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「ホロライブ」の映像はここから生まれる! 27億円をかけたカバーの新スタジオはどこがすごいのか
カバーの発表では,新スタジオの総工費は,なんと約27億円にもなったという。そんな新スタジオを報道関係者向けに披露するスタジオツアーが行われたので,どのような施設なのかをレポートしたい。
6つのスタジオと関連設備を1フロアにまとめる
それに加えて,歌やボイスの収録に使えるレコーディングスタジオを2部屋,小規模な汎用スタジオなども用意されており,さまざまなコンテンツ制作に対応可能だ。
各収録スタジオには,撮影や配信を管理するコントロールルームや出演者控え室がそれぞれ付属しており,そのほかにもスタッフ用の休憩室や複数のサーバールーム,機材倉庫などもあるため,全体のフロア面積はテニスコート約10面分にもなるという。
スタジオ間の廊下には,ホロライブメンバーたちが壁にサインやイラストを描いたコーナーもあって微笑ましい。
最大の広さを誇る「スタジオA」は,面積が約23×14m,高さ約3.2mもあるという大きなモーションキャプチャスタジオだ。その中に金属製のトラスを組み上げて,壁沿いだけでなく頭上にもモーションキャプチャカメラを100台以上取り付けている。これらのカメラを使って,モーションキャプチャ用のマーカーを身に着けた出演者の動きをキャプチャして,映像内での動きに反映するわけだ。
新スタジオには,広さやカメラの台数が異なる収録スタジオが,4つ用意されている。すべてのスタジオは,壁が吸音材で覆われており,また,床も床下配線用の空間を広く取ったうえで,スタジオの音や振動がほかのスタジオやほかの階に漏れたりしないように,構造面での工夫も凝らしているそうだ。
また,広さに余裕があるので,これまでなら複数のスタジオを併用して作る必要のあったような映像も,スタジオひとつで作ったり,逆に1スタジオを複数に分けて収録といったことも可能であるそうだ。
ちなみに,新スタジオで使っているモーションキャプチャカメラは,Vicon Motion Systems製のハイエンドカメラ「Valkyrie」の最上位モデル「VK26」。画素数は約2620万画素,最大フレームレートは150fpsという高スペックなものだ。
キャプチャデータの送信と電力供給は,Cisco Systemsの規格「Universal Power over Ethernet」(UPoE)に対応したLANケーブル1本で行えるので,ケーブルの取り回しが比較的楽な点も特徴である。
VK26は,1台でも900万円ほどするそうで,それを新スタジオ全体では200台ほど導入したとのこと。納品とセットアップを行った業者も,「国内でValkyrieをこれほど多く設置しているスタジオはほかにない」と言っていたそうだ。
カメラのスペックが高いので,出演者の動きをより精細に記録できるのも,このスタジオのメリットのひとつ。たとえば指の動きの場合,今はマーカーを5点しか使っていないので,細かく複雑な動きは正確にキャプチャしきれない面があるそうだが,これをアップデートして10点まで取れるようにすれば,もっと細かい指の動きまで表現できるようになるとのこと。指の動きの表現が,よりリアルになると,ライブやミュージックビデオの映像が,より映えるようになるだろう。
また,映像やモーション,音声もすべてがIP(Internet Protocol)化されているので,たとえば複数のスタジオで同時に収録して,それを1本のライブ映像に合成するといった複雑な作業も,比較的容易になったそうだ。
スタジオAの隣には,これもかなりの広さがあるコントロールルームがあり,各種モニタリングから,カメラや音声の切り替えなど,収録映像の生成に関わる作業を担当している。
「スタジオF」は,いわゆるクロマキー合成で映像を作成するためのスタジオだ。壁3面と床がグリーンの布で覆われており,生の出演者や道具を使った収録に利用できる部屋となっている。たとえば,モーションキャプチャスタジオでVTuberの動きや歌を,クロマキースタジオで生のバンド演奏を収録して,合成したうえで配信するなんてこともできるだろう。
壁の布はカーテン状になっており,床の布も巻き取れるので,必要ならクロマキーを使わない撮影も可能だ。
