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【新連載】友野 詳の「異世界Role-Players」 第1回:エルフ〜その種族は耳と寿命が長い
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印刷2019/04/30 11:00

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【新連載】友野 詳の「異世界Role-Players」 第1回:エルフ〜その種族は耳と寿命が長い

画像集 No.001のサムネイル画像 / 【新連載】友野 詳の「異世界Role-Players」 第1回:エルフ〜その種族は耳と寿命が長い

とある日の冒険にて


語り手:さて,君達は王都で暗躍する混沌教団の影を追って,下水にもぐっている。現役の下水なので,まあ匂いとかは推して知るべしって感じだな。
魔術師:中世ファンタジーの世界に下水があるのは時代考証として(ぶつぶつ)。
語り手:いつものごとく,きみはくどいな。王都は古代魔術文明の都市遺跡を利用してるんだから,これも古代文明の遺産だよ。
魔術師:だったら,消臭魔術でもかけといてくれませんかねえ。
戦士:ぼやくな,ぼやくな。お嬢さんが我慢してるんだぞ。
エルフ美少女:は? いや,こんなの故郷の森だったらふつーなんですけど。
戦士:え,そうなの? いやだって,エルフって……こう……花の香りに包まれて……みたいな?
エルフ美少女:自然に親しんで森で暮らす種族だもん。こういう臭いのものは肥料とかいろいろと使い道があるよ。
魔術師:ま,まあそう……かな。
語り手:ファンタジーの世界だから魔法でなんとかしてるかもだけど。それはともかく,下水を進むきみたちの前に,つやつやと黒光りする巨大な虫が這い出てきた。体長が1メートルはある。
戦士:なんだって!(ちらっとエルフ美少女を見る)
魔術師:これは気持ち悪いですな(ちらっとエルフ美少女を見る)
エルフ美少女:(悲鳴もあげずうろたえもせず平然と)つぶそうか。
戦士&魔術師:……あれ?
エルフ美少女:森育ちなんだから,こんくらいで,いちいち悲鳴なんかあげないって。
語り手:じゃ,戦闘しますかね。



異種族っていいですよね


 はじめまして。
 あるいは,まいどありがとうございます。友野 詳と申します。
 ライトノベルとアナログゲームのデザインをお仕事にしています。そういった作品に,色々なモンスターや異種族――人間に似ながら,人間とは異なる特徴を持つ人々を登場させてきました。読み手,遊び手としても異種族が登場する作品が大好きです。そんな人間なので,この連載では「ファンタジーの異種族ってどのへんをどう描けばその異種族っぽくなるの?」というお話をしてみたいと思っております。

 とはいえ創作において〜というような大仰なお話ではありません。基本的には過去のこんな作品で,この異種族はこういう風に描かれてきましたよー,というお話をしつつ,皆さんが異種族を自分で描いたり演じたりする一助になるものをお届けできればいいな,と思っている次第です。異種族にまつわるライトな豆知識も紹介していこうとも思っていますので,気軽に読み物として楽しんでいただけたらありがたいですね。
 毎回,特定の一種族を取り上げていくつもりですが,第1回は,最も登場頻度の高い異種族,エルフのお話です。


一般的にエルフってものは


 ご存じですよね,エルフ。
 たいていの作品で共通している特徴としては,以下のようなものがあります。

「耳がとがっていて,長い」
「寿命が非常に長い(不老不死のことも多い)」
「見た目はすらりとしていて美しい」
「高貴なふるまいをする」
「森に住んでいて自然と親しい」
「魔法に親和性があり日常的に使いこなす」
「緑色の服を着て弓矢が得意」


 身長は人間より高かったり低かったり,作品によってまちまちです。だいたいの場合,背が高いと人間と距離をおいていて上から目線気味で,背が低いと親し気にふるまってくれるけどイタズラ好き,という傾向がありますね。
 ご存じの方も多いでしょうが,そもそもエルフというのは,北欧の神話や伝承に登場する妖精です。この場合の「妖精」は「人ならざる不可思議なもの」の総称としての意味合いで,使っています。現代の日本人にとっては「妖怪」のニュアンスに近いかもしれません。
 神話に登場するエルフには,賢く優れたものもいれば,醜く残酷なものもいます。エルフは,人の領域の外に住む,理解しがたい存在(というか「理解してはいけない」モノ)だったんでしょう。エルフ達が住まう「森」というのは,昔の人々にとって「人の領域ではない,うかつに足を踏み入れてはいけない神秘的な場所」でした。だからそこには「人ではなく,不思議な力を持った何か」がいたのです。

