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Web3ゲームの課題と可能性をYGGグループが語った「IVS Crypto 2024 KYOTO」のパネルディスカッション
登壇したのは,W3GGの共同創設者兼CFOのChin Yu氏,YGG Japanの原島和音氏,YGGの共同創設者であるGabby Dizon氏で,Market AcrossのBarry Ben Asher氏がモデレーターを務め,ブロックチェーン技術がゲーム業界にもたらす革命的な変化について,楽観的な見方から始まった。
Dizon氏は,自身が2018年からNFTとゲームの融合について語ってきた経験を振り返りながら,「ブロックチェーンがゲームに重要である根本的な理由は,真の所有権とインターオペラビリティ(相互運用性)にあります」と強調した。しかし,同時に彼は,良質なゲームと健全なゲーム経済の構築には時間がかかることを指摘。「暗号資産市場の高い流動性により,実際の製品が機能する前から資産に対する投機的な動きが起こりやすいのです」と,ブロックチェーンゲームが登場当時から持ち続ける課題にも言及した。
Dizon氏の発言は,ブロックチェーンゲーム業界が直面している「技術の可能性」と「市場の現実」のジレンマを浮き彫りにしている。多くの優れたゲーム開発チームが多くの時間をかけてプロジェクトに取り組んでいる一方,市場は即座の結果を求める傾向がある。この時間的なミスマッチが,しばしば投機的な動きを助長し,真の革新や長期的な価値創造を阻害する可能性があるという。
Yu氏は,デジタル資産の所有権がブロックチェーンゲームの核心であるという点でDizon氏に同意しつつ,「私たちはまだデジタル所有権やWeb3ゲームの潜在能力を完全に引き出せていません」と指摘した。続けて,現在のゲーマーの多くが,従来のライブサービスゲームに慣れ親しんでいるため,ブロックチェーンがもたらす利点を実感できていない状況を説明した。
「人々がWeb3の恩恵を本当に理解するのは,現状のライブサービスゲーム(いわゆるオンラインゲーム)が終わり,何千時間もプレイしてきたゲームのキャラクターやスキンが,実は自分のものではなくゲーム会社に所有されていたことに気づいたときでしょう」とYu氏は語った。
日本市場に精通する原島氏は,日本特有の状況について「日本市場では,多くのユーザーがまずNFTを購入し,その後でゲームをプレイするという傾向があります」と説明した。これは,日本のゲーマーがIP(知的財産)に強い愛着を持つ傾向があることと関連しているようだ。そして原島氏は,「日本のユーザーは,好きなIPがあれば非常に忠実です。しかし,ゲーム自体が面白くなければ,いくら稼げるとしてもあまり夢中にはなりません」と続けた。
ブロックチェーンゲームは,遊ぶ側も「稼げる」ということが謳われることが多い。だが原島氏の発言は,実際には稼げる/稼げないということよりも,ゲーム性やIPの魅力など,ゲーム本来の要素が重要であることを示唆している。
原島氏はさらに,「5年後には,良質な収益モデルと優れたコンテンツが同時に実現するでしょう」とポジティブな予想をしたが,それまでの道のりには課題が山積していることも認めていた。
続いてのテーマはNFT(非代替性トークン)だ。NFTはブロックチェーンゲームの中心的な役割を果たしている。しかし,その実装と活用にはさまざまな課題が存在すると,パネリストたちからも改めて指摘された。
Yu氏は,NFT技術自体はWeb3ゲームにとって重要であると強調しつつ,「現在のNFTモデルの主な問題は,高額な価格を設定していることです。時には数百ドルや数千ドルもの価格がつけられています。これでは,コミュニティのためにゲームを民主化するという本来の目的が損なわれてしまいます」と,指摘した。
これは,ブロックチェーンゲームが直面しているジレンマと言える。つまり,NFTを通じてユーザーに真の所有権を提供し,ゲーム内資産の価値を高めることを目指しているからこそ,NFTが値上がりする側面もあるわけだ。
しかし,高額なNFTは新規プレイヤーの参入障壁となり,ゲームの普及を妨げる可能性がある。
このジレンマに対する解決策として,Yu氏は新しいアプローチを紹介した。「人々は無料NFTの実験を始めています。ミント(NFTの発行)が完了すれば所有権を得られるので,ユーザーは自分のものだと感じられます」この方法は,NFTの価値を維持しつつ,参入障壁を下げるアプローチかもしれない。
