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AIが開発者の強力なサポート役に。サイバーエージェントのAI活用プロジェクトが紹介された講演をレポート
サイバーエージェントがAIをどのように活用しているのか。その一端がうかがえたセッションの模様をレポートしよう。
髙橋氏が所属するAI戦略本部は,AIによる「業務効率化」と「新たなユーザー体験の創出」を目的として,2023年5月に設立されたが,現在は業務効率化のほうに注力しているとのこと。
具体的には,アドベンチャーパートのセリフから,キャラクターの表情やモーションを予測するスクリプト支援,プレイヤーAIによるバランス調整支援といった取り組みを行っている。
今回のセッションでは,今後,本格的な導入が期待される「あいまい検索」と「キャラクターらしさ推定」のプロジェクトが紹介された。
あいまい検索
スマートフォンゲームの場合,キャラクターの数が多く,定期的にイベントも行われるため,シナリオの量は膨大になり,セリフの内容やストーリーを正確に把握しておくことは難しい。
新しいシナリオを作るにあたり,既視感を防止したり,シナリオ全体の整合性を取ったりするためには,そこが問題になるのだが,文字列が完全に一致していなくても「こんな感じのセリフがあったような」という検索で,似たようなセリフを見つけられるのが「あいまい検索」だ。
例えば,「アイドルは笑顔が一番です!」をあいまい検索にかけると,「笑顔」に加えて「スマイル」など,意味が近い言葉を含んだセリフが表示される。
これだけでも十分に便利だが,あいまい検索には,そのゲームについての知識がほとんどない,新人ライターがスムーズに設定を理解できるメリットもあるという。画像の検索結果には「アイドルスマイル」という単語を含んだセリフがあるが,そういったものを見て,「このキャラはこういう言い回しをするんだ」と気づけるわけだ。
実現手法については,自然言語処理モデルである「BERT」をファインチューニングした「Sentense BERT」を使用して,ゲームで使われているセリフをベクトル化し,その比較でセリフの類似度を算出しているという。
一般的な意味が取れれば問題ないため,Sentense BERTに追加での学習はさせず,既存の学習済みモデルを使用しているとのことだ。
髙橋氏によると,あいまい検索の本導入例はまだ少ないが,汎用性が高いだけに,多くのプロダクトに展開したいとのこと。そのうえで,検索精度に問題が出てくれば,使用モデルを変更するといったことも考えているそうだ。
キャラクターらしさ推定
このプロジェクトは,開発現場からの「セリフに対する発話キャラクターの設定ミスを予防したい」という要望を受けて開発中もの。
例えば「〜だワン」という犬のキャラのセリフが,なぜかウサギのキャラに割り当てられるような人的ミスが発生するのを防ぐことが目的となる。単純なケアレスミスではあるが,特にボイス収録以降に発覚すると,声優さんのスケジュールを調整したうえで再収録といったように,時間的にも金銭的にも大きなコストがかかってしまうため,影響は大きいそうだ。
そこで,セリフからキャラクターらしさを推定し,「らしさ」が低いキャラに割り当てられた時にアラートが出せるようにするシステムを目指して開発が進んでいる。
こちらでもSentense BERTを使用するが,さきほどとは違い,ゲームに登場するキャラクターらしさを捉えられるように,セリフの学習を行う。具体的には,基準となるキャラのセリフ,そのキャラの別のセリフ,別のキャラのセリフという3つのセットを用意し,同じキャラのセリフはベクトルの座標が近くに,違うキャラのセリフは遠くなるような学習をさせるという。
その学習から,各キャラクターの平均ベクトル(キャラクターベクトル)を算出し,セリフのベクトルと,キャラクターベクトルの類似度による「キャラクターらしさ」順に発話者を推定する仕組みだ。
実際の推定結果についても説明が行われた。約28万件の学習データを使い,1850件の検証を行った結果が下の画像になる。
左の「top-k accuracy」は,推定キャラクターの上位k位までに正解がある確率を表している。1位と推定したキャラが正解の確率は31%となり,実用には厳しそうな精度だが,今回使用したデータのキャラクター数は100を超えていたとのことなので,そこを考慮する必要はありそうだ。
その隣の「top-1 accuracy」は,各キャラクターのセリフのうち,何割が1位と推定されたかを表すもので,2キャラについては正解率が100%となっている。この2キャラは口調が特徴的なため,髙橋氏はそこが正解率の高さにつながったと考えているという。
右にある「セリフベクトルのプロット」からも,口調がキャラクター推定の精度に大きく影響を与えることがうかがえる。上は性格や口調が似ていないキャラクター群のベクトルで,同じ色の点がきれいにまとまっている。中央付近にさまざまな色が混じった領域があるが,これはタイトルコールのセリフとのことだ。
下は性格や口調が似ているキャラクター群のベクトルで,赤と緑,オレンジと紫が混ざり合った状態になっているのが分かる。
髙橋氏は今後の展望として,新しいプロダクト,特にキャラクター数が少なめのものでの検証を進め,必要に応じて精度改善の手法を検討したいと語った。性格や口調が似ているキャラクターについては,AIによる判別だけでなく,ルールベースでの手法も考えているという。
それが完了した後,あいまい検索と同じように,ツール化とプロダクトへの導入を行いたいとのことだ。
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