「エルフランドの王女」(リンクはAmazonアソシエイト)
画像集 No.004のサムネイル画像 / 【新連載】友野 詳の「異世界Role-Players」 第1回:エルフ〜その種族は耳と寿命が長い
 北欧だけではなくヨーロッパ全域に「森に住む神秘的な人々」の伝承はあって,時代が進むにつれて,それらの伝承もまじりあっていきます。シェークスピアの戯曲「真夏の夜の夢」に出てくるようなイギリスの妖精達と,エルフのイメージも重なりあうようになっていきました。お芝居やそれをもとにした絵画だと,シェークスピア当時の御貴族さまっぽいかっこうで妖精達が登場するので,そのイメージが刷り込まれていったのでしょう。
 エルフのイメージとして「緑の服を着て,弓矢を得意」と紹介しましたが,これは森に住んでいる有名なキャラクターの影響が大きいと考えられています。イギリスの伝説に登場する義賊,ロビン・フッドです。そもそもが「ロビン」というのは妖精を指す名前ですしね。ロビン・フッドの直系の子孫というべきキャラクターが,アメコミで(というより近年はドラマ「ARROW/アロー」で)人気のグリーンアローですね。

 ちょっと話がそれました。
 北欧から英国を経由して,伝承に基づいた近代ファンタジーが19世紀の終わり頃からヨーロッパの各地にぼちぼち登場しはじめます。ダンセイニ卿(Lord Dunsany,卿という称号まで含めてペンネーム)「エルフランドの王女」(1924年)では,人間の世界と隣り合うもうひとつの世界,時が存在しない永遠の黄昏の世界〈エルフランド〉が登場します。その住人達と,人間との感覚の違いが,悲喜劇を生んでいきます。
 ゲーム的なエルフ(やトロールなど)とは感触が異なりますが,幻想世界の豊かなイメージは,それらと比肩するものがありません。ダンセイニ卿の書作は,後のさまざまな作品を通じて,いまのファンタジーにも大きな影響を及ぼしています。最近のライトノベル……たとえば「ゴブリンスレイヤー」にも,ダンセイニ卿の創作神話「ペガーナの神々」(1905年)の引用が垣間見えたりもします。

「折れた魔剣」(リンクはAmazonアソシエイト)
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 妖精の本場はイギリスですが,剣と魔法の冒険譚ならアメリカです。パルプ雑誌と呼ばれる安い価格で提供される娯楽雑誌が1920年代,大量に出回って,そこで強靭な肉体と意志力を持つ戦士が,おのれの剣のみで神秘を打ち砕き運命を切り開いてゆく,ヒロイックファンタジーといわれる物語が隆盛しました。そこでは,あまりエルフの姿は見られないのですが,それらの影響を受けつつ,文体と構成を洗練させ,神話を大胆に取り入れた作品なども登場しはじめます。中でも北欧神話に原典を戻しつつ,近代ファンタジーの成果も取り入れた作品として1954年にPoul Anderson(ポール・アンダースン)が書いた「折れた魔剣」(原題:The Broken Sword)は傑作です。エルフにさらわれ育てられた取り換え子の物語です。

 ですが,この同じ1954年に,いま「エルフ」といえばこういう種族だろうというイメージを決定づけた作品が出版されます。J・R・R Tolkien(トールキン)「指輪物語」(以下,指輪)です。欧米ファンタジーの基準となる,つまり「まずこれを読め。話はそれからだ」ポジションの一大ファンタジーですね。
 エルフだけではなく,いまの日本で「西洋中世風ファンタジー」と呼ばれるジャンルの大半の要素は,この作品を元に,テーブルトークRPGの元祖である「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(以下,D&D)を経て,世に広まったといっていいでしょう。「指輪」によって「人間に先んじて生み出された,より神々に近い種族」という出自が与えられ,エルフは「尖った耳を持つ,美しい,世界を守護するもの」となりました。これを大きなイメージソースとして,ファンタジー世界での冒険を楽しむために作られたのが,1974年の「D&D」だったのです。
 D&Dはその後何度も改訂が行われ,数多くのバージョンを生んでいきます。1980年代のなかば,日本に翻訳紹介が始まったころの版では,エルフは独立したクラス(職業)として扱われていました。呪文を駆使する能力と,武器を操って戦う技,どっちも使えるぶん成長(レベル上昇)がゆっくりしているのが特徴でした。