Dizon氏は,NFTの投機的側面と実用的側面を明確に区別することの重要性を強調し,「投機と所有権は同じように見えますが,実際には異なるものです」と述べた。Dizon氏の見解によれば,投機はユーザー獲得のためのきっかけとして機能している。一方,所有権は長期的なプレイヤーコミュニティの構築と関連しており,1年,5年,10年と長期にわたってゲームをプレイできる環境を作り出すことを目的としているそうだ。
Dizon氏は,「ゲーム内で使用するNFTは安価に保つべきです。なぜなら,それらはゲーム内のリソースとして使用される必要があるからです」と主張した。この考え方は,ゲームプレイの流動性を維持しつつ,長期的な価値を創造するという難しいバランスを取ろうとする試みと言えるだろう。
原島氏は「NFT技術は,特にトレーディングカードゲームのような分野で,ゲーム開発において価値があります」と述べている。原島は,物理的なカードゲームとデジタルゲームの違いを指摘し,NFTがどのようにしてデジタル資産の「真の所有権」と取引可能性を実現できるかを説明した。
しかし,原島氏も「バランスの問題」を強調し,「ユーザーが取引したいという欲求が主な理由であれば,経済は混乱してしまいます。しかし,ポケモンカードや遊戯王のようにコンテンツ自体が素晴らしければ,うまくいくでしょう」と説明。成功するブロックチェーンゲームには,革新的な技術と魅力的なゲームコンテンツの両方が必要であることが改めて示唆された。
また,DeFi(ブロックチェーン技術を基盤にした分散型金融サービスの総称)とゲームの融合は,ブロックチェーンゲーム業界に新たな可能性をもたらしている。パネリストたちは,この融合がどのようにゲームエコノミーを変革し,新しいユーザー体験を生み出す可能性があるかについて議論を交わした。
Yu氏は,DeFiが比較的新しい概念であることを指摘しつつ,ゲーム業界での応用の大きな可能性を強調した。「DeFiを通じて,ゲームを中心に本物の経済を作り出すことができます」とYu氏は述べている。
具体例として,Yu氏は「Emberlight」というプロジェクトを挙げた。これは,車のNFTをガレージに置いておくだけで報酬をマイニングできるようにするものだという。つまり,車を駐車させておくだけで報酬が得られるわけだ。
この例は,DeFiの概念がどのようにしてゲームプレイに組み込まれ,プレイヤーに新しい形のインセンティブを提供できるかを示している。従来のゲームでは,プレイヤーの行動に対する報酬は主にゲーム内のポイントやアイテムに限られていたが,DeFiの導入により,実際の経済的価値を持つ報酬をゲームプレイに直接結びつけることが可能になるという。
Dizon氏は,DeFiを「組み合わせ可能な金融要素」と表現し,その可能性についてより深い洞察を提供した。「代替可能トークン,非代替トークン,ステーキング(資産をロックして後で何かを受け取る),担保化(資産をロックして価値を引き出す)など,これらはすべて金融設計のパターンです」と,Dizon氏は説明している。
Dizon氏の視点は,DeFiがゲームデザインに新しい要素を加える可能性を示唆した。例えば,ゲーム内の資産をステーキングすることで,プレイヤーは長期的な戦略を立てる必要が生じ,ゲームへの継続的な関与が促進されるかもしれない。また,資産の担保化により,プレイヤーは自身の資産を効果的に活用しながら,ゲーム内の新しい冒険に挑戦できるだろう。
原島氏は,「私の知人の一人が,ゲーム自体とDeFiを組み合わせた開発を行っています。メタバース内で直接トークンの購入やステーキングなどを行うことができるのは非常に興味深いです」と事例を挙げ,DeFiとゲームの融合の現状を説明した。
メタバース内でのDeFi機能の統合は,仮想世界と現実世界の経済をシームレスにつなぐ可能性を秘めており,ゲーム体験に新しい要素が加わることが期待される。
しかしパネリストたちは同時に,このような融合がもたらす課題についても言及。ゲームコンテンツとDeFi要素のバランスを取ることの重要性がとくに強調された。原島氏は「経済的な側面だけが目的になると,全体のバランスが崩れてしまいます」と警告している。
さらに,セキュリティとプライバシーの課題についても語られた。ブロックチェーン技術の透明性は,多くの利点をもたらす一方で,ユーザーデータやトランザクションのプライバシーに関する懸念も引き起こしている。パネリストたちは,この問題に対する現在の取り組みと将来の展望について議論を交わした。
