者センターが港区内に数十か所あるんです。そのため区民センターとしては,差別化を図るために若い世代を対象にした取り組みを積極的に行っています。とくに区民センターでは,親子世代が増えてきていることもあり,そこにフォーカスしたイベントなどを強化しています。
4Gamer:
「親子で学ぶゲーム文化トークサロン」は,全3回だと聞いています。こういったイベントは,単発でやるケースも多いようですが。
奈雲氏:
現時点では3回ですが,今後注目されると思いますので,講座やイベントとしての継続的な開催,自由参加の定期的なサロン形式での開催を検討しています。
また,実は今日の講座もそうだったんですが,港区観光大使をお願いしている音楽ユニット・REAL VOXの皆さんにも親子で参加していただいています。そうやって何かと連動させて継続していかないと,そこで完結してしまうんですよね。ゲーミフィケーションを軸とした地域サロンの継続は,区民センターとしての戦略の1つとなっています。
4Gamer:
第1回を終えてみての所感を教えてください。
奈雲氏:
現場で生の声を聞いたことで,イメージと相違する部分と,「今の子どもも昔と変わらないんだな」と思う部分がありました。
4Gamer:
第2回は,何をやるのでしょうか。
奈雲氏:
第2回の内容は今後高輪区民センターの公式サイトで告知予定です。次回は夏休み期間中のイベントになりますから,ぜひ区民ホールで,ワクワク感やイベントの楽しさを体感していただきたいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
高輪区民センター公式サイト
協力:バンダイナムコエンターテインメント
- この記事のURL:
キーワード