エルフの耳が伸びたわけ


ロードス島戦記より「ハイエルフの森 ディードリット物語」(リンクはAmazonアソシエイト)
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 エルフという種族の元ネタはそこらへんなのですが,1980年代終わりから1990年代にかけて,日本にこの異種族を定着させたのは,そして「エルフと言えば美少女」というイメージを形成したのは,とある冒険ファンタジー作品のヒロインです。とか,もってまわった言い方をしてますが,私が所属してるクリエイター集団「グループSNE」の代表作「ロードス島戦記」ディードリットのことですわなあ。

 ディードリットが世に出たのは,まだ私がSNEに入る前のこと。1986年から,コンピューターゲーム雑誌「コンプティーク」に連載されたD&Dのリプレイ(テーブルトークRPGを遊んだ様子を読み物として書き起こしたもの。この記事の冒頭みたいなやつ)として「ロードス島戦記」は始まりました。なので,当初のディードリットはD&Dのエルフそのものだったわけです。
 それをダンジョンマスター(D&Dにおける語り手のこと)だった水野 良さんが小説として書き直して角川文庫から出版されたのが1988年。これまた大ヒットして,こういった作品を刊行するために「スニーカー文庫」というレーベルが立ちあがります。
 このスニーカー文庫で登場した若者向け作品をさす用語として,「ライトノベル」という言葉が後に創案されました。つまり「ロードス島戦記」は,ライトノベルというジャンル自体の先駆けでもあったんですね。
 ディードリットで初めてエルフという種族に接した人々も多かったようで,ここで日本におけるエルフの耳は「先が尖っている」から「尖っていて長い」になったと言われています。リプレイ連載と小説でイラストを担当された出渕 裕さんの手腕ですね。

 じゃあ,長い耳は日本オリジナルなんだね,という話になるかというと,ここが微妙で。確かにそれまでの海外作品のイラストにおけるエルフの耳は,そんなには長くないのです。でもエルフじゃないけど,ディードリットの耳に大きな影響を及ぼしたであろう種族がおりまして。
 1983年に公開された映画「ダーククリスタル」に登場したゲルフリング族のヒロイン,キアラ(Kira)です(現在の字幕だとキーラなんですが,私は映画館で見た時の表記が好きなのです)。
 徹頭徹尾,完璧に異世界だけを舞台にして,人間もその文化文明も基本的に登場しない,まさしくファンタジーそのものの映画で,多くのクリエイターに影響を与えた映画でした。本作でビジュアルイメージを担当したBrian Froud(ブライアン・フラウド)という画家さんは,さまざまな妖精,ファンタジー異種族の絵を描いていらっしゃいます。

「The Dark Crystal: The Ultimate Visual History」より(リンクはAmazonアソシエイト)。なお「ダーククリスタル」は,続編「エイジ・オブ・レジスタンス」が現在,Netflixで制作中だ。配信は2019年内とのこと
画像集 No.011のサムネイル画像 / 【新連載】友野 詳の「異世界Role-Players」 第1回:エルフ〜その種族は耳と寿命が長い

 このキアラの影響を受けた和製エルフのディードリットが,今度は海外ファンタジーに影響を与え,描かれるエルフの耳も長くしていくわけで。海とか国とかへだてて,いろんなキャッチボールをしながら,エルフのイメージは刻々と変化と成長を遂げておるのです。今年「ロードス島戦記」は新作が登場します。今度は,エルフにどんな変化と成長が待っているのでしょうか。


エルフは精霊の友人


「ロードス島戦記RPG」(リンクはAmazonアソシエイト)
画像集 No.007のサムネイル画像 / 【新連載】友野 詳の「異世界Role-Players」 第1回:エルフ〜その種族は耳と寿命が長い
 最初のリプレイはD&Dだった「ロードス島戦記」ですが,その後オリジナルのゲームシステムとなり,二度の改訂を経てテーブルトークRPG「ロードス島戦記RPG」の名前で現在発売されています。原作を知らなくても,スタンダードなファンタジーベースのテーブルトークRPGとして入門向きな仕上がりですので,これからテーブルトークRPGを始めようという人は,手にとってみるのもよろしかろうと思います。……こんな感じで,ちょくちょくSNE作品の宣伝がまじっていきますが,そこは読み飛ばさずに熟読していっていただきたいんですけども。