Yu氏は「これは私たちも現在直面しています」と述べ,W3GGが最近リリースしたSBT(ソウルバウンドトークン,譲渡/売買ができないトークン)の例を挙げて説明を続けた。このトークンにはユーザーのデータが含まれており,EUのGDPR(General Data Protection Regulation,一般データ保護規則)などの複雑な規制要件に対応する必要があるという。
「GDPRの規則の一つに,ユーザーはデータを削除する権利を持つというものがあります。しかし,ブロックチェーン上のすべてのものは公開されており,誰もが見られます。あなたの業績やデータがブロックチェーン上にある場合,それを削除することはできません」と,Yu氏は問題点を指摘した。
この指摘は,ブロックチェーンの不変性という特性と,個人データの保護を求める現代の規制環境との間に存在する根本的な矛盾を浮き彫りにしている。ブロックチェーンの透明性と不変性は,その信頼性を担保する重要な特徴だが,同時にプライバシーの観点からは大きな課題となるわけだ。
Yu氏はこの問題に対する解決策として,「ゼロ知識証明」を挙げた。「ゼロ知識証明は,機密情報を隠しながら,そのデータが正しいかどうかを示すことができます」と説明し,この技術がブロックチェーンの透明性を維持しつつ,個人データを保護する可能性を秘めていることを指摘した。
原島氏は,金融的側面を扱う場合,ユーザー情報の保護が重要な問題となると述べ,「日本の法律は非常に厳しく,ユーザーデータを保護する必要があります。将来的には,ゼロ知識証明のようなものが必要になるでしょう」とYu氏に同意した。
一方で,多くの大手企業は法的リスクを避けるために,金融的側面を完全に排除する傾向にあるとも指摘。「ほとんどの大企業は金融分野に触れたくありません。そのため,価値のある資産ではなく,単にゲームデータを証明するだけのものを使用しています」と,現状を説明した。
この状況は,日本のブロックチェーンゲーム市場が直面しているジレンマとなっている。ブロックチェーン技術の可能性を最大限に活用したいという欲求がある一方,厳格な規制環境と保守的な企業文化が,その可能性の実現を制限しているのだ。
また,ブロックチェーンゲーム,特に「Play to Earn」(遊んで稼ぐ)モデルの倫理的側面についても語られた。この新しいゲームモデルが,特に低所得国の人々に与える影響について,懸念と希望が入り混じった見解が示された。
Dizon氏は,「Axie Infinity」の事例を挙げ,ブロックチェーンゲームが単なる娯楽以上の可能性を秘めていることに言及。適切に設計されれば,これらのゲームは経済的機会を提供し,従来の金融システムから除外されてきた人々にとって,新たな収入源となる可能性があるという。
しかし,Dizon氏は同時に,このモデルの限界についても率直に語った。「どのゲームの経済も本質的に不安定です。稼げる金額は,人々がそのゲームに費やす金額に依存します」。この指摘は,「Play to Earn」モデルが安定した収入源として機能することの難しさを物語っているだろう。
Yu氏は,高額なNFTが搾取的な状況を生み出す可能性について「不幸なことに,前回のサイクルでは,一部の人々がこの状況を利用し,資産を購入して他人に貸し出し,特定のKPI(重要業績評価指標)を達成させるということが起こりました」と警告した。
この状況は,新しい技術が意図せずして搾取的な構造を生み出す可能性があることを示している。高額なNFTが参入障壁となり,資金力のある一部の人々が,それ以外の人々の労働力を利用して利益を得るという構図が生まれてしまったのだ。
原島氏は,「ゲームを提供する際,ユーザーにリスクを説明する責任があります。しかし,ブロックチェーンゲームはまだ初期段階であり,ゲーム運営者がそれらを説明する規制はありません」と,ゲーム開発者の責任について言及した。
原島氏の指摘は,ブロックチェーンゲーム業界が直面している規制上の課題を浮き彫りにしている。従来のゲーム業界とは異なり,暗号資産を扱うゲームは金融商品的な側面を持ち合わせているため,適切な情報開示と消費者保護が求められる。しかし,この新しい分野に対する明確な規制や枠組みはまだ整備されていないのが現状だ。
ディスカッション全体として,ブロックチェーンゲーム業界は大きな可能性を秘めているが,技術的,倫理的,規制的な課題を克服する必要があることがあらためて指摘された。業界の健全な発展のためには,革新的な技術と魅力的なゲームコンテンツの両立,適切な規制の整備,そしてユーザーの保護と公平性の確保が不可欠だという認識が共有されたわけだが,難題続きというのが正直なところだ。
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