「スタジオE」は,ソニー製の小型モーションキャプチャ機器「mocopi」を使った収録などに利用できるということだった。
複数のスタジオを1フロアにまとめているので,出演者の移動が最小限で済むのも,新スタジオにおける大きな利点であるという。たとえば,複数のフロアにスタジオが分散している場合,出演者がスタジオ間を移動するのに時間がかかるので,複数スタジオを利用した収録に制約が出てしまう。しかし,新スタジオはスタジオ間の距離が短いので,制約も少ない。
また,モーションキャプチャカメラやワイヤレスマイクといった設備をすべて共通化しているので,その点でも複数スタジオ併用の収録をしやすい。一例として,いわゆる「格付けチェック」的な番組も,複数スタジオを簡単に併用できるので作りやすいとのことだった。
各スタジオ併設の控え室は,出演者が休憩を取りながら,収録の様子を見守れるようになっていた。ロッカールームも兼ねたパウダールームも控え室内にある。
余談気味だが,控え室や休憩フロアには,丸めたブランケットを何枚も詰め込んだ箱が置かれていた。何かと思っていたら,これは,休憩中の出演者が体を冷やさないように使うブランケットとのこと。モーションキャプチャ用のマーカーが付いた服は保温能力が低いので,体が冷えないように掛けられるよう用意しているのだ。
防音と快適さに配慮したレコーディングスタジオ
先述したように,新スタジオには,音声収録用のレコーディングスタジオが2か所設置されている。実際に音を発するブース部分と,コントロールルームがセットになっていて,それぞれ青系と赤(というか茶)系の色でまとめられていた。
レコーディングスタジオはどこでもそうであるが,とくに遮音を重視した構造になっているのが特徴だ。新スタジオも,壁面や天井が吸音構造となっており,床も音が響いたりしないようになっている。天井にはエアコンの排気孔があるが,空調の音がマイクに入ってしまわないように,ほかの部屋よりも天井高を低くして,排気孔との距離を稼いで音が入らないようにしているそうだ。ドアも吸音構造の二重ドアで,完全に閉めきると,中で大声を出してもほとんど外には聞こえない。
壁には,音の反響を最適化する舟形の板が張り付けられているほか,コントロールルームの壁面には,音の聞こえ方を調整できるように,可動式の立て板がカーテンのように設置されている。かなり凝った構造と言えよう。
レコーディングスタジオに限らず,新スタジオは,設備や構造面でも音声の品質を高めるように配慮しており,高音質での収録が行えることが魅力であるとのことだった。
新スタジオの課題は人材不足?
スタジオの見学は,おおむね以上のとおりだ。高精度かつ高品位のモーションキャプチャスタジオや,しっかりしたレコーディングスタジオを1フロアにまとめて効率化した構造といい,それらを支えるサーバー群(※当然だが,サーバールーム内は撮影禁止)やネットワークの充実ぶりといい,VTuberのコンテンツを作るために必要な環境を,最新かつ高品質なもので揃えていることに感銘を受けた。コストはべらぼうにかかっているものの,外部のスタジオをレンタルするコストが大幅に減らせることを考えれば,費用対効果は悪くないのかもしれない。
カバーでは,映像や音声のコンテンツだけでなく,独自のメタバースプロジェクト「ホロアース」を展開しており,これらを用いたコンテンツにも,新スタジオは利用されることだろう。
ほぼ完成した新スタジオだが,今後の課題について質問したところ,問題となっているのは人材不足ということだった。6月2日にカバーは,同社公式noteで,所属タレントによる3D配信が,運用体制の整備が追いつかないためにスケジュールを調整して遅らせることを発表している(関連リンク)。
機材のトラブルもあったとのことだが,これらの問題も根幹にあるのは,先端的な機材や設備を扱ってVTuberのコンテンツを作るノウハウを持った人材が不足しているためであるそうだ。
カバーでは,こうした問題に対応すべく,人材の募集と育成を行ってはいるものの,そもそもそうした技術を持つ人材が少ないので,なかなかすぐには解決しないようである。
ゲーム業界からカバーへと転職した人も少なくないようであるが,「我こそは」と思う人は,チャレンジしてみてはどうだろうか。
カバー公式noteの新スタジオ紹介記事
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