 話を戻しまして。「ロードス島戦記RPG」(当時の名前では「ロードス島戦記コンパニオン」)の登場と時を同じくして,ロードスと同じフォーセリアという異世界に存在する,北の大陸アレクラストを舞台にした「ソード・ワールドRPG」が登場しました。発売は1989年で,関連書籍をトータルすると日本で最も多く遊ばれているファンタジーテーブルトークRPGだったりします。
 このフォーセリアのエルフ達は精霊界と強く結びついており,風の精霊シルフ,水の精霊ウンディーネ,土の精霊ノーム,火の精霊サラマンダー,光の精霊ウィル・オ・ウィスプ,闇の精霊シェイドといったあたりを基本に,さまざまな精霊を呼び出し,自然現象を我が友としていました。だからこそ森を守り,自然を汚す者を許さない,というメンタリティになっていったわけですね。
 エルフが,地水火風の四大元素の魔術を操るイメージは「ソード・ワールド」によって定着したと言っていいでしょう。それから後に続いた日本発のエルフは,多くが「ロードス」と「ソード・ワールド」におけるフォーセリアのイメージを引き継いでいるように思います。で,ここを出発点に,時に原典たる西洋伝承に戻ったり,パロディも含めて現代化していったりしています。

 昨今のファンタジーでも,人間とは一線を画した高貴で(裏返して尊大になってる例も多いですが)神秘的で,世界の仕組みの根幹にかかわっている存在として出てきたりすることが多いですね。だからこそ逆転させると面白みを感じるのか,悪役であったり,近代兵器を駆使したりといったバリアントも多く見かけます。あとはまあ,ハーレム要員の根幹。いわゆる異世界ハーレムだと,だいたい出てきます。そしてたいてい2番手以降だったりするのも,メジャーすぎるがゆえでしょうか。

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エルフになれる,いろんなゲーム


またもや,ある日の冒険者達


語り手:草原での野営中,真夜中の襲撃もなく,君達は無事に朝を迎えた。いよいよ目指すダンジョンも間近だ
戦士:朝飯をしっかり食わないとな
魔術師:このゲーム,パラメータをあげる食事アイテムとか食べないことによるダメージのルールってあったっけ?
語り手:空腹による消耗はあるけどね。まあ,そのへんは雰囲気で演出しようよ
エルフ美少女:だったら,語り手。デンタルケアのアイテムってないの?
語り手:……あー,それは歯磨き粉とか歯ブラシってこと?
エルフ美少女:あと,スキンケアとヘアケアもしたいのよ。エルフって,歯がきらきらしてて,色が白くて,髪はさらっさらでしょ。あれ,手間がかかってるわよー
語り手:ああ,だろうねえ
戦士:え,すっぴんで綺麗だから,大丈夫なんじゃないの
エルフ美少女:ハハハ(乾いた笑い)
語り手:じゃあ,銀貨20枚程度で「身だしなみセット」ってアイテムを設定しようか。このゲーム,魅力のパラメータはないけど,交渉ごとにボーナスつけていいよ。朝,30分はかけてね
エルフ美少女:あれ維持するのにそんな時間で済むとか,さすが異種族ww
戦士:そういうものなのか……

 キャラクターメイクでまずエルフから選ぶ人,これを読んでる人の中にもいっぱい居るんじゃないでしょうか。分かります。憧れますよね,異種族。ディードリットのような美少女だったり,映画「ロード・オブ・ザ・リング」のレゴラス(イケメン俳優のオーランド・ブルームが演じていました)だったり。アナログならさっきから話に出ているテーブルトークRPGがありますし,デジタルではMMORPGなんかで普通に選択肢があります。
 とはいえエルフ(およびそれに類する存在)の扱いも作品ごとにさまざまですし,一口にエルフといってもけっこうな違いがあるものです。デジタルのほうはやや専門外なので,ここではアナログ方面を中心にそうしたエルフを紹介してみたいと思います。

「ソードワールド2.5」(リンクはAmazonアソシエイト)
画像集 No.009のサムネイル画像 / 【新連載】友野 詳の「異世界Role-Players」 第1回:エルフ〜その種族は耳と寿命が長い
 日本では,先ほど紹介した「ソ―ド・ワールドRPG」の後継作,「ソード・ワールド2.5」が2018年に登場しています。ゲームの舞台はラクシアと呼ばれる世界ですが,このラクシアのエルフは既存のイメージを踏襲しつつも,「水との親和性」を強く持つのが大きな特徴です。ドワーフが火で人間が土,そしてエルフが水というように,ラクシアの主要な4種族は地水火風の四大元素と関連付けられています。
 ラクシアのエルフは,水中で1時間は呼吸せずに過ごすことができ,水の抵抗などによる行動の制限を受けません。なので森にも住みますが,そこには清らかな湖や河川があることが,ラクシアのエルフの里では重要だったりします。
 SNE関連でなら,拙著である「ルナル・サーガ」「ユエル・サーガ」に登場する7つの月が浮かぶファンタジー世界〈ルナル〉にも,エルフに似たエルファという種族が登場します。1991年から始まったこのシリーズでは,エルフの「自然に親しむ」という特性を「動物と植物からそれぞれ1つ,自分の祖霊(トーテム)を選び,それに象徴される社会的役割を果たして生きている」とアレンジして,ネイティブアメリカンやオセアニアの文化を取り入れてみました。身だしなみとしてタトゥーが重視されているのも特徴的です。

「RuneQuest: Roleplaying in Glorantha」
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 一方で海外に目を向けると,ファンタジーRPG世界の最高峰とされるグローランサのエルフが,特異なエルフ像を採用しています。グローランサは1970年代から遊ばれ続けている「ルーンクエスト」というゲームの舞台です。エルフは自然,とくに森と植物に親しいとされることが多い種族ですが,この世界のエルフは植物そのものなのです。植物の女神の眷属として,知性と歩行能力を授かった植物で,落葉樹や針葉樹など,特定の植物に対応しています。グローランサには,自分達以外の知的生物を食べる種族もいますが,彼らにとってエルフは前菜のサラダだろう,というブラックジョークもあったりするようです。

 エルフには上位種であるハイエルフや,人間とエルフの間に生まれたハーフエルフ,邪悪の勢力に加担することを選んだダークエルフといったバリエーションがありますが,中でも変わったバリエーション種族として,北米産のテーブルトークRPG「アースドーン」(SNEが邦訳を担当した日本語版が1997年に出版されました)に登場する,鮮血エルフが個人的には忘れがたいです。
 精神攻撃を仕掛ける魔物に対抗するため,常に肉体的な苦痛を感じている必要があって,魔法の儀式で,常に自分の内側からイバラのトゲを生やしているという,見た目も内面も,ほかに類を見ない設定です。
 ちなみにエルフは総じて寿命が長く,成人すれば不老という設定が多いのですが,ハイエルフが設定されている場合「ふつうのエルフの寿命は長いといっても限界があるが,ハイエルフは寿命がなく老衰で死ぬことがない」とされることがほとんどです。最初にあげたディードリットは,実はハイエルフです。そのほかハーフエルフなら「ドラゴンランス戦記」タニス,悪に染まったダークエルフに生まれたのに善に寝返った「ダークエルフ物語」ドリッズド・ドゥアーデンと,エルフとその系譜は,数多くの名キャラクターを生んできた種族でもあるわけです。


じゃあエルフらしさって?


 じゃあ,テーブルトークRPGやMMORPGでエルフをロールプレイにするとき,あるいは創作物にエルフのキャラクターを登場させるとき,どんなことに気をつけたらいいのでしょう。ここでいう「ロールプレイ」は,そのキャラクターらしい振る舞いをすること,くらいの意味です。エルフらしい振る舞い,っていうのはエルフが存在している別世界の「常識」や「異種族としての考え方や感じ方」に沿って行動を選択するってことですね。

 「森に住む神秘的な人々」の伝承から分化し,19世紀の近代ファンタジーによって育まれ,「指輪」と「D&D」で確立したエルフ像は,ディードリットという象徴的なキャラクターを経ることで,今の僕らがイメージする形になりました。その特徴的な外見はイラストやゲームのグラフィックスに任せるとして,セリフや行動で「エルフっぽーい」と思わせるなら,ポイントは僕らがエルフに抱く「高貴さ」「自然への親和性」,そして「寿命の長さ」なんじゃないかと思います。

 「高貴さ」というのはなかなか難しいです。なにせ現代の日本に暮らしていると,本物の高貴さに触れる機会がないですからね。だから,とりあえず「エラそうだけど,どっか可愛げがある」ってのを目指すといい感じになると思います。上から目線でエラそうにしてたら失敗しちゃってヘコんじゃう,なんて場面。よくありますでしょう?
 ここで大事なのは,ほかのキャラとのコンビネーション。テーブルトークRPGやオンラインゲームで異種族キャラを演じているなら,遊び仲間です。うまいことツッコんでもらったり,鼻っ柱を折ってもらってから慰めてもらって打ち解けると……はい,ツンデレのできあがりです。楽しいですよ,こういうのを自分達でやるのって。狭い視野しか持てなかった森からやってきたエルフが,さまざまな触れ合いを経て成長する,というドラマが創れちゃいます。

 あと「うまく距離感がとれなくて偉そうになってしまう」パターンもいいですね。で,照れて言葉足らずになったり,表情がこわばって誤解されたりするやつ。高貴な坊ちゃまお嬢ちゃまにありがちな「世間知らず」の演出をうまく組み込むと可愛げが出やすいです。世間知らずを自覚して仲間に頼る姿もまたよいものです。ここで甘える感じではなく「よろしく頼む」という態度で素直クールとかいいですよねー。コツは,「キャラクターのセリフとしてキツいことを言うのと同時に,内心を素直に伝えておくこと」ですね。

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 次の「自然への親和性」なんかは,このへんの「世間知らず」と組み合わせるといいかもしれません。「ほう。人間の社会とはそういうものか。自然の森では……」とか言っておくとそれらしいです。動物系の,本能で狩りをしているだけのモンスターをかばってみたりとかもいいですよ。もちろん,冒険への導入として,おのれの欲望のために自然を破壊する悪役とか設定されていると,真っ向から怒れるエルフはどんどん動けて,お話がぐいぐいと前進します。うっかりすると,エルフ側がエコテロリストになったりしちゃいますが。

 そして最後に「寿命の長さ」のロールプレイ! ある意味で,これこそがエルフロールプレイ最大の萌え&燃え要素と言ってもいいかもしれません。
 寿命が長いって克服しないといけないことなの? と思われるかもしれませんが,周囲と時の流れが異なる人生,というのはファンタジー(とホラーとSF)ならではの要素です。年をとらず長く生きると,ほかの種族の友人達を見送ることになります。時には愛した人や,半分だけおのれの血を引いた子供達も。元祖である「指輪」のエルフ達も,時の流れ方の差に耐えかねて,現世(ファンタジーぽく,うつしよ,と読みましょう)を去っていきました。
 そういう本格的なのばかりじゃなくて,単に「めっちゃ気が長い」とかでもいいんですけど。時間の感覚,違うと思うんですよ。シリアスな話ばかりじゃなくて,ギャグにもちこむのもありです。見た目が子供だけど年齢は高いので,他の種族の年より相手にも上から目線,だとかね。
 あと京都の人が蛤御門の変を「こないだの戦」というみたいに,大昔のことをつい先日のように言ってみるのもいいですね(よく応仁の乱についてこのように言及されますが,私が実際に聞いた例はこちらです)。エルフをロールプレイする方法,いろいろあげてみました。試してみてもらえると嬉しいです。

 次回,5月28日掲載の第2回では,エルフの永遠のライバル,ドワーフのお話をする予定です。
 では,また。

■■友野 詳(グループSNE)■■
1990年代の初めからクリエイター集団・グループSNEに所属し,テーブルトークRPGやライトノベルの執筆を手がける。とくに設定に凝ったホラーやファンタジーを得意とし,代表作に「コクーン・ワールド」「ルナル・サーガ」など。近年はグループSNE刊行のアナログゲーム専門誌「ゲームマスタリーマガジン」でもちょくちょく記事を書いています!(リンクはAmazonアソシエイト)
  • 関連タイトル:

    ロードス島戦記RPG

  • 関連タイトル:

    ダンジョンズ&ドラゴンズ 第